<大項目> 海外情勢
<中項目> 北米各国
<小項目> アメリカ
<タイトル>
原子力施設の航空機攻撃に対する米国の対応(2001年9月11日以降) (14-04-01-34)

<概要>
 2001年9.11米国同時多発テロを機に、原子力施設が航空機テロを受けた場合、原子炉内部から多量の放射性物質を環境に拡散させて重大事故に繋がる可能性が示唆され、最も厳しいセキュリティ対策が要請された。原子力発電所では核不拡散の観点から核物質防護(PP)と言う法的規制に基づき、テロリストなどによる核物質の盗取、原子力施設に対する妨害破壊行為を防止するための障壁、侵入対策、出入管理、通報連絡等、統合的なセキュリティ・システム措置が導入されている。加えて、原子力施設の設計で使われる深層防御哲学では、プラントが安全性を確保するために重複した独立システム系統を要求している。
 原子力エネルギー協会NEI)が2002年に紹介した電力研究所(EPRI)のコンピュータ解析では、耐震性、気密性等に関する安全設計基準を考慮すると、航空機攻撃に対しても十分な安全性が確保されるとしている。しかし、大型商用旅客機が原子力発電所の設計基礎脅威(DBT)となるとは想定しておらず、プラント設計上特別に考慮すべき事象となっていなかった。このため、2009年2月、原子力規制委員会(NRC)は原子力発電所の新規建設に関しては、航空機テロによる直接的反撃を考慮した環境および公衆の安全性の確保を設計上に求めている。
<更新年月>
2009年12月   

