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<概要>
 経済成長、エネルギー需給、環境保全は、それぞれ相互に密接な関連があり、それぞれが安定的に発展することが重要である。韓国、中国を中心とした北東アジアは今後、着実な経済成長、エネルギー消費の拡大が見込まれ、環境に対する問題意識が高まっている。
 環境対策とこの三者(経済成長、エネルギー需給、環境保全)を安定的に発展させることは、各国独自の重要な課題であり、また越境性を有する大気汚染問題や地球温暖化の問題は、各国が協力してこれらの課題を解決していく必要がある。
 韓国は経済の成熟度も安定しており、エネルギー消費構造の成熟度(GDP当たりのエネルギー消費量など)、環境汚染状況や環境技術において、北東アジア内の成熟国である日本と発展途上中の中国との中間に位置し、韓国の環境政策は重要なポイントとなる。
<更新年月>
2005年10月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.韓国の経済とエネルギー動向
 韓国は過去40年間の目覚しい高度成長を遂げている(図1参照)。とりわけ1980年代以降の経済成長は20年間のGDPで4倍以上となった。安定した成長の途には、1997年のアジア全体を襲った金融危機で国際通貨基金(IMF)の支援体制に入ったが、韓国経済はそれを一時的な影響として終結させた。その後は好調な経済成長が見込まれ、今後の10年間も年率5%以上の成長が予想される。
 韓国経済は、他の先進国の発展過程と同様、重工業や石油化学工業などを中心としたエネルギー集約型産業への依存を経て、機械、半導体そして情報通信などエネルギー寡消費型産業を中心とする産業構造へ移行している。経済成長に応じたエネルギー需要が2000年から2010年に年率3.2%で増加する一方、エネルギー効率の向上が着実に図られ、GDP当りのエネルギー集約度は1.8%の低下が見込まれている。さらに、原子力、天然ガスの一次エネルギー需要に占めるシェアを伸長させ、金融危機以前の1997年には60.4%を占めた石油のシェアを、2020年には44.8%まで低下させることを目標としている。即ち、輸入体質、石油依存体質から脱却するエネルギー安全保障への取組みが図られている(表1参照)。
 また、韓国は「気候変動に関する国際連合枠組み条約」および「京都議定書」を2002年に批准している。韓国は発展途上国として、2008〜2012年の温室効果ガス(GHGs)排出量削減目標を課されていないが、開発要件に反しない範囲で環境方策を採ることが義務付けられる。また、次期以降、GHGs排出量削減目標が設定されることが予想される。韓国のGHGs排出量は、1990年の約8000万t−Cから2000年には1億3000万t−Cと年率5%で増加した。現在、温室効果ガス排出量「世界9位」、石油輸入「世界4位」、石油消費「世界7位」、所得対比1人あたりエネルギー使用量「世界1位」。1996年にはOECDに加盟している。
 韓国の国土面積は日本の約4分の1の99,274km2、人口は約4,835万人(2005/10現在)。2004年の国内総生産(GDP)は6,801億ドル、一人当たりGDP14,162ドル、経済成長率4.6%、物価上昇率3.6%、失業率3.5%である。
2.韓国の環境汚染
2.1 経済開発計画の推進と環境汚染
 1950年末までの韓国経済は発展途上国経済に留まり、山林破壊と土壌浸食が課題であった。
 1960年代には工業化戦略を軸として経済開発計画がスタート。1970年代には鉄鋼、機械、石油化学工業をはじめとする重化学工業の育成政策を本格的に推進したため、大気および水質汚染が深刻な社会問題化した。また、首都圏と東南圏一部地域に人口と工場の集中をもたらし、首都圏の人口集中は住宅、環境、交通、治安など様々な分野に広がった。
 1980年代以降の自動車普及の加速、消費規模の増大、生活様式の変化などの消費型生活、さらに急速な工業化の過程で発生した工業立地計画、都市計画、交通計画などの開発は、環境汚染を悪化させた。1980年代以降、環境部門に投資が始まり、国民と企業に環境保全の必要性を強く認識させている。1990年代には、所得水準の上昇で住宅、上下水道、余暇施設の普及、環境部門に対する投資も拡大した。上水道普及率は1981年の57%から1993年には80%に増大した。現在では、持続的な環境投資を拡張し、1990年代から始まった環境に優しい生産活動および消費体系の構築のため、経済的規制手段が数多く導入されている。表2に韓国における大気と水質に係る環境基準を示す。
