<大項目> 原子力発電
<中項目> 原子力発電所の事故・故障
<小項目> 海外の原子力発電所の事故・故障・トラブル
<タイトル>
海外原子力発電所におけるタービン火災事故 (02-07-04-18)

<概要>
 米国の原子力発電所における運転経験データによれば、タービン建屋での火災発生件数が比較的多い。タービン関係の火災事故では、タービンの潤滑油や冷却用水素等の爆発を伴ったり、タービンブレードが破損して飛来物となり建屋内設備の損傷を招いた事例もある。例えば、1989年のスペイン・バンデロス発電所1号機で発生した火災では、発電機、主復水器、ケーブル等の損傷を引き起こし、また、1993年のインド・ナローラ発電所1号機の火災では、電力ケーブルが燃え約17時間にわたって所内の全電源が喪失した。1991年の米国セーラム発電所2号機並びに1993年の米国エンリコフェルミ発電所2号機で発生した事例では、破損したタービンブレードが飛来物となってケーシングを突き破るという事態を招いた。さらに、爆発・火災により作業員2名が死傷するという事故も発生している。
<更新年月>
2000年02月   

<本文>
 米国における運転経験データによれば、タービン建屋での火災発生件数は比較的多く( 表1 参照)、また、タービンの潤滑油や冷却用水素等の爆発を伴ったり、タービンブレードが破損して飛来物となって建屋内設備の損傷を招いた事例もある。 表2 に、主なタービン火災事故を示すとともに、各事故についてその概要を述べる。
(1)スペイン・バンデロス発電所1号機(黒鉛ガス冷却炉)における火災
 1989年10月19日、定格出力(480MWe)の80%で運転中、タービン発電機の軸の振動が激しくなりタービンがトリップした。その直後、既に励磁機から漏れ出していた水素が燃焼し潤滑油に引火して火災となった。制御室の運転員は、水素燃焼に気付きすぐに原子炉を手動で停止した。所内および所外の消防隊の消火作業により、火災は約4時間後に下火となり、さらにその2.5時間後に完全に鎮火された。
 この火災によって、タービン発電機とその補助設備、主復水器および循環水系、ケーブル等が損傷した。特に、循環水系の配管が破損し約650,000ガロン(2,400m3)の海水が流入するとともに、消火のために約350,000ガロン(1,600m3)の水が散水されたことにより、主冷却ポンプ区画が水浸しとなり使用不能となったため、後備冷却系が作動した。また、ケーブルの損傷により、4基の炭酸ガスブロワーのうちの2基が使用不能となり、残りの2基により炉心冷却が行われた。
  図1 に、本事故により損傷を受けた区画を示す。破損したのはフランス製高圧タービンであり、計36個のタービンブレードが損傷していた。主たる原因は応力腐食割れとされ、また、湿った蒸気と非破壊検査が不適切であったことも一因とされている。本事故は、国際原子力事象評価尺度INES : International Nuclear Event Scale)におけるレベル3に相当する。なお、この火災による人間および環境への放射線影響はなかった。事故後、本プラントについては、スペイン国内のエネルギー事情と経済性の観点から廃炉措置が取られた。
(2)米国セーラム発電所2号機(加圧水型原子炉)におけるタービンミサイルおよび火災
 1991年11月9日、定格出力(1115MWe)運転中、タービン保安装置の性能を確認するための月例試験を行っていたところ、軸受油圧低によりタービンがトリップし、それに引き続いて原子炉がトリップ(スクラム)した。同時に、タービンに関連した主蒸気止め弁やガバナー弁などが閉止した。その1.5秒後に、軸受油圧が正常値に復帰したため、主蒸気止め弁をはじめ20個の弁が再開した。
 タービントリップ発信から約27秒後に、主発電機遮断器が開いて負荷が遮断されたが、タービントリップ電磁弁と過速度保護装置が試験のためバイパスされていた上、タービン保安装置の圧力保護スイッチが故障したため、タービントリップ信号が発信されず、蒸気の流入により、無負荷状態のタービンは過速度運転状態となった。その結果、タービンの回転数は通常の1.5倍以上となり、タービン軸が激しく振動し、タービンブレードが破損した。
 破損したブレードはミサイルのように飛び道具となって炭素鋼製のタービンケーシングを貫通し、主復水器細管を切断した(ケーシング貫通の様子、低圧タービンの破損状況、および主復水器の破損状況を 図2図3 および 図4 に示す)。また、タービン軸の激しい振動により、発電機冷却用水素のシールと発電機軸受オイルのシールが損傷し、水素が漏れだしてオイルに引火し火災となった。消火設備の自動作動と所内消防隊による消火活動により約20分で火災は鎮火した。本事故による安全系の影響はなく原子炉は正常に冷却された。また、環境への放射能放出もなかったが、プラントの復旧には6ヶ月を要した。
