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1.はじめに
ブルガリア唯一の原子力発電所である旧ソ連型PWR(VVER)コズロドイ原子力発電所(KOZLODUY)では、44万kWの原子炉4基を1970年から、100万kWの原子炉2基を1973年から建設を開始し、1974年〜1982年にかけて順次営業運転を開始した(表1参照)。1〜4号機が旧ソ連製のVVER-440の第一世代炉であるため、西欧諸国から早期閉鎖を求める声があがり、1999年11月に欧州委員会(EUの執行機関)と合意して1、2号機を2002年12月末に、3、4号機を2006年12月末に停止した。ブルガリア政府は、コズロドイ原子力発電所3、4号機の代替電源として、1990年以来、社会主義政権崩壊による経済情勢悪化で原子力発電所建設計画を保留にしていたベレネ発電所建設計画の再開を2002年12月に示した。しかし、政府は建設費がかかり過ぎるとして2012年3月にベレネ発電所建設計画の中止を決定し、コズロドイ原子力発電所5、6号機の運転延長と7号機の新規建設に切り替えている。
2.原子力開発体制
ブルガリアの原子力開発は、国営機関が中心となって規制、研究開発、発送電事業、教育の各分野を担当してきた。しかし、欧州連合(EU)への加盟を目指したブルガリア政府は、1996年のEU電力自由化指令(96/92/EC)に合わせた電力市場の再編と電力分野の事業再編及び民営化を実施した。まず、1999年7月に制定された「エネルギーとエネルギー効率利用法」(EEE法:The Energy and Energy Efficiency Act)に基づいて発送配電一貫経営を行ってきた国有電力会社(NEK:Natsionalna Elektricheska Kompania)を2000〜2003年に再編し、8つの独立した発電事業者(コズロドイ原子力発電所+7火力発電所)と7配電会社に分離した。EU加盟直前の2007年には国営企業資産の90%が民営化され、さらに発電所と地域熱供給会社等の国営企業の民営化を進めるため、2008年9月にブルガリア・エネルギー・ホールディング(BEH:Bulgarian Energy Holding)を成立した。
また、原子力関連の規制に関しては、原子力安全利用法に基づいて旧原子力平和利用委員会(Committee on the Use of Atomic Energy for Peaceful Purpose)を引き継いで2002年に発足した原子力規制庁(NRA:Nuclear Regulatory Agency)が行っている。
なお、原子力エネルギー政策全般、原子力発電所建設計画の推進は「ブルガリアのエネルギー戦略」とエネルギー法(Energy Act、2003年制定)及びエネルギー効率化法(Energy Efficiency Act、2004年制定)に基づき、2005年8月に設立した経済エネルギー観光省(Ministry of Economy, Energy and Tourism)が行う。関連省庁には、環境・水資源省(Ministry of Environment and Water)や厚生省(Ministry of Health)、教育・科学省(Ministry of Education and Science)がある。以下、各組織の詳細をまとめる。また、図1に各組織の発足の流れを示す。
(1)経済・エネルギー・観光省(Ministry of Economy, Energy and Tourism)
原子力を含むエネルギー全般に関する政策の確立と遂行を目的とする組織で、内閣会議への原子力発電所建設の提案、放射性廃棄物の安全性・貯蔵の管理及び原子力施設のデコミッショニングの資金運用、エネルギー施設の運転及び技術レベルの管理監督等、ブルガリアにおけるエネルギー政策の開発及び遂行が任務である。原子力規制庁(NRA)やその他省庁と協力して、原子力発電の開発や原子力の安全性向上、原子力施設の放射線防護に関する政策を遂行するための諸活動を行う。1999年のエネルギー法制定に伴い、国家エネルギー資源庁(State Agency for Energy and Energy Resources:SAER)の下に原子力推進組織として設置された「エネルギー委員会」が「国家エネルギー・エネルギー資源庁」として再編され、2005年8月にエネルギー省と合併、2009年7月から観光分野も取扱う。
(2)ブルガリア・エネルギー・ホールディング(BEH)
