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<概要>
 1999年(平成11年)9月30日のウラン加工工場における臨界事故を契機に、わが国の防災に関する基本的な計画、原子力災害に関する防災体制の確立が求められ、各学校における防災体制を整備しておくことが重要である。茨城県教育委員会と青森県教育委員会による「原子力防災マニュアル」の概要を紹介する。

(注)東日本大震災(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、新たな規制行政組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足したため、本データに記載されている原子力防災対策の考え方や具体的な防災体制についても見直しや追加が各組織で行われている。
<更新年月>
2014年11月   

<本文>
 災害対策基本法は、昭和36年(1961年)に制定されたわが国の災害対策に関する法律で、3つの防災計画、すなわち、防災基本計画、防災業務計画、地域防災計画の作成について定められている。防災基本計画は、防災に関する総合的かつ総合的な計画で、平成20年2月に修正されているが、学校にかかわる記載としては、災害応急対策にかかわる事項のなかに、災害時における応急教育に関する事項である仮校舎の設置、学校施設の応急復旧、安全なる通学および学校給食の確保、教科書および学用品の供給、授業料の減免、奨学金の貸与、被災による生活困窮家庭の児童・生徒に対する援助の増強ならびに特別支援学校等在籍児童等の就学奨励費の再支給等応急の教育に関する計画などがある。
 原子力災害対応活動は、(1)災害対策基本法に基づく防災基本計画(第10編 原子力災害対策編)、(2)原子力発電所周辺の防災対策について、(3)防災業務計画(文部科学省)、(4)原子力災害時の緊急時対応マニュアル(文部科学省)、に基づいている。それぞれは原子力発電所の事故等を念頭に置いたもので、(株)ジェー・シー・オーウラン加工工場での臨界事故(1999年9月30日)は想定外であった。そこで原子力災害に際しては、迅速かつ的確な対応が不可欠であるとの提言が原子力安全委員会から示され、初期動作の迅速化、国や地方公共団体の連携強化、国の体制強化、事業者責務の確保など、いくつかの早急な対策が講じられた。そして、1999年(平成11年)12月17日に災害対策基本法の特別法として「原子力災害対策特別措置法」(原災法)が制定され、2000年6月に施行された。(注:原子力安全委員会は原子力安全・保安院とともに2012年(平成24年)9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)
 それぞれの原子力施設では、事故を未然に防止するため厳しい安全対策を講ずるとともに、万が一の時に備えて、地域住民などの安全を確保できるよう原子力防災対策が講じられている。
 文部科学省においては、東日本大震災を契機として、改めて防災教育・防災管理等を見直すため、「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」を設置し、平成24年7月に最終報告がまとめられた。さらに、国においても、平成24年4月、防災を含む、学校における安全に関する取組を総合的かつ効果的に推進するための「学校安全の推進に関する計画」が閣議決定された。
1.学校等における防災体制の整備
 校長(園長)は、地域の実情等を踏まえて、原子力災害に備え、学校原子力防災委員会を設置するとともに、年間を通して行われる安全指導計画の中に原子力災害安全指導計画を位置づけるなど、原子力防災体制の整備に努め、原子力災害が発生した時に幼児・児童・生徒及び教職員の安全が確保できるようにしなければならない(図1)。また、校長(園長)は、原子力災害に備え、児童生徒等及び教職員の安全を確保するため、校長(園長)、教頭、事務長等を構成メンバーとする学校原子力防災委員会を設置し、学校における原子力防災計画の作成など原子力防災体制の整備に努める。校長(園長)を本部長とする学校原子力災害対策本部組織を整備し、原子力災害時の学校内における連絡体制や避難、屋内退避時における教職員の役割分担を平素から明確にしておく(図2)。
2.学校における原子力防災の対応例
 原子力災害に備えて各学校は、原子力災害時に幼児・児童・生徒及び教職員の安全確保に万全を期することが重要である。そのため、「学校における原子力防災マニュアル」を指針として、地域の実情等を踏まえて、学校毎に対応マニュアルを作成する必要がある。
1)茨城県の場合
 茨城県教育委員会では、1999年(平成11年)9月に(株)ジェー・シー・オー東海事業所で発生した臨界事故を教訓に、国や県の動向を踏まえ、学校における原子力災害に対する体制整備及び具体的対応の指針とするため「学校における原子力防災マニュアル」を作成した。本マニュアルが各学校地域の実情を踏まえ、作成するマニュアルの参考となり、原子力防災に対する教職員の共通理解が図られ、幼児・児童・生徒の安全が確保できることを望む、としている。
 その後、茨城県では、東日本大震災の課題等を踏まえ、平成24年4月に「学校防災に関する手引き 概要版」を、さらに、平成26年9月には「学校防災に関する手引き 改訂版」を作成し、各学校の防災マニュアルを見直すよう各種研修など様々な機会を通じて周知徹底を図っている。
