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<概要>
 放射性同位元素の使用施設等から発生するRI廃棄物および核燃料物質等の使用施設から発生するRI・研究所等廃棄物の安全な処理処分のためには、平成17年10月11日原子力委員会で決定された「原子力政策大綱」でうたわれた4つの原則の下で計画的に取り組むことが重要とされた。ここでは、貯蔵、処理、処分の実施体制、費用の負担、安全確保に関する制度の整備および処分事業の今後の在り方それぞれの内容について紹介する。
<更新年月>
2009年02月   

<本文>
 原子力利用は、原子力発電やそれを支える核燃料サイクルだけでなく、研究開発、産業、医療などの幅広い範囲に及んでおり、これらの分野においては、放射性同位元素(ラジオアイソトープ:RI)、放射線発生装置、核燃料物質などが活用されている。これらを使用する施設からは、ラジオアイソトープが付着した試験管、注射器、ペーパータオル、実験で使用した手袋や廃液、核燃料が付着したコンクリートや金属などの放射性廃棄物原子力発電所や核燃料サイクル施設からの放射性廃棄物とは別に発生する(図1参照)。
1.RI・研究所等廃棄物の現状
 RIの利用は、「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」(以下「RI法」という)、「医療法」、「薬事法」、「臨床検査技師等に関する法律」などにより規制され、RI等廃棄物が発生する事業所は、RI法関係が1,000事業所、医療法などの関係が約1,300事業所となっている。また、(独)日本原子力研究開発機構など研究機関、大学、民間企業など約170の事業所では、「核原料物質、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律」(以下「炉規法」という。)の規制の下、試験研究炉や研究施設などを利用して、原子力の安全研究や核燃料物質などを用いた研究が行われており、ここからもRI等廃棄物が発生する。現在、これらの大半は社団法人日本アイソトープ協会が集荷・貯蔵しており、200リットルドラム缶に換算した貯蔵量は、2007年度末で約12万本である(貯蔵能力18万本)。一方、RIおよび核原料、核燃料物質を扱う大学や研究所機関からの放射性廃棄物もそれぞれの事業所で貯蔵されているが平成16年度末で約41万本となっている。
 これまでも、RI・研究所等廃棄物の処分については、国において「原子力の研究、開発および利用に関する長期計画」(平成6年6月24日 原子力委員会)、「RI・研究所等廃棄物処理処分の基本的な考え方について」(平成10年5月28日 原子力バックグラウンド対策専門部会報告書)および「RI・研究所等廃棄物の処分事業に関する懇談会報告書」(平成16年3月29日 RI・研究所等廃棄物の処分事業に関する懇談会)などの報告書が取りまとめられたが、現在に至るまで、RI・研究所等廃棄物の処分は実現されていない状況である。国として尊重すべき旨閣議決定された「原子力政策大綱」(平成17年10月11日 原子力委員会決定)においても廃棄物の処分方法の実現に向けて計画的に取り組むことが重要であると指摘されている。
2.RI・研究所等廃棄物の処理処分に関する基本的考え方
 原子力政策大綱では、放射性廃棄物は、「発生者責任の原則」、「放射性廃棄物最小化の原則」、「合理的な処理・処分の原則」および「国民との相互理解に基づく実施の原則」の4つの原則のもとで、その影響力が有意ではない水準にまで減少するには超長期を要するものも含まれるという特徴を踏まえて適切に区分を行い、それぞれの区分ごとに安全に処理・処分することが重要であるとしている(図2参照)。
(1)発生者責任の原則
 「放射性廃棄物の発生者はこれを安全に処理・処分する責任を有し、国は、この責任が果たされるよう適切な関与を行う」というものであり、RI・研究所等廃棄物の発生者が、必要な費用を負担して廃棄物の処理・処分を実施する責任を有することを表わす原則である。
(2)放射性廃棄物最小化の原則
 「原子力の研究、開発および利用活動においては、放射性物質の発生を抑制するとともに、処分するべき放射性廃棄物の発生量がなるべく少なくなるよう努力する」というものであり、この原則に照らし、いずれの局面においても、発生するRI・研究所等廃棄物の量を、最大限抑制するよう努力することが必要である。
(3)合理的な処理・処分の原則
 「放射性廃棄物は、安全性を確保した上で効率性、経済性に配慮しつつ、合理的な処理・処分を実施する」というものであり、この原則に照らして考えると、RI・研究所等廃棄物の集中的な集荷・貯蔵・処理・処分(以下、「処理・処分等」という。)、関係者による情報の相互共有等を実施することが適切である。
3.RI・研究所等廃棄物の集荷・貯蔵・処理・処分の実施体制
