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<概要>
 米国の次世代教育は、わが国とは異なり、全国民が参加して一体となって進められている。教育省は、教育に関しては教育のしかたに関する研究開発が主な使命で、教育は州・地方自治体の所掌である。科学教育は特に重視され、教育基準にしたがって進められている。エネルギーは定量的に計量できる実体として理解させるよう体系化されている。教育は学校が進めるものであるが、これを支えるために、全米のあらゆる階層が参加したネットワークが構築されており、学生、親、教師、団体などは、自由にこのネットワークにアクセスして、有用な情報を得ることができる。また、教育は大統領が直接関与する問題となっている。
<更新年月>
2003年10月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.米国の科学教育基準
 欧米、特に米国では、次世代の科学技術教育に国を上げて取り組んでいる。米国教育界は次世代の生産性を確保するためには、サイエンスの教育が重要であるというので、早くから取り組んでいる。
 米国では、教育は州及び地方自治体の所掌事項で、学校を創り、カリキュラムを開発するのは州、コミュニティ、公共並びに個人組織である。学校には、2002-2003年間に約7700億ドルが使われているが、その90%は州、地方、個人からの資金である。残りの10%が連邦の費用で、これには教育省以外の費用が含まれている。教育省の教育費は632億ドル(6%)、2003会計年度の連邦全予算2兆2千億ドルの2.9%に過ぎない。
 全米学術会議(National Academy)傘下の全米研究審議会(National Research Council)は、科学教育の基準を検討し、1995年迄に原案を作成し、1996年に公布した。この根底にある以下の思想は、米国の科学技術の考え方を現している。
 「米国はすべて個人も社会も、科学の読解(読み書き)力に支えられている。科学の理解力によって、すべての人がそれぞれ自然界の豊かさと面白さを分かち合うことができる。科学の理解力によって、科学の原理やプロセスを個人的な意思決定に使い、社会に影響する科学的問題の討論に参加することができる。健全な科学的基盤は、人々が日々使う多くの技能、問題を創造的に解決するとか、批判的に考えるとか、チームの中で協同的に働くとか、技術を効果的に使うとか、生涯学習を尊重するとかのような活動を強化する。米国の経済的な生産性は、米国の総労働の科学的・技術的技能と緊密に結びついている」
 科学教育内容(National Science Education Standards:NSES)は、すべての学生が科学の理解力を身につけることを目標と定め、21世紀の世界に関する科学的理解力を付与するための科学教育の未来像を明確に述べるものとして用意されている。以下のように、社会のあらゆる階層の人々が科学教育に参加することを求めている。
 教師、科学行政官、教科課程開発者、出版者、博物館・動物園・科学センターの職員、科学教育者、科学者・エンジニア、学校管理者、学校理事会員、親、商工業社員、立法者及び公務員。
 実際、米国のエネルギー教育も、この科学教育の一環として、位置付けられ、全国民的な支援の下に進められている。

2.科学教育内容の中のエネルギー
 NSESでは、科学教育は以下の8項目の内容に分類されている(表1表2)。
 「科学の概念と過程の統合」、「探求としての科学」、「物質の科学」、「生命科学」、「地球と宇宙の科学」、「科学と技術」、「個人と社会の繁栄の科学」、「科学の歴史と性質」。この中には、学生が理解して欲しいことが示されている。
 エネルギーは、学齢5〜8(K5〜8)から現れる(表2)。「物質の科学」の中のエネルギーの移動がそれである。この中で「エネルギーは多くの物質の特性で、熱、光、電気、機械の運動、音、原子核及び化学的性質と関連している。エネルギーはさまざまな方法で移動する」ことを理解させ、熱、光、電気回路、化学及び原子核反応のエネルギー移動の仕方を理解させ、最後に、「太陽は地表のエネルギーの主な源である。太陽は光を放出することによってエネルギーを失う。その光のほんの一部が地球に届き、エネルギーを太陽から地球表面に移す。太陽からのエネルギーは波長が可視光、赤外、紫外放射線の範囲の光として地球に到着する」を理解させることとなっている。
 学齢9〜12(K9〜12)では、エネルギーに関係した内容はもっと多くなる(表3)。
 「物質の科学」の中で、エネルギーの保存と無秩序性(エントロピー)の増加、エネルギーと物質の相互作用として扱われる。エネルギーの保存では、エネルギーが衝突によって伝達されること、エネルギーの形態には運動エネルギー、位置のエネルギー、場のエネルギーがあること、熱エネルギーはランダム運動や振動のエネルギーであること、時間とともにエネルギーは一様に広がってしまうこと、これらの定量的関係を理解することを求めている。エネルギーと物質の相互作用では、「音波、地震波、波、光波はエネルギーを持ち、物質との相互作用によってエネルギーを伝達することができる。電磁波は、荷電物体が加速・減速される時に発生する。そのエネルギーの大きさは波長に逆比例するパケット(束)によって運ばれる。原子や分子は離散的な量だけエネルギーを獲得したり、失ったりして、この離散的量に対応した波長の光を放出し、または吸収する。この波長は原子・分子に固有である」ということを理解させようとしている。
 「生命科学」では、生態系の中の物質、エネルギーの構成で、細胞の中のエネルギー、光合成、生態系とエネルギー、その獲得の方法などを理解させようとしている。
 「地球と宇宙の科学」では、地球の中のエネルギーで、地球の内部及び外部のエネルギー、気候の変動とエネルギー、地球化学サイクルとエネルギーを対象としている。
 「個人と社会の繁栄の科学」の中では、天然資源、自然と人工の災害とエネルギーについての理解を求めている。
 「科学の歴史と性質」では、科学的知識の性質で、「サイエンスは実験・観察を基にして成り立っているから、新しい知見によって変わることもある。しかし、エネルギーの保存と運動の法則のような概念は、恐らく変わらないであろう」等の理解を求めている。