  以下に手引き書の内容の概略を記す。
 第1章では、「東日本大震災における被害状況等について」として東北地方太平洋沖地震の概要と3月11日の経過、平成23年7月に実施した「防災に関する調査結果」が報告されている。
 第2章では、「各段階における防災対応について」として「学校における地震防災」をフローチャートで示し(図3参照)、「事前の危機管理」、「発生時の危機管理」、「事後の危機管理」の3区分の内容を説明している。
(1)事前の危機管理[備える]では、1)防災体制の整備、2)安全点検と安全対策、3)避難訓練等の充実、4)防災教育の充実、5)教職員研修等の充実、の5項目に分け、改訂版には、4)防災教育の充実 の項目に、(イ)周りの状況に応じ、自らの命を守り抜くため、「主体的に行動する態度」を育成する防災教育、(ロ)支援者としての視点から、安全で安心な社会づくりに貢献する意識を高める、の2つの新たな視点を加えている。
(2)発生時の危機管理[命を守る]では、1)管理下、2)管理外、3)発生時の危機管理における留意点、の3項目に分け、改訂版には、1)管理下 の項目に「大した被害はないだろう」「ここまでは来ないだろう」などの自分の身に迫っている危険を根拠なく過小評価してしまうことなど「正常化の偏見」を打ち破って、一刻も早く避難を開始することが大切であることを新たに記載している。
(3)事後の危機管理[立て直す]では、1)学校災害対策本部の設置、2)引き渡し(待機)、3)避難所協力、4)心のケア、5)授業再開に向けて、の5項目に分け、(イ)保護者などの迎えが不可能な事態を想定し、引き渡せない場合の児童生徒の保護方策を決めておくこと、(ロ)引き渡し直後に保護者及び児童生徒が被害を受けないよう、引き渡し時に、重要な防災情報を伝えたり、必要に応じて学校に留まらせたりするなど配慮する(緊急連絡用(引き渡し)カード(図4参照))、などの留意点が記載されている。
 第3章では、「大雨、竜巻等突風、雷等の災害への対応及び特別警報について」として、平成25年8月30日から運用されている、数十年に一度の台風や集中豪雨が予想され、重大な災害の起こる恐れがあり、警報の基準をはるかに超えることが予想される場合に発表される「特別警報」が発令された場合、ただちに「命を守る行動」をとることが重要であるとしている。
2)青森県の場合
 原子力施設が立地している青森県においても、万が一の原子力災害発生に備え児童生徒等の生命・身体を守るため、学校(園)における原子力防災体制(図2)の充実が求められている。
 青森県は、平成6年12月28日の三陸はるか沖地震をはじめ、台風、豪雪等の被害を受け、さらに平成23年3月11日に発生した東日本大震災により県内各地において甚大な被害に見舞われ、今後も地震等の自然災害がいつ発生するか分からない状況にある。県教育委員会では、学校における防災教育について、学校現場で教職員が迅速な対応ができ、具体的で活用しやすいようこれまでの防災・安全の手引きを改訂している。改訂のポイントとしては、これまでの「防災・安全の手引(原子力編)」(平成15年3月)も含め(イ)東日本大震災の教訓を踏まえ、津波等の様々な状況への対策、(ロ)災害発生時を想定した実践的な避難訓練などの安全指導のための最新の情報や資料の追加、(ハ)教職員が活用しやすいような災害対策のフロー図での表示、などである。
 この防災安全手引きは、「第1章 学校安全」、「第2章 事前の危機管理」、「第3章 災害時及び事後の危機管理」、「第4章 原子力災害」と二つの資料編から構成されている。原子力災害の章では、「事前の危機管理」、「災害時の危機管理」、「原子力災害が収束したら」、に分けて説明している。また、「県内の原子力施設」と「避難場所位置図」など多くの資料が含まれている。
<図/表>
図1 学校防災体制体系図
図1  学校防災体制体系図
図2 学校原子力防災体制体系図
図2  学校原子力防災体制体系図
図3 学校における地震防災のフローチャート
図3  学校における地震防災のフローチャート
図4 緊急連絡用(引き渡し)カード
図4  緊急連絡用(引き渡し)カード

<関連タイトル>
日本の原子力防災対策の概要−考え方と体制 (10-06-01-01)
原子力防災対策のための国および地方公共団体の活動 (10-06-01-04)
原子力災害対策特別措置法(原災法:2012年改定以前) (10-07-01-09)

<参考文献>
(1)茨城県教育委員会:学校防災に関する手引き(改訂版)について、http://www.edu.pref.ibaraki.jp/board/gakkou/karada/bousai/bousai/index.html
(2)青森県ホームページ:学校防災管理推進に係る「防災・安全の手引(二訂版)」について
(3)文部科学省ホームページ:学校安全<刊行物>学校防災マニュアルの作成について http://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/anzen/1323513.htm
(4)環境防災Nネット
(5)北海道教育委員会ホームページ:学校安全推進資料(平成25年度改訂版)http://www.dokyoi.pref.hokkaido.lg.jp/hk/ssa/gakkoanzensuishinshiryo.htm
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