<本文>
1996年(平成8年)3月に、一般電気事業者10社と卸電気事業者2社(
表1)から、通商産業大臣(現経済産業大臣)へ電気事業法第29条の規定に基づく平成8年度電力施設計画の届け出があった。本計画は、平成7年12月に施行された改定電気事業法に基づき、従来の短期の需給バランスを対象とした「供給計画」と長期の電源開発計画を対象とした「施設計画」を統合した初めてのものである。概要は以下のとおりである。
1.需要電力量、最大需要電力及び
年負荷率の見通し
平成8年度施設計画の前提となった、平成17年度までの需要電力量、最大需要電力及び年
負荷率の見通しは次のとおりである(
表2および
表3)。
(1)需要電力量
平成7年度の日本経済の動向を見ると、平成6年度には、鉄鋼、化学、機械産業がプラスに転じ、回復の兆しを見せたが、平成7年度になると景気が足踏み状態となり、電気機械・非鉄以外のほとんどで前年度割れとなっている。平成7年度の一般電気事業用需要電力量は7,517億kWhであり、猛暑もあり電力需要が急増した前年度7,401億kWhに比べると1.6%増の伸びにとどまる見込みである。
今後の需要電力量は、内需を中心とした安定的な経済成長、経済社会の高度化、国民生活の高度化等を反映して、既存の省エネルギー対策の着実な進展による減少要因を踏まえても、中長期的には着実に増加していくものと予想される。電灯需要については、人口の伸び率鈍化、家電機器の省電力化等による低下要因はあるものの、家庭用電気機器の大型化・多様化、冷暖房兼用エアコンの普及拡大等によって年平均2.2%の伸びが見込まれ、電力需要に占める割合が大きくなると想定される。また、業務用電力については、労働時間の短縮、省エネルギー型ビルの建設等による低下要因はあるものの、サービス経済化・情報化・国際化等の進展、オフィス環境の改善に伴う冷暖房需要の増加、OA化の進展等の増加要因により、年平均3.9%の伸びが見込まれる。この結果、民生用需要については、平成7年度から平成17年度まで年平均2.9%の伸びが見込まれている。
一方、大口電力については、至近年において生産活動が低迷しており、今後も国際競争力の低下等により鉄鋼等の素材型産業の生産規模の縮小が見込まれるとともに、加工組立型産業も従来のような高い伸びは見込めないことから、年平均0.7%増加し、これにより産業用需要は、平成17年度で3,787億kWh、年平均0.8%増加することが見込まれている。この結果、一般電気事業用需要電力量は、民生用需要の堅調な増加が見込まれるものの、産業用需要の伸び悩みにより、平成7年度見通しとほぼ同水準となり、平成12年度には8,276億kWhとなり、平成17年度には9,176億kWh、年平均伸び率2.0%となるものと見込まれている。
(2)最大需要電力
最大需要電力(一般電気事業用夏季ピーク電力)は、これまで主として民生用需要における冷暖房の普及拡大による夏季需要の増加で需要電力量を上回る伸びを示してきた。平成7年度の最大需要電力は、7月下旬からの高気温の影響により、一般電気事業用計で1億6,529kWであり、記録的な猛暑だった6年度に比べても1.5%の伸びとなった。
今後については、需要電力量が着実に増大する中で、年負荷率も全体としては現状維持程度となると見込まれている。この結果、一般電気事業用最大需要電力は、平成12年度には1億7,788万kWとなり、平成17年度には1億9,731万kWとなり、平成6年度からの年平均伸び率は1.8%、猛暑等を考慮した気温補正後で2.3%となる。
(3)年負荷率
年負荷率は、負荷率が相対的に悪い業務用電力の増加等を背景に経年的に穏やかな低下傾向にある。年負荷率の低下は、最大需要電力の増加、それに対応した電源設備の開発が必要になるとともに、電源設備の利用効率の低下をもたらし、ひいては供給コストの上昇につながるため、
負荷平準化対策を従来にも増して積極的に推進していく必要がある。
今後の見通しについては、用途構成において、負荷率のよい大口電力需要の割合が減少し、業務用電力の割合が増加するなどの負荷率低下要因が見込まれるものの、夏季ピーク時間帯の需要を他の時期、時間帯にシフトすることなどを目的とする需給調整契約(業務用を中心とする蓄熱調整契約や産業用を中心とする計画調整契約など)の普及増等の負荷平準化対策の効果による負荷率改善効果も見込まれている。また、具体的な負荷平準化の取組みとしては、電気事業法改正を受けた需給調整契約等負荷平準化のための料金制度の多様化・弾力化、さらに氷蓄熱空調システムの導入促進のための国における利子補給制度、電力会社における奨励金の導入等により蓄熱調整契約及び計画調整契約のピークシフト効果は、平成7年度の430万kWから17年度で700万kWと、最大電力の約4%に達するものと見込まれる。この結果、平成17年度には年負荷率が56.4%となる見通しである。
(注:年負荷率とは、最大需要電力に対する年平均需要電力の比率をいい、夏季ピークが大きくなるに伴い、年負荷率は小さい値となる。)
2.電源開発計画と需給バランス
電力は、需要に応じ安定的に供給する必要があるが貯蔵することができないため、常に最大需要電力の増加に対応できるよう電源設備を計画的に開発していく必要がある。電源設備の開発にあたっては、認可出力から定期検査、
