<本文>
1.統合保障措置とは
統合保障措置(Integrated Safeguards:IS)とは、追加議定書(Additional Protocol:AP(INFCIRC/540))に規定されている措置と手段が包括的保障措置協定のそれと統合し運用することではじめて、十分な「保障措置の強化と合理化」を可能にするものであり、そのため包括的保障措置と追加的議定書に基づく新しい保障措置を一体化したものである。
従来の包括的保障措置は、申告された核物質の転用がないことを計量管理に基づいて検認するものであるのに対して、追加議定書での新しい保障措置は、IAEAが新たに付与された権限を行使して、当該国に未申告の核物質および原子力活動がないことを確認するものである。そして、統合保障措置は、従来の計量管理に基づく保障措置を基本としつつ、新たな保障措置を単純に強化するだけではなく、保障措置の効果をあげるとともに、両者を一体不可分の保障措置として構築しようとするものである。IAEAでは、追加議定書を発効させた国で、包括的保障措置協定に基づき申告された核物質の転用がなく、また、追加議定書に基づく措置により未申告核物質および原子力活動がないことの結論が導出された場合にのみ、その国に統合保障措置を適用することとしている。2001年7月に、IAEAは国から提出された追加議定書第2条に基づく申告の評価のためのベースライン国別評価報告を54か国に関して作成し、審査が行われ(
図1参照)、まず豪国に対する国レベルでの統合保障措置の適用が決定された。
2.日本の統合保障措置
日本は1998年12月4日に追加議定書に署名し、同議定書は、関連する
原子炉等規制法の改定を経て、1999年12月16日に発効した。次いで、2000年6月、追加議定書第2条に基づく約150のサイト内の建物(合計約5,000)に関する説明を含む冒頭報告をIAEAに提出し、この申告に伴う補完的アクセスを受け容れた。
その後、
軽水炉(LWR)燃料加工施設における
短時間通告ランダム査察(Short Notice Random Inspection:SNRI)の実施、MOX燃料を使用しない軽水炉に対する統合保障措置の適用に向けてのリハーサルの実施等、統合保障措置実施に向けての取組みが精力的に行われてきた。2003年にIAEAによって行われた保障措置活動に基づく評価により、日本において全ての核物質が申告されており、それらが転用されることがなかったとの結論が得られたことから、IAEAから日本に対し2004年9月14日にその翌日より統合保障措置に段階的に移行するとの通知がなされ、統合保障措置が開始された。
現在、軽水炉、使用済み燃料貯蔵施設、研究炉、低濃縮ウラン加工施設での統合措置が実施されている。
3.基本原則
統合保障措置の基本原則は、以下のようになっている;
(1)保障措置協定と追加議定書は、単一かつ統一された保障措置システムであるための一つの文書であり、当事国の法的義務に従って適用される。
(2)
核物質計量管理は、全ての種類の核物質に対する「保障措置の基本的重要手段」として存続し、検認行為は引続き直接利用物質とその関連施設(例えば、
再処理、濃縮施設)に集中される。
(3)特定の保障措置適用パラメータ(例えば、適時性目標、探知確率等)、並びに、ある一定の転用シナリオ(例えば、借入れ、未申告照射等)に関連する保障措置アプローチは、未申告原子力活動の抑止と探知能力が増強されることからも再検討されなければならない。
(4)先進技術(例えば、リモート・
モニタリング)および無通告査察の活用、また国内・地域計量管理制度との協力強化等、保障措置適用の費用対効果の観点から再検討する必要がある。
(5)保障措置手段は、非差別の様態で適用されなければならない。同一の技術目標に対しては、
核燃料サイクルおよび国の特定の状況を勘案した上で同一の手段が適用される。
(6)経費の中立性の公約は統合保障措置開発の境界条件として存続する。
4.統合保障措置アプローチ
上記基本原則に従って、各種タイプの