2008年9月18日、経済・エネルギー・観光省の民営化方針により、ブルガリア・エネルギー・ホールディング(BEH)が成立した。BEHはベレネ(Belene)、コズロドイ(Kozloduy)原子力発電所、石炭の生産、石炭火力・天然ガス発電所、送配電システム、通信ネットワークなど7つの企業を傘下におく管理企業である(図2参照)。なお、施設の運転は各企業に任される。
(a)国営電力会社(NEK)(Natsionalna Elektricheska Kompania AD)
1991年に政府の直接管理から分離され、エネルギー委員会が株主となり、国営企業として設立された。火力発電所、原子力発電所、水力発電所、電力送配電網及び国営電力指令センターを保有し、発電、送配電業務を行っていたが、1999年のエネルギー法の制定により、2000年にはコズロドイ原子力発電所や大型火力発電所が国有企業として独立した。2008年からBEH傘下でベレネ原子力発電所(Belene NPP)の建設計画を推進している。図3に国営電力会社の組織図を示した。
(b)コズロドイ原子力発電所(KOZLODUY NPP PLC)
BEH傘下でコズロドイ原子力発電所(KOZLODUY NPP)が運転管理を行う。図4にコズロドイ原子力発電所の組織図を示す。
(3)ブルガリア原子力規制庁(Bulgaria Nuclear Regulatory Agency:NRA)
原子力の規制、原子力エネルギー、放射線、核廃棄物処理の保全に関する行政・監督庁で2002年に原子力平和利用委員会(CUAEPP:Committee on the Use of Atomic Energy for Peaceful Purpose)を改組して設置された、独立した機関である。
原子力平和利用委員会(CUAEPP)は1957年にブルガリアの内閣会議の下で原子力の研究開発委員会として設置され、1975年に規制当局の機能も兼ねたことで、推進と規制の両方を担うことになった。1985年の原子力法に基づき、内閣会議の下に設立され、原子力安全検査庁が同委員会の下に設立された。社会体制が変革された1992年以降、推進と規制が分離し、同委員会は安全規制全般に責任を有する組織となった。1995年の原子力法改正に伴い、原子力安全審議会と放射線防護審議会が設置されている。図5に原子力規制庁の組織を示す。
(4)科学アカデミー原子力研究所(INRNE:Institute for Nuclear Research and Nuclear Energy)
原子力研究センター(1956年設立)と物理研究所が基となり、1972年に設立されたブルガリアで最も大きい研究所である。現在、基礎素粒子物理、核物質、高エネルギー物理、原子力、放射化学、放射性廃棄物の取扱い、環境モニタリング、原子力関連機器開発等の基礎及び応用研究を担っている。8つの研究部及び研究炉(IRT-2000、運転期間:1961-1989)が1基設置されている。IRT-2000はロシアのクルチャトフ研究所によって建設された2MWtの研究炉で、その後濃縮ウランを燃料とする200kWt研究炉に改造された。2003年に高濃縮ウラン燃料(HEU)をロシアに返還し、2008年から濃縮使用済燃料の貯蔵、2010年から廃止措置を、ブルガリア政府、ロシア、米国、IAEAのジョイント計画として進めている。図6に科学アカデミー原子力研究所の組織を示した。
(5)国立放射線生物学センター(National Center of Radiobiology and Radiation Protection:NCRRP)
1993年に厚生省傘下の特別機関として発足した。放射線生物学に関する放射線影響やリスク、放射線治療における放射線防護、緊急医療等を管轄している。教育・保健・疫学センターの活動の監督も行う。
(6)国営放射性廃棄物会社(SE-RAW:State Enterprise Radioactive Wastes)
2002年の原子力の安全利用に関する法律(Act on the Safe Use of Nuclear Energy)に基づき設立された使用済核燃料及び放射性廃棄物の管理会社である。ブルガリア科学アカデミー原子力研究所内のノヴィハン(Novi Han)における産業・医療・研究施設で発生した中低レベル放射性廃棄物の管理、中低レベル放射性廃棄物最終処分場の建設計画の推進、コズロドイ原子力発電所の使用済燃料中間貯蔵施設及び中低レベル放射性廃棄物の管理、コズロドイ原子力発電所1-4号機の廃止措置を行う。
(前回更新:2006年2月)<図/表>