<本文>
2005年現在、国内に再処理施設を持ち、
原子力発電所の
使用済燃料を再処理している国は、日本、フランス、イギリス、ロシア、インド、中国などがある。しかし世界中には、近年大小様々な規模の約20の再処理施設が建設されてきた。それらの中には、既に運転を中止したものや稼働中のもの、改造等により当初の目的の変わったもの、完工したもののホット運転には至らなかったもの等がある。ここでは、ベルギー、ドイツ、イタリア、アジア、ラテンアメリカ等の再処理施設を紹介する(
表1参照)。
1.ベルギーの再処理施設
1957年、ユーロケミック社(Eurochemic)が、OECD/NEA 13ケ国の共同事業として発足した。この共同事業は1955年ジュネーブ会議以降、原子力平和利用の推進のため先進国の再処理に関する技術情報が公開される機運を把えたものであった。設計はSGN社(フランス)、ウーデ・ルルギ社(ドイツ)等が関与し、米国より技術コンサルタントが派遣された。1960年、ベルギー原子力研究所のあるモルにサイトが決定し、100トン/ 年規模の多種類の燃料を処理できる工場が1966年に完成した。この工場は1974年まで運転され、PWR 70トン、BWR 30トン、HWR 70トン、ガス炉(GCR,AGR)10トン、材料試験炉(MTR)30.6トン、合計約210トンの使用済燃料を処理した。政策的、体制的、財政的な困難を乗り越えて米国技術のヨーロッパ移植を果たすと共に、多くの新技術の実証の場となり、ヨーロッパの各プラントは多かれ少なかれその技術的遺産を引継いでいる。
再処理工程施設は1974年で運休したが、その後も、ユーロビチューム(アスファルト固化施設、1981.12.15充填後ドラム缶から火災発生) 、ユーロワット(廃溶媒処理施設)、パメラ(セラミックメルターガラス固化施設)等の新技術実証施設の建設・運転が行われた。また、再処理施設は、大規模除染・
解体(デコミッショニング)の対象としてその方面の技術開発実証の場となった。
運転を停止した理由は、1971年10月、英BNFL(国営核燃料公社)、仏CEA(原子力庁、その後COGEMA(国営核燃料会社)へ移管)、独KEWA(民間化学企業が設立した核燃料再処理会社)の3者により、欧州唯一の再処理事業会社として、国際合弁のURG(ユナイテッド・リプロセサーズ社)が設立されたことで、その経済性を失ったことである。停止後の1975年から1979年まで安全な待機状態を維持することを目的に除染作業が行われた。
1984年より活動を引き継いだベルゴプロセス(Belgoprocess)が120トン/年程度のMTR等の特殊燃料や技術開発的再処理の工場として活用することを考えたが、出資者が集まらず、1987年計画は中止され、閉鎖となった。以降、ベルゴプロセスの活動は
放射性廃棄物の処理と貯蔵及び
原子力施設の除染&
廃止措置(D&D)に変わっている。再処理工場の主プロセス建屋の工業規模での廃止措置はパイロットプロジェクトの完了後の1990年にスタートした。
2.旧西ドイツの再処理施設
ドイツでは原子力法によって使用済燃料の再処理を電力会社に義務づけるなど再処理・リサイクル路線を推進していたが、1994年5月に原子力法が改正され、現在では使用済燃料の直接処分が可能になっている。
(a) WAK工場:
旧西ドイツはユーロケミックにも参画していたが、やがて大規模な自国再処理が必要になると考えていたので、カールスルーエ市近郊のカールスルーエ原子力研究所(KfK)に隣接したサイトに使用済燃料再処理試験施設(WAK再処理工場)を建設し、化学系の4大会社の合弁会社GWKが、1971年からこれを運転していた。また、エンジニアリング会社としてKEWAが創設された。
WAK工場は、
ピューレックス法を採用し、
軽水炉および重水炉の燃料を対象に35トン/年という技術実証工場として必要最小限に近い規模である。しかし、抽出器(
ミキサセトラ)の中で、
プルトニウムを電解還元する新技術の開発、機器の開発等の実績もあり、次期商業用再処理工場に向けてのパイロットプラント的な性格を有していた。1980年 5月溶解槽に腐食漏洩の故障があり、2年半かけて撤去更新を行い、運転を再開した。政府が使用済燃料の国内での再処理を放棄したことにより、1990年12月、閉鎖を決定し運転を停止させた。WAKの最大再処理能力は、0.17トン/日(85トン/年)、処理実績は約210トン(うち軽水炉燃料130トン)で、1.8トンのプルトニウムを生産し、高レベル濃縮廃液約80m3が発生した。1995年から解体計画が進んでいる。
(b) WAW(旧名WA−350)工場:
旧西ドイツでは
