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<概要>
 英国では、1988年の教育改革法(Education Reform Act)に基づいて、ナショナル・カリキュラム(National Curriculum:NC)が設定されている。現在は2002年に改訂されたNCで、教育が進められている。この中で、エネルギー教育は年齢11-14才(学齢7-9)のサイエンス(教科)から現れてくる。特に年齢14-16才(学齢10-11)のサイエンスの中の「物理的過程」のエネルギー資源とエネルギーの伝達の中に顕著に現れる。また、持続的発展に関する教育に軸足を移しつつある。英国のサイエンス教育には教師達の組織する学会があって、積極的な活動をしている。原子力関係の企業もエネルギー教育に参加している。米国のように、国立の研究機関が参加しているかどうかはよく分からない。
<更新年月>
2003年10月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.ナショナル・カリキュラムとサイエンス(科目)
 欧米では1980年代からサイエンス、特にエネルギー教育の必要を認識し、その改革に取り組んできている。英国では1988年の教育改革法(Education Reform Act)に基づいて、ナショナル・カリキュラム(National Curriculum:NC)が設定されている。 1988年の教育改革法と1997年の教育法(Education Act)は、すべての学校が生徒に以下のようなカリキュラムを用意するよう要求している(表1)。
 「調和が取れて広い基礎に立ち、生徒の精神的、道徳的、文化的、知的かつ肉体的発育を促進し、大人の人生の機会、責任、経験について教え、加えて、宗教教育、性教育を含めて教育する。」
 NCは義務教育課程の生徒のために最低限の教育の権利を定めるもので、これは学校の全教科課程を構成するものではない。学校はその必要性と置かれている環境に応じて、教育の全課程をつくる裁量権がある。NCは5-16歳のすべての生徒に適用される。インディペンデント・スクールには適用されないが、これを準用している。 このNCに含まれる科目を表1に示す。サイエンスは数学とともに必須科目である。
 NCは、すべての生徒のために完全な学習の権利を示すものとして作成されており、教えられるべき内容を示し、学習の到達目標を定めている。また、能力をどのように評価し報告するかを定めている。NCは、生徒達が学校で獲得する技能と知識について、教師、生徒、親、雇用者、地域社会に明瞭かつ共通の理解を与えるものである。カリキュラムの下で、学校は生徒の個々の必要性に応じて、個性、地域社会に根をおく気風(エートス)を伸ばすことができる。教育に携わるすべての関係者が学習途上にある若い人を支援する枠組を定めるものである。
 NCは、2002年8月以来、中学校の教科として「市民権」を加えている。市民権とデモクラシーの教育は、現代のデモクラシーの中で、市民としての生徒が役割と責任を理解するのを助けるものとして用意され、生徒が学校や社会生活で、難しい道徳的かつ社会的な問題を扱うのを助けるようになっている。また、個人的、社会的健康の教育の枠組も用意されている。これは、教育の目的が、生徒が個人、親、勤労者、社会のメンバーとして、自信を持って健康な独立した人生を生きていくに必要な技能、知識、理解を伸ばすのを助けることにあるということに由来する。

2.サイエンス教育の中のエネルギー
 表1に示したNCの中のキーステージ4〜4のサイエンスの内容を表2表3表4および表5に示す。キーステージ4(KS4)には、Single ScienceとDouble Scienceがあり、後者の方が習得する内容が2倍となるが、ここではSingleの方を示した。
 キーステージ1(KS1)の「科学的質問」(Science Content1:SC1)の「科学の考え方と証拠」では、生徒に、「質問に答えようとするときは、観察と測定によって証拠を集めることが重要であること」を教えるように言っている。以下で「A>B」はAの中のBの意である。
 NCの中で、エネルギー教育は、KS3(学齢7-9)の「物質と性質」(SC3)>「変化する物質」中で、物質の状態変化とエネルギーの伝達、および「物理的過程」(SC4)>「電気と磁力」>「回路」中で、電池や他の資源からのエネルギーの伝達で扱われている。また、「エネルギー資源とエネルギーの伝達」>「エネルギー資源」、「エネルギーの保存」中で、以下のように取り扱われている。
「エネルギー資源」
a.石油、ガス、石炭、バイオマス、食物、風、波、電池などの多様なエネルギー資源、および再生可能と再生不能な資源の区別
b. 太陽と石油、石炭、ガスの関係
c. 発電とエネルギー資源
「エネルギーの保存」
d. 温度と熱の相違、温度差とエネルギーの伝達
e. エネルギーの伝達および貯蔵の方法