3.科学教育の支援活動
 科学教育のように幅広い内容をもつ分野の教育には、社会のあらゆる階層の種種の人々の参画が必要である。科学教育の支援活動には、連邦・州政府は言うに及ばず、研究機関、大学、企業、多くの団体が参加している。支援活動の内容も、カリキュラム作成の支援、教師の教育、学生の学習材料の提供、見学会、ワークショップ、校外実験、体験学習、論文募集等多彩である。また、図書館、資料センターなども開設され、パソコンからオンラインでアクセスして、資料を得ることができる。
 これら支援活動は、公開のウェブサイトによって見ることができ、学生、教師、親、学校、教育行政官、その他関心のある人達は、サイトを開けて利用することができる。
3.1 連邦・州レベルの支援
 エネルギー教育の中心は、エネルギー省である。エネルギー省のホームページでInformation for Teachers and Studentsを開けると、「サイエンス、数学と技術の教育を進展させることはエネルギー省の重要な使命である」としている。この中の「Learn About Energy」を開けると、「Energy, Science, and Technology Information」、傘下の研究所で進める「Education Web Sites at DOE Labs and Facilities」、及び「DOE Kidszone」への3つのリンクがある(図1)。
 「DOE Kidszone」は高学齢向きの再生型エネルギー、エネルギー節約、エネルギー効率に関する少し堅い解説をしている(図2)。
 「Energy, Science, and Technology Information」は、エネルギー省の科学・技術情報局(Office of Nuclear Energy, Science, and Technology)へのリンクで、マンハッタンプロジェクト以来今日までのエネルギー、サイエンス、技術開発の豊富な情報にアクセスできる。
 「Education Web Sites at DOE Labs and Facilities」は、エネルギー省が1983年以来進めている、傘下の研究所の科学教育活動と科学教育のための資料センターのウェブサイトである。必ずしも、エネルギーに限っているわけではなく、地質時代、原子核、化学、環境問題なども含んでいる。例えばローレンス・バークレイ研究所(図3)を開け、次のカリフォルニア・サイエンス・プロジェクトを開けると、これは大学ベースの専門教師養成プロジェクトで、この州全域に渡るネットワークはカリフォルニアの全ての学生の科学教育を改善することを目的としており、ウェブサイトはカリフォルニアの総合及び単科大学に置かれ、教育はカリフォルニアの科学教育内容に基づいているとある(参考文献(6))。カリフォルニア科学教育内容は勿論NSESに基づいている。研究所が大学、州政府等とも連携して、教育基準に即して教育用プログラムを展開している様子がよく分かる。多くの国立研究所でも同様である。これら教育用のサイト・リソースは、常時、改定・統合されている模様である。
 エネルギー教育全般は、エネルギー情報管理局(Energy Information Administration:EIA)が管理している。ここからは種種のエネルギー教育・訓練のクラスに参加できる。また、「EIA Kid's page」を管理している(図4)。これは「DOE Kidszone」と同レベルであるが、画像を交えて、とりつきやすい形で解説が行われている。また、ここから[Online Resources]を見ることができる。この中には、政府資料へのリンクばかりでなく、企業や後述の非営利団体へのリンクもある。上述の各研究所は、州政府や、地方のコミュニティと密な連絡を保って、科学教育内容に従った教育、教師の教育、教育用教材の開発、教育用ウェブサイトの運営・保守に当っており、これに多くの教師や学生の団体、企業が参加している様子が読み取れる。[Office of Nuclear Energy,Science and Technology]はエネルギー省の一部で原子力の情報を用意している。また、学生や教師は[Public Information Center]を訪れても、情報が得られる。
3.2 非営利団体の支援活動
 非営利団体として、以下のような多くの団体がある。
・National Energy Foundation(NEF:全米エネルギー財団)は、非営利の教育団体で、教師の訓練、学生の教育プログラム、教材等の開発と配布で指導的立場にある。企業、政府部局、教育団体との協力的な共同関係は、NEFのプログラムとサービスに多大の支援となっている。
・National Energy Education Development(NEED:全米エネルギー教育開発)は、学生、教師、コミュニティ、EIA、州政府部局及び企業のエネルギーの学習に専念するネットワークである。実験や演習問題などの資料が得られる。
・National Science Teachers Association(NSTA:全米科学教師協会)は、エネルギーの入門用サイトで、エネルギー全般について論じ、教育者用の授業プラン、実験も含まれている。
・Northeast Sustainable Energy Association(NSEA:北東部持続型エネルギー協会)は、最大の地域エネルギー協会で、公衆と職業人の教育、弁護、政策的情報に主導的な力を持つ。
・Solar Energy International(SEI:国際太陽エネルギー)は、太陽、風力、水力などの実地についてワークショップで教える教育団体で、学校の太陽エネルギープログラムで再生型エネルギーとエネルギー効率を子供達に教えている。

