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粗製錬と転換(精製練)とを継続して行う方法、すなわち、鉱石から
イエローケーキの形態を経ずに
六フッ化ウランを製造する方法としてPNC(動燃(現日本原子力研究開発機構))法がある。
ウラン鉱石からウラン精鉱を製造する通常の方法のほかに、燐酸、海水または銅鉱浸出液からウランを回収する方法がある。これらについて記述する。
(1) PNC 法(
図1 参照)
この工程は、一般法により鉱石の硫酸浸出の後、アミンによる
溶媒抽出で逆抽出は硫酸で行い、硫酸ウラン溶液を得る。硫酸ウランを電解還元し、次いでフッ酸を加えて四フッ化ウランの沈澱を作る。一般法では、ウラン還元、四フッ化ウラン製造を乾式で行うが、この方法では湿式で行うことによって、溶媒抽出操作に加えて更に不純物の除去が行える。四フッ化ウランから六フッ化ウランの製造は、乾式法で行う。
中間製品としてのイエローケーキ(ウラン精鉱)を作らないので、工程は簡略化され、副原料の種類も少なくなる。しかしながら、一般の有用金属鉱石に比べて含有量の著しく少ないウラン鉱石の長い距離の輸送は経済的ではないので、ウラン製錬プラントは鉱山に近接して建てるのが経済的である。このような製錬プラントへフッ酸およびフッ素、またはこれらを製造する原料を輸送するには、プラントの位置がこれらの製造工業を有する都市から遠く離れていることが多く、経済的でない場合がある。
(2) 燐酸からのウラン回収(
図2 参照)
燐酸に含有されるウランは、副産物として回収することができる。1982年時点で、燐酸からのウラン回収がもっとも盛んだったのは、フロリダ州に多くの燐鉱石の鉱山がある米国で、8工場での生産容量は1825t/年、生産量は約 730t/年となっており、またモロッコ、トーゴなどの燐鉱石産出国でもウラン回収設備を燐酸製造工場に併設する場合が多くなっている。その後イエローケーキが次第に安値となり底値で低迷しているので、現在では生産ウラン精鉱売買の長期契約をおこなった1〜2社だけが操業をおこなっている程度である。
わが国の燐酸からのウラン回収についての研究は、燐酸製造会社、動燃(現日本原子力研究開発機構)、造船会社などで行われた。しかし、わが国の燐酸工場の生産容量は米国に比べるとはるかに小さく、ウラン回収設備にかなりの資本コストを要することから、ウランは回収されていない。
燐酸製造の原料となる海底堆積型燐鉱石には、平均 0.1%程度のウランが含有されている。燐酸の製造には、
表1 の(1)式のように燐鉱石と硫酸を反応させる。
この際に、燐鉱石に含まれているウランは燐酸中に溶解し、燐酸中のウラン濃度は溶液1リットル中に 0.1〜0.2 gとなる。
現在のウラン回収工場でおこなわれている方法はいくつかあるが、すべて溶媒抽出法であり、各方法共抽出剤を幾種類か用いている。燐酸からのウラン回収法の主要な特徴は、(a)燐酸は原料鉱石から由来した有機物を含有して褐色を呈しているが、有機物はその後の工程に有害な影響を与えるので、その有機物を除去していること、
(b)ウランの溶媒抽出を2回おこなって、ウラン濃度の増大とウラン精鉱中の不純物の減少をはかっていることである。
アメリカ、フロリダ州でおこなわれている方法の例を次に述べる。
燐酸製造工場で生産された粗燐酸は、併設のウラン回収施設に送られる。燐酸は38〜41℃に冷却され、溶解していた石膏や珪酸分の一部は沈澱して除去される。燐酸は熟成タンクやシックナなどよりなる清澄工程で清澄化される。燐酸には4価と6価のウランが混在しているので、後の溶媒抽出工程で効率よくウランを抽出させるために、酸素を送ってウランをすべて6価にする。 溶媒抽出−1では、ウランを抽出する有機相として D2EHPA (di-2-ethylhexyl phosphoric acid) とTOPO(tri-octyl phosphine oxide) のウラン抽出剤を石油系溶剤に溶かしたものを用いる。この有機相と燐酸とを混合させて、燐酸中のウランを有機相中に移し変える(ウラン抽出)。ウランを含む有機相を取り出して、次いで強い還元作用をもつ金属鉄を溶解させた燐酸と混合させると、有機相中のウランは燐酸へと移行し、ウランは濃縮、精製される(ウラン逆抽出)。この含ウラン燐酸溶液を酸素で酸化し、溶媒抽出−2で、前と同じ抽出剤を含む有機相でウランを抽出し、分離した有機相に炭酸アンモニウムを混合させてウランを炭酸アンモニウム溶液に移行させる。移行後、ウランはウラン炭酸アンモニウムとして沈澱するので回収し、
