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1.ブラジルのエネルギー・電力需給
ブラジルは、国内産業・経済の急速な成長に合わせて1960年代から急ピッチで電源開発を進めてきており、豊かな水力資源を活用して電力需要の増加に対処することができた。水力発電所は、産業活動が特に集中している電力需要地の同国南東部を中心に建設された。
1980年代に入ると経済成長は頭打ちとなり、新規の電源開発の中断を余儀なくされた。しかし、1995年以降は経済再建政策などが功を奏して産業活動が再び活発化したため、需要増加に対応して年率5%増の電力供給が必要とされる状況となり、それまでになく電力需給が逼迫した。
ブラジルは国内に豊富な水力資源を有するため、依然として水力発電が基幹電源となっているが、南東部の水力資源は実質的にほぼ開発し尽されている。残る水力資源の約50%は消費地から離れた同国北部のアマゾン地域に存在している。そこで、主にピークロード用の電源として火力発電所が建設されてきた。
表1にブラジルにおける主要電力会社の概要を示す。
ブラジルの2013年時点の電源別発電設備は、水力8,601万8,000kW(67.9%)、火力3,652万8,000kW(28.8%)、原子力199万kW(1.6%)、風力220万7,000kW(1.7%)で、合計1億2,674万3,000kWである(2012年までの推移については
表2参照)。また、2013年時点の電源別発電電力量は、水力3,909億9,200万kWh(68.6%)、火力(バイオマス含む)1,455億8,700万kWh(25.5%)、原子力146億4,000万kWh(2.6%)、風力65億7,900万kWh(1.2%)、その他122億4,100万kWh(2.1%)、合計5,700億2,500万kWhである(2012年までの推移については
表3参照)。
ブラジルは水力資源に非常に恵まれ、発電電力量の約69%を水力に頼っている。また、1990年代にリオデジャネイロ沖で、次々と海底油田(カンポス油田など)が発見されたことから、2013年の原油の生産量は日量211万バレルとなっている。天然ガスも1990年代から生産量が徐々に増加し、2013年の生産量は213億m
3となった。加えて、サトウキビを原料としたエタノール生産の寄与などもあり、ブラジルの一次エネルギー自給率は9割を超えている(
図1参照)。
ブラジル国内では石油・天然ガスの生産が拡大しているものの、電力供給は水力に依存しており、将来に向けて電源の多様化が課題となっている。原子力発電は電源の多様化に役立つとともに、水力に比べて電力需要地に近接して立地できる長所があり、大きな期待が寄せられている。また、ブラジルにはこれまでに蓄積された原子力技術や豊富なウラン資源があり、それらを有効に活用できるのも強みである。さらに、原子力発電によってCO
2排出量を低減することも期待されている。
ブラジルの2013年時点の総発電設備容量は1億2,674万kW、世界でも10位に入る規模を持つ。ただし、国民の階層間での格差や地域間で経済発展の進展が大きく異なるため、国民1人あたりの電力消費量(2012年)は約2,434kWhと中国(約3,308kWh)を下回るなど、先進国とは開きがある。国内の電化率は98%に達するが、農村部では未電化地域もある。ブラジルの電源開発計画は、今後も増加が見込まれる電力需要への対応、電源構成の多様化、未電化地域の解消に主眼が置かれている。
2.アングラ原子力発電所
ブラジルのアングラ原子力発電所は、リオデジャネイロ市から西約150kmの海岸沿いのアングラ・ドス・レイスに立地している。
表4にアングラ原子力発電所の概要を、
図2にアングラ(ANGRA)原子力発電所の外観図を示す。
アングラ1号機は、1971年にWH社が
ターンキー契約で建設を開始し、1982年3月に初臨界を達成した。しかし、多くの技術的トラブルに見舞われ、営業運転開始は1985年1月にずれ込んだ。運転開始後も、緊急時計画をめぐる裁判や財政難、さらに主要機器のトラブルなどから、1986年1月から1987年4月まで約15カ月にわたって運転を停止した。また、1989年10月からの燃料交換停止時に、地元の緑の党が運転再開の禁止を求める訴訟を起こし、上級裁判所の判決で運転再開になった経緯もある(1990年1月)。その後、1号機は補修、改修工事を行い、1995年以降の運転実績は概ね好調で、2014年の同機の
設備利用率は88.2%であった(
表5参照)。
