<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 核エネルギーを電力として利用するにとどまらず、核熱の直接利用を通じてエネルギーの利用効率の向上と多様化を進めることが将来重要になってくる。具体的には、熱と電気を供給できるコージェネレーション(Cogeneration)や、さらに水素やメタノールなどの合成燃料も生産できるコープロダクション(Coproduction)の概念を取り入れることである。高温ガス炉の利用によるコージェネレーションは、ガスタービン直接サイクル発電プラントや蒸気サイクル発電プラントを原子炉とうまく整合させ、かつ排熱や発生蒸気を有効に利用することである。また、コージェネレーションを導入するには、需要の規模とそこで必要な電気と蒸気の割合を充分に調整しておく必要がある。
<更新年月>
2003年09月   

<本文>
(1)高温ガス炉の利用によるコージェネレーションは現状では建設・運転されているものはないが、高温ガス炉に関心をもっているドイツ、米国、旧ソ連、中国などの国々で計画されてきた。古くは旧ソ連において大規模熱電併給発電を実施した例がある。これはRBMK、VVER等の原子炉を用いて地域暖房、工業プロセス用熱供給、海水脱塩を行ったものである。オランダでは、天然ガス火力による熱併給発電を原子力で代替する可能性を検討してきた。原子炉は40MWtペブルベッド型で、冷却材ヘリウムは約490℃〜800℃であり、二次系冷却材ヘリウムは約70℃〜280℃である。日本においてもモジュール型高温ガス炉を用いた熱電併給プラントの検討が進められている。FAPIG社は高温ガス炉の熱利用プラント構想をもとにモジュール炉導入の検討をHTR−GmbH(ドイツ・シーメンス社(現AREVA NP社)/ABBの合弁会社)、GA社とともに進めている。モジュール型高温ガス炉の主要諸元の一例は熱出力200MW、電気出力80MW、原子炉出口温度700℃、同入口温度250℃である。図1にFAPIG社の熱利用概念図を示す。
(2)核熱によるコージェネレーションの主要な機器は、高温ガス炉のヘリウムガス出口温度が850℃から950℃の範囲であれば原子炉、ガスタービン、発電機、排熱回収機器等で構成される。また、出口温度が700℃から750℃の範囲であれば原子炉、蒸気発生器、蒸気タービン、発電機等で構成される。
(3)熱の需要先は産業用(石油化学・精製、紙・パルプ製造、繊維等)ボイラー代替、海水淡水化、重質油回収、タールサンド回収、地域冷暖房等に利用することが提案されている。
(4)具体的な例として、中国では重質油の回収を高温ガス炉の核熱を利用して行なう計画がある。
1)中国における重質油は国内全石油埋蔵量の約1/6に相当し、油田のほとんどが豊富な油層を有しているので、大規模な蒸気注入プラントを導入しても経済的に有利であるとされている。
2)核熱による蒸気の最終コストは、在来の油燃料ボイラーによる場合と比較して約3割から8割のコストで済むと試算している。なお、この幅は油燃料ボイラーに使用する中国における現実的な石油の価格差によるものである。
3)特定の油田地帯についてモジュラー型高温ガス炉の導入の可能性に関する検討をドイツのKFAと共同でおこなっている。それによると、現在の重質油確認埋蔵量に対して高温ガス炉は10〜20GWtの潜在的な市場があると予測されている。
(5)モジュラー型高温ガス炉の核熱を産業用ボイラー代替用蒸気、及び電気の併給に利用した場合のコスト試算例は以下の通りである。
1)熱併給発電システムの基本構成を図2に示す。高温ガス炉として一体型の高温ガス炉を採用せずにモジュラー型を用いた理由は、補助ボイラーの容量がモジュラー型の方が小規模で済むからである。
2)コスト試算は、蒸気と電気についてのコスト配分が重要であり、蒸気・電気いずれか一方の過大評価或いは過小評価を避けるため、固定費、変動費とも蒸気と電気の発生に必要なエネルギー量の比により、熱併給発電システムによる利益を配分する発生比率配分方式で算定してある。本モデルでは蒸気発生量は470MWtであり、電気は850MWtである。その比率は0.553対1である。
3)熱併給発電システムによる発電コストは11.7/Kwh、蒸気コストは2.53円/kgと試算されている 。これは石炭ボイラーの蒸気コスト2.93円/kgより優位である。なお、参考のために一体型の蒸気コストは、予備が必要なため3.01円/kgとなっている。
<図/表>
図1 高温ガス炉の熱利用概念図
図1  高温ガス炉の熱利用概念図
図2 熱併給発電システムの基本構成
図2  熱併給発電システムの基本構成

<関連タイトル>
高温ガス炉による核熱エネルギー利用の拡大 (03-03-05-01)
高温ガス炉による核熱エネルギー利用の範囲と拡がり (03-03-05-02)
高温ガス炉の利用の仕方 (03-03-05-03)
HTTRを用いた熱化学法ISプロセスによる水素製造研究開発計画 (03-03-05-05)

<参考文献>
(1) 林 敏和:中国における高温ガス炉の開発と実用化への展望(翻訳)、JAERI−memo
60−349(1985)
(2) W.C. Horak: Cogeneration in the former Soviet Union, BNL−63998, 6p(1997).
(3) 文沢元雄他:ガスタービンを用いた原子力コジェネシステム、エネルギー・資源、18巻No.5、485−490(1997).
(4) J.F. Kikstra and A.H.M. Verkooijen: Dynamic Modeling of a Cogenerating Nuclear Gas Turbine Plant,Part 1, Trans. ASME J Eng Gas Turbine Power, Vol. 124, No. 3, 725−733(2002).
(5) FAPIGホームページ:
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