<本文>
1.米国原子力規制委員会の航空機攻撃への対応策
 2001年9月11日の世界貿易センタービル等で起きた米国同時多発テロを機に火力・水力・原子力発電所等の電力供給施設や配電網、石油・天然ガスのパイプライン等の供給施設で警戒体制を強化されている。なかでも原子力施設は航空機テロを受けた場合、原子炉内部から多量の放射性物質を環境に拡散させ、重大事故に繋がる可能性が示唆され、最も厳しいセキュリティ対策が要請された。2001年時点、米国では、66サイト、103基、1億117万KW(PWR:69基、BWR:34基)の商業用原子力発電所が運転中であった。
(1)2001年9.11同時多発テロ以前の対抗策
 同時多発テロ直後、航空機攻撃が原子力施設に対して行われた場合の、公衆の健康と安全に対する潜在的な影響に関した多くの質問に対応したNRCの努力を、下院のエネルギー・通商委員会/監視・調査小委員会において行われたNRC前委員長Meserve(メセーブ)氏の2002年4月11日の証言と2002年6月5日の証言の中に見ることができる。
 元来、原子力発電所では、核不拡散の観点から核物質防護(PP:Physical Protection)と言う法的規制に基づき、テロリストなどによる核物質の盗取、原子力施設に対する妨害破壊行為を防止するための障壁、侵入対策、出入管理、通報連絡等、統合的なセキュリティ・システム措置が導入されている。加えて、原子力施設の設計で使われる深層防御哲学は、プラントの安全性を確保するために重複した独立のシステム系統を持ち、安全解析の過程で仮想重大事故を引き起こす要因となる機器(枢要機器、例えばポンプ)は、バックアップ構成を有する。これらの耐震性、気密性等に関する安全設計基準を考慮すると、セスナ級小型飛行機の突入、或いは人が運搬できる小型武器(戦車砲等)による攻撃には十分耐える防御壁を備えていると見られる。しかし、大型の商用旅客機が原子力発電所の設計基礎脅威(DBT:Design Basis Threat)となるとは想定しておらず、プラント設計上特別に考慮すべき事象となっていなかった。
(2)2001年9.11同時多発テロ以降の対抗策
 2002年、米国は対抗策として「より安全な国を目指して:Making The Nation Safer」なる報告書を発表した。この報告書の中で原子炉に対する攻撃を受けた場合に維持すべき安全性のレベルを、(1) 炉心溶融事故は起きない、(2) 原子炉が停止しても、環境に深刻な影響を及ぼす放射性核種を放出しない、を基本とし、設計基礎脅威(DBT)の見直しを進めた。この見直しは核物質防護措置のDBTとして定めていた地上からの攻撃に加え、燃料を満載した民間航空機による攻撃、高性能火薬を満載した小型航空機および飛翔体(ロケット)による攻撃等を追加している。急を要した安全性評価として、原子炉に燃料を満載した民間航空機(ボーイング767−400)が衝突した場合の事故解析が行われている。これはEPRI(電力研究所)が実施した「テロリズムの阻止:航空機の衝突解析は、原子力プラント施設の強さを示す」というコンピューター解析で、NEI(原子力エネルギー協会)により報告された。解析では、9.11同時多発テロで国防総省に衝突した際の速度と同じ約563km/hで原子力発電所に衝突した場合、原子力発電所の中心部に位置する原子炉を格納する格納容器は堅牢で、かつ破壊されることはないとしている(2章参照)。
 一方、テロリストの攻撃から本土を守るためには、盗取された小型核兵器あるいは特殊核分裂性物質(高濃縮ウラン、プルトニウム)により作られた核爆発装置等による攻撃に備えることであり、米国は各国の核物質防護措置対策の強化支援を要請した。また、通信システムに介入するサイバー・テロ、エネルギーシステム全般に対するテロ、被害を及ぼす可能性がある化学処理施設に対するテロ等の防護システムの強化が指摘された。なお、この対テロ強化策の実施状況に関し、2003年7月、評価結果が公開され、原子炉はクラスAの評価を得ている。
2.EPRI(電力研究所)の解析
(1)解析の概要
 大型商用航空機ボーイング767−400(以降、B767−400)による格納容器建屋、使用済燃料プール、使用済燃料乾式貯蔵施設、使用済燃料輸送コンテナへの衝突が、精巧なコンピュータモデルを用いて解析された。プラントモデルは実在する構造の典型的な代表的構造である。多様な設計パラメータは、保守的(安全側)に偏らせられた。航空機衝突解析には、最適評価法を取り入れている。
(2)解析される航空機の選定
 解析に選ばれたB767−400機の最大離陸重量は、23,980ガロンの燃料を含めて、450,000ポンド(約204t)である。翼長は170ft(約52m)、機体全長は201ft(約61m)、胴体の直径は16.5ft(約5m)、2基のエンジンの重量は各9,500ポンド(4t)である。
 衝突速度は350マイル/時(約563km/h)で、9.11同時多発テロの国防総省ビルに衝突したハイジャック機のフライトレコーダーに記録されたデータと、衝突を映したセキュリティビデオカメラの分析から設定された。この速度は、解析された構造物の高度において、経験豊かな大型商用航空機パイロットが飛行の操縦性を維持し、構造物の正確な解析位置に衝突させるのに妥当な数値であるものの、経験の少ないパイロットが目標を捕捉するには極めて難しいとしている。B767−400機が構造物、特にサイズの小さい原子力プラントの特定の位置に衝突する確率は、速度が速くなるにつれて低くなる(図1参照)。
(3)解析対象構造物の特徴(表1参照)
 解析対象構造物は、格納容器建屋(図2参照)、使用済撚料貯蔵プール、使用済燃料の乾式貯蔵施設(図3参照)、使用済燃料輸送コンテナ(図4参照)で、9.11同時多発テロで攻撃を受けた世界貿易センターや国防総省のビルよりも、かなり小さい構造物である。
(4)解析結果
a.格納容器建屋
 B767−400機の翼長(170ft)は典型的な格納容器建屋の直径(140ft)より少し長く、航空機の2基のエンジンは物理的に約50ft離れているため、エンジンが格納容器建屋に当たる「局所的な衝突」と、航空機全体の質量が格納容器建屋に当たる「全体的な衝突」を評価した。この両方の解析で、衝突時の力が最大となるようエンジンと航空機胴体が格納容器建屋の中心線に垂直に衝突する保守的仮定が用いられた。解析によってエンジン、航空機胴体、翼、ジェット燃料のいずれも格納容器建屋に入り込まないことが示された。コンクリートの一部は押しつぶされて砕けるが、格納容器建屋は破られなかった。
b.使用済撚料貯蔵プール
 B767−400機の翼長(170ft)がプール壁の最大寸法(60ft)を十分に超え、また2基のエンジンの間隔は50ftなので、エンジン2基と胴体の両方がプールの中心点に衝突することは不可能である。このため、エンジン1基がプール壁の中心点に衝突する場合と胴体と翼の一部が衝突する場合について解析された。両者ともコンクリートのプール壁が局所的に押しつぶされて亀裂が入るが、プールのステンレス鋼製のライナーによって、プールの冷却水が失われることはなかった。結果、使用済燃料は保護され、放射性核種が環境に放出されることはなかった。
c.使用済燃料の乾式貯蔵施設
 横幅がさらに小さくなるので「全体的な衝突」は不可能であり、エンジンがあたる「局所的な衝突」だけが評価された。キャニスタは変形し亀裂が入るが、施設は破られない。d.使用済燃料輸送コンテナ
 さらにサイズが小さいので、エンジンがあたる「局所的な衝突」だけが評価された。コンテナは破られることはない。
3.原子力発電所の新規建設に対する対応
 NRCは2009年2月、原子力発電所の新規建設に当り、航空機が衝突しても安全性が確保される設計にするよう事業者に求めることを決定した。大型旅客機が直接衝突した場合でも、コンクリート製の原子炉建屋が破壊されず、放射能の閉じ込め機能を保持できる、炉心の冷却機能も維持され、使用済核燃料の冷却プールも壊れないことを求めている。
 なお、国際原子力機関(IAEA)は、9.11同時多発テロを受けて、核物質防護条約(INFCIRC/225Rev.4)で事業者責任に加え、国の責任において防護対策の基礎となる設計基礎脅威(DBT)を定め、評価を行うことを明示している。
<図/表>
表1 EPRIによる航空機衝突に対する原子力施設解析構造物の特徴
図1 構造物の相対的大きさ
図2 沸騰水型炉(BWR)の格納容器の構造
図3 使用済燃料貯蔵コンテナ
図4 使用済燃料輸送コンテナ

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
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<参考文献>
(1)USNRC, Fact Sheet on Nuclear Security Enhancements Since Sept. 11, 2001(September 2003),
(2)米国原子力エネルギー協会(NEI):202-739-8000 DETERRING TERRORISM:Aircraft Crash Impact Analyses Demonstrate Nuclear Power Plant’s Structural Strength (December 2002),
(3)原子力規制委員会(NRC):NRC ISSUES FINAL RULE ON NEW REACTOR AIRCRAFT IMPACT ASSESSMENTS February 17, 2009,
(4)Final Testimony Before the Senate Committee on Environment and Public Works Concerning Nuclear Power Plant Security presented by Dr. Richard A. Meserve (6/05/02), http://www.nrc.gov/reading-rm/doc-collections/congress-docs/congress-testimony/2002/
(5)National Research Council of The National Academies:Making the Nation Safer:The Role of Science and Technology in Countering Terrorism, http://www.nap.edu/openbook.php?isbn=0309084814
(6)総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会原子力防災小委員会:原子力施設における核物質防護対策の強化について(案)資料1 Responsibility, authority and sanctions, article 4.2.3 of INFCIRC/225/Rev.4、p.13
(7)Progressive policy institute:America at Risk A Homeland Security Report Card(July 2003),
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