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<概要>
 米国エネルギー省DOE)は、1998年12月高レベル放射性廃棄物(HLW)の処分について、ユッカマウンテン処分場に関する実現可能性評価書をクリントン大統領と連邦議会に提出し、1999年8月には環境影響評価(EIS)の草案も公表した。EISでは、ユッカマウンテン・プロジェクトの進行を妨げるような潜在的な環境への影響は確認されなかった。その後、クリントン大統領は2000年4月25日に上下両院を通過した核廃棄物政策修正法案に対し拒否権を行使、同修正案は上院に差し戻された。
 2001年のブッシュ政権が誕生したことを契機に風向きが変わった。ブッシュ大統領は、同年5月に発表された国家エネルギー政策での原子力発電拡大の勧告に応え、2002年7月23日、ネバダ州ユッカマウンテンを原子力発電所の使用済み燃料および軍事部門から発生するHLWの貯蔵所として認める議会の共同決議案に署名した。これによって、ユッカマウンテンに核廃棄物貯蔵所を建設することが正式に決定した。このプロジェクトの実施主体であるDOWは、正式決定を受け、貯蔵所の建設許可申請の作成に着手、申請書の提出は2004年末頃になるとみられている。
<更新年月>
2003年01月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.放射性廃棄物政策法
 高レベル放射性廃棄物の地層処分場の準備として1982年に制定された「放射性廃棄物政策法」(MWPA)および1987年に制定された修正法(NWPAA)は、米国エネルギー省(DOE)に対し、(1)高レベル放射性廃棄物(使用済燃料)用の深地層貯蔵所の立地、建設、操業、(2)使用済燃料用の中間貯蔵施設の立地、建設、操業、(3)原子力発電所と中間貯蔵施設、永久貯蔵所(最終処分場)を安全に結ぶ輸送システムの開発—を要求した。またNWPAによって、使用済燃料の最終貯蔵所や中間貯蔵施設、輸送を行うための資金として「核廃棄物基金」(Nuclear Waste Fund)が設立され、原子力発電所で発電された電力1kWhあたり1ミル(0.1セント)が1982年から徴収された。これにより、1999年6月までの合計は金利分を含めて150億ドルを超えている。さらに、民事用放射性廃棄物管理局(OCRWM)がDOE内に設置された。
 DOEは、深地層貯蔵所の立地について、6つの州から9か所を候補サイトとして選定した。そして、予備的な技術調査と環境評価を行い、1986年にネバダ州ユッカマウンテン(Yucca Mountain)、テキサス州デフスミス、ワシントン州ハンフォードの3か所を、さらに詳細な科学的調査(特性評価)を行う候補地として選定した。そして核廃棄物政策法の改正(1987年)を受け、3か所のサイトのうちから、高レベル放射性廃棄物(使用済燃料およびガラス固化体)の貯蔵サイトとして、最終的にユッカマウンテンが選ばれ、特性評価が行われることになった。
 ネバダ州ユッカマウンテンはラスベガスから北西160kmに位置し、年間雨量の極めて少ない砂漠地帯で、ネバダ核実験場の南西部に隣接した政府の所有地で、低人口地帯である( 図1 参照)。ここで、原子力発電所からの放射性廃棄物約7万トンと軍事用施設からの廃棄物7,000トンを1万年〜100万年単位で安全に貯蔵することを計画している。地層は凝灰岩で形成されており、施設は地下300mを予定している。現在、地下探査研究施設(Exploratory Studies Facility)の建設が進み、トンネルの長さは8kmに及んでいる( 図2図3 参照)。
 ユッカマウンテン・プロジェクトに要する費用は、許認可申請、建設、操業(合計7万トンの処分)、モニタリング(100年間)、閉鎖など処分場に関わるものだけで187億ドル(1998年ドル価値で)。これに、(1)使用済み燃料および高レベル廃棄物の輸送・貯蔵費、(2)ネバタ州や地元自治体への交付金等、(3)処分容量の拡大(現行法では最大7万トン)、(4)その他の管理費—なども含めた処分計画全体(1999年の追加調査から2116年の処分場閉鎖まで)で総額366億ドル(同)に達する見込みである。
