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<概要>
 技術士試験の技術部門については、科学技術の進展等にあわせ、概ね5年ごとに見直すことになっている。2001年11月に、日本原子力学会から文部科学省 科学技術・学術政策局へ「原子力部門の技術士」設置の要望が出され、科学技術・学術審議会において検討され、設置について分科会が答申し、2004年度の技術士試験から「原子力・放射線」部門が新設されることになった。
 「原子力・放射線」部門の必要性として、原子力技術の社会的役割、総合技術としての原子力技術が評価されるとともに、近年の原子力システム関連トラブルの発生等を踏まえ、原子力システムの安全性との関わりを深めるために、技術者一人ひとりが組織の論理に埋没せず、常に社会や技術のあるべき姿を認識し、意識や技術を向上させる仕組みとして、技術者倫理や継続的能力開発が求められる技術士資格を活用することが有効であると判断された。
<更新年月>
2004年06月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.技術士とは
1.1 技術士制度
 技術士制度は、技術士法(昭和32年制定、昭和58年全面改正)に基づき、科学技術に関する高度の専門的応用能力を必要とする事項についての計画、研究、設計等の業務を行う能力を有する者を、「技術士」として認定することにより科学技術の向上と国民経済の発展に資することを目的として、創設された。
 技術士は、医師や建築士のような業務独占資格ではなく、技術士試験に合格した者のみが、「技術士」と名乗ることができる「名称独占」の国家資格であり、業務と直接結びついたものではない。しかし、技術士が関わる業務の技術水準の高さが着目され、業務を所管する省庁の法令により、業務と連動した資格として活用されてきた。例えば、技術士でなければ建設コンサルタント登録ができない場合が多く、土木業務に関連する技術士資格は、優位な取り扱いがなされている。図1に示すように、建築部門の技術士登録者数は、他に比べて圧倒的に多い。
1.2 技術士試験
 技術士となるためには、以下に掲げる20の技術部門ごとに行われる技術士試験に合格するとともに、登録を行うことが必要である。2003年3月末現在、技術士登録者数は約5万人である。
・21の技術部門(2004年度まで):
 機械、船舶・海洋、航空・宇宙、電気電子、化学、繊維、金属、資源工学、建設、上下水道、衛生工学、農業、森林、水産、経営工学、情報工学、応用理学、生物工学、環境、原子力・放射線、総合技術監理
 技術士試験は、第一次試験及び第二次試験からなり、第一次試験を合格した者が、所定の実務経験年数を経た後、第二次試験に合格すれば技術士になることができる。
・第一次試験(筆記試験)
 理工系大学卒程度の専門学力等を確認。基礎科目、共通科目、適正科目(いわゆる技術者倫理)及び専門科目からなる。
・第二次試験(筆記試験及び面接試験)
 技術士になるに相応しい高度の専門的応用能力を確認。必須科目及び選択科目からなる。技術士試験に関する基本的な仕組みを図2に示す。
2.「原子力・放射線」部門の新設
2.1 経緯
 技術士試験の技術部門については、科学技術の進展等にあわせ、概ね5年ごとに見直すことになっている。
 2001年11月に、日本原子力学会から文部科学省 科学技術・学術政策局へ「原子力部門の技術士」設置の要望が出された。2002年12月から科学技術・学術審議会・技術士分科会において「原子力・放射線部門」設置の検討が始まり、翌年6月に技術士の新たな技術部門として、この部門を設置する分科会答申が出され、2004年度の技術士試験から「原子力・放射線」部門が新たに追加されることになった。
 これは、近年の原子力システム関連トラブルの発生等を踏まえ、技術者一人ひとりが組織の論理に埋没せず、常に社会や技術のあるべき姿を認識し、意識や技術を向上させる仕組みとして、技術者倫理や継続的能力開発が求められる技術士資格を活用することが有効であると判断されたからである。
 対象とする分野は、原子炉システム技術、核燃料サイクル技術、放射線に関する技術とする。部門名称は、放射線利用等に係る技術者も対象とすることを明確にするために、「原子力・放射線」部門とする。「原子力」と言えば原子力エネルギーのみならず放射線利用も含むと解釈されるものの、狭義の意味での原子力に携わる技術者だけを対象とする資格であるような誤解をさけるために、この名称となった。
 第一次試験の専門科目の範囲は、原子力、放射線、エネルギーとなっている。第二次試験については、選択科目(表1参照)の中からいずれか一科目を選んだ上で、同技術部門全般をカバーする必須科目(原子力・放射線一般)を受験することになる。
2.2 「原子力・放射線」部門の必要性
(1)原子力技術の社会的役割
 現在、わが国においては52基の原子力発電所が稼動し、発電電力量の約34%を占める。今後は、新たな原子炉の建設に加え、原子炉の廃止措置等の業務の増加が想定されるとともに、核燃料サイクルに関する業務等もあいまって、原子力のエネルギー利用に係る産業は、着実に発展し続けるものと想定される。原子力エネルギー分野で働く民間の技術者数は約4万人に達し、その経済規模は年間3〜7兆円に上ると見られている(図3参照)。
