<本文>
1.石油を巡る動向
日本は原油のほぼ全量を輸入に依存し、かつ、その輸入先も政治的に不安定な中東地域に偏在している(1997年度のわが国石油輸入量に占める中東からの輸入割合(中東依存度)は82.7%)(
表1)。こうした事情にかんがみ、石油の安定供給の確保はわが国のエネルギー・セキュリティを確保する上で最重要課題の一つである。このため、従来から備蓄・開発・産油国協力などの施策を効果的・効率的に推進することにより、安定供給の確保を図ってきている。具体的には、供給余力の拡大や供給源の多様化を図るため、21世紀初頭に120万
バーレル/日の自主開発原油を確保することを目標として石油の自主開発政策を推進してきた。また、中東地域への高い依存度は今後も続くことが見込まれるため、産油国との人的交流を引き続き着実に実施していくとともに、石油関連分野での共同研究開発や投資促進などを積極的に推進してきた。さらに、緊急時、すなわち供給途絶やそのおそれのある事態に対処すべく、国家備蓄(1998年2月に原油ベースで5,000万kl備蓄を達成)と民間備蓄(製品ベースで70日分の備蓄義務)によって構成される
石油備蓄(
表2)の充実を図るとともに、緊急時法制を整備し、IEA(
国際エネルギー機関)体制の下での国際協調を図ることによって対応することとしてきた。
一方、わが国の喫緊の課題である経済構造改革を進めるためには、石油についても、供給基盤のより一層の効率化が求められている。さらに、最近は地球環境保全への配慮も重要な課題となっている。環境保全との調和を図りつつ、石油の安定供給の確保と効率性の向上の双方を図ることは、今後ともわが国の国民生活、経済活動にとって重要な政策課題である。
2.石油政策の再点検
2.1 再点検の経過
上に述べたような事情に加え、国際石油市場の発達、アジア地域を中心としたエネルギー需給動向など、石油を巡る環境変化を踏まえ、石油政策を見直す必要性が生じた。このため、経済構造の変革と創造のためのプログラム(1996年12月閣議決定)によって「石油について、石油政策全般における再点検に取り組み、2001(平成13)年を目途に、石油関連の規制緩和・制度改革を行う。」こととした。
1997年秋の「昨今の環境変化を踏まえた今後の石油政策の基本的な在り方如何。」との通産大臣(現経済産業大臣)からの諮問を受け、石油審議会(現総合資源エネルギー調査会石油分科会)石油部会基本政策小委員会での審議が開始され、今後の石油政策の基本的な考え方、これを踏まえた精製業を巡る制度の在り方について検討し、1998年6月に報告書(答申)が出された。上記答申を踏まえ、備蓄を含めた緊急時対応の在り方について、1998年12月より石油審議会(現総合資源エネルギー調査会石油分科会)石油部会石油備蓄・緊急時対策小委員会において検討を進め、1999年8月に報告書を取りまとめた。同報告書においては、平時における公的関与を縮小した後も、緊急時に備えた平時からの条件整備が必要との観点から、情報収集体制の整備や、財政状況を踏まえつつ
協調的緊急時対応措置に適切に対処しうる国家備蓄水準の達成を当面の目標とすべき旨が指摘されている。また、石油・可燃性天然ガスの自主開発政策の在り方についても、現在石油審議会(現総合資源エネルギー調査会石油分科会)開発部会基本政策小委員会において、1999年秋の取りまとめを目途に検討を進めているところである。以上を踏まえ、2001年を目途に所要の制度改革を行う。
3.今後の石油政策
3.1 基本的な考え方
(1) 安定供給確保の観点からの国際石油市場の機能を重視
市場が機能しない事態を予防、回避するための政策的補完措置の充実。すなわち、急激かつ大幅な供給の減少についても国際石油市場の機能の活用により対処することを基本とする。
(2) 市場機能の限界を踏まえた政策展開
市場が機能しない事態に至る可能性も否定できないことから、引き続き、このような事態への備えも充実させる。
3.2 効率的な石油産業の構築
(1) 国内精製能力は、緊急時におけるわが国の対応の柔軟性を相対的に高めるもので、事業者の努力の結果として、国内に一定の精製能力が確保されることを期待する。公的な関与は縮小・廃止する。
(2)「特石法」廃止などにより、石油の輸出入は実質的に自由化し、わが国石油市場は、国際市場とのリンケージを深めている。競争原理のより一層の徹底を図るためにもこの結びつきは強化する。しかし、ガソリンなどの価格は大幅に下落しており、石油会社の収益は大幅に悪化している。このような状況下で、
エネルギーセキュリティへの悪影響を排除しつつ、石油産業を強化し効率化することが課題である。
3.3 環境保全
(1) 省エネルギー、代替エネルギーを通じた石油の有効利用によって、環境保全に資する。
(2) 今後とも、国、事業者において環境問題への取り組みを進める。
4.安定供給の確保
(1) 産油国協力、アジア諸国との政策協調
緊急時における直接的な安定供給源の確保のみならず、国際石油市場の発展の観点からも、産油国の政治的、社会的安定は重要である。このため、石油分野のみならず、政治、経済、社会全般にわたる幅広い分野での交流の深化を図る。
アジアにおいては、エネルギーの域外依存度の上昇、規制緩和の遅れ、緊急時対応の末整備など、エネルギー需給構造の脆弱性が懸念されている。政策対話を通じて、市場発達の意義などに関する共通認識の形成を図り、緊急時対応の施策の充実などを促すことが重要である。
(2) 石油などの備蓄の増強と緊急時対応の在り方の検討
備蓄は、緊急時における「最後の手段」として引き続き重要である。加えて、危機の初期段階に市場を補完する「最初の手段」としてもその役割が増大している。備蓄に求められる役割を踏まえ、1)機動性、2)政府のコントロール、3)効率性、4)民間備蓄が事業者の競争条件に与える影響など、様々な観点から、備蓄を含めた緊急時対応の在り方について、さらに検討を深める。
(3) 石油・可燃性天然ガスの開発
日本自主開発は、わが国への安定供給源の確保とともに、国際市場全体としての供給余力の確保、供給源の多様化にも資するものである。
公的支援を伴うものについては、事業の将来性を的確に見極め、不断にプロジェクトの現状評価、これに即した適切な資産管理などを行う。また、透明性の確保を図り、広く国民の理解を得る。
鉱区開放の活発化、公的支援の効果的、効率的な実施に対する要請などを踏まえ、量的な確保に止まらず、企業の自立性の向上、自律的な産業の発展を期する。
<図/表>
<関連タイトル>
日本の石油備蓄の現状と課題 (01-03-02-04)
主要国の石油政策 (01-09-03-04)
<参考文献>
(1)通商産業省(編):エネルギー2000(株)電力新報社(1999年10月)、p.106-110
(2)資源エネルギー庁(監修):1999・2000 資源エネルギー年鑑、通産資料調査会(平成11年1月)、p.202-210
(3)通商産業省資源エネルギー石油部(監修):平成10年石油資料附石油供給計画、(株)石油通信社(1998年8月)、p.2-7, p.18-27, p.364-370
(4)(財)日本エネルギー経済研究所エネルギー計量分析センター(編):EDMC/エネルギー・経済統計要覧(2000年版)、(財)省エネルギーセンター (2000年1月)