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国際原子力機関(IAEA)の目的は、(1)世界平和と繁栄のために原子力の貢献を促進し、(2)原子力が軍事転用されないために保障措置を実施することである。この目的の下、IAEAの活動は原子力の平和利用に関する分野と平和利用を担保するための保障措置の分野に大別される。このうち前者の原子力の平和利用の分野で最も大きなウェイトを占めているのが原子力発電および核燃料サイクルの安全確保に関する活動である。
原子力安全確保に係る主要な活動として、国際的な原子力安全基準等の策定、原子力安全に関する国際条約の策定(
表1参照)、安全評価のサービス、原子力安全に関する各種専門家会合等の開催による情報交換等の協力が行われている。
1.IAEA原子力安全基準文書の策定
IAEAでは、IAEA憲章に基づき
原子力施設、
放射線防護、
放射性廃棄物および
放射性物質の輸送等に係るIAEA安全基準文書(IAEA Safety Standards Series)を作成し、加盟国において国際的に調和の取れた安全基準類の導入に貢献するとともに、各国の国内法令の整備にも貢献している。
安全基準文書は、各分野に横断的なものと、原子力施設安全、
放射線防護、放射性廃棄物および輸送安全の各分野別に整備されており、
安全原則(Safety Fundamentals)、
安全要件(Safety Requirements)、
安全指針(Safety Guide)の3段階の階層構造を有する多数の文書(約60報)から構成されている。
安全基準文書の位置付けは、加盟国を法的に拘束するものではないが、加盟国自身の活動の際、国内規制基準として加盟国の裁量で選択して使用することができる。また、安全基準文書とは別に、基準の技術基盤あるいは安全評価サービスの指針等となる技術文書(TECDOC、ガイドライン等)も作成されている。
これらの安全基準文書等は、IAEAが開催する専門家会合等を経て作成されるが、原子力施設、放射線防護、放射性廃棄物および放射性物質の輸送の各分野別にIAEAに設けられた安全基準委員会(NUSSC、RASSC、WASSC、TRANSSC、後述)で審査されるとともに、国際的なコンセンサスを得る観点から、加盟国からのコメントも踏まえ、最終的には上記4委員会を束ねる役割を有する安全基準委員会(CSS)による審査・承認が行われる。
各委員会の構成を
図1に示す。
近年、安全基準文書の一層の有効利用が図れるように、新たな取組みが進められている。分野を横断する安全原則の作成、個別分野としての原子力施設の安全管理やマネージメントシステムに関する検討など、質の向上を目指した検討が進められている。また、炉型や構造の異なる研究炉にどのような安全基準が適切か、
原子力発電所の安全基準を参考に検討が進められている。また、
安全文化の役割が注視され、この課題を安全管理の中でどのように取り扱うかという議論も進められている。
(1)安全基準委員会(CSS:Commission on Safety Standards)
加盟国の原子力、放射線、廃棄物、輸送の安全に関する基準、その他の規制文書を策定する責任を担う上級政府職員で構成される委員会であり、全基準文書に関わる活動全般にわたり審査し、IAEA事務局長に助言を行う。2004年12月現在、21の加盟国および3つの国際機関からの委員により構成されている。
わが国からは、CSSおよび後述のNUSSC、RASSC、WASSC、TRANSSCに委員を派遣するとともに、必要に応じ改訂作業等に専門家を派遣し、活動に貢献している。
(2)原子力安全基準委員会(NUSSC:Nuclear Safety Standards Committee)
原子力安全に関する専門的識見を有する上級政府職員で構成される委員会で、あり、1974年にNUSS計画として策定が開始され、その後の見直し等を経た一群の安全基準文書(原子力発電所の立地、設計、運転、品質保証および研究炉、核燃料サイクル施設等)の策定又は改訂に主要な役割を果たしている。また、IAEA事務局に対し原子力安全に係る助言を行っている。
(3)放射線安全基準委員会(RASSC:Radiation Safety Standards Committee)
放射線防護に関する専門的識見を有する上級政府職員で構成される委員会であり、ICRP(*1)勧告に基づく放射線防護に関する安全基準文書の策定、改訂に主要な役割を果たすとともに、IAEA事務局に対し必要な助言を行う。
主要な安全基準文書として、1996年にWHO等関係諸機関の協力のもとにIAEAが発行した「
電離放射線に対する防護と
放射線源の安全性のための
国際基本安全基準(BSS)」およびその関連指針が挙げられる。放射線防護全般および緊急時対応等に係る安全基準文書の策定等も実施されており、さらにWASSC(後述)との協力のもとに放射性廃棄物等の規制除外、免除、
クリアランスレベルについての検討も行われている。
*1:ICRP(International Commission on Radiological Protection)
