<本文>
1.核燃料リサイクルの概要
ウランは、鉱石の製錬、
核分裂性のウラン−235の濃縮、加工等の工程を経て、原子力発電所で核燃料として利用される。その際、核燃料は
核分裂反応によりエネルギーを放出すると同時に、その内部において新たな核分裂性物質(プルトニウム)を生成する。このため、発電所で使用された使用済核燃料には、プルトニウムや燃え残りのウラン等、再度核燃料として利用できる物質が含まれている。
使用済燃料の中に含まれる核燃料物質を化学的な方法で抽出・分離することを再処理と呼ぶ。再処理により取り出された核燃料は、
成形加工して再度原子力発電所で利用される。
図1に示すように、現在の軽水炉または将来の
高速炉を巡って循環利用されることから核燃料サイクルと呼び、前者を軽水炉サイクル、後者を高速増殖炉サイクルと区別している。なお、使用済燃料を再処理せずそのまま処分するのを直接処分(ワンス・スルー)と呼んでいる。わが国の原子力政策では、民間事業として軽水炉サイクルを確立し、次いで研究開発を進めつつ高速増殖炉サイクルを確立することを目指している。
軽水炉サイクルでは、再処理により分離・回収されたプルトニウムは、ウランと混ぜて混合酸化物燃料(MOX燃料)に加工し、現在のわが国で利用されている軽水炉の燃料として使用することができる。この方式をプルサーマルと呼んでいる。プルサーマルは、1960年代から約40年以上にわたって、フランス、ドイツ、ベルギー、スイスなど各国で安全に行われており、2007年12月現在、合計で57基、6,018体のMOX燃料装荷実績がある(わが国の関西電力・美浜発電所1号機および日本原子力発電・敦賀発電所1号機における実証試験で利用された合計6体を含む)。わが国では、上記、美浜発電所および敦賀発電所における実証試験の実施とともに、原子力研究開発機構(旧核燃料サイクル開発機構)新型転換炉(ATR)「ふげん」においても、772体のMOX燃料を装荷した実績がある(1基あたりのMOX燃料装荷本数では世界最高)。また、回収されたウランについては、
天然ウランと同様に濃縮し、燃料として再利用することが可能である。
軽水炉サイクルでは、ウランの利用効率がリサイクルを行わない直接処分に比べて、理想的な場合、5割程度向上する(同じ発電量に対して天然ウランの必要量が数割減少する)と試算されている。直接処分とプルサーマルにおけるウラン利用量の試算例をそれぞれ
図2および
図3に示す。
高速増殖炉の内部では、燃焼(核分裂)に利用されるプルトニウムの量よりもウラン−238が
中性子を吸収して新しく生まれるプルトニウムの量が多いことから、消費したプルトニウム以上のプルトニウムを回収することができる。このため高速増殖炉サイクルでは、ウランの利用効率が理論的には60%程度となり、プルトニウムを利用しない直接処分の場合に比べて100倍以上と飛躍的に利用効率を高めることが可能である。このことから、高速増殖炉サイクルの確立が究極的な目標と考えられている。
2.核燃料リサイクルの目的と意義
石油、天然ガス等の化石燃料が限られた埋蔵量であることはいうまでもない。ウラン鉱石の可採年数についても、燃料の直接処分による利用では85年程度といわれている。また、地球温暖化ガス排出抑制の観点から、原子力発電は石炭火力発電等の各種電源と比較して、単位発電量当たりの炭酸ガス排出量も極めて少ないと評価されている。既に述べた高速増殖炉サイクルの完結は、エネルギー確保と地球環境保全からも究極の目標といえる。さらに、当面の軽水炉サイクルを含め、核燃料サイクルには、次のような意義がある。
(1)わが国エネルギー・セキュリティ確保への寄与
