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<概要>
 原子力発電所では、その運転により原子炉内に核分裂によって多量の放射性物質が発生,蓄積される。また、再処理施設では、使用済み燃料に蓄積された多量の放射性物質(核分裂生成物)が処理される。したがって、これら原子力施設においては、放射性物質が周辺環境に放出されることによる潜在的な危険性を顕在化させないよう、設計・建設・運転の各段階を通して安全対策を講じ、平常運転時には放射性物質を確実に管理するとともに異常の発生を未然に防止し、また、異常が発生したときには事故への拡大防止を図り、放射性物質の放出を防ぐことが安全確保の基本的考え方となっている。
<更新年月>
2008年12月   

<本文>
 原子力施設の代表的な施設である原子力発電所では、運転に伴って核分裂による多量の放射性物質が発生する。また、再処理施設では、使用済み燃料に蓄積された多量の放射性物質(核分裂生成物)が処理される。したがって、放射性物質を確実に管理し、放射線の影響から国民の健康と安全を護ることが原子力の安全確保の基本となる。原子力発電所や再処理施設などの原子力施設では、次のような基本的な考え方に基づいて安全の確保が図られている(図1参照)。
 第1に異常の発生を防止するため、十分に信頼性を持った設計、製作をすると共に、機器の故障や人的なミスがあっても異常発生に繋がらないような工夫をし、原子力施設で発生又は存在する放射性物質をできるだけ原子力施設の内部に閉じ込め、平常運転に伴って環境に放出される放射性物質による周辺の人々の受ける線量を、法令に定める限度以下にする。さらに、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に従い、合理的に達成できる限り放射性物質の放出を極力低くするよう管理されている。
 第2には、異常の発生を未然に防止するだけでなく、もし仮に異常が発生したとしても、それが事故にまで拡大し、周辺の人々に放射線障害を及ぼすことのないように、十分な事故拡大防止対策が講じられている。
 第3に、万一の事故により放射性物質の放出が生じた場合にも、放出に対する多重の防護壁を講ずるなどにより、影響を最小にするための事故緩和機能が備えられている。
 このように、多重に防護対策を取ることを「多重防護」あるいは「深層防護」と言い、安全設計の基本的な考え方になっている。(表1)原子力発電所の場合では、異常を検知するとまず原子炉を緊急に「止める」仕組みが働き、次に緊急に「冷やす」装置が備えられ、安全に原子炉が停止する。さらに万一の漏れの発生に備えて、原子炉施設全体を丈夫な容器(格納容器)で囲み、放射性物質を「閉じ込める」設計となっている。放射性物質の放出に対する障壁としては、放射性物質を保持する核燃料ペレット、これを密封する燃料被覆管、さらに原子炉圧力容器、格納容器、原子炉建屋、の5つの障壁が備えられている。
 この多重防護の考え方に基づいて、安全性・信頼性の高い設計、厳重な品質管理による製造・建設、十分に教育訓練された運転員による運転、綿密な保守・点検などの安全確保対策が講じられている。
 さらに、現実に起るとは考えられない万一の事故を想定した場合でも、周辺の人々の安全を確保できるように、原子力施設は、安全防護設備との関連において、周辺の人々から十分に隔離が図られるような立地条件を確保するとともに、万一の放射性物質の放出に備えて施設周辺住民の避難も想定した原子力防災対策が整備されている。
 また、これらの基本的考え方に基づいて、安全確保の対策が確実に講じられているかどうか、設計、建設、運転の各段階において、設置許可、工事計画認可、使用前検査、定期検査などの国による厳重なチェックがなされるとともに、原子力安全委員会において安全審査のダブルチェックや安全確保上必要な事項について調査審議が行われ、安全確保のための厳しい規制体制がとられている(図2参照)。
 さらに安全に関する各種の試験・研究が進められ、安全確保対策に反映することによって原子力施設の安全性を一層向上させる努力が続けられている。
<図/表>
表1 安全設計の基本的考え方
表1  安全設計の基本的考え方
図1 原子力発電所の安全確保の仕組み
図1  原子力発電所の安全確保の仕組み
図2 原子力施設の安全規制の概要
図2  原子力施設の安全規制の概要

<関連タイトル>
原子力施設に対する国の安全規制の枠組 (11-01-01-01)
多重防護の考え方による事故防止 (11-01-01-06)
発電用原子炉の安全規制の概要(原子力規制委員会発足まで) (11-02-01-01)

<参考文献>
(1)原子力安全委員会(編):原子力安全白書 平成18年版、佐伯印刷(2007年7月)
(2)電気事業連合会(編):原子力・エネルギー図面集 2008年版
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