2.2 大気汚染
 韓国の人口密度は485人/km2で、OECD加盟国のうち最も人口が過密(日本336人)である。単位面積あたり汚染物質の排出量も、他のOECD加盟国に比べ2〜10倍多い。エネルギーの消費量は、1970年の1,970万TOEから2000年19,290万TOEへ、過去30年間で10倍に増加した(表1参照)。1人当たり消費量は4.27TOEに達し、韓国よりも国民所得が高い先進国と同じレベル(日本4.06TOE、フランス4.34TOE)となっている。
 エネルギー源は重油など汚染物質排出量が多い低級燃料を低価格で供給し、ガソリン、軽油、LPGなどの自動車燃料が高価格で推移するため、低級燃料の使用が拡大して、大気汚染増加の結果を招いた。
 また、肺がんを誘発する微細ごみ(PM-10)とオゾンを発生させる二酸化窒素の汚染度を削減させるため、クリーンエネルギーの使用拡大や排出許容基準強化などを行っている。
 大気汚染物質排出量は輸送部門が全体の約半分占め、自動車の普及が大気汚染を深刻化させている。自動車台数は1970年の13万台から1980年53万台、1990年340万台、2000年1,205万台に、過去30年間で約93倍の増加となった。大気汚染物質の種類は、一酸化炭素が90.5%,炭化水素が86.5%,窒素酸化物が42.9%,粒子状物質が17.4%,硫酸化物が0.7%で、一酸化炭素、亜硫酸ガス汚染濃度が高い開発途上国型から、先進国型(PM-10、GHGs排出量が高い)に急速に変わりつつある。
 特に首都圏では、PM-10とGHGs排出量はOECD加盟国の中で最下位である。政府は今後10年間(2003〜2012年)に、PM-10を東京(65→40μg/m3)、二酸化窒素はパリ(35→22ppb)レベルに改善することを特別対策に盛り込んだ。このため大気環境管理基本計画を樹立し、予防的大気環境管理のため、10年間で総額6兆ウォンを投入する予定である。
 韓国主要都市における大気汚染の推移を表3で示す。1990年の大気環境保全法制定以降、監視体制が強化され大気環境は改善された。しかし、首都ソウルでは工場などから排出されるSOx濃度は減少したが、自動車の台数が増加しているため、NOx濃度はほぼ横ばいで推移している(図2参照)。
2.3 水質汚染
 韓国の年平均の降水量は1,274mmで世界平均の970mmよりは多いが、降水量の55%が6〜9月に集中している。河川の長さは短く傾斜が急で、水量が不安定、河川の自浄作用を期待することは難しい。1997年から水質は徐々に回復しており、全国194か所のサンプリングでは水質環境基準達成率が1991年には12.8%であったが、1999年では29.9%に上昇した。
 韓国政府はソウルの上水源となるハンガン(漢江)の水質改善の為、「ハン江水系上水源水質管理特別総合対策」を1998年に発表した。この特別対策は、従来の個別排出源対策(水質環境保全法)に変わり、「流域管理制度」の導入を主としている。水辺区域制度の導入、汚染総量管理制度、水利用負担金制度、水系管理委員会の設立が特徴である。上流地域の工場立地利用などが限定され、上流地域水質目標として汚染負荷総量が定められた。現在ではナットンガン(洛東江)、クムガン(錦江)、ヨンサンガン(榮山江)を含めた韓国4大江に及んでいる。
2.4 土壌汚染の処理対策
 土壌汚染物質は主に重金属が指定され、土壌の汚染状況調査を制度化されている(表4参照)。
2.5 過去の大気汚染とその対策例
 1980年代前半、ソウルの亜硫酸ガス汚染はかなり深刻で、1980年の平均が0.094ppm、年平均環境基準の0.05ppmのほぼ2倍にあたる水準にまで達した。
 発生原因は練炭とバンカー重油であったため、環境庁では環境保全法に基づき燃料用油類の硫黄含有基準を告示し、1981年よりソウル地域の年間油類使用量が100キロリットル以上の事業所に対して、低硫黄の使用を義務づけた。1985年3月からソウル特別市、5直轄市および首都圏8市・郡で石炭などの固体燃料の使用を禁止した。
3.韓国の環境行政体制
