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<概要>
 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は第1次評価報告書(1990年)、第2次評価報告書(1995年)、第3次評価報告書(2001年)に引き続き、第4次評価報告書の作成が進められている。3年の歳月と、130を超える国の450名を超える代表執筆者、800名を越える執筆協力者、そして2,500名を越える専門家の査読を経て、2007年に順次公開される。第1作業部会第10回会合(平成19年1月29日〜2月1日、於 フランス・パリ)において、第1作業部会報告書(自然科学的根拠)の政策決定者向け要約(SPM)が承認されるとともに、第1作業部会報告書本体が受諾された。地球温暖化の実態と今後の見通しについての、自然科学的根拠に基づく最新の知見が取りまとめられており、今後、地球温暖化対策のための様々な議論に科学的根拠を与える重要な資料となると評価されている。
<更新年月>
2007年06月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.SPM(改策決定者向け要約)の概要
 IPCC第4次評価報告書第1作業部会報告書(自然科学的根拠)の政策決定者向け要約(SPM)の主な結論は以下の通りである。
(1)気候システムに温暖化が起こっていると断定するとともに、人為起源の温室効果ガスの増加が温暖化の原因とほぼ断定している。(第3次評価報告書の「可能性が高い」より踏み込んだ表現)
(2)20世紀後半の北半球の平均気温は、過去1300年間の内で最も高温で、最近12年(1995〜2006年)のうち、1996年を除く11年の世界の地上気温は、1850年以降で最も温暖な12年の中に入る。
(3)過去100年に、世界平均気温が長期的に0.74℃(1906〜2005年)上昇しており、最近50年間の長期傾向は、過去100年のほぼ2倍となっている。
(4)1980年から1999年までに比べ、21世紀末(2090年から2099年)の平均気温上昇は、環境の保全と経済の発展が地球規模で両立する社会においては、約1.8℃(1.1℃〜2.9℃)である。一方、化石エネルギー源を重視しつつ高い経済成長を実現する社会では約4.0℃(2.4℃〜6.4℃)と予測している(第3次評価報告書ではシナリオを区別せず1.4〜5.8℃)。
(5)1980年から1999年までに比べ、21世紀末(2090年から2099年)の平均海面水位上昇は、環境の保全と経済の発展が地球規模で両立する社会においては、18cm〜38cmである。一方、化石エネルギー源を重視しつつ高い経済成長を実現する社会では26cm〜59cmと予測している(第3次評価報告書(9〜88cm)より不確実性減少)。
(6)2030年までは、社会シナリオによらず10年当たり0.2℃の昇温を予測している(新見解)。
(7)熱帯低気圧の強度は強まると予測している。
(8)積雪面積や極域の海氷は縮小する。北極海の晩夏における海氷が、21世紀後半までにほぼ完全に消滅するとの予測もある(新見解)。
(9)大気中の二酸化炭素濃度上昇により、海洋の酸性化が進むと予測している(新見解)。
(10)温暖化により、大気中の二酸化炭素の陸地と海洋への取り込みが減少するため、人為起源排出の大気中への残留分は増加する傾向にある(新見解)。
2.温室効果ガス等の変化
 現在の二酸化炭素およびメタンの大気中濃度は過去65万年間の自然変動の範囲をはるかに超えている(図1)。二酸化炭素濃度は工業化以前の約280ppmから2005年には379ppmに増加し、メタン濃度は、工業化以前の約715ppbから、2005年には1774ppbに増加(メタン濃度の増加率は1993年以降低下)している。
 温室効果ガスの増加は、化石燃料の使用、農業および土地利用の変化といった人間活動による排出が主要因と考えられ、1750年以降の人間活動(温室効果ガス、エーロゾル、対流圏オゾン、ハロカーボン類、アルベドの変化等)が温暖化をもたらしたことには高い信頼性があると考えられる(太陽放射の変動がもたらす効果よりはるかに大きい)。
