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<概要>
 ソ連では、1950年代から原子力の平和利用が始まった。モスクワの南西約100kmにあるオブニンスクで、世界最初の動力炉オブニンスクが1954年5月に臨界を達成し同年6月27日(日曜)に運転を開始した。
<更新年月>
1998年07月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 ソ連では、1950年代から原子力の平和利用が始まった。1951年にオブニンスク(モスクワの南西約100km)にあったフィジックス・パワー・エンジニアリング研究所が、ソ連最初の動力炉建設の責任を持つことになった。1951年9月に原子炉設置場所の掘削を開始し、1954年5月に臨界を達成し、同年6月27日(日曜日)に世界最初の原子力発電所が運転を開始した。ソ連は3年足らずの間に最も複雑に絡み合った設計、建設及び運転の科学的及びエンジニアリング問題を解決し、原子力が人類に貢献できる可能性を証明した。
 ソ連の新聞「プラウダ(真実)」は、1954年7月1日(木曜日)付けの新聞( 図1 )で、大々的に次のように報じている。「4日前に世界最初の原子力発電所が運転を開始し、隣接の産業、農業に電力の供給を開始した。これは産業用タービンが石炭や他の燃料でなく原子エネルギーにより電力を発生した最初のものである」。この原子力発電所(APS1: Atomic Power Station 1)の電気出力は5,000kWである。
 1955年9月にジュネーブで開催した第1回原子力平和国際会議(通称:第1回ジュネーブ会議)で、オブニンスク原子力発電所について61頁にわたる詳細な報告書が提出された。この中に多数の写真や設計図、また運転についてのメモもついていた。 図2 にオブニンスク原子力発電所の所在地を示す。
 この原子炉は黒鉛減速・水冷却で、冷却水は原子炉容器の内部にある燃料バンドルの外側を通っている。燃料は5%濃縮ウランを使用している。このオブニンスク黒鉛原子炉はRBMKの先駆者で、1964年にベロヤルスク1号炉(100MWe)、1969年に2号炉(200MWe)が運転を開始した。これらはいずれもチャンネル型ウラン・黒鉛原子炉である。これに続いてRBMK-1000型原子炉であるレニングラード、チェルノブイル、スモレンスク原子力発電所、RBMK-1500型原子炉のイグナリーナ原子力発電所が建設された。

  オブニンスク原子炉の炉心の概要を次に示す。
   電気出力:5,000kW
   原子炉熱出力:30,000kW
   炉心高さ:180cm
       直径:150cm
   燃料集合体:128本
   制御棒と安全棒:22本
   燃料:各燃料集合体は4本の中空燃料棒で構成
      燃料被覆管はステンレス鋼を使用し、中空燃料は熱伝導度の良いマグネシウム・マトリックス中に分散したウランモリブデン合金を使用
   ウランの濃縮度:5〜7%
   減速材:黒鉛(グラファイト)を使用、断面は六角形
   冷却系:一次系 100気圧で加圧した強制冷却を採用
        二次系 蒸気発生器
   タービン:蒸気圧力 12気圧(タービン入口)  温度 260℃

  図3 は世界最初の原子力発電所オブニンスク(Ref.4)である。図4 はオブニンスク原子炉の垂直断面図(Ref.5)、 図5 は燃料集合体と炉心水平断面図(Ref.5)、 図6 は原子力発電所の主要系統図(Ref.5)を示す。

 オブニンスク原子力発電所は、燃料要素の試験及び原子力エンジニアリングにおける新しい科学的・工学的な面での研究を実施している。ソ連の科学者達は、原子炉内に設けた特殊実験孔を用いて、他の原子炉を設計する場合に使用する沸騰条件、核過熱、自然循環を研究した。旧ソ連邦や東欧諸国の原子力発電所で勤務している多くの科学者がここで訓練された。
 オブニンスク原子力発電所でのこれら長期間にわたるサービスを通じて、職員及び発電所周辺に住んでいる人達への安全が確認できた。またこの発電所の建設及びサービスで蓄積した経験は、大型の新規原子力発電所の設計に役立った。
 フィジックス・パワー・エンジニアリング研究所の職員は、ウラル地方に建設したベロヤルスク原子力発電所及びチュトコ地方に建設したビリビノ原子力発電所(熱併給)において科学面での監督を行い、また中性子計装及び試運転で直接に参加した。
<図/表>
図1 世界最初の原子力発電所オブニンスクの運転開始を報じた1954年7月1日(木曜)付けのプラウダ紙
図1  世界最初の原子力発電所オブニンスクの運転開始を報じた1954年7月1日(木曜)付けのプラウダ紙
図2 オブニンスク原子力発電所地図
図2  オブニンスク原子力発電所地図
図3 世界最初の動力用原子力発電所オブニンスク
図3  世界最初の動力用原子力発電所オブニンスク
図4 オブニンスク原子炉垂直断面図
図4  オブニンスク原子炉垂直断面図
図5 オブニンスク原子炉の燃料集合体と炉心水平断面図
図5  オブニンスク原子炉の燃料集合体と炉心水平断面図
図6 オブニンスク原子力発電所の主要系統図
図6  オブニンスク原子力発電所の主要系統図

<関連タイトル>
RBMK型原子炉の原型炉ベロヤルスク1、2号炉の建設 (16-03-02-03)
旧ソ連のRBMK型原子炉開発の歴史 (16-03-02-04)

<参考文献>
1. ソ連の原子力開発のすべて、A.M.ペトロシャンツ、伊藤弘、篠原慶邦訳、1981年、原子力産業会議
2. A Guide of Nuclear Power Technology,F. J. Rahn et al
3. Atomic Science and Technology in USSR,I.D. Morokhov et al,1977
4. Directory of Nuclear Reactors Vol.IV,IAEA. 1962
5. 詳細原子力プラントデータブック 1985,藤井晴雄、日本原子力情報センター発刊
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