仮焼して八三酸化ウランとする。
(3) 海水からのウラン回収(
図3 参照)
海水中には平均3.34 ppbのウランが含まれている。その含有量は微量であるが、海水中のウラン総量としては約40億tに達すると推定される。
海水からのウラン回収の研究は、1953年頃から英国で有機および無機系吸着剤を使って詳細に行われた。その後、アメリカ、西ドイツ、イタリア、ソ連および日本などで研究が行われており、わが国では、金属鉱業事業団(現
石油天然ガス・金属鉱物資源機構)が香川県仁尾にウラン回収実験設備を設置し、1986年から1987年まで主として水酸化チタン系吸着剤を用いて実験を行った。その間に約13kgのウランをウラン精鉱として回収している。
回収剤として現在もっとも有効なものは、水酸化チタン系吸着剤とアミドオキシム系の
キレート樹脂である。回収法としては、海水と吸着剤との接触をよくするために海流、潮汐、波高を利用することや吸着剤の表面積を大きくすることなどがおこなわれている。しかし、実用化にはまだ達していないので、さらに技術的な解明が必要となろう。
(a)吸着剤に吸着されるウラン量をさらに増大させること:海水からのウラン最大吸着量は、含水酸化チタンではその製法によって異なるが、最大約 700 ppmであり、アミドオキシム系キレート樹脂では最大約 1000ppmである。また多量のウランを吸着すると共に吸着速度も速いほうが望ましい。
(b)動力など人工エネルギをなるべく使用しない回収法:海水中のウラン量は微量のために、吸着剤にウランを飽和量程度までに吸着させるには、かなり多量の海水を必要とする。したがって、動力エネルギを出来るだけ使用せず、なるべく自然現象を利用して効率よくウランを吸着させるために、次のような方法が研究されている。
(イ)ポンプ注入法;一定の流量と水量が得られるので、効率よくウラン回収ができる。動力を必要とし、主として研究室などでの正確なデータ取得に用いられている。
(ロ)海流法;海流の膨大な移動エネルギを利用するので、吸着に関しては、ほとんど他からのエネルギを必要としない。
(ハ)波力法;波の上下移動エネルギを利用してウランを吸着させる。波力による発電も研究されており、ウラン回収に要する電力の一部は、この方法で供給されるかもしれない。
(ニ)潮汐法;満潮時に湾などに海水を貯め、干潮時に水面差を利用して海水を放出し、回収剤にウランを吸着させる。
(c)吸着剤表面を被覆して吸着能力を減少させる生物系粘性物などの付着防止:季節や吸着方法などによって異なるが、粘性物質が吸着剤表面に付着して覆ってしまうと、ウラン吸着能力が減少する。吸着剤と吸着方法の両方について、研究が必要である。
(d)安価で寿命の長い吸着剤:ウランの吸着と取り出し(脱着)を多数回おこなえ、また海水に溶解しない吸着剤の開発。
(e)安価で公害の少ない溶離液:商業プラントでは多量の溶離液を必要とするので、リサイクルでの使用や公害のない溶離液の使用。
海水からのウラン回収は、たとえば、上述の仁尾のモデルプラントでは、次のようにして行われる。
海水中のウランを含水酸化チタン系吸着剤に約 100 ppm吸着させた後、吸着剤を取り出して稀塩酸でウランを溶かしだすが、その液中のウラン濃度はまだ20 ppm程度でしかない。したがって、第1
イオン交換樹脂塔でウランを吸着させ、酸性炭酸ナトリウム(重曹)液で溶離し、さらにその溶離液を第2イオン交換樹脂塔に通して食塩水で溶離する。この方法でウランは約2800 ppm(2.8 g/リットル)まで濃縮される。
その後は、ウラン鉱石の粗製錬法に準じて溶媒抽出法でウランの精製、濃縮を行い、その溶液にアンモニアを吹き込んで、イエローケーキを生産する。
(4) 銅鉱浸出液からのウラン回収
米国で斑銅鉱を産出する銅鉱山で、銅廃鉱から銅を回収するためにヒープリーチング(鉱石を積み上げて、上部から浸出液を散布し銅を溶かし出す簡便な浸出法)を行っているが、その浸出液中に1〜2ppm のウランが含まれれており、浸出液を再循環させると、ウラン量は40 ppm程度まで増加する。米国では2箇所の銅精練所で、副産物としてウランを回収しており、各社とも年間55tのウランを生産している。イオン交換樹脂にウランを吸着させ、溶離後、溶媒抽出してウランを濃集精製してから、ウラン精鉱を生産する。
<図/表>
<関連タイトル>
ウラン粗製錬 (04-04-01-01)
イエローケーキ(ウラン精鉱)の性質 (04-04-01-03)