 また、放射線に関しては、高分子材料の改良、医療器具の無菌化、がん治療、核医学検査、農産物の品種改良、害虫駆除、非破壊検査等の多岐にわたる産業分野で利用されている。このような現状と今後の技術開発を考えると、医学・医療、農業、工業等における放射線利用は、益々進展することが想定される。さらに、放射性同位元素、放射線発生装置に係る使用許可・届出事業所数(放射線同位元素等による放射線障害の防止に関する法律に基づくもの)は、約5000事業所に上り、放射線利用に係る産業の経済規模全体では、1997年度約8.6兆円に達する(図4参照)。
 これら原子力産業の基盤を支える原子力及び放射線利用技術を、今後とも継続的且つ安全に維持・向上させていくことは、わが国の重要な政策課題である。そのため、原子力技術に関する計画、設計、運営等、各業務を遂行する総合的な専門能力を持った技術者の育成に資する公的資格を設定する意義は大きい。
(2)総合技術としての原子力技術
 原子力技術は、機械、電気、化学等多分野の技術体系にわたるとともに、その中核として原子力工学という固有の技術体系をもつ総合技術である。原子力分野の技術者に必要な総合的な専門能力を確認するには、既存の技術部門を一部手直しするだけでは不十分であり、原子力工学の他、関連した技術体系を幅広くカバーする独立した技術者部門を設置することが必要である。
(3)原子力システムの安全性との関わり
・原子力分野の技術者のレベルアップ
 原子力分野の技術者が自己研鑽を行うに当たっての具体的目標を設定することにより、個々の技術者の総合的な能力の向上を図る。
・事業体における安全管理体制の強化
 技術士が、属人的な資質の高さを表す資格であることから、事業体内において技術的事項に対する組織中立的な意見を述べる役割を果たす者として活用され、事業体への信頼性の向上につながることが期待される。
・原子力システムに関する安全規制への活用
 原子力技術に関する総合的な視野を踏まえた業務遂行をより一層促進するために、国等の行政機関担当者が、「原子力・放射線」部門の技術士の資格を取得することが望ましい。
・国民とのリスクコミュニケーションの充実
 原子力技術に関する高い専門能力と安全、倫理、社会との関わりについて、高度な見識を持った原子力・放射線技術士が、リスクコミュニケーションにおいて重要な役割を担うことにより、国民に対する説明責任を果たすことが可能となる。
・国際的な活用
 技術士の中に原子力・放射線部門を設立することにより、APEC(アジア太平洋経済協力会議)エンジニア・プロジェクト等を通じたわが国の原子力技術者の国際的な認知が可能となり、わが国の原子力技術者の国際展開に資する。
3.社団法人 日本技術士会
 社団法人 日本技術士会は、技術士法に基づくわが国で唯一の技術士による公益法人である。1998年3月現在、日本技術士会会員は、約6600名。
 事業活動:
 コンサルティング・エンジニアとして自営する技術士及びコンサルタント会社や建設会社、一般メーカー等に勤務する企業内技術士を対象とする事業活動のほか、技術士の資格活用の促進、調査研究の受託、技術士補の育成、普及啓発等の事業を行っている。また、国の指定試験機関及び指定登録機関として、国に代って技術士試験及び技術士登録等の事業を行っている。
 所在地:
 〒105-0001 東京都港区虎ノ門4丁目1番20号 田中山ビル8階
 事務局:電話(03)3459-1331(代)、ファックス(03)3459-1338
 技術士試験センター:電話(03)3459-1333(代)、ファックス(03)3459-1338
 なお、技術士の模擬試験問題が日本原子力学会のホームページに掲載されている
<図/表>
表1 原子力・放射線部門の第二次試験選択科目及びその内容
表1  原子力・放射線部門の第二次試験選択科目及びその内容
図1 技術士登録者数の技術部門別割合(2003年9月現在)
図1  技術士登録者数の技術部門別割合(2003年9月現在)
図2 技術士試験に関する基本的な仕組み
図2  技術士試験に関する基本的な仕組み
図3 わが国の原子力エネルギー利用の経済規模−各分野の割合(1997年度)
図3  わが国の原子力エネルギー利用の経済規模−各分野の割合(1997年度)
図4 わが国の放射線利用の経済規模(1997年度)
図4  わが国の放射線利用の経済規模(1997年度)

<関連タイトル>
原子力産業実態調査報告(平成14年度) (10-05-03-07)
原子力分野における知的財産権 (10-07-05-02)
原子力知識マネジメントの現状 (10-07-05-03)

<参考文献>
(1)原子力公開資料センター:技術士試験における「原子力・放射線」部門の設置について、平成15年6月5日 文部科学省
(2)文部科学省 技術士分科会:技術士試験における技術部門の設置について(答申)
(3)北海道医療大学:技術士への「原子力」部門の設置について、http://www.hoku-iryo-u.ac.jp/?wajima/sub030324gijutusi.htm
(4)社団法人 日本技術士会:社団法人日本技士会とは
(5)長瀬洋英:技術士「原子力・放射線」部門の創設について、原子力eye、Vol.50, No.2(2004年2月)、p.46-47
(6)工藤和彦:技術士制度に新設された「原子力・放射線部門」受験のすすめ、原子力eye、Vol.50,No.4(2004年4月)、p.30-32
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