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<概要>
 原子力安全技術センターは、原子力安全の確保のため、放射線障害防止法及び原子炉等規制法に基づく指定業務、原子力安全性の確保に関する研究調査などの業務を行い、原子力開発の健全な発展に寄与することを目的として、昭和55年(1980年)10月に放射線安全技術センターの名称で設立され、その後の昭和61年(1986年)10月1日に、原子力安全技術センターと改称された。原子力安全技術センターでは、放射線障害防止法に基づく登録機関業務、原子力防災に関する業務、原子力安全の確保に関する試験研究・調査、講習会の開催、普及活動及び国際交流などを行っている。

(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、新たな規制行政組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。この規制組織改革に伴って原子力安全委員会と原子力安全・保安院が廃止されたため、本データに記載されているSPEEDIを活用した防災ネットワークも原子力規制委員会の一元的な管理下で再構築が行われる予定である。
<更新年月>
2011年03月   

<本文>
1.設立の経緯と目的
 戦後間もなく放射性同位元素の利用が開始されて以来、我が国の放射線利用は急速な発展を続け、ほどなく国民生活に不可欠なものとなった。
 このような情勢から、放射線利用に係る国の安全規制の充実・合理化が必要になり、その一環として、昭和55年5月に行われた放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(以下「放射線障害防止法」という。)の改正において、放射線施設等に関する国の検査・確認制度等の大幅な充実が図られるとともに、これらに係る業務の一部を国が指定する民間機関に代行させる制度が導入された。
 この法律改正の趣旨にこたえて国の指定代行業務を行うとともに、放射線障害防止に関する調査研究、技術の普及等を行う民間機関として、現在の原子力安全技術センターは、官民の協力のもとに、昭和55年10月1日、内閣総理大臣及び運輸大臣の許可を得て、「財団法人 放射線安全技術センター」として設立された。
 その後、昭和61年5月、核原料物質核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下「原子炉等規制法」という。)で同様な改正が行われたのを受けて、放射線安全技術センターは、事業の範囲を放射線障害防止のみならず原子力安全全般に拡大することとし、昭和61年10月1日、名称を現在の「財団法人 原子力安全技術センター」に改めた。
 また、昭和61年から原子力防災に関する業務を開始し、特に、SPEEDIネットワークシステムの整備・運用を中心とする業務を進めた。この原子力防災に関する業務は、平成11年のJCO事故を境に急速に拡大することとなり、国等との緊密な連携のもとに、充実強化を図っている。
 さらに、平成16年6月に行われた放射線障害防止法の改正において、指定機関制度に代わり登録機関制度が創設されたのを受け、平成17年9月より登録機関としての業務を進めている。
 上記のように、原子力安全技術センターは、国の安全規制業務の代行業務、原子力防災に係る国等の支援業務、及びその他原子力安全の確保に関する業務を行っている。

2.放射線障害防止法に基づく登録業務
2.1 放射線施設の施設検査、定期検査及び定期確認
 放射性同位元素を使用する事業所等において、貯蔵施設の貯蔵能力が一定量以上の事業所、又は放射線発生装置を使用する事業所等は、その放射線施設を使用する前に施設検査を、またその後一定期間ごとに定期検査及び定期確認を受けることが法律によって義務付けられている。
 原子力安全技術センターは、全国の事業所に赴き、施設検査では許可の内容に適合していることについて、定期検査では法令で定める施設の技術上の基準に適合していることについて、検査を実施している。
 また、定期確認では法令に定める放射線量等の測定記録及び放射性同位元素の使用に関する事項等の記帳について確認を実施している。
2.2 放射性同位元素等の運搬確認
 一定量以上の放射性同位元素を輸送する場合は、運搬物及び運搬方法が法令に定める技術上の基準に適合していることについて、確認を受けなければならない。
 原子力安全技術センターは、あらかじめ国の承認を受けた輸送容器及び積載方法で陸上輸送が行われる場合につき、その都度運搬物の確認及び運搬方法の確認を実施している。2.3 放射性同位元素装備機器の設計認証
 放射性同位元素を装備した機器のうち、その装備した放射性同位元素の数量が少なく放射線障害のおそれが低いものについては、放射線障害防止のために機能を有する部分の設計について認証(設計認証)を得ることができる。認証された機器はその旨の表示をつけることにより、使用・保管等の基準が課されないことから取扱いが容易になり、原子力安全技術センターはこの設計認証を実施している。
2.4 放射線取扱主任者試験及び資格講習
 放射性同位元素及び放射線発生装置の許可・届出使用者、放射性同位元素の届出販売業者、届出賃貸業者及び許可廃棄業者は、放射線障害の防止について監督を行わせるため、放射線取扱主任者免状を有している者のうちから、事業所ごとに一定の区分にしたがって、放射線取扱主任者を選任することが義務づけられている。
 放射線取扱主任者免状には、第1種、第2種及び第3種があり、第1種及び第2種の免状は、国家試験(放射線取扱主任者試験)に合格し、かつ法令で定められた講習を修了した者に、また、第3種の免状は、法令で定められた講習を修了した者に交付される。
 原子力安全技術センターは、第1種及び第2種の試験と、第2種及び第3種の資格講習を実施している。
2.5 放射線取扱主任者の定期講習
 放射性同位元素及び放射線発生装置の許可・届出使用者、放射性同位元素の届出販売業者、届出賃貸業者及び許可廃棄業者は、
・放射線障害の防止について監督を行わせるため、放射線取扱主任者を選任すること、
・選任した放射線取扱主任者に、一定期間ごとに、放射線取扱主任者の資質の向上を図るための講習(定期講習)を受けさせること、
が義務づけられており、この定期講習を実施している。
 図1図2に放射線障害防止法に基づく登録業務の流れを示す。

