<本文>
1.ベロヤルスク原子力発電所1号炉
1958年6月にウラル地方で実用規模の原子力発電所の建設が開始された。発電所の名前はベロヤルスク、1号炉(108MWe、発電端)は1964年4月26日にスベルドロフスク電力系統へ送電を開始した。
この1号炉はオブニンスク原子炉の改良型で、炉心で核過熱を行う熱特性の高いチャンネル炉である。
中性子の減速は
黒鉛で、
冷却材には軽水を用いている。燃料は濃縮度が1.5〜6.5%の
ウランが装荷されている。原子炉の燃料チャンネル998本のうち、蒸気発生用のチャンネルは730本、蒸気加熱用チャンネルは268本である。
ベロヤルスク原子力発電所の建設に先だってオブニンスク原子炉ではベロヤルスク炉の設計と建設に必要な数多くの実験が行われた。原子炉で使用する黒鉛パイルの
X線 写真調査により、中性子照射による黒鉛の体積変化が長時間でも0.15%を超えないこと、800℃以下の窒素中で黒鉛を
減速材として長期間にわたり使用できることが分かった。また、ベロヤルスク原子炉で使用する
燃料要素を試験するため、オブニンスク原子炉に二重回路式の試験ループがつくられた。燃料要素の広範囲にわたる試験により、燃料要素の安定性、燃料要素及び支持パイプと燃料要素との両立性、燃料要素の原子炉雰囲気中及び冷却材との接触による腐食速度、原子炉の照射条件下での被覆の機械的性質の変化などを決定できるようになった。このようにして、オブニンスクでの経験が他の原子力発電所を建設するための基盤となったのである。
なお、この1号炉は1983年に閉鎖された。
図1 に1号炉の炉心垂直断面図を、
図2 に1号炉の炉心平面図を示した。
2.ベロヤルスク原子力発電所2号炉
ベロヤルスク2号炉(194MWe、発電端)は、1962年に
着工し、1967年10月10日に臨界となった。これはソ連建国50周年に先立つ10月革命記念行事の一環であった。2号炉は1号炉より改良され、構造的に簡単になった。主な特徴は、1号炉と同様に核過熱であるため、条件の良い蒸気(90気圧、510-520℃)をタービンに送ることができるので、在来火力発電所のタービンを利用できた。しかし、このような仕組みは技術的に複雑でトラブルも発生しやすく、必ずしも経済的でないとの理由で、黒鉛チャンネル型炉の大型化にあたっては採用されなかった。なお、発生した電力はスベルドロフスク電力系統によりウラル工業地帯に供給された。
ベロヤルスク原子力発電所は、ウラル地方の工業都市スベルドロフスクの東約50kmにあるベロヤルスク人工湖の東岸に位置している。
なお、この2号炉は1990年1月1日に閉鎖された。
3.チャンネル型黒鉛減速沸騰軽水冷却炉の特徴
オブニンスク原子炉で実施した各種の実験、シベリア原子力発電所(旧秘密都市トムスク−7、現在、シベリア科学コンビナート)6基、及びベロヤルスク1、2号炉の運転経験から、ソ連はこの型の原子炉の特性を次のように結論づけている。
(1) チャンネル別の監視と制御が可能であるため、プロセスチャンネルのトラブルが系全体に拡大しないうちに、チャンネルを分離して修理することができる。系の一部を分離して修理する方法及び原子炉内の黒鉛パイルを取り替える方法が開発され、これに習熟した。
これによりプロセスチャンネルのような比較的弱い部分を定期検査時あるいは原子炉の運転中にでも取り替えることができる。したがって、この型の原子炉は数10年間も順調に運転を継続することが可能である。
(2) この型の原子炉は、大型の鋼製容器なしで蒸気発生装置を装置できる。すなわち、輸送上の制限がないので、どのような場所にでも原子力発電所を建設できるようになる。
(3) 燃料の取替が運転中にできるので、蒸気の核過熱にとって将来性がある。
(4) この原子炉の主な欠点は1次冷却水回路が細かく分かれており、比較的かさばることであるが、この回路を簡素化し短縮するような設計上の措置が講じられることになった。
しかし安全性の面からは、西欧型の
格納容器の設置は必須で、RBMK型原子炉はこれを設置しておらず、チェルノブイリの惨事を招いた。事故以来、ソ連ではRBMK型原子炉の建設は中止となり、運転中のものに各種の安全装置を追加するなど問題となっている。
<図/表>
<関連タイトル>
黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉(RBMK) (02-01-01-04)
世界最初の原子力発電所オブニンスク(1954年5月に臨界)の建設 (16-03-02-02)
旧ソ連のRBMK型原子炉開発の歴史 (16-03-02-04)
<参考文献>
1. ソ連の原子力開発のすべて、A.M.ペトロシャンツ、伊藤弘、篠原慶邦訳、1981年、日本原子力産業会議
2. Atomic Science and Technology in USSR,I.D. Morokhov et al, 1977
3. Directory of Nuclear Reactors Vol.IV,IAEA. 1962
4. The Institute of Physics and Power Engineering