 韓国の環境政策は、経済開発最優先の中、1963年に公害防止法が、1969年に施行規則が制定され、1971年に公害防止法が大幅改定された。韓国では1960年代後半からウルサン(蔚山)の大気汚染、1966年の釜山甘川火発煤煙紛争、オンサン(温山)の重金属汚染などの公害問題が社会問題化していた。1977年に環境保全法が制定、1980年に初めて環境権が認知された。環境組織(Environment Administration)が設置され、環境監視(モニタリング)を行う6か所の地域環境監視事務所および廃棄物等の処理を行う公社が設置された。1990年、環境保全法は環境政策基本法・大気環境保全法・水質環境保全法・騒音振動規制法・有害化学物質管理法・環境紛争調停法など6つの法に分法化され、1991年には環境汚染犯罪の処罰に関する特別措置法が制定された。環境組織は環境部(Ministry of Environment)に、地域環境監視事務所は地域環境管理事務所として強化された。
 1994年の政府組織改革で、環境部は権限、機能、人員を増強した。2002年の韓国の環境部は、約1,340人、約1.38兆ウォン(FY2002:US$1.3billion)の予算と特別会計を有している。環境部は、主に企画管理室、環境政策局、自然保護局、大質管理局、水質管理局、上下水道局、廃棄物・リサイクル局で構成される。また、韓国商工業エネルギー部が、温暖化対策、省エネルギーや新エネルギーの推進、エネルギー市場の自由化、環境にやさしい産業構造の推進などに取組んでいる。また、環境法に基づいた、廃棄物処理やリサイクルを行う韓国再生資源利用公社、大気や水のモニタリング、施設管理・環境技術の検証を行う環境管理公社、人材育成や広報を担う韓国環境保護協会などがある。環境問題とその対策が多様化するにつれ、環境行政は省庁間の連携や民間の参画が重要になってきている。
 韓国は大統領制を敷き、国家戦略の策定・執行にあたっては、大統領直轄の諮問委員会が設置される。地球環境問題については、PCSD(Presidential Council for Sustainable Development:持続可能な開発のための大統領諮問委員会)が設けられている。なお、韓国の自治体の環境行政は、上下水道、都市緑化、廃棄物処理等が中心で、モニタリングや情報センター的機能は公社等が担っている。
 韓国の環境政策の基礎は、1990年に制定された環境基本政策法で、環境維持の原則は汚染者負担であり、環境基準や計画の設置が義務付けられている。長期計画として策定されたグリーンビジョン21(1995年〜2005年)では、環境改善のための規制強化や経済的手法の導入、化学物質管理や環境産業・環境技術の振興方策、地球環境対策における主導的役割、ビジョン達成のための予算・財源などが示されている。また、大気汚染濃度の削減やリサイクル率などの数値目標、事業の展開内容を示す中期計画と、課徴金を財源とした中期総合計画が5年毎に発表される。
 2003年の経済政策指針では、環境政策は規制的手法から徐々に経済的、自主的規制へ移行すること、環境技術を高付加価値型産業技術と位置付けて重点的に推進すること、韓国関連省庁間の連携、総合的な環境技術開発計画の策定が盛り込まれている。
<図/表>
表1 韓国の一次エネルギーの需給とその構成
表1  韓国の一次エネルギーの需給とその構成
表2 韓国における大気と水質に係る環境基準
表2  韓国における大気と水質に係る環境基準
表3 韓国主要都市における大気汚染の推移
表3  韓国主要都市における大気汚染の推移
表4 韓国における土壌汚染の現状
表4  韓国における土壌汚染の現状
図1 韓国におけるGDP成長率と1人当りのGDPの推移
図1  韓国におけるGDP成長率と1人当りのGDPの推移
図2 ソウルにおけるSO
図2  ソウルにおけるSO

<関連タイトル>
地球サミット(UNCED) (01-08-04-08)
主要国のエネルギー政策目標 (01-09-01-01)
韓国の電力事情 (14-02-01-02)

<参考文献>
(1)韓国環境省MOE:Ministry of Environment Republic of Korea
(2)OECD Environmental Data Compendium 1999
(3)外務省:各国・地域情勢 アジア、大韓民国、http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/korea/index.html
(4)韓国統計庁統計情報システム(KNSO):Energy,Environment,  および 
(5)日本貿易振興機構(JETRO):百本和弘、アジア経済5(韓国・北朝鮮)説明資料(2003年12月)、http://www.human.mie-u.ac.jp/?goodaki/jetro/jetro20031202.pdf
(6)韓国環境省(MOE):)
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