わが国は、エネルギー自給率が極めて低く(国際エネルギー機関(IEA)の推計によると2004年のわが国のエネルギー自給率は水力、地熱、太陽光などわずか4%である)、エネルギー資源の96%以上を海外からの輸入に依存している。ウランも全量を海外からの輸入に頼っているが、カナダやオーストラリアなど比較的政情の安定した国から輸入しており、埋蔵量も世界に分散されていることから、石油より供給の安定性に優れたエネルギー源である。原子燃料サイクルを確立することで、ウランの輸入量が減少するため、供給安定性がさらに強化される(わが国の総合エネルギー統計によると、2005年度の自給率は6.2%であるが、原子燃料サイクルを確立すると、原子力は資源の海外依存度の低い準国産エネルギーと考えられ、準国産エネルギーを含めたわが国のエネルギー自給率は17.5%となった)。
(2)高レベル廃棄物の発生量の低減
使用済燃料を直接処分する場合(ワンス・スルー)は、ウラン、プルトニウム、核分裂生成物等を含んだままの使用済燃料全部を高レベル
放射性廃棄物として処分しなければならず、多量の廃棄物となり、処理に必要な空間も広大となる。これに対し、再処理を行うと、高レベル放射性廃棄物の量を減らすことができ、
放射能の影響度合いを10分の1程度に低減させることが可能となり、放射性廃棄物の処分に関する負担も軽減される。また、高速増殖炉サイクルが確立すれば、使用済燃料中の
半減期の長い
超ウラン元素(ネプツニウム、アメリシウム、キュリウム)を高速増殖炉で燃焼させることが可能であり、廃棄物処分の環境負荷の低減も期待できる。
(3)余剰プルトニウムの非保有
「原子力の利用は平和利用に限る」とする日本は、余剰のプルトニウムをもたないことを国際的に表明している。原子力発電によって生成されたプルトニウムを再び核燃料として利用する核燃料サイクルは、プルトニウムの消費においても非常に大きな意義があるといえる。
3.核燃料サイクルを巡る国際動向
国際的にも再処理やプルトニウムの利用を継続している国は、日本、イギリス、フランスなど一部の国に限られ、またフランスでは、高速増殖炉の
実証炉である「
スーパーフェニックス」が廃炉になった。なぜわが国だけが核燃料サイクルに固執しているのかという意見がある。いずれの国もエネルギーの安定供給の確保を重要な政策課題としているものの、各国それぞれのエネルギー事情などに応じて独自のエネルギー政策および核燃料サイクル政策を立案している。各国の核燃料サイクルに係わる最近の動向を
表1と
表2に示す。
核燃料サイクル政策を選択しない国がある一方で、フランス、ロシアおよび中国のように高速増殖炉の開発を進めている国や、米国のように核燃料サイクルに再び着目している国もある。フランスは「スーパーフェニックス」を国内の政治情勢、経済性の観点から廃炉にしたものの、
原型炉である「フェニックス」による研究開発は継続している。一方、米国は、次世代原子力システムの研究開発のための国際的な枠組み(GIF:Generation IV International Forum)を提唱し、研究開発の重点対象として選んだ6つの原子炉型式のうち、3つは高速炉である。さらに、2003年1月に「先進燃料サイクル・イニシャティブ」を取りまとめ、高速炉サイクルの開発を提言している。わが国のエネルギー供給構造が極めて脆弱であるといった事情を考えれば、ウラン資源の有効利用に寄与する核燃料サイクルは、わが国において重要かつ妥当な選択であるといえる。
<図/表>
<参考文献>
(1)原子力委員会:“核燃料サイクルについて”、平成15年8月19日(2003年)、
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2003/kettei/kettei030819/cycle_full.pdf
(2)原子力委員会:“原子力政策大綱”、平成17年10月11日(2005年)、
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/taikou/kettei/siryo1-3.pdf
(3)電気事業連合会ホームページ:原子燃料サイクル、
(4)電気事業連合会編「原子力・エネルギー」図面集−2008年版−
(5)資源エネルギー庁ホームページ:施策情報、核燃料サイクル、
(6)経済産業省編「エネルギー白書」2007年版