f. 伝導、対流、蒸発による粒子の運動にともなうエネルギーの伝達、輻射によるエネルギーの伝達
g. エネルギーは保存されるが、常に消散し資源としての有効性が失われていく。
 KS4では、「物質とその性質」(SC3)>「挙動のパターン」の中で、種種の化学変化の割合および粒子の衝突エネルギーについて、「エネルギー資源とエネルギーの伝達」(SC4)>「エネルギーの伝達」の中で、高温物体から低温物体へのエネルギーの伝達を妨げる絶縁体について、エネルギーの効率的利用とエネルギー資源の経済的利用の必要性について、およびエネルギー生産における環境問題について取り扱われている。
 サイエンスと関連して、重要なのが表現の技術である。表1に示すように情報伝達技術(Information and Communication Technology)を習う機会が与えられている。この技術として、絵、コラージュ、印刷物、デジタル媒体、テキストファイル、彫刻等がある。ハードウェアとして使用されるものは、インターネットに接続するパソコン、インタラクティブホワイトボード、データプロジェクタ、デジタルカメラ、ビデオカメラ、グラフィックス用タブレット、音声装置、スキャナー等、ソフトウェアとしては、描画・修正用ソフト、製図用ソフト、グラフィックス表示用ソフト、クリップギャラリー、ワードプロセッサー、ウェブ作成ソフト等がリストアップされている。

3.サイエンス教育の支援
 英国には、教育を支援する種種の団体がある。
3.1 国レベルの支援
 Qualification and Curriculum Authority(資格・カリキュラム規制局:QCA)は、学校のテストを行う重要な使命を持っている機関である(図1)。生徒は7歳、11歳、14歳(KS3学齢9歳、最後のテスト)で国のテストを受ける。このテストの目的は、教師が生徒の学力と弱点を評価し、科目で何を理解しているかを知るために行われるものである。QCAは2000年2月教育相から、NCの評価(Assessment)のレビュー、すなわち、国語、数学、科学テストで強化すべき箇所を同定するよう依頼された。QCAはカリキュラムの改訂も念頭に置いて、教師達、教務主任達、教師協会、地域の助言者等と2年間に亘って検討を重ね、学校でテストの試行をし、生徒や教師達と結果について議論して、2003年のテストにまとめている。QCAは国家資格も扱っており、これらの関連で教育と訓練のアドバイザーとして活動している。
 QCAはNC関係のいろいろの情報を扱っている。Curriculum and Assessmentページ(図2)では、NC関連の資料にアクセスができる。このページを開いて「Tests and tasks」>「Assessing progress in science information leaflets」を開くと、「Assessing progress in science at key stage 1, 2 and 3」を開くことができる。このページは、教師を支援する教材が出版されることを広告して、下の方に次のようなサンプルが示されている。
 Key stage1−Teaching and learning sequence:materials
 Key stage2−Teaching and learning sequence:living things in their environment
 Key stage3−Teaching and learning sequence:materials
 Key stage1には、物質についての教え方が懇切に示されている。
 「Tests and tasks」>「Key stage3」を開けると、上述の2003年テストの情報と手引きである小冊子「Key stage33Assessment and reporting arrangements for 2003」にアクセスできる。このコピーは各学校に配られ、学校及び教師はテストの準備をすることになる。
 National Curriculum Onlineは、NCをダウンロードできるサイトである(図3)。また、水泳、水の安全、学習の障害がある生徒への教育、才能ある優秀な生徒への教育に関する教育の手引きを与えている。持続的発展に関する教育は、エネルギーと関係の深い事柄で、新しい科目ではなく、従来環境教育中にあったもので、統合的な扱いを求めるものである。
 教師訓練局(Teacher Training Agency:TTA)は、教える人をリクルートして、有能な献身的な教師の数を増やすこと、新入教師の初期教育と誘導の質を上げること、初期教師教育が広い範囲をカバーする様にすること、全ての関係者と効率的にうまく意志疎通を図ること、サービスの質の向上を図ることを目標としている(図4)。政府は、2006年までに、10,000人の教師の増員を必要としている。最優先課題は良い人をリクルートすることであるとしている。[Useful links]を開くと、有用なサイトにアクセスできる。この中には、政府関係のサイトは勿論、タイムズなど民間のサイトもある。