原子力施設に関して保障措置アプローチが開発されてきている。そのなかには、未照射の混合酸化物(MOX)燃料を保有するものと保有しないものの両方の軽水炉、研究炉、運転中燃料交換炉、劣化・天然・低濃縮ウラン燃料加工施設、そして使用済み燃料貯蔵施設などがある。これら一般的施設レベル・アプローチでは、これらの施設で申告核物質に対して現在要求されているものよりも査察業務量が少なくなることが予測されている。(ただし、これはあくまでもIAEA保障措置の立場に立ってのことであり、国の或いは施設者への負担が少なくなることを意味するものではない。)この査察業務量の減少は、現場での追加的な補完的アクセス作業および評価活動の強化によって部分的に保障されることになる。また、国レベルでの特定の統合保障措置アプローチを設計する作業もIAEAで進捗中である。国レベル・アプローチでは、その国の核燃料サイクル、施設間の相互作用、国内計量管理システムの技術的有効性、そしてIAEAが有効な無通告査察を実施できるか否かが考慮される。
(1)アクセス権の強化
立入権は統合保障措置の非常に重要な側面である。無通告査察と補完的アクセスは、いずれも、IAEAの保障措置結論導出およびそれの維持において重要な役割を果たす。しかし、これらの権利の行使は、IAEAにとって新たな挑戦となっている。
(2)補完的アクセス
追加議定書に基づく補完的アクセスは、選択的に使用されつつある検認の手段であって、決して系統的又は機械的に用いられるものではない。このアクセスは次の三つの目的で使用することが許されている。
a.サイト、鉱山、選鉱工場並びに核物質が存在すると申告されているその他の場所に未申告の核物質および原子力活動が存在しないことを確認する。
b.以前に核物質を保有していた原子力施設およびその他の場所のデコミッショニング状態を確認する。
c.当事国から提供された情報に関する疑義および不一致を解決する。
(3)無通告査察
無通告査察の概念は新しいものではなく、IAEAとの包括的保障措置協定の下でも認められている。追加議定書の下では、少なくとも1年間有効の数次入国ビザの提供により、IAEAの無通告査察を効果的に実施できるように強化されている。無通告査察は、その予測困難性のため、他の複雑で経費がかかる保障措置アプローチと置き換えることができるので、IAEAにとって費用対効果の期待できる手段である。しかしながら、施設者および当事国にとって、施設運転の中断を最小化することと組み合わせた査察体制の開発が肝要である。
(前回更新:2002年12月)
<図/表>
<関連タイトル>
保障措置のあらまし (13-05-02-01)
保障措置のための目標と技術的手段 (13-05-02-04)
包括的保障措置協定の追加議定書 (13-05-02-20)
<参考文献>
(1)(財)核物質管理センター:IAEA保障措置用語集、2001年版対訳(平成17年8月)
(2)(財)核物質管理センター開発部(編集・発行):核物質管理センターニュース(月刊)各号に掲載の次の記事→ピエール・ゴールドシュミット、強化保障措置−現在及び将来の挑戦への対処−(仮訳)、Vol.31、No.8(2002年8月)、p.11-13、Jonathan Sanbornほか、統合保障措置に関する米国の視点(仮訳)、Vol.31、No.7(2002年7月)、p.11-13、小山謹二、保障措置の強化と合理化に向けて、Vol.31、No.3(2002年3月)、p.11-13、保障措置システムの有効性強化及び効率改善並びにモデル議定書の適用−IAEA総会における理事会決議への要請−(仮訳)、Vol.30、No.5(2001年5月)、p.1-6、2001年IAEA年次報告(抜粋・仮訳)−(1)保障措置−、Vol.31、No.11(2002年11月)、p.1-9、ほか
(3)(財)核物質管理センター(編集・発行):核物質管理センター30年史(平成14年6月)、p.61-23、p.81-93
(4)国際原子力機関(IAEA):GENERAL CONFERENCE、
http://www.iaea.org/About/Policy/GC/GC44/Documents/gc44-12.pdf
(5)国際原子力機関(IAEA):Pierre Goldschmidt、The IAEA Safeguards System moves into the 21st Century、5/22-12/22