国際放射線防護委員会放射線防護のための国際的に調和のとれた基準を策定し、放射線利用に係わる専門家、団体、各国政府に対してその採用を勧告する非政府非営利の学術団体(NPO)。1928年に国際放射線医学会総会により設立。ICRP勧告は放射線防護の基本的原理および方策を示すものであり、世界的に、最も学術的権威のある勧告として受け入れられている。
(4)廃棄物安全基準委員会(WASSC:Waste Safety Standards Committee)
放射性廃棄物に関する専門的識見を有する上級政府職員で構成される委員会であり、1991年にその作業が開始されたRADWASS計画による安全基準文書の策定・改訂について主要な役割を果たすとともに、IAEA事務局に対し必要な助言を行う。
WASSCは、放射性廃棄物の安全管理に関する原則、基準、指針の提供を目的とし、インフラストラクチャー、廃棄物の放出、廃棄物処分前管理(貯蔵、デコミッショニングを含む)等、処分および環境修復に係る安全基準文書の策定を行っている。
(5)輸送安全基準委員会(TRANSSC:Transport Safety Standards Committee)
放射性物質の輸送に関する専門的識見を有する上級政府職員で構成される委員会であり、放射性物質輸送に係る安全基準文書として「放射性物質安全輸送規則」を定めており、各加盟国とも本規則をその国内法令に取り入れることにより国際的な整合のとれた輸送の安全を図っている。TRANSSCは、本規則の改訂および本規則に関連する指針等の策定・改訂に主要な役割を果たすとともにIAEA事務局に対し必要な助言を行う。
このIAEA輸送規則は、現在、1996年版、2000年改訂版、2003年改訂版が公刊され、今後も2年ごとに見直しが行われることとなっている。わが国においては、上述の2003年改訂版を関係規則に取り入れ、一部を除き、2005年1月1日から施行されている。
2.国際原子力安全諮問グループ(INSAG)の活動
前述の安全基準委員会(CSS)とは別に、国際原子力安全諮問グループ(INSAG:International Nuclear Safety Advisory Group)が1985年3月、国際的に重要な原子力安全問題一般について情報交換やIAEA事務局長への勧告を行う諮問機関として事務局長の下に設置された。
INSAGのこれまでの活動として、1986年にはチェルノブイリ原子力発電所事故に関し、事故後評価専門家会合を開催し、事故原因を分析した報告書を取りまとめた。さらに、1988年には原子力発電所の基本安全原則、1991年には安全文化についての報告書、1996年に
深層防護についての報告書、1999年にはすべての放射線源の安全管理原則についての報告書等を取りまとめるなど、原子力安全全般に係る活動を行っている。以上の活動にはわが国からも専門家が参加している。
なお、INSAGは、IAEA事務局長への勧告のみならず、重要な原子力の安全問題の検討を行うために、2003年11月より国際原子力安全グループ(International Nuclear Safety Group)として再編された。
3.核燃料サイクルと廃棄技術に関する活動
安定した原子力開発を進める上で、長期的な核燃料サイクルの動向を見極めることは重要である。
IAEAは、経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)と協力し、従来から、「ウラン資源、生産および需要」に関する報告を作成している。最近、東欧諸国の加盟国よりウラン資源に関するデータの提供が開始され、世界のウラン需給関係の情報が充実してきた。
核燃料分野においては、燃料の製造、使用時の信頼性向上、品質管理に重点が置かれ、バック・エンドに関しては、使用済み燃料貯蔵の安全性、経済的・技術的側面の検討に重点が置かれている。
核兵器解体に伴う
プルトニウム等および平和利用のプルトニウムに対する世界的な関心の高まりを背景として、1992年12月および1993年11月、IAEAによるプルトニウム国際管理に関する非公式会合(アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国、日本、ドイツが参加)が開催された。同会議においては、プルトニウム等の管理状況の透明性を向上することがまず重要であること等につき認識が一致した。
このような透明性向上等のための国際的枠組みによる検討は、IAEA非公式会合に参加していた7か国から、プルトニウムの平和利用を進めている国であるベルギーおよびスイスを加えた9か国による検討に移行し現在検討中である。
<図/表>
<関連タイトル>
国際原子力機関(IAEA) (13-01-01-17)
IAEAにおける原子力防災対策 (10-06-02-04)
<参考文献>
(1)原子力安全委員会(編):原子力安全白書 平成16年版(2005年5月)、p.197−199
(2)日本原子力産業会議(編):原子力年鑑 2001/2002年版(2001年11月)、p.462−463
(3)国際原子力機関(IAEA):
http://www.iaea.org/ns