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<概要>
 高温ガス炉は、最高約950℃の高い温度の熱が取り出せるので、発電のみならず他の多くの工業プロセスにも広く利用できる。例えば、高温の核熱エネルギーは、石炭のガス化・液化や製鉄業における鉄鋼石還元のための還元ガスの製造と加熱、化学工業におけるエチレン分解やアンモニアのスチームリフォーミング、さらには、自動車、ロケット、燃料電池の燃料となる水素の製造などに利用できる。そして、利用後に低温となった熱を、さらに海水淡水化や地域暖房などにも利用できる。
<更新年月>
2003年09月   

<本文>
 高温ガス炉は、冷却材にヘリウムガスを用いることにより、最高約950℃の高い温度の熱が取り出せ、発電のみならず他の多くの工業プロセスにも広く利用できる。図1に、高温ガス炉の利用分野の拡大が原子炉出口冷却材温度によってどのように期待されるかを示す。
 まず、発電への利用では、在来火力並の蒸気条件が実現されるような高効率の蒸気タービン発電で約40%の熱効率が得られるが、原子炉出口冷却材温度が850℃以上ではガスタービン発電により40〜50%超の熱効率が得られる。閉サイクルのヘリウムガスタービンを高温ガス炉と結合させて、大規模な発電を行うための研究開発は中期的なプログラムとして、ドイツではGHH社が50MW級の閉サイクルガスタービンの開発を行い、またユーリッヒ原子力研究所(KFA:Kernforschungsanlage)、HRB社(Hochtemperatur−Reaktorbau−GmbH)が中心となってHHT計画(HHT: HTR auf Helium−Turbine、発電端出力660MW)を進めた。ドイツでは実験施設(HHV)の設計と建設が行われたが、計画は中断された。その後、10年以上を経て、米国エネルギー省はHTGR−GTの高効率に着目し、研究を再開した。1990年代前半にジェネラル・アトミック社はHTGR−GTの設計を完了、ロシアとの協力を勧めている。南アフリカ共和国及びオランダはそれぞれPBMRとACACIA計画を進めている。日本では原研(現日本原子力研究開発機構)が出力600MWtのプラントを用いたヘリウムガスタービンの設計とフィージビリティ研究が行われている。また、ガスタービンと蒸気タービンとの複合システムとして発電を行うことによっても50%を超える熱効率が得られる。
 発電以外の利用では、得られる温度により石炭のガス化・液化、軽質炭化水素の水蒸気改質、これにより得られた還元ガスによる鉄鋼石の直接還元やメタノール製造、高温水蒸気電解あるいは熱化学法による水素製造、酸化アルミニウム製造等が考えられる。また、高温ガス炉によって生成される高温蒸気を、これらの産業が必要とする電力の生産や油田からの重質油の回収などに利用できる。さらに、原子炉が工場などに隣接して立地可能になれば、高温のヘリウムガス及び蒸気を直接に工場などへ供給して利用できる。図2に、各種産業で利用される熱源の温度と高温ガス炉の利用範囲を示す。
 高温ヘリウムガスを熱源に使えば、
(1) アスファルトなどの原料から還元ガスを製造し、これを高温に加熱してシャフト炉*)に送り込み、鉄鋼石を還元して固体の還元鉄を製造することができる(原子力製鉄)。この方法が導入されると、現在の高炉製鉄法に伴う原料炭依存から脱却できるだけでなく、化石燃料消費による公害問題(CO2、SO2、NOx放出の抑制)の解決にも役立つ。
(2) 石炭をガス化して合成天然ガスを、また液化して液化油やメタノールなどを生産することができる。石炭は固体燃料のため、貯蔵、輸送、取り扱いが不便で、しかも大量消費に伴うばいじん、硫黄酸化物、窒素酸化物等の環境排出物を抑えながら利用するには、ガス化・液化して利用するのが望ましい。
(3) 水の熱化学的分解による水素の製造が可能である。熱化学分解法とは、いくつかの化学反応を組み合わせて水を水素と酸素に分解する方法で、高温ガス炉との組み合わせが将来最も有望視されている。水素は現在でも化学工業の重要な原料であるが、本来燃料としても極めて優れた性質をもっている。また、原料が水で無限にあり、燃料として使用すると再び水に戻り有害物質を発生しないのでクリーンである、貯蔵が容易である、家庭用から工業用、宇宙用、さらには自動車や飛行機などの燃料にも使用できる、などの特長をもっている。
(4) アンモニア、メタノール、アルコールなどの化学製品を製造することができる。現在、これらの物質を製造するのに必要な反応熱は大量の天然ガスとナフサを燃焼させて得ているが、将来、これに代わって高温ガス炉の熱源が利用できれば、化石燃料の消費は大幅に削減できる。また、アルミニウム精錬では、大量の蒸気と電力を必要とするため、これを同時に供給できる高温ガス炉の開発が期待される。
 また、高温蒸気を熱源に使えば、
(1) 粘度の高い原油(重質油)の回収とその品質改良を行うことができる。技術的な問題から、従来の油井では、重質油埋蔵量の30%しか回収することしかできないが、これを改良する技術として現在、熱を利用する方法が開発されている。その一つが蒸気を注入するもので、飽和蒸気を重質油を含んだタールサンド層に注入し、回収される酸性の重質アスファルトを品質改良によって合成原油と石油コークスに変える。この回収と品質改良のプロセスは電力と蒸気が必要であるが、高温ガス炉はこの供給源として優れている。
 以上のように、高温ガス炉は発電以外にも高温の熱エネルギーを産業用熱源として利用できるのが特長である。また、このように高温熱源として利用した後の熱媒体はまだ温度が高くて利用可能なので、これを例えば、一般工業、海水淡水化、地域暖房などに利用し、さらに下がったところで農業、漁業などに利用するなど、段階的に利用すると、熱の利用効率が飛躍的に高められ、省資源、省エネルギーに役立つばかりでなく、エネルギー多消費産業からの環境汚染物質の放出量を低減できる。
[用語解説]
*) 直接還元法として有望視されている還元炉の一種で、鉄鋼石を高温還元ガスで還元して還元鉄を製造する装置。
<図/表>
図1 高温ガス炉による利用分野
図1  高温ガス炉による利用分野
図2 各種産業で利用される熱源の温度と高温ガス炉の利用範囲
図2  各種産業で利用される熱源の温度と高温ガス炉の利用範囲

<関連タイトル>
熱化学水素製造 (01-05-02-03)
高温ガス炉による核熱エネルギー利用の拡大 (03-03-05-01)
高温ガス炉の利用の仕方 (03-03-05-03)
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<参考文献>
(1)村田浩ほか:”核熱利用の旗手・高温ガス炉”、エネルギーレビュー、第2巻、第8号(1982年)、p.2−30
(2)原子力製鉄技術研究組合:核熱利用システムの調査報告書(2)(1981年)
(3)Y.Muto et al.: Proceedings of the International Gas Turbine Congress,Kobe,Nov.14−19,1999,pp313−320
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