3.原子力防災に関する業務
 万一、原子力発電所等から大量の放射性物質が放出されるという事態が発生したとき、放出源情報をもとに周辺環境における線量等を地形や気象を考慮し迅速に予測する、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDIネットワークシステム)について機能向上を図り、周辺住民の防護対策を支援している。
 また、航空機サーベイシステムの開発等、緊急時における防護対策支援技術に関する調査を実施するとともに環境防災Nネットによる原子力防災に関する普及啓発を実施している。
 さらに、原子力防災活動を効率的に進めるため、緊急時の対応支援に関する調査や防災訓練の実施に関する調査並びに原子力防災業務関係者を対象とした研修を実施している。
 この他、原子力防災関係機関相互の連携を図るため、連絡会を設置し防災関係業務の状況について情報交換を行っている。
3.1 SPEEDIネットワークシステム
 SPEEDIネットワークシステムは、文部科学省、経済産業省、原子力安全委員会、地方公共団体、オフサイトセンター及び日本気象協会等が、原子力安全技術センターに設置された中央情報処理計算機を中心に専用回線で結ばれており、各地方公共団体の気象観測点とモニタリングポストからのデータ、並びに日本気象協会からのGPVデータ及びアメダスデータを常時収集し、緊急時に備えている(GPVデータとは気象庁が提供する気象予報値)。
 万一、原子力発電所等で事故が発生した場合、モニタリングポストからの線量率データを監視するとともに、サイト周辺の風速場、大気中に放出された放射性物質濃度、被ばく線量などの予測計算を行う。なお、予測は最大79時間先まで可能となっている。
 これらの結果は、国や地方公共団体において防災対策を講じるための重要な情報として活用されている。図3にSPEEDIネットワーク図を示す。
3.2 緊急時航空機サーベイシステム調査
 緊急時に大気中に放出された放射性物質の拡散範囲等を迅速に把握するため、航空機による空からのモニタリングが有効な手段と考えられている。原子力安全技術センターは、簡易航空機サーベイ及び詳細航空機サーベイの調査を実施している。
3.3 原子力防災情報ネットワーク調査
 原子力防災に関して、環境モニタリングデータ、施設周辺の避難所や公共機関等ライフラインに関する情報、国や地方公共団体での防災訓練実施状況等、適切な情報を一般公衆に提供するため、インターネットを利用したネットワークシステムの構築・運営に関する調査を実施してる。(環境防災Nネットホームページ http: //www.bousai.ne.jp)
3.4 防災訓練の実施調査
 原子力災害対策特別措置法(平成12年6月施行)のもと、原子力防災体制の実効性を高めるためには、緊急時における実際の対応に沿った関係機関の役割分担の具体的検討やマニュアル類の整備を進めるとともに、効果的な防災訓練を実施することが肝要となる。
 このため、以下のような活動を行っている。
(1)研究炉施設等に対し国が行う防災訓練等の支援
(2)地方公共団体等における防災訓練の比較検討
(3)緊急時モニタリング訓練の評価等に関する調査
3.5 防災研修事業
 原子力施設から放射性物質又は放射線の異常な放出があるような緊急時に、原子力災害応急対策が円滑かつ有効に行われるためには、原子力防災活動に従事する者の沈着冷静な判断、指示及び行動が肝要となる。
 ことに住民の心理的な動揺あるいは混乱をさけるためには、原子力防災活動に従事する者が、原子力防災対策に習熟していることが最も重要となる。
 原子力防災研修講座は、原子力施設が設置されている19道府県の地方公共団体等の原子力防災業務に従事する者の役割に応じた研修講座を実施することにより、原子力防災に関する技術の習得や理解の促進をはかることを目的として実施しており、各種講座を各地で開催している。
3.6 原子力艦による原子力災害への対策
 原子力艦による原子力災害における、緊急時モニタリング技術を中心とした研修講座を開催している。
3.7 その他
 緊急時モニタリング情報の共有化を図るためのシステム(RAMISES)の設置運営等について、地方公共団体への支援を行っている。