3.2 民間の支援
 民間団体として代表的なサイエンス教育学会(Association for Science Education:ASE)は、後援者として、エジンバラ公爵フィリップ殿下を頂く組織であり、サイエンス教師の専門的学会である(図5)。1963年に、サイエンス教師学会と女性サイエンス教師学会の合併によって設立された。沿革は1900年イートン校の4人のサイエンス教師の書簡にさかのぼり、1901年1月に最初の年会が開催され、パブリック・スクール・サイエンス教師学会が結成された。現在会員は、小・中学校教師から師範学校の技術者までを含む、約2万人を数え、約3,500人の学生を含んでいる。ASEは出版事業を行う。月刊誌の他、サイエンス教育、小学校サイエンス・レビュー、学校サイエンス・レビュー、サイエンス教師教育等、年間約10冊を刊行している。このサイトによって、多くの資料を知ることができるが、資料は3〜20ポンドで低価格ながら、全て有料である。参考文献(7)に示されたSATISについても、全て有料であり(4.5〜10.0ポンド)、詳しいことを見ることはできない。ただ、資料は1992〜1997年に、その大部分は1996年に出版されて改訂はされていない様である。このサイトの[Resources]>[Web Links]とアクセスすると、図6のようなページが開く、この中には、裁定・規制機関、専門学協会、科学的技術提供企業、出版社、企業、その他の教育関連機関のリストがある。
 エネルギーと関連の深い企業として代表的2社を開いて見よう。
BNFLサイトには、教育のページがあり(図7)、原子力発電所の解説、放射線の科学、コールダーホール訪問センターの紹介、BNFLの世界での活動状況の紹介がある。
・British Energyサイトにも、教育のページがある(図8)。内容は、電気のこと、事典、ゲーム、関連ある企業や機関へのリンクからなる。電気のページでは、KS2及びKS3にあわせた解説が用意されている。事典には、ウラン、チェルノブイル、グリーンハウス効果と地球温暖化等、20件の問題が解説されている。
<図/表>
表1 ナショナル・カリキュラムの学齢と科目
表1  ナショナル・カリキュラムの学齢と科目
表2 キーステージ1の内容
表2  キーステージ1の内容
表3 キーステージ2の内容
表3  キーステージ2の内容
表4 キーステージ3の内容
表4  キーステージ3の内容
表5 キーステージ4の内容
表5  キーステージ4の内容
図1 Qualification and Curriculum Athorityのウェブサイト
図1  Qualification and Curriculum Athorityのウェブサイト
図2 QCAのCurriculum and Assessmentページ
図2  QCAのCurriculum and Assessmentページ
図3 National Curriculum Onlineのウェブサイト
図3  National Curriculum Onlineのウェブサイト
図4 Teacher Training Agencyのウェブサイト
図4  Teacher Training Agencyのウェブサイト
図5 Association for Science Educationのウェブサイト
図5  Association for Science Educationのウェブサイト
図6 ASEのWeb Linksページ
図6  ASEのWeb Linksページ
図7 BNFLの教育ウェブサイト
図7  BNFLの教育ウェブサイト
図8 British Energyの教育ウェブサイト
図8  British Energyの教育ウェブサイト

<関連タイトル>
中学・高校の原子力・放射線の教育 (10-08-02-01)
エネルギー・環境に関する教育 (10-08-02-02)
米国の科学教育プログラムとその背景 (10-08-03-01)
米国におけるエネルギー教育 (10-08-03-02)

<参考文献>
(1) National Curriculum Online:
(2) Qualification and Curriculum Authority:http://www.qca.org.uk/
(3) Teacher Training Agency:
(4) Association for Science Education:http://www.ase.org.uk/
(5) BNFL:
(6) British Energy:http://www.british-energy.com
(7) 柄山 正樹:イギリスにおけるエネルギー教育の現状、〔特集〕エネルギー教育、エネルギー・資源、Vol.20 No.3 pp.32-36(1999)
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