アングラ2号機及び3号機は、1975年から現在に至る旧西独と締結した原子力協定に基づき、シーメンス(KWU)社製モデルが採用されている。アングラ2号機(PWR、135万kW)は1982年にドイツで運転開始したグラーフェンラインフェルト原子力発電所(PWR、134万5,000kW)をモデルとし、1989年に運転開始のネッカー2号機(PWR、136万5,000kW)の仕様も採り入れられた。設計はドイツのシーメンス社が、建設工事はドイツとブラジルの企業が共同で実施しており、所有・運転するのはブラジルの国営電力会社であるエレトロニュークリア(ELETRONUCLEAR - Eletrobras Termonuclear S.A.)社である。ブラジルの原子力許認可当局である原子力委員会(CNEN)は、ドイツ原子炉安全協会(GRS)及びドイツ人検査官と密接に協力をしつつ、同機の安全性に関わる機器の品質管理手続に携わった。
アングラ2号機は1976年5月に
着工、1985年の営業運転開始を目標としていたが、1980年代半ばに経済不況があり、それに伴う電力需要の落ち込みから、工事作業は最小限に制約された。しかしながら、1995年にリオデジャネイロ及びサンパウロ地区の電力需要が急速に増加したのを契機に、政府は同機の建設計画の続行を最優先することを決定した。同機の建設工事は1996年に再開され、1998年に完了した。その後、2000年3月に燃料装荷を開始し、7月に初臨界達成、2001年2月に営業運転を開始した。2号機の運転実績も概ね順調であり、2014年の設備利用率は87.4%であった(
表5、
図3参照)。
アングラ1、2号機は、国内の総発電設備容量(2013年)の約1.6%を占め、その発電電力量146億6,000kWhはブラジル国内の2.6%、リオデジャネイロ州(GDPがブラジル第2位の州)の発電量の約27%にあたる。
3.アングラ原子力発電所3号機
ブラジル政府は、1970年代のエネルギー危機を回避するため、アングラ3号機(PWR、130万9,000kW)の建設を予定していたが、その後の経済不況から2号機と同様、1980年代半ばに作業を中断した。3号機の設計もシーメンス社が行った。1980年代の作業中断までにエンジニアリング作業の大半は終了し、機器の約75%が輸入され、倉庫に保管される状態が続いた。
2001年5月、アングラ2号機の営業運転開始を待って、政府は電力会社であるエレトロニュークリア社に対して、アングラ3号機の工事再開を承認することを決定した。建設再開にあたり、(1)財務省への健全な資金計画の提示、(2)環境省が規定する環境許可基準への適合、(3)原子力委員会(CNEN)からの
放射性廃棄物管理の承認などの条件がエレトロニュークリア社に提示された。2007年6月にエネルギー政策諮問委員会(CNPE)の承認を得て、同年7月に大統領によって工事再開の決定が下された。政府の決定を受けて、2009年から工事が再開され、2010年にはブラジル連邦社会経済開発銀行(BNDES)から36億円の融資を受けている。2014年時点で工事の進捗は50%以上進んでいるとされ、2018年5月の運転開始を目指して工事が進められている。
(前回更新:2005年1月)
<図/表>
<関連タイトル>
ブラジルの原子力開発体制 (14-08-03-01)
ブラジルの核燃料サイクル (14-08-03-03)
<参考文献>
(1)Industrias Nucleares do Brasil(INB)ホームページ
(2)米国エネルギー省ホームページ
(
http://www.eia.gov/countries/cab.cfm?fips=BR)
(3)「原子力年鑑」編集委員会:原子力年鑑2015 (2014.10)、ブラジル、p.200〜202
(4)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向 2014年次報告(2014年1月)、p.36、49、182
(5)海外電力調査会:海外諸国の電気事業 第1編 2014年版(2014年1月)、p.289〜310
(6)海外電力調査会:海外電気事業統計 2014年版、2014年12月、p.465〜467
(7)IAEA PRIS発電炉情報システムホームページ
(8)ブラジル鉱山・エネルギー省(MME)ホームページ
(
http://www.mme.gov.br/web/guest/pagina-inicial)
(9)ブラジル国家電力規制庁(ANEEL)ホームページ
(
http://www.aneel.gov.br/)
(10)Eletrobras Termonuclear S.A.(ELETRONUCLEAR)ホームページ