4.補遺
 2002年1月8日ブッシュ大統領が「遅れた子供を作らない法令」(No Child Left Behind Act)に署名して以来、米国教育省は、この画期的な法令を実施すべく働いている。
<図/表>
表1 等級K-4の内容
表1  等級K-4の内容
表2 等級K-5〜8の内容
表2  等級K-5〜8の内容
表3 等級K-9〜12の内容
表3  等級K-9〜12の内容
図1 エネルギー省のInformation for Teachers and Studentsページ
図1  エネルギー省のInformation for Teachers and Studentsページ
図2 エネルギー省のDOE Kidszone
図2  エネルギー省のDOE Kidszone
図3 ローレンス・バークレイ研究所の教育サイト
図3  ローレンス・バークレイ研究所の教育サイト
図4 エネルギー省EIAのKid's Pages
図4  エネルギー省EIAのKid's Pages

<関連タイトル>
中学・高校の原子力・放射線の教育 (10-08-02-01)
エネルギー・環境に関する教育 (10-08-02-02)
米国の科学教育プログラムとその背景 (10-08-03-01)
英国におけるエネルギー教育 (10-08-03-03)

<参考文献>
(1) National Committee on Science Education Standards and Assessment, National Research Council:National Science Standards,The National Academies Press(1996);www.nap.edu/catalog/4962.html
(2) 米国エネルギー省:What We Do, www.ed.gov/about/landing.jhtml
(3) 米国エネルギー省:Information for Teachers and Students, www.energy.gov/engine/content.do
(4) 米国エネルギー省:DOE Kidszone, www.energy.gov/engine/content.do?BT_CODE=KIDS
(5) ローレンス・バークレイ研究所(Lawrence Berkeley National Laboratory):Educational Web Sites, www.lbl.gov/Education/index.html
(6) カリフォルニア・サイエンス・プロジェクト(California Science Project(CSP)):csmp.ucop.edu/csp/
(7) 米国エネルギー省:EIA Kid's Page, www.eia.doe.gov/kids/
(8) エネルギー財団(National Energy Foundation(NEF)):www.nef1.org/
(9) エネルギー教育開発(National Energy Education Development(NEED)):www.need.org/
(10)科学教師協会(National Science Teachers Association):www.nsta.org/Energy/find/primer/index.html
(11)北東部持続型エネルギー協会(Northeast Sustainable Energy Association):www.nesea.org
(12)国際太陽エネルギー(Solar Energy International):www.solarenergy.org/
(13)長洲 南海男:米国におけるエネルギー教育の新しい方向、〔特集〕エネルギー教育、エネルギー・資源 vol.20 No.3 pp.37-41(1999)
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