核燃料サイクル・バックエンド(エントゾルグング) 政策として、再処理事業には使用済燃料の排出元である電力会社が関与することとし、西ドイツ再処理会社(DWK)が電力出資により1977年に発足した。DWKはWAK(GWKの後継)、KEWAを支配し、先ずゴアレーベン工場(ニーダーザクセン州、1400トン/年) を計画したが地元に受入れられず、WA−350工場(2トン/ 日、350〜500トン/ 年)計画に縮小して、改めてサイト選定を行った結果、1985年、バッカースドルフ(バイエルン州) に決定。1986年、第1次部分工事許可を得て建設に入った。1996年頃運転を開始する計画であったが、1989年になって、DWKの一つの出資会社の親会社Vebaが、COGEMA(フランス)(現AREVA NC社)のラ・アーグ工場に委託再処理する方がはるかに再処理費が低くなるという採算性を問題視した交渉を始めたのをきっかけに自国再処理を見直すこととなった。結局、イギリスのBNFLのTHORPとの委託再処理契約も増枠することで、WAW工場の建設を中止することになってしまった。
これは欧州全体としての原子燃料サイクル路線の明確化と当面の再処理需給関係の実情を推考した関係者の結論といえる。WAWは、遠隔保守セル内モジュール化設備方式(類似の概念が核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)の
ガラス固化技術開発施設に採用されている)というユニークな設計内容を持っていたので、実現しなくなったのは技術的には惜しまれる(
図1参照)。
3.その他の国の再処理施設
以上の他に大規模なものはないが、再処理施設の実績、計画はある。国としては、イタリア、インド、パキスタン、アルゼンチン、ブラジルである。
イタリアの施設(Eurex)は、欧州原子力機構(EURATOM)の共同事業であり、インドは重水炉−プルトニウム高速増殖炉線を採用していることから、国産ピューレックス法を開発した。インド原子力省(IDEA)のトロンベイ再処理施設(研究炉燃料、30トン/年)とタラプールのPREFR再処理工場(軽水炉燃料:500kg/年、重水炉燃料:125トン/年)がそれぞれ1964年、1977年から操業を行っている。トロンベイ再処理施設ではサイラス炉(CANDU炉)の使用済燃料を再処理し抽出したプルトニウムで1974年に核実験を行ったが、その後改造を行い、ドルーバ研究炉(重水減速重水冷却のアイソトープ生産および動力炉燃料試験用)用の燃料も再処理できるようになった。また1998年から第3の再処理施設であるカルパッカム再処理工場(
高速炉および軽水炉燃料:合計100トン/年)が操業を開始した。アルゼンチンでは、エセイサ原子力研究所に5トン/年の処理能力を持つ再処理パイロットプラントを建設し、1994/1995年から運転を開始している。この施設では、アトーチャ1号機の使用済燃料(燃焼度6000MWD/MT)を再処理することが計画されており、抽出されたプルトニウムをMOX(混合酸化物)燃料としてアトーチャ1号機で再利用する研究も行われている。
<図/表>
<関連タイトル>
再処理技術開発の変遷(歴史) (04-07-01-04)
世界の再処理工場 (04-07-01-07)
中国の再処理施設 (04-07-03-12)
世界の再処理施設における火災・爆発事故 (04-10-03-03)
インドの原子力開発と原子力施設 (14-02-11-02)
ドイツの核燃料サイクル (14-05-03-06)
バッカースドルフ再処理工場建設計画の放棄 (14-05-03-10)
ベルギーの核燃料サイクル (14-05-10-04)
<参考文献>
(1)清瀬 量平(訳):燃料再処理と放射性廃棄物管理の化学工学、原子力化学工学第IV分冊 (1983)、日刊工業新聞社(株)
(2)PROCEEDING OF THE SEMINAR ON EUROCHEMIC EXPRIENCE June 9?11,1983, Mol, Belgium (1984)
(3)NUCLEAR ENGINEERING INTERNATIONAL,DEC.1987 p.47?48,(1987)
(4)J.MISCHKE,K.HENDRICH:”Remote Maintenance Concept of The Spend Fuel Reprocessing Plant”. PROCEEDINGS OF THE 1984 NATIONAL TOPICAL MEETING ON ROBOTICS & REM
OTE HADLING IN VERSATLE ENVIROMENT.(1984)
(5)(社)日本原子力産業会議:原子力年鑑 平成6年版、(1994年11月)
(6)(社)日本原子力産業会議:原子力年鑑 1999/2000年版、(1999年10月)
(7)IAEA NFCISホームページ(
http://www-nfcis.iaea.org/Default.asp)