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<概要>
 若狭湾エネルギー研究センターは、原子力およびエネルギー関連科学技術の地域産業への波及等を通じて地域の活性化を図るとともに、科学技術の振興、国際社会への貢献などに寄与することを目的に、平成6年(1994年)9月に財団法人として設立された。当財団は、エネルギーおよび原子力に係る科学技術の活用に関する「研究開発」と「産業・技術・研究支援」を2本柱の活動として、技術者等の研修、内外関係機関等との交流および協力を行う。福井県が国の交付金等により研究施設を建設し、当財団はその施設の運営・管理を行い、本格的な活動を開始している。
<更新年月>
2008年12月   

<本文>
1.設立の経緯と目的
 昭和56年(1981年)、若狭湾地域に原子力発電所が集中立地している特性を活用して、エネルギー関連技術や地域産業への応用技術の研究、研修等を実施するための施設を整備しようという「アトムポリス構想」が提唱され、以来その実現に向け努力がなされてきた。こうした中、昭和62年(1987年)の第13期日本学術会議が「地域型研究機関(センター)構想」を創り、地方に研究所を整備し、その研究を地域振興に活かすべきとの提言がなされ、これを契機として、福井県が中心となり各大学、電力事業者、研究機関の関係者が議論を開始し、平成5年(1993年)に基本構想、平成6年(1994年)には基本計画が取りまとめられた。
 この基本計画に基づき、国、県、民間が一体となって事業を推進する財団法人が設立されることになり、1994年9月に通商産業省(現・経済産業省)と科学技術庁(現・文部科学省)の認可を得て、財団法人若狭湾エネルギー研究センターが発足した。福井県は国の交付金等により研究施設を建設し、平成10年(1998年)11月に完成した。
 当センターは、エネルギーおよび原子力に係る科学技術の活用に関する「研究開発」と「産業・技術・研究支援」を2本柱の活動として、技術者等の研修、内外関係機関等との交流および協力等を行うことにより、原子力およびエネルギー関連科学技術の地域産業への波及等を通じて活力ある地域社会の形成を図るとともに科学技術の振興、わが国経済の健全な発展および国際社会への貢献に寄与することを目指している。
2.組織と事業
 当センターは、図1に示すように管理、企画の2グループ、エネルギー研究開発・拠点化推進組織および研究開発部(粒子線医療研究室、エネルギー材料、生物資源、エネルギー開発、加速器の5グループ)より構成されている。
 平成17年(2005年)3月に策定された平成17年度〜21年度の中期事業計画に沿って、「研究開発」と「産業・技術・研究支援」の2本柱の事業を推進している。地域の振興に貢献することを目的とし、「研究開発」においては実用化・応用研究を重視し、事業の選択と集中を図っていくこととしている。また、「産業・技術・研究支援」においては、福井県が策定したエネルギー研究開発拠点化計画を推進することにより、既存産業の育成と新産業の創出等を促進していくこととしている。
 また、若狭湾地域における原子力およびエネルギーに関し、当センター所有の加速器利用系・科学機器等の有償利用サービス、技術者の研修、新産業創出モデル事業など企業・大学の支援制度の運用を行っている。センター施設の外観を図2に示す。
3.研究設備と活動概要
3.1 研究設備
 イオン加速器を図3に、科学機器等の研究設備一覧を表1に示す。
3.2 エネルギー研究開発・拠点化計画
 福井県は、地域と原子力の自立的な連携を目指して、平成17年(2005年)3月に「エネルギー研究開発拠点化計画」を策定した。この計画は、原子力発電所を単なる発電の「工場」にとどめることなく、さまざまな原子炉が多く集積しているという本県の特徴を最大限に活かして、福井県を、原子力を中心としたエネルギーの総合的な研究開発拠点地域とするためのものである。本計画の目指すものは、1)国際的な研究機能の集積として、研究機関等の集積による国際的な研究の推進、国内外から優秀な研究者が集う交流の場の形成、2)アジアの安全技術・人材育成への貢献として、大学など関係機関の連携による人材育成の環境整備、アジアをはじめとした海外研修生の受け入れによる国際貢献、3)地域産業への貢献として、原子力関連の技術移転や廃止措置による地域産業の発展、原子力・エネルギー関連企業の立地を掲げている。
 具体的には、1)原子力研究・教育広域連携懇談会、2)原子力技術活用コーディネータ、3)産学官連携チーム、4)技術支援・相談チーム、5)人材育成交流チームの活動が展開されている。
3.3 研究開発
(1)粒子線医療研究室
 当センターに設置されている加速器の多目的利用の一環として、粒子線を用いるがん治療の高度化を目指す基礎的研究、並びに陽子線がん治療臨床研究を行っている。陽子線がん治療は、良好な治療成績で、かつ、副作用が少なく、形態や機能を維持できる、患者に優しいがん治療法として期待されている。陽子線がん治療の有用性を確立するとともに、その普及も視野に入れて、より高度な陽子線がん治療の実現に向けて研究を進めている。
(2)エネルギー材料グループ
 当センターに設置されているタンデム加速器(最大ターミナル電圧5MV)、シンクロトロン加速器(プロトンエネルギー200MeV)、200kVイオン注入装置等で得られる高エネルギーイオンビームを用いて、新機能材料の創製、材料改質、材料の照射損傷効果、材料のイオンビーム分析(RBS、RBS/channeling、PIXE、μ−PIXE、ERDA、大気中PIXE、大気中ERDA)の開発研究、作成材料のイオンビーム分析等を行っている。作成材料分析にはTEM、SEM、Auger電子(オージェ電子)分光、X線回折、SIMS等(全て当センター内に設置)も使用している。
(3)生物資源グループ
 粒子線を用いた植物品種改良研究として、イオンビームを利用したイネや観賞用植物等の品種改良、及び粒子線による突然変異発生メカニズムの研究を行っている。また、バイオマスエネルギー開発研究として、化学反応を用いた未利用資源の有用資源への転換研究や、微生物の機能を利用した有用物質の生産研究等を行っている。
(4)エネルギー開発グループ
 原子力・新エネルギーの開発及びエネルギーの有効利用について、システム的な研究開発を行い、地域社会に貢献することを目指している。
(前回更新:2004年7月)
<図/表>
表1 科学機器等の研究設備
表1  科学機器等の研究設備
図1 若狭湾エネルギー研究センターの組織図
図1  若狭湾エネルギー研究センターの組織図
図2 施設概観
図2  施設概観
図3 加速器
図3  加速器

<関連タイトル>
重粒子線照射によるがんの治療 (08-02-02-01)
高エネルギー加速器の医学での利用(陽子線によるがん治療) (08-02-02-06)
陽子線によるがんの治療 (08-02-02-14)
環境科学技術研究所 (13-02-01-02)
高エネルギー加速器研究機構 (13-02-01-31)

<参考文献>
(1)若狭湾エネルギー研究センター:http://www.werc.or.jp/
(2)若狭湾エネルギー研究センター(編)パンフレット・刊行物:
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