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<概要>
 製錬からの主要な廃棄物は、鉱さいと浸出廃液である。これらは中和されて鉱さいダムに送られる。閉山した鉱山では、金属硫酸塩と硫酸を生成したり、鉱さいダムが乾燥して鉱さいが飛散したり、ラドンを拡散したりして、周辺を汚染することがある。
 鉱さいダム内の上澄液は、再利用するが、余剰水はラジウム、ウラン、有害元素を除いた後、河川へ放流される。しかし、河川への放流は今後さらに制限されると考えられる。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 ウラン製錬プラントから排出される廃棄物は、液体としては浸出液から溶媒抽出やイオン交換樹脂法によってウランを回収した後の廃液(それぞれ溶媒抽出廃液およびイオン交換廃液といわれる)、ウラン精鉱を作るためのウラン沈澱の際に生じる廃液(ウラン沈澱廃液)、および洗浄廃液などであり、固体としてはウラン浸出後の固液分離で分離された鉱さいが主要なものである。
 世界各国での廃棄物処理に関する法規は厳しさを増してきて、廃棄物処理は自然および社会環境面に最重点を置いた観点から実施するよう求められている。
(1)液体廃棄物
 上述の液体廃棄物は、再利用できる部分を除き、すべては混合され、消石灰でpH:7〜8程度に中和される。中和によって廃液中に含まれていた不純物である金属成分の大部分は主要不純物である鉄イオンと共に沈澱または共沈する。廃液量は、処理鉱石量の2〜5倍である。処理された廃液は、鉱さいと共に鉱さいダムに送られ、中和によって生じた固体と鉱さいは沈降堆積し、液は上澄液となる。ダムの表面は上澄液で覆われているので、ラドンの大気中への放出を防ぐ。上澄液は製錬プラントへ送られ工程水として使用されるほか、余剰水は塩化バリウムを添加して 表1 の(1)式のように硫酸バリウムと共沈させるか、イオン交換樹脂に吸着させるかしてラジウムを除去した後、放射性元素量および有害元素量を測定して、法規で定められた規制値または指導値以下であることを確かめてから河川への放流をおこなう。 図1 に反応式を示す。
 乾燥地帯ではダムでの水の蒸発による減量も考慮される。世界の規制の厳しい国では、放流量中の規制元素の総量規制や放流禁止も定められることが考えられるので、放流に頼らない廃水処理が必要となってくる。
 鉱さいや廃水を堆積貯蔵する鉱さいダムは、世界の多くでは、主として粘土の多い土壌と礫からなる土石ダムである。鉱山の寿命を推定してダムの面積と高さを決定する。高さは鉱さいが堆積するにつれて嵩あげしていく場合もある。ダムは底部や側面から漏水しないようにとくに注意して施工する。
 浸出液中のラジウム及びウランの除去については、世界各国で法規や指導値が更に厳しくなることも予想されるので、やや詳しく述べる。
浸出液中には、鉱石から溶解したラジウムを含む。50g/l の濃度の硫酸溶液は、350PCi/mlのラジウムを溶解することができるが、硫酸浸出液では、僅かの硫酸塩の沈澱に伴うラジウムの共沈のために、浸出液中のラジウム量は、少なくなって2PCi/ml程度の値を示す。たとえば、ウラン含有量が 0.1%の鉱石1tを1立方メートルの硫酸浸出液で浸出すると、ラジウムは鉱石中に約 400PCi/g残留し、そして浸出液中に約1PCi/ml溶解する。すなわち、浸出によって鉱石中のラジウムのごく少量だけは溶解するが、99%以上が鉱さい中に残留する。アルカリ浸出液では、さらに溶解する量は少なくなって、鉱さい中に残る量は増える。
 硫酸浸出すると、ラジウムは硫酸ラジウムの化学形態になると考えられている。したがって、硫酸浸出後の鉱さい中のラジウムは、表1の(1)式の化学形態で存在していることとなる。
 硫酸浸出液から溶媒抽出法などによってウランを回収し、抽出廃液は中和され、上記したように鉱さいダムへ送られる。その際にラジウムとウランがどのように分配されるかの1例を 図2 に示す。
 放流または再使用のために、廃水中のウラン量をさらに少なくする必要がある時には、重燐酸ナトリウム添加法とキレート樹脂法とがある。
 重燐酸ナトリウム添加法は、添加された重燐酸ナトリウムが廃水中のカルシウムイオンと反応して燐酸カルシウムが作られ沈澱するが、その際にウランが共沈して、廃水中のウラン濃度は0.1ppm以下となる。
 キレート樹脂法は、アミドオキシム系キレート樹脂にウランを吸着させると、廃液中のウランは0.03ppm 以下に減少する。吸着したウランは回収される。
(2)固体廃棄物
 固体廃棄物は、主として鉱さいと浸出廃液を中和した際に生じる沈澱物で、鉱さいダムに堆積貯留される。堆積物には、微量のラジウム、ウラン、未浸出のウラン鉱物、の他に鉱石中に不純物として含有していた金属元素やラジウム崩壊の際に発生するラドンなど種々の物質が含まれている。
 堆積物は水で覆われているので、ラドンの大気中への放出は著しく減少されるが、堆積物中のラジウム量が多い時には、ラドンが大気中に拡散されて周辺の住民に悪影響を及ぼすことがある。
 鉱石中に、鉄、ニッケル、コバルト、銅、砒素などは硫化鉱の形で含まれていると、浸出中にはあまり溶解されず、そのほとんどが鉱さい中に残留していることが多い。水に溶解している酸素とこれら硫化物が堆積中に徐々に反応して、表1(2)式のように可溶の金属硫酸塩と硫酸が生成される。
 閉山した鉱山では、金属塩を含む硫酸酸性溶液の鉱さいダムからの漏洩、鉱さいダムが乾燥して鉱さいの風による飛散や、ラドンの拡散など、周辺地区への汚染を起こす場合がある。米国では、主として第2次大戦中に操業していて既に閉鎖した製錬プラントで、鉱さい施設が周辺を汚染させる問題をおこしている。これら問題地区では、鉱さい表面を土壌で3m 以上の厚さで覆うこと、鉱さいを安全な処理地区まで運搬すること、および再製錬して有害成分を取り除くことなど、いくつかの解決策について安全性および経済性の観点から検討し、実行に移している。
<図/表>
表1 反応式
表1  反応式
図1 鉱さいダムの一例
図1  鉱さいダムの一例
図2 ウラン粗製錬工程におけるウランとラジウムの分布
図2  ウラン粗製錬工程におけるウランとラジウムの分布

<関連タイトル>
ウラン粗製錬 (04-04-01-01)
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