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<概要>
 1995年にナトリウム漏れ事故を起こして運転を停止している核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)の高速増殖炉原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市、FBR、電気出力280MW)の原子炉設置許可をめぐる行政訴訟の上告審で、最高裁判所(最高裁)第1小法廷は、2005年5月30日、許可を無効とした名古屋高等裁判所金沢支部の二審判決を破棄し、住民側の請求を棄却した。この最高裁判決で国側の勝訴が確定し、提訴から確定まで20年にわたる裁判に幕が閉じた。
<更新年月>
2006年09月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 1995年にナトリウム漏れ事故を起こして運転を停止している核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)(2005年10月1日、日本原子力研究所と統合し、独立行政法人「日本原子力研究開発機構」(JAEA:Japan Atomic Energy Agency)となった。)の高速増殖炉原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市、FBR、電気出力28万kW)の原子炉設置許可をめぐる行政訴訟の上告審で、最高裁判所(最高裁)第1小法廷(泉徳治裁判長)は、2005年5月30日、「原判決を破棄する。被上告人らの控訴を棄却する。控訴費用および上告費用は被上告人らの負担とする。」(主文)との判決を言い渡し、許可を無効とした名古屋高等裁判所金沢支部の二審(控訴審)判決を破棄し、住民側の請求を棄却した。この最高裁判決で国側の勝訴が確定し、提訴から確定まで20年にわたる裁判に幕が閉じた。「もんじゅ」訴訟(注1・参照)に係る年表(2005年5月まで)を表1に、「もんじゅ」に係る訴訟の状況を表2に示す。
 注1)もんじゅ訴訟とは、福井県内の原告住民40名(原告)が1985年9月26日に福井地裁に提訴した、(1)経済産業大臣(当時、内閣総理大臣)を被告とする行政訴訟(もんじゅ原子炉設置許可処分無効確認請求訴訟)と、(2)核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)(当時、動力炉・核燃料開発事業団[動燃])を被告とする民事訴訟(もんじゅ建設・運転差止請求訴訟)の2件のことで、民事訴訟は2003年3月24日に原告が訴えを取り下げている。また、もんじゅ訴訟は、「最高裁判所判例集」によれば、事件名「原子炉設置許可処分無効確認等請求事件」、事件番号「平成15(行ヒ)108」である。
 判決理由では、まず原子炉設置許可段階での審査範囲などについて、国の専門技術的裁量を認め、原子力安全委員会および原子炉安全専門審査会による安全審査の調査審議や判断過程に看過し難い過誤や欠落があったといえないとした。
 その上で、名古屋高裁判決で重大な違法があるとした、(1)2次冷却材漏えい事故に対する鋼製床ライナ設置に対する安全審査、(2)蒸気発生器伝熱管破損事故に係る安全審査、(3)一次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象(炉心崩壊事故)の安全審査−などをそれぞれ評価した。
 床ライナの具体的施工方法については、設計および工事方法の認可(設工認)以降の段階における審査対象とする判断に不合理な点はないとした。蒸気発生器も高温ラプチャ型破損の抑止が期待できる設計となっており、現在の技術水準に照らしても解析条件が不適当とは言い難く、審査・評価に不合理な点はないと指摘した。炉心崩壊事故に関しても安全審査で遷移過程の事象推移の評価を欠いたとするのは相当でないとした。
 行政訴訟の主要な争点は、(1)原子炉設置許可処分、(2)「2次冷却材(ナトリウム)漏えい事故」にかかわる安全審査、(3)「蒸気発生器伝熱管破損事故」にかかわる安全審査、(4)「1次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事故」にかかわる安全審査、の4点である。もんじゅ訴訟の争点について控訴審判決(2003年1月27日:名古屋高裁金沢支部)と上告審判決(2005年5月30日:最高裁判所)を対比して表3に示す。また、最高裁判所判例集の裁判要旨(注2・参照)を表4-1および表4-2に示す。
 注2)もんじゅ訴訟に関する最高裁判所判決文の全文は、参考文献(2)を参照されたい。
 もんじゅ訴訟の主要な争点についての判断等を、最高裁判所の判決文等に基づき、以下のとおり要約して述べる。文中の( )内文字は補足として入れた。
1.原子炉設置許可処分
 内閣総理大臣が昭和58(1983)年5月27日に動力炉・核燃料開発事業団に対してした高速増殖炉「もんじゅ」に係る原子炉設置許可処分は、以下のとおり、それが依拠した原子力安全委員会および原子炉安全専門審査会による安全審査の調査審議および判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるということはできないから、違法であるとはいえず、したがって、同処分が無効であるということはできない。

2.「2次冷却材(ナトリウム)漏えい事故」にかかわる安全審査
 2次冷却材漏えい事故に対して床面に鋼製のライナを設置することにより漏えいナトリウムとコンクリートとが直接接触することを防止するという安全対策を行うことを内容とする高速増殖炉「もんじゅ」の基本設計は、不合理であるとはいえず、また、原子力安全委員会の判断に基づき、上記基本設計のみが原子炉設置の許可の段階における安全審査の対象となるべき事項に当たるものとし、床ライナの板厚等の腐食防止対策や熱膨張により壁と干渉しないような具体的施工方法は、設計および工事の方法の認可(設工認)以降の段階における審査の対象に当たるものとした主務大臣の判断に不合理な点はない。したがって、原子力安全委員会等における2次冷却材漏えい事故の安全審査の調査審議および判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるということはできない。