4.防災技術センター(再処理施設等に関する防災)
 青森県六ケ所村では、すでに操業中のウランの濃縮施設、低レベル放射性廃棄物の埋設施設及び高レベル放射性廃棄物の貯蔵管理施設に加えて、現在、使用済燃料の再処理施設の建設が進み、本格運転のための試験が行われている。原子力安全技術センターは、地方公共団体(青森県及び六ケ所村)等がこれらの施設に関して実施する防災活動への支援を目的として、平成10年10月に「防災技術センター」を六ケ所村に設置した。現在、平成13年3月に完成した原子力防災研究プラザ(1階内)において関係機関の協力のもとに、次の活動を実施している。
(1)原子力に関する専門知識を有する要員を配置し、平常時及び緊急時における地方公共団体等が実施する防災活動の支援
(2)消防、警察、医療及び関係機関の職員等の防災業務に従事する者を対象とした、実践的な研修を計画的に実施し緊急時に対応
(3)SPEEDIネットワークシステム端末及び環境モニタリングデータ総合管理システムの設置により、平常時及び緊急時における防災活動に必要な情報の迅速な提供
(4)モニタリング車、サーベイ車等を用いる緊急時の放射線サーベイに備えるとともにこれら技術の調査研究の実施
(5)事故現場近傍で使用する防災モニタリングロボット等、先端的な原子力防災技術の調査研究
(6)地域住民を対象とする、原子力防災に関する知識の普及・啓発

5.原子力安全確保に関する試験研究及び調査
5.1 原子力施設の安全確保に関する調査
 核燃料物質使用施設や試験研究用原子炉施設の安全確保に関する調査として、国内外における事故・故障等の情報を収集し、原因、影響、対策等について分析評価するとともに、それらの情報から得られた教訓等をまとめ、データベースとして体系的な整理を行っている。これらの成果を広く一般に公開するため、インターネットによる情報の発信を行っている。
 原子力施設の廃止措置に伴い発生する放射性廃棄物の低減化のため、廃止措置段階にある研究開発段階炉「ふげん」を活用した物理除染及び化学除染等の研究開発等を行っている。
5.2 原子力安全規制等に関する調査研究
 原子力安全技術センターは、放射線障害防止法に基づき、国に代わり、放射線同位元素使用施設等の検査、定期確認、放射性物質の運搬確認等の業務を実施している。
 これらの技術基準等の整備においては、原子力安全技術センターが実施した現場における経験や実績から取りまとめた調査報告の内容が数多く反映されている。
5.3 放射線安全管理に関する調査研究
 放射線安全管理に関する調査研究としては、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告の国内法令取り入れに関する調査等について必要に応じ調査を実施している。
5.4 放射性物質の安全輸送に関する調査
 放射性物質の輸送の基準策定に資するため、IAEA放射性物質安全輸送規則の改訂に係る調査、検討を行っている。