(3)米国エンリコフェルミ発電所2号機(沸騰水型原子炉)におけるタービン破損と火災
 1993年12月25日、定格出力(1093MWe)の93%で運転中、タービンがトリップし原子炉がスクラムした。トリップの原因は、高圧タービン入口での圧力衝撃に起因した振動で誤って発せられたタービン過速度信号によるものであった。ほぼ同時に、多数のタービン振動アラーム、地震アラームおよび火災警報が鳴動した。さらに、制御室とタービン建家において、1−2分にわたって大音響とかなりの振動が感じられた。これらの原因は、タービンの振動により漏れ出た水素が爆発し、発電機並びに励磁機周辺で火災が発生したことによるものであった。
 その後の調査により、低圧タービンの1基においてケーシングの貫通と、飛来した破損ブレードが見つかった。ケーシングを貫通した破損ブレードは5個であり、これらにより、主復水器伝熱管、補機冷却系配管および補給水系配管が損傷した。消火設備の作動と消防隊による消火活動により、火災は20分程度で鎮火したが、消火水と破損配管からの水の流入によりタービン建家に約500,000ガロン(1,900m3)の水が漏洩/放出された。この水は濾過されイオン交換樹脂で処理された後エリー湖に放出されたが、この放出による周辺公衆の被ばく線量は、制限値である30mSv/年を十分下回るものと評価された。
 なお、本事故時において、プラントを冷態停止に移行させるための系統(残留熱除去系と原子炉隔離時冷却系)の機器の一部に不具合が見つかったが、この不具合はタービン破損あるいは火災によるものではなく、また、冷態停止への移行に支障をきたすものではなかった。
(4)インド・ナローラ発電所1号機(加圧重水型原子炉)における火災
 1993年3月31日、190MWe出力(定格出力:235MWe)で運転中、運転員はタービン建屋における爆発音を聞くとともに発煙を観測した。タービン発電機がトリップしたため、運転員は、直ぐに主停止系と二次停止系を作動させた。数分以内にタービン建屋での火災が消防隊に通報され、また、運転員は煙が充満した中央制御室から避難し緊急時制御室に移動してプラントの監視を行った。約10分後、電力ケーブルの焼損により発電所は停電状態となった。この停電により自動ホウ酸水注入系が作動しなかったため運転員は手動でホウ酸の注入を行った。蒸気発生器への給水も停止したため運転員はディーゼル駆動の消火ポンプを起動して給水を行うことで、自然循環による炉心冷却を確保した。消火作業には2時間、煙の除去にはさらに4時間を要した。火災は、タービンの振動により漏れ出た発電機冷却用の水素が爆発し、タービン建屋内の電力ケーブルやオイルに引火したことによるものであった。
 なお、非常用ディーゼル発電機は起動したものの、電力ケーブルが焼損したため電力を供給できず直ぐに停止した。結局、約17時間にわたって所内の全電源が喪失した。事故後の調査で、低圧タービンのブレード16個の損傷が認められた。また、発電機周辺の配管、母線ダクト、制御盤等も著しい損傷を受けていた。なお、本事故は、プラントの深層防護設備の著しい低下を招いたことから、INESのレベル3と評価された。
(5)ウクライナ・チェルノブイル発電所2号機(旧ソ連黒鉛減速チャンネル型原子炉)における火災
 1991年10月11日、プラントは保守停止から復帰して定格出力(1000MWe)の70%で運転中であった。最近の試験により、2基あるタービン発電機のうちの1基( 図5 のTG−4)について修理・調整を行う必要性が生じたため、通常の手順にしたがって原子炉出力を425MWeに下げ、さらに、同発電機を供用から外すために空気作動の遮断器3台(図5の太線ライン上ある遮断器1,2,3)を開いた。タービン発電機がほぼ停止状態になった時、1台の遮断器(図5の遮断器2)が突然閉じたためタービン発電機は送電系に再度接続された。このため、タービン発電機がモータ化された状態となって回転し始め、その結果、ロータ接続部や励磁機巻線部、発電機軸受部が破損した。軸受の破損により、冷却用水素が漏れだして発火し、シール用オイルおよび潤滑油に引火して火災となった。消火系が自動的に作動し、また、消防隊も駆けつけて消火作業にあたったが、タービン建屋には煙が充満しており、完全に鎮火するまでに3時間以上を要した。