水力発電の水力減少等を控除した上で、異常高気温、景気変動等の予期し得ない事態が発生した場合においても電力を安定的に供給することができるように、想定されうる最大需要電力に対して一定の予備力を加えた供給力を確保する必要がある。
具体的供給力としては、現在運転中の2億135万kW(平成8年3月末現在)に加え、建設中の81基2,581万kW、着工準備中の48基2,350万kW、さらに、8年度電源開発調整審議会(現総合資源エネルギー調査会電源開発分科会)上程予定28地点2,334万kW(水力513万kW、火力1,301万kW、原子力520万kW)が計画されている。今後とも、将来の電力の安定供給確保の観点から、9年度以降上程が予定されている電源等も含め、電源開発を計画的に遂行する必要がある(
表4)。
3.卸供給事業者からの電源調達
平成7年12月に施行された改正電気事業法により、一般電気事業者及び卸電気事業者に加え事業許可を不要とする卸供給事業者が定義され、電気事業者は広域的運営による電気事業の総合的かつ合理的な発達に資するように、卸供給事業者の能力を適切に活用しつつ、相互に協調するよう求められている。
電力供給の効率化、電気事業者全体としての供給力の確保・
電源構成の最適化の達成との観点から、卸供給事業者からの調達を一層強力に推進することが必要である。この結果、本供給計画においては、今後の需給バランス等によって今後見直しが行われることを前提に、公営水力からの調達分として15万kW、入札による調達規模としては平成8年度以降入札により募集される281万kW(平成8年度電力供給計画届出べ一ス)を含め296万kWが計上されている。
4.電源多様化の推進
本計画が実施された場合の平成17年度末の発電設備の構成を
表5および
図1に、発電電力量の構成を
表6および
図2に示す。
電源構成は、非化石エネルギーの中核として原子力の開発を推進するとともに、電源の多様化の観点から、原子力に加え、石炭火力、
LNG火力、水力(一般及び揚力)等についてバランスのとれた開発をするものとしている。また、石炭火力、LNG火力については、地球環境問題への対応及び省エネルギーの推進の観点から、高効率発電方式を採用し、発電効率の向上に努め、我が国の国産エネルギーである一般水力及び地熱発電についても着実な開発を進める。なお、
分散型電源(
燃料電池、
太陽電池、風力)については、国及び電力会社において実証試験、技術開発が進められており、今後、電気事業用電源としての技術的信頼性の確保、経済性の向上等が図られることにより施設計画に盛り込まれる。本計画に盛られた電源開発計画の実現にあたっては、地球環境問題への対応にも配慮しつつ、国民の理解と協力を得ながら、電源立地対策等の各般の施策を講じていく必要がある。
5.送変電施設の増強
今後見込まれている電力需要の増加に対応するとともに、系統電圧の安定化等供給信頼度の一層の向上を図るため、広域運営の進展にも鑑み、社会環境との調和に配慮しつつ、送変電設備についても基幹系統等の一層の強化、拡充を図る。
6.広域運営の推進
電力需給の地域間アンバランスの増大という状況を踏まえ、従来の突発的需給変動リスクへの対応及び経済性確保だけでなく、電気事業者全体による長期的供給力の確保という観点から広域電源開発、広域融通等の広域運営を一層強力に推進することが必要である。広域電源については、今年度以降10年間に開発するものは、既に計画済みのものに加え、新たに磯子火力新1号等が計上され、合計で764万kWが開発される計画である。これらの供給力を原資として、9電力会社間の広域融通電力は、平成8年度603万kW、平成17年度734万kWが計画されている。
また、広域連系については、今後の電力供給の地域間アンバランスから計画的かつ強力に推進することとし、既に計画済みのものに加え、新たに連系強化策を追加する。また、50Hz/60Hzの異周波数間の連係強化策として周波数変換設備の増強について早急に計画の具体化を図る。さらに、将来の増強についても検討するとともに、それに伴い必要となる関連の交流系統の増強についても調査を進める。
7.設備投資計画
以上の計画の推進に必要とされる平成8年度の設備投資額は、9電力会社4兆7,825億円、沖縄電力355億円、その他事業者5,357億円、合計5兆3,537億円となっている。これは平成7年度設備投資額5兆482億円と比べ6.1%増加している。
<図/表>
<関連タイトル>
各種電源の特徴と位置づけ(1995年度末) (01-04-01-02)
電力需要の平準化対策 (01-09-05-08)
<参考文献>
(1)通商産業省資源エネルギー庁公益事業部(編):電源開発の概要−その計画と基礎資料−平成8年度、奥村印刷株式会社出版部(平成8年10月31日)p.99-140
(2)通商産業省資源エネルギー庁公益事業部(監修)、電力年報委員会(編集):電気事業の現状1996年・平成8年版、(社)日本電気協会(1996年12月)p.102-113、p.270-275
(3)(社)日本原子力産業会議(編集発行): 原子力年鑑平成6年(1994年)版