6.原子力安全確保に関する講習及び普及・啓発
6.1 放射線安全管理講習会
 放射線の安全管理に関する法令、技術の情報を提供するため、放射性同位元素使用事業所等の施設管理責任者及び放射線取扱主任者等を対象として、放射線障害防止中央協議会と共催して毎年札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島、福岡で講習会を開催している。6.2 密封線源取扱実務研修会
 密封線源取扱いに係る安全管理の徹底と放射線業務従事者の教育訓練の一環として、密封線源取扱事業者等を対象に研修会を実施している。
6.3 核燃料物質の安全管理講習会
 核燃料物質の使用に係る安全取扱及び規制の情報についての普及・啓発を行うため、核燃料物質使用者を対象に講習会を随時開催している。
6.4 廃棄確認に関する講習会
 低レベル放射性廃棄物の廃棄確認について廃棄物管理実務者等を対象に講習会を随時開催している。
6.5 技術相談
 放射線障害防止法に係る許認可に関する相談、教育訓練、放射線施設の検査、原子力安全、原子力防災等の相談業務を行っている。
6.6 出版
 原子力安全に関する情報、資料等を収集するとともに、「放射線施設のしゃへい計算実務マニュアル」「記帳・記録のガイド」「最新放射線障害防止法令集」「炉規法溶接検査ハンドブック」「放射性同位元素等事故例」等の出版物を頒布している。
6.7 確認校正の普及
 放射線測定器の適正な維持管理活動に資するために、JIS Z 4511:2005に基づく「確認校正」制度の運用に向けて、確認校正用機器及びマニュアルを作成し、「確認校正」制度の普及・啓発を行っている。

7.その他
7.1 国際交流
 諸外国の原子力安全に係る実情を調査するとともに、規制当局との情報交換を行っている。また、原子力安全技術センターが運用しているSPEEDIネットワークシステムの視察者等の受入れに協力している。さらに、原子力安全に係る国際会議等への参加も進めている。
7.2 原子力・放射線安全管理功労表彰
 原子力・放射線安全管理関係者の更なる意欲の向上と原子力の安全確保及び核物質管理に対する国民の理解の増進に資するために、原子力・放射線安全に尽力して優れた成果を挙げた個人又は事業所等への表彰を、文部科学省の後援、関係機関の共催、協賛のもと、平成15年度より原子力・放射線安全管理功労表彰委員会を設置して行っている。
◎放射線安全管理功労者
◎核燃料物質・試験研究炉等安全管理功労者
◎環境放射能対策功労者
◎原子力防災対策功労者
◎核物質管理功労者
7.3 ISO 9001:2000及びISO/IEC 27001:2005認証取得
 信頼される組織となるための基盤構築を行い維持していくために、品質マネジメントシステムに関する国際規格ISO 9001:2000の認証を取得している。また、一部の組織を対象に情報セキュリティマネジメントシステムに関する国際規格ISO/IEC 27001:2005の認証を取得している。
7.4 特許等
特許「サーベイメータの確認校正器」
【登録番号】特許第4047298号
【登録日】平成19年11月30日
商標登録「SPEEDI」※
【登録番号】登録第5009409号
【登録日】平成18年12月8日
 ※商標権者は(財)原子力安全技術センター及び(独)日本原子力研究開発機構
実用新案「可搬型中性子スペクトロメータ」
【登録番号】登録第3116543号
【登録日】平成17年10月26日

所在地・アクセス
 本部
  〒112-8604 東京都文京区白山5丁目1番3-101号 東京富山会館ビル
  電話:(03)3814-7600 FAX (03)3813-4630
  Eメール:webmaster@nustec.or.jp
  ホームページ:http://www.nustec.or.jp/
  都営地下鉄三田線 白山駅A1出口 徒歩3分
 防災技術センター
  〒039-3212 青森県上北郡六ケ所村大字尾駮字野附1番67
  電話: (0175)71-1185 FAX (0175)71-1175
 西日本事務所
  〒550-0004 大阪府大阪市西区靱本町1丁目9番15号 近畿富山会館ビル9階
  電話:(06)6450-3320 FAX (06)6450-3321

(前回更新:2004年5月)
<図/表>
図1 放射線障害防止法に基づく登録業務の流れ(1)
図1  放射線障害防止法に基づく登録業務の流れ(1)
図2 放射線障害防止法に基づく登録業務の流れ(2)
図2  放射線障害防止法に基づく登録業務の流れ(2)
図3 SPEEDIネットワーク図
図3  SPEEDIネットワーク図

<関連タイトル>
原子炉等規制法(平成24年改正前) (10-07-01-04)
放射線障害防止法 (10-07-01-06)

<参考文献>
(1)(財)原子力安全技術センター(編):要覧、(財)原子力安全技術センター(2010年6月)
(2)(財)原子力安全技術センター:沿革、業務内容紹介等、http://www.nustec.or.jp/
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