 この火災により、タービン建屋の屋根の一部が熱により崩れ落ち、建屋内の補助給水ポンプ5台が利用不能となった。しかしながら、運転員は、火災の発生を素早く検知し直ぐに原子炉を手動で停止し主冷却ポンプを用いて通常の炉心冷却が行われた。なお、遮断器が突然閉じた原因は、制御回路の短絡によるものである。本事故による負傷者や放射性物質の環境放出はなかったが、深層防護設備の機能低下を招いたことから、INESのレベル2と評価された。
(6)ウクライナ・サポロジェ発電所5号機(旧ソ連加圧水型原子炉)における火災
 プラントは、1993年5月4日から燃料取替および保守点検のため停止中であった。5月21日、タービン建屋において、発電機を冷却するための水素系配管について作業を行っていたところ、作業員が誤ってフランジを開けたため水素が漏れだし爆発・火災となった。火災は水素系ライン上の弁を閉じることによって直ぐに鎮火されたが、この火災により、作業員1名が死亡し、もう1名が大火傷を負い重体となって病院に搬送された。なお、本事故ではプラントの安全機能に影響はなく、また、2名の死傷者が出たもののいずれも放射能によるものではなかったため、INESレベルの対象外と評価された。
<図/表>
表1 原子力発電所における火災発生区画と件数(米国における1965−1994年の運転経験)
表2 主なタービン火災事故
図1 スペイン・バンデロス発電所1号機における火災損傷区画
図2 米国セーラム発電所2号機の火災によるタービンケーシング貫通の様子
図3 米国セーラム発電所2号機の火災による低圧タービン損傷状況
図4 米国セーラム発電所2号機の火災による主復水器損傷状況
図5 ウクライナ・チェルノブイル発電所におけるタービン発電機−送電系統結線図

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<関連タイトル>
原子力施設の故障・トラブル・事故の国際評価尺度 (11-01-04-01)

<参考文献>
(1)J.R.Houghton, Special Study:Fire Events − Feedback of U.S. Operating Experience, AEOD/S97−03, (June 1997)
(2)Nuclear Engineering International, Vol. 39, No. 476, p.42−44, (March 1994)
(3)Nuclear Engineering International, Vol. 34, No. 425, p.3, (December 1989) (バンデロス発電所)
(4)Nuclear Engineering International, Vol. 38, No. 467, (June 1993)(ナローラ発電所)
(5)Nuclear Engineering International, Vol. 37, No. 453, p.20−24, (April 1992) (チェルノブイル発電所)
(6)USNRC:Inspection Report No. 50−311/91−81, (January 1992)(セーラム発電所)
(7)H.L.Ornstein, Operation Experience Feedback Report − Turbine−Generator Overspeed Protection Systems, NUREG−1275, Vol.11, (April 1995)(セーラム発電所)
(8)USNRC:Inspection Report No. 50−341/93029, (February 1994)(フェルミ発電所)
(9)日本原子力産業会議:原子力資料,No.270,p.24,(1993)(ザポロジェ発電所)
(10)渡辺 憲夫ほか:国際原子力事象尺度(INES : International Nuclear Event Scale)に基づく事故・故障事例集 和訳版, JAERI−Data/Code 98−023、(1998年9月)(チェルノブイル、ザポロジェ、ナローラ発電所)
(11)渡辺 憲夫、平野 雅司:国際原子力事象評価尺度(INES)情報に関する和訳データベースのホームページ開設, 日本原子力学会誌, Vol.41, No.6, p.20−30, (1999年6月)
(12) :INES 国際原子力事象尺度、INES 和訳情報データベース 日本原子力研究所
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