 以上の基本的な考え方に基づき、廃棄物のそれぞれの発生者が責任を持つことが原則であるが、各工程を集中的に実施することが合理的である。集荷・処理を希望する事業者のRI廃棄物については、既にRI協会が集荷・貯蔵・処理事業を実施しており、引き続きこの体制を継続し、研究所等廃棄物については、(独)日本原子力研究開発機構から発生する研究所等廃棄物については、同機構において貯蔵、処理まで実施しており、引き続きこれを継続することが適切である。現行法では、機構自身の業務に影響のない範囲で国や地方自治体などから委託を受けて核燃料物質や放射性廃棄物などの貯蔵、処理、処分を行うことができるとの規定が置かれているが、RI等廃棄物の発生量の約7割が日本原子力研究開発機構由来であること、過去の研究などにより機構に放射性廃棄物の処分に関するノウハウが蓄積されていること、他に処分を担うことができる有力な実施主体が現れにくいことなどを考えると、わが国唯一の総合的な原子力研究開発機関であり、RI・研究所等廃棄物の発生量が最も多く、かつ、技術的経理的能力や運営管理能力も最も高い原子力機構が、国、廃棄物の発生者および集荷・貯蔵・処理事業者等と協力して、他の必要な研究開発の着実な推進に配慮しつつ、わが国の同廃棄物全体の処分事業を推進することが適切である。このため、日本原子力研究開発機構がRI等廃棄物の最終処分事業を担うに当たり、機構の業務に処分事業を行うことが明確に規定され、日本原子力研究開発機構の業務に、放射性廃棄物(発電所由来のものを除く)の埋設処分および処分施設の建設・管理を行う旨の規定が追加された(平成20年6月6日告示)。
 そのため、国は、RI・研究所等廃棄物の円滑な処理・処分等が確実に実施されるようにするため、同廃棄物の処分に係る関連法令の整備を図り、これに基づき厳正に規制を実施することで処分事業の安全を確保するとともに、発生者、集荷・貯蔵・処理事業者および処分事業者が処理・処分等の事業を適切に実施し得る環境に責任を持って整備することとすべきである。
3.1 処分費用の負担
 処分の基本的な考え方は、発生者責任の原則に基づき、RI・研究所等廃棄物の発生者が処分に要する費用を負担することが原則である。しかし、大部分の発生者においては処分費用の確保がなされていないなど実際には処分は全く進んでいないのが実態である。過去に発生したRI・研究所等廃棄物の処分についても、発生者責任の原則に基づき、発生者がその費用を確保すべきであるが、発生者にとって過重な負担となることから、国が相応の役割を果たすべきである。処分は長期にわたるため、安定的な資金の確保が重要であり、一定の期間を設けてその期間内に処分に必要な資金の総額を分割して積立てること等により、発生者にとっても費用負担が過重とならないように配慮した、資金積立制度を構築することが不可欠である。
 なお、チェコ、フィンランド、スペイン等諸外国においても、わが国のRI・研究所等廃棄物発生者に該当する低レベル放射性廃棄物発生者も対象とした費用確保方策を講じている。
4.安全確保に関する諸制度の整備
 RI・研究所等廃棄物の処分事業を円滑に実施するためには、安全確保に必要な基準の整備など安全規制上の課題が解決されていることが必要であり、そのための課題としては、原子炉等規制法関係では、核燃料物質使用施設等から発生する研究所等廃棄物に係る放射能濃度上限値の制定や廃棄体の形態、性状等に応じた確認に必要な技術基準の整備がある。放射線障害防止法関係では、埋設処分する具体的なRI廃棄物の基準の整備があるほか、クリアランス制度導入に向けた検認にかかる技術的要件の整備もある。また、両法令に共通する課題としては、放射線防護基準等の埋設処分に係る線量基準の整備や鉛等の有害物質を含む混合廃棄物の取扱いの考え方の確立がある。
 なお、上記課題の解決に向けた進捗状況も踏まえつつ、医療法等関係法令の整備を検討すべきである。
5.処分事業の着実な推進を図るために
 国民の理解促進における基本的な考え方として、原子力政策大綱では、「発生者等の関係者が処分のための具体的な対応について検討中の放射性廃棄物の処理・処分については、情報公開と相互理解活動による国民および地域の理解の下、具体的な実施計画を速やかに立案、推進していくことが重要である」とされている。また、具体的な取り組みにおいては、透明性の確保が重要であり、国、事業者等は、事業の透明性を確保するためRI・研究所等廃棄物に関する情報、同廃棄物の貯蔵、処理又は処分場における安全管理の取組についての情報、同廃棄物処分に至るまでの各段階における手続、基準等を可能な限り公開することとすべきである。さらに、公開に当っては、国民に分かりやすく、かつ、国民の関心の高い事項について国や事業者等がウエブサイト上で公開し、容易にアクセスできるようにすることが重要である。特に、RI・研究所等廃棄物の処分場を立地する地域に対しては、同廃棄物に関する理解促進とともに、立地地域との共生方策を確立することが重要である。
<図/表>
図1 放射性廃棄物の全体概要
図1  放射性廃棄物の全体概要
図2 放射性廃棄物の処理処分基本フロー
図2  放射性廃棄物の処理処分基本フロー

<関連タイトル>
わが国の放射性廃棄物の種類と区分 (05-01-01-04)
医療用RI廃棄物の処理 (05-01-02-06)
放射性廃棄物の処分の基本的考え方 (05-01-03-01)

<参考文献>
(1)文部科学省:原子力分野の研究開発に関する委員会、RI・研究所等廃棄物(浅地中処分担当)処分の実現に向けた取り組みについて、平成18年9月12日、http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/toushin/06110922/001.htm
(2)文部科学省、放射性廃棄物企画室:RI・研究所等廃棄物(浅地中処分相当)処分の実現に向けた取り組みについて 概要 (平成18年10月3日)、http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2006/siryo40/siryo31.pdf
(3)沼充彦:研究機関や医療機関から発生する放射性廃棄物の処分、立法と調査(No.279)(2008.4)
(4)古川修:RI・医療放射性廃棄物の現状と将来、保物セミナー2008
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