3.「蒸気発生器伝熱管破損事故」にかかわる安全審査
 動力炉・核燃料開発事業団が行った高速増殖炉「もんじゅ」についての蒸気発生器伝熱管破損事故に係る安全評価のための解析条件は、伝熱管破損伝ぱの機序として高温ラプチャ型破損ではなくウェステージ型破損が支配的であるという考え方を基に設定されたものであった。しかし、本件原子炉施設については、伝熱管からの水漏えいを検出して伝熱管内の水又は蒸気を急速に抜くなど、高温ラプチャ型破損の発生の抑止を期待することができる設計となっており、現在の科学技術水準に照らしても、上記解析条件が不相当であったとはいい難く、この解析条件を前提に蒸気発生器伝熱管破損事故を想定してされた解析の内容および結果が審査基準に適合する妥当なものであるとした原子力安全委員会等の審査、評価に不合理な点はない。したがって、この点についての安全審査の調査審議および判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるということはできない。

4.1次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事故(炉心崩壊事故)にかかわる安全審査
 原子力安全委員会等による高速増殖炉「もんじゅ」に係る1次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事故の安全審査において、遷移過程の事象推移についての評価を欠くと解するのは相当でなく、上記安全審査における遷移過程についての評価に不合理な点はない。また、動力炉・核燃料開発事業団が行った1次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象における炉心損傷後の炉心膨張による最大有効仕事量の解析を妥当なものとした原子力安全委員会の判断に不合理な点を見いだし難い。したがって、原子力安全委員等における1次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象の安全審査の調査審議および判断の過程に看過し難い過誤、欠落かあるということはできない。
 1995年のナトリウム漏えい事故以来運転を停止していた「もんじゅ」は、原子炉等規制法上は使用前検査の段階にあり、改造の準備工事を経て2005年(平成17年)9月からナトリウム漏えい対策などの本体工事に着手し、2006年(平成18年)8月現在、本体改造工事が進められている。本工事に続く工事確認試験、プラント確認試験を経て、2008年度第4四半期での臨界を目指している。
<図/表>
表1 「もんじゅ」訴訟に係る年表
表1  「もんじゅ」訴訟に係る年表
表2 「もんじゅ」に係る訴訟の状況
表2  「もんじゅ」に係る訴訟の状況
表3 「もんじゅ」訴訟における主要争点の判決対比
表3  「もんじゅ」訴訟における主要争点の判決対比
表4-1 裁判要旨(平成17年05月30日:原子炉設置許可処分無効確認等請求事件)(1/3)
表4-1  裁判要旨(平成17年05月30日:原子炉設置許可処分無効確認等請求事件)(1/3)
表4-2 裁判要旨(平成17年05月30日:原子炉設置許可処分無効確認等請求事件)(2/2)
表4-2  裁判要旨(平成17年05月30日:原子炉設置許可処分無効確認等請求事件)(2/2)

<関連タイトル>
日本の原子力発電所の分布地図(2001年) (02-05-01-05)
高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の開発(その1) (03-01-06-04)
高速増殖炉原型炉「もんじゅ」訴訟の経緯 (10-05-02-10)
発電用原子炉の安全規制の概要(原子力規制委員会発足まで) (11-02-01-01)
動力炉・核燃料開発事業団(PNC) (13-02-01-12)

<参考文献>
(1)裁判所:最高裁判所判例集、原子炉設置許可処分無効確認等請求事件(平成17年05月30日)裁判要旨ほか
(2)裁判所:最高裁判所判決の全文(平成17年05月30日:原子炉設置許可処分無効確認等請求事件)
(3)(社)日本原子力産業会議(編集・発行):原子力年鑑2006年版(2005年10月18日)、p.15-17
(4)原産新聞編集グループ(編):「もんじゅ」安全審査は合法、最高裁判所が判決・国側の勝訴が確定、判決理由要旨、原子力産業新聞第2285号(第1、第2面)(2005年6月2日)
(5)日本原子力研究開発機構(JAEA):旧核燃料サイクル開発機構HP、核燃料サイクル開発機構史、第6節プロジェクトをめぐる争訟
(6)Web電気新聞ニュース:もんじゅ訴訟、国側が逆転勝訴−最高裁、設置許可無効の二審判決破棄(2005.5.31付)
(7)(社)日本電気協会新聞部:原子力施設に係る主な訴訟の状況、原子力ポケットブック2006年版(2006年7月26日)、p.150-153
(8)日本原子力研究開発機構(JAEA):「もんじゅ」のこれまでの経緯、http://www.jaea.go.jp/04/turuga/jturuga/press/2006/08/w060804t1.html
(9)(独)原子力安全基盤機構安全情報部(編):平成17年版(平成16年度実績)原子力施設運転管理年報(平成17年9月)、p.13-17
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