2.ユッカマウンテン処分場の開発経緯
 DOEは1998年12月、ユッカマウンテン処分場に関する実現可能性評価報告書をクリントン大統領と連邦議会に提出し、1999年8月には環境影響評価(EIS)の草案も公表した。EISでは、ユッカマウンテン・プロジェクトの進行を妨げるような潜在的な環境への影響は確認されなかった。その後、クリントン大統領は2000年4月25日に上下両院を通過した核廃棄物政策修正法案に対し拒否権を行使、同修正案は上院に差し戻された。
 2001年のブッシュ政権が誕生したことを契機に風向きが変わった。ブッシュ大統領は、同年5月に発表された国家エネルギー政策で、原子力発電拡大の勧告に応えたからである。2002年7月23日、ネバダ州ユッカマウンテンを核廃棄物(原子力発電所の使用済み燃料と軍事部門から発生する高レベル放射性廃棄物)の貯蔵所(処分場)として認める議会の共同決議案に署名した。これにより、ユッカマウンテンに核廃棄物の貯蔵所を建設することが正式に決定した。このプロジェクトの実施主体であるDOEは正式決定を受け、原子力規制委員会(NRC)に提出する貯蔵所の建設許可申請の作成に着手、申請書の提出は2004年末頃になるとみられている。なお、貯蔵所は早ければ2010年にも操業できるとの見方もある( 表1 参照)。
3.ユッカマウンテン・サイトの特性評価
 ユッカマウンテンでの特性評価作業には数千人に及ぶ科学者や技術者が従事しており、最終的には実行可能性評価調査だけで60億ドル以上の経費がかかると見積もられている。当初、道路の保守や溝の掘り起こし、試錐孔の掘削といった作業に必要な許可の発給をネバダ州当局が拒んだことから作業の開始が遅れた。DOEとネバダ州を巻き込んだ訴訟がいくつか行われたあと、ネバダ州は1992年半ばまでに、サイトで本格的調査を開始するのに必要な許可を発給した。これ以降、作業は順調に進み、3,500フィート(約1km)の深さまで掘削できる特別に開発された掘削装置を使って、3本の試錐孔が掘削された。このほか、火山活動の調査を行うための試験ピットの掘削や断層についてのデータを収集するための掘削作業が終了するなど、主として地上での調査は完了した。
 DOEは1992年から、地質、岩盤、地下水の挙動、火山活動、雨水の地質への浸透など、ユッカマウンテンのサイト特性調査を実施しており、1994年9月にトンネル掘削装置を使い、調査研究施設(Exploratory Studies Facility)の建設を開始した。1997年4月には、全長5マイルの調査用トンネルの掘削作業が完了。1998年10月には、実際の処分予定区域の母岩調査のための水平トンネル(1.7マイル)も完成し、使用済み燃料および高レベル放射性廃棄物からの発熱による地下水や岩盤への影響を調べる模擬試験が行われた。
 1998年12月に公表された実行可能性評価報告(Viability Assessment)では、貯蔵所の設計やこれからの具体的作業、許認可手続きの予定、経費などが説明された。リチャードソンDOE長官はクリントン大統領への書簡の中で、「DOEとしては、実行可能性評価の結果から、ユッカマウンテンでの調査を継続するとの確信を持った」との見解を表明した。また同長官は記者会見の場で、「ユッカマウンテンでの調査継続に不利となるような証拠はこれまでのところ全く得られていない」と語った。
 1999年8月には、DOEから環境影響評価(EIS)の草案が公表された。EIS草案では、ユッカマウンテン・サイトに最終処分場を建設し処分する場合と、最終処分場を開発せずに現状のまま原子力発電所のサイト内およびDOE施設で貯蔵する場合とで、どちらが環境への影響が大きいかを調査している。それによると、処分場を開発しない場合の方が極端に危険であるとし、国内の主要な河川・水路が汚染される可能性があり、その結果約3,000万人がその被害に遭う恐れがあるとの懸念を示している。これに対し、ユッカマウンテンで最終処分場が操業された場合、近郊住民やサイト内従業員の放射線被ばくの程度はほぼ通常レベルに落ち着くと結論づけている。同草案について一般からの意見聴取は、1999年8月から2000年2月末までの間にDOEによって募集された。また、その期間中に公聴会が合計21回開催され、延べ2,700人以上が参加し、700人以上が意見を述べた。