 二酸化炭素による放射強制力(地球温暖化を引き起こす効果)は、1995から2005年にかけて20%増加しており、これは、少なくとも過去200年間のあらゆる10年間における最大の変化となっている。
3.気候システムの変化の実態
 気候システムに温暖化が起こっていると断定できる(気候システムの温暖化には疑う余地がない。このことは、大気や海洋の世界平均温度の上昇、雪氷の広範囲な融解、世界平均海面水位上昇が観測されていることから今や明白である)。
 20世紀後半の北半球の平均気温は、過去1300年間の内で最も高温であった可能性が高い。最近12年(1995〜2006年)のうち、1996年を除く11年の世界の地上気温は、1850年以降で最も温暖な12年の中に入る。1850年から1899年の期間に比べて、2001〜2005年の世界平均気温は0.76[0.57〜0.95]℃上昇している(図2(a)参照)。最近50年間(100年当たり1.3[1.0〜1.6]℃)の長期傾向は、過去100年(100年当たり0.74[0.56−0.92]℃)のほぼ2倍となっている(第3次評価報告書(1901〜2000年)における変化傾向は100年当たり0.6[0.4〜0.8]℃)。
 海洋の平均水温は上昇し、気候システムに加えられた熱の80%以上を海洋が吸収し、海面水位上昇をもたらした。南北両半球において、山岳氷河と雪氷域は平均すると後退し、グリーンランド氷床と南極氷床の一部の流出速度が増加している。グリーンランド氷床と南極氷床の融解が1993年から2003年にかけての海面水位上昇に寄与(この効果は海面水位予測に反映)している。20世紀を通じた海面水位上昇量は0.17[0.12〜0.22]m(第3次評価報告書では、20世紀中の地球の平均海面水位上昇量は0.1〜0.2m)(図2(b)参照)となっている。世界平均海面水位は1961年から2003年にかけて、年あたり1.8[1.3〜2.3]mmの割合で上昇しており、1993年から2003年の上昇率はさらに大きく年あたり3.1[2.4〜3.8]mmで、気候が及ぼした寄与の合計と不確実性の範囲で一致している。1961年以降における、世界平均海面水位の年当たり1.8[1.3〜2.3]mmの上昇のうち年当たり0.42[0.30〜0.54]mmが海水の膨張によると見積もられる。
 北極の平均気温は、過去100年間で世界平均の上昇率のほとんど2倍の速さで上昇したほか、海氷や積雪面積が減少(図2(c)参照)している。1900年から2005年にかけて、アジア北部と中部等の地域では降水量がかなり増加した一方、サヘル地域等は乾燥化している。1970年代以降特に熱帯地域や亜熱帯地域で、干ばつの地域が拡大し、激しさと期間が増した。寒い日、寒い夜および霜が降りる日の発生頻度は減少し、一方、暑い日、暑い夜および熱波の発生頻度は増加、大雨の頻度は増加、熱帯低気圧の発生数にははっきりした傾向はないが、北大西洋の強い熱帯低気圧の強度に増加傾向が見られる。南極の海氷面積には変化傾向はなく、竜巻等の小規模現象の変化傾向は不明である。
4.気候変化の原因特定
 20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇のほとんどが、人為起源の温室効果ガスの増加によってもたらされた可能性がかなり高い(第3次評価報告書では「過去50年間に観測された温暖化の大部分は、温室効果ガス濃度の増加によるものであった可能性が高い」)。特に、地上および自由大気の気温、海洋の上部数百メートルの水温、および海面水位上昇に、気候システムの温暖化が検出されるとともに、人為起源の強制力の寄与をその要因として特定している。過去50年にわたって、南極大陸を除く各大陸において、大陸平均すると、顕著な人為起源の温暖化が起こった可能性が高い(図3参照)。人間活動の影響が、海洋の昇温、大陸規模の平均気温、極端な気温現象などにも及んでいる。
5.地球規模の将来予測