 DOEは2001年5月4日、「ユッカマウンテンに関する科学・工学報告書(Yucca Mountain Science and Engineering Report)」を発表した。それによると、想定されるほとんどのシナリオのもとで、1万年以上にわたって一般人が貯蔵所からの放射線で被ばくすることはないと結論づけている。また、ユッカマウンテンの天然バリアによって貯蔵所への地下水の浸入が制限されるだけでなく、耐食性に優れた処分パッケージが仮に破損したとしても放射性核種の移動が抑えられるため、使用済み燃料と高レベル放射性廃棄物は人間環境から隔離されることを指摘している。
 DOEは2001年8月21日、ネバダ州のユッカマウンテンに計画されている使用済み燃料と高レベル放射性廃棄物の貯蔵所の「予備的サイト適性評価(Preliminary Site Suitability Evaluation)」を公表した。ユッカマウンテンで約20年にわたって行われてきた科学的調査の結果を環境保護庁(EPA)が定めた厳しい安全基準に沿って予備的に評価したもので、前にまとめられた科学・工学報告書の結論を支持した肯定的な内容となっている。
 2001年11月14日には、DOEは最終的な基準となる「ユッカマウンテン・サイト適正指針(Yucca Mountain Site Suitability Guideline」を発表した。そのあと11月14日から12月14日までの30日間、一般からの意見聴取期間を延長するとともに、それと平行して、同省のユッカマウンテン・プロジェクトの進め方についての公聴会を66回開催した。
4.放射線防護基準をめぐる論争
 1992年エネルギー政策法によって、環境保護庁(EPA)に対して、使用済み燃料と高レベル放射性廃棄物の深地層貯蔵所向けの規則を定める権限が与えられた。また、同法は、EPAに対して、全米科学アカデミー(NAS)との間で、技術データの提供を求める契約を結ぶよう指示している。EPAは1995年、NASから報告書を受け取り、技術的問題について検討を行ってきている。EPAは1999年、ネバタ州のユッカマウンテン向けの環境基準を40CFR Part 197として提案し、一般からの意見を求めるため公開するとともに、公聴会を4か所で開催した。約800件の意見が寄せられた。
 これを受け、EPAはユッカマウンテンに対する放射線防護基準案を公表したが、NRCの基準にはない独自の地下水(防護)基準が盛り込まれていることから、産業界などは強く反発している。NRCとEPAはそれぞれの立場から独自に放射線防護基準を定めているが、これまでに何度となく意見の食い違いがみられたため、会計検査院(GAO)も2000年7月14日、こうした論争に終止符を打つためには議会の介入が必要だとする報告書を公表している。とくに両者の対立が目立っているのは、ユッカマウンテンに計画されている最終貯蔵所と原子力施設の浄化・デコミッショニングに関する放射線防護基準である。
 最大の問題になっているのは、地下水の防護基準をどう定めるかという点で、NRCが大地や空気中、地下水などからのあらゆる線源による被ばく量を年間25ミリ・レムとしているのに対し、EPAは地下水については別の基準を設け、直接飲んでも安全な基準にする必要があるとの立場をとっている。GAOによると、EPAの考え方に従うと実際の線量限度は状況によって異なり、年間数分の1ミリ・レム程度になる場合がある。NASもEPAの地下水基準を厳しく批判している。NASは1999年11月、EPAに対し、EPAの基準は信頼できる科学的根拠に欠けているなどとした書簡を提出した。
 なお、EPAは公衆の放射線防護という視点にたち各種基準を公布するとともに、汚染施設の浄化作業の規制を行っている。一方、NRCは原子力の商業利用を規制する中で放射線防護基準を定めるとともに、商業用原子力施設のデコミッショニング作業の監督も行っている。このほか、ユッカマウンテンで進められている使用済み燃料処分場向けの放射線防護基準については、議会の命令によってNASが勧告することになっている。
5.超ウラン元素廃棄物
 軍事活動を含むDOEの各種活動に伴って発生した超ウラン元素(TRU)廃棄物廃棄物、および370Bq/g以下のTRU核種を含む廃棄物は、廃棄物が発生した場所あるいはDOEが指定した施設のどちらかに貯蔵されている。
 DOEは現在、10万立方メートルを超えるTRU廃棄物を管理しており、そのほとんどが6か所に貯蔵されている。 超ウラン元素廃棄物の管理戦略は、岩塩鉱床に建設された地層貯蔵所に処分するというものである。DOEがそうした戦略を採用した理由は、岩塩層が地質的に安定しており、超ウラン元素廃棄物を数千年にわたって安全かつ永久的に隔離できるとみられるためである。廃棄物隔離パイロット・プラント(WIPP: Waste Isolation Pilot Plant)は、ニューメキシコ州カールスバッドの東30マイルに位置しており、1979年に議会によって認められことを受けて建設されたもので、地下約655メートルの岩塩鉱床に廃棄物が据え付けられる構造になっている( 図4 参照)。
 WIPPは、20年にわたる開発作業のあと、1999年3月26日に処分操業を開始した。WIPPは操業開始から最初の6ヵ月で、ロスアラモス国立研究所、ロッキーフラッツ、アイダホ国立工学環境研究所の3か所のサイトから32回にわたって廃棄物を受け入れた。受け入れた総量は、超ウラン元素廃棄物を含めて全部で276立方メートルに達した。WIPPの処分容量は、約17万5,000立方メートルで、約30年で満杯になるとみられている。
 ニューメキシコ州は1999年10月、廃棄物がWIPPの受け入れ基準を満たしているとの条件付きで、WIPPに混合超ウラン元素廃棄物(資源保護・回収法の規則のもとで規制される有害成分を含む超ウラン元素廃棄物)を受け入れる認可を発給した。混合超ウラン元素廃棄物の中には、WIPPへの輸送に先立って処理を必要とするものがあるとみられる。このため、環境管理局は、こうした廃棄物用の処理設備の設置に向けて作業を続けている。新しい処理施設が計画されており、最初の施設となる新混合廃棄物処理プロジェクト(Advanced Mixed Waste Treatment Project)がアイダホ国立工学環境研究所で2003年に操業開始する予定である。
<図/表>
表1 ユッカマウンテン処分場の開発スケジュール
表1  ユッカマウンテン処分場の開発スケジュール
図1 ユッカマウンテン(YUCCA MOUNTAIN)地域マップ
図1  ユッカマウンテン(YUCCA MOUNTAIN)地域マップ
図2 ユッカマウンテン処分場の概念図
図2  ユッカマウンテン処分場の概念図
図3 地下探査研究施設レイアウト
図3  地下探査研究施設レイアウト
図4 廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)概略図
図4  廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)概略図

<関連タイトル>
TRU(超ウラン元素)含有廃棄物の処分方針と基準 (11-03-04-03)
アメリカの核燃料サイクル (14-04-01-05)
低レベル放射性廃棄物対策の現状(州間協定に基づく処分場開発の状況) (14-04-01-15)
高レベル放射性廃棄物対策の現状(MRSの立地可能性調査状況) (14-04-01-18)

<参考文献>
(1)日本原子力産業会議:OECD/NEA加盟国の放射性廃棄物管理(2001年10月)
(2)日本原子力産業会議:OECD/NEA加盟国の放射性廃棄物管理(2002年2月)
(3)日本原子力産業会議:原子力年鑑2003(2002年11月)
(4)YUCCA MOUNTAIN PROJECT:
(5)Committed to Results:DOS's Environmantal Management Program DOE/EM-0152P(1994年4月)、p.36
(6)米国エネルギー省:
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