「排出シナリオに関する特別報告(SRES:Special Report on Emission Scenarios,IPCC 2000)」に規定する各シナリオに基づく、2100年までの平均気温と海面水位上昇予測(氷の流れの力学的変化の影響を含まない)を改定する(図4参照)。どのシナリオでも、今後20年間に、10年当たり約0.2℃の割合で気温が上昇し、気温予測の不確実性の上限は、採用したモデルの数が増えたことと、多くのモデルが、炭素循環のフィードバックなど複雑な過程を取り入れたことにより、第3次評価報告書における予測幅より拡大している。海面水位上昇予測の予測幅は、不確実性に関する情報が改善したため縮小した。
 温暖化により、大気中の二酸化炭素の陸地と海洋への取り込みが減少するため、人為起源排出の大気中への残留分が増加する傾向がある(地球温暖化の進行をさらに早める効果)。21世紀の温暖化予測の地理的分布は、ほとんどシナリオには依存せず、過去数十年に観測された分布と類似している。昇温は、陸域と北半球高緯度で最大、南極海と北大西洋の一部で最小となる。降水量は、高緯度地域では増加する一方、ほとんどの亜熱帯陸域においては減少する。積雪面積や極域の海氷は縮小し、北極海の晩夏における海氷が、21世紀後半までにほぼ完全に消滅するとの予測もある。ほとんどの陸域における極端な高温や熱波、ほとんどの地域における大雨の頻度は引き続き増加する。熱帯の海面水温の上昇に伴い、熱帯低気圧の強度は強まり、最大風速や降水強度は増加する。大気中の二酸化炭素濃度の増加に伴い、海洋の酸性化が進行する。大西洋の深層循環は、21世紀中に弱まるが、大西洋の深層循環が21世紀中に、大規模かつ急激に変化する可能性はかなり低い。放射強制力を2100年時点で安定化しても、主に次世紀中、約0.5℃のさらなる昇温が予測される。また、その後数世紀にわたって海面水位上昇は継続する。グリーンランドの氷床の縮小が続き、2100年以降の海面水位上昇の要因となる一方、南極の氷床の質量は増加する。人為起源の二酸化炭素により、千年以上にわたって温暖化や海面水位の上昇が続く。
6.今後の予定
 IPCC第4次評価報告書は、第1〜第3の各作業部会報告書および統合報告書から構成され、各作業部会の報告書は、各作業部会総会において審議・承認・公開され、2007年5月のIPCC第26回総会において採択される。また、各作業部会報告書の分野横断的課題についてまとめた「統合報告書」が2007年11月のIPCC第27回総会において承認・公開される予定である。IPCCの組織を図5に示す。
<図/表>
図1 過去1万年および1750年以来の二酸化炭素、メタンおよび一酸化二窒素の大気中濃度の変化
図1  過去1万年および1750年以来の二酸化炭素、メタンおよび一酸化二窒素の大気中濃度の変化
図2 世界平均地上気温、潮位計と衛星データによる世界平均海面水位の上昇、3月〜4月における北半球の積雪面積それぞれの観測値の変化
図2  世界平均地上気温、潮位計と衛星データによる世界平均海面水位の上昇、3月〜4月における北半球の積雪面積それぞれの観測値の変化
図3 1906〜2005年の世界規模および大陸規模の10年平均地上気温の変化(1901〜1950年の平均値が基準)とモデルシミュレーションの比較
図3  1906〜2005年の世界規模および大陸規模の10年平均地上気温の変化(1901〜1950年の平均値が基準)とモデルシミュレーションの比較
図4 SRESシナリオによる21世紀末(2090〜2099年)における世界平均気温および世界海面水位予測
図4  SRESシナリオによる21世紀末(2090〜2099年)における世界平均気温および世界海面水位予測
図5 IPCCの組織
図5  IPCCの組織

<関連タイトル>
気候変動に関する政府間パネル(IPCC) (01-08-05-07)
IPCC第三次評価報告書(2001年) (01-08-05-08)
京都議定書目標達成計画 (01-08-05-17)

<参考文献>
(1)文部科学省、経済産業省、気象庁、環境省:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書第1作業部会報告書(自然科学的根拠)の公表について(報道発表、2007年2月2日)、http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=9125&hou_id=7993
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