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<概要>
 (独)産業技術総合研究所(産総研)の歴史は1882年に農商務省に設立された地質調査所までさかのぼる。その後、農商務省は商工省に再編され、1949年には商工省を母体に通商産業省が設立され、1952年に工業技術院が置かれた。2001年、中央省庁の再編により通商産業省は経済産業省に再編成され、この際に工業技術院傘下の15研究所と計量教習所は統合・再編され、産総研が設置された。産総研の目的は、経済及び産業の発展のため鉱物資源及びエネルギーの安定的・効率的な供給の確保を図り、鉱工業の科学技術に関する研究及び開発を総合的に進め、産業技術の向上及びその成果の普及を図ることである。職員数は約5,000名、そのほか企業、大学等から約4,700名の研究員を受け入れている。研究・開発は現代科学技術を網羅する多様な6分野、(a)環境・エネルギー、(b)ライフサイエンス、(c)情報通信・エレクトロニクス、(d)ナノテクノロジー・材料・製造、(e)計測・計量標準及び(f)地質に整理されている。2001年の設立から、中期目標が定められ、第3期(平成22〜26年度)中期目標の研究・開発は、(イ)環境・エネルギー技術をさらに発展させるグリーン・イノベーション推進戦略、(ロ)質の高い医療等の課題に対応するライフ・イノベーション推進戦略、(ハ)産業競争力の維持・発展を目指す先端的技術開発の推進戦略、及び(ニ)産業活動と基盤強化のための知的基盤の整備・推進戦略に整理されている。
<更新年月>
2013年10月   

<本文>
 経済産業省が所管する(独)産業技術総合研究所(National Institute of Advanced Industrial Science and Technology)の設立の経緯、体制、研究開発等について述べる。
1.設立の経緯、法令、目的及び業務
(1)歴史的背景
 (独)産業技術総合研究所(以下、「産総研」という)の歴史は1882年に農商務省に設立された地質調査所までさかのぼる。その後、農商務省は商工省に再編され、1949年には商工省を母体に通商産業省が設立され、1952年に工業技術院が置かれた。2001年(平成13年)、中央省庁の再編により通商産業省は経済産業省に再編成された。この際に通商産業省の工業技術院傘下の15研究所と計量教習所も統合・再編され、産総研が設置された。
(2)関連する法令など
 1)「産業技術総合研究所法(産総研法)」、平成11年12月22日、法律第203号
研究所の目的(3条)、資本金(6条)、役員と職員(7-10条)、業務内容(11条)等に関して定めている。
 2)「独立行政法人通則法」、平成11年7月16日、法律第103号
独立行政法人の定義と業務の特徴(2条)、業務と運営の自主性と透明性(3条)、設立の手続など(13-17条)、中期目標、中期計画及び年度計画の設定と事業報告(29-35条)、財務及び会計(36-50条)等について定めている。
 3)「産業技術力強化法」、平成12年4月19日、法律第44号
産業技術力強化・発展と技術経営力の強化(2条)、基本理念(3条)、国の責務(4条)等について定めている。
 4)「新成長戦略(基本方針)」、閣議決定、平成21年12月30日
グリーン・イノベーション、ライフ・イノベーション等の6戦略分野への展開と進め方が纏められている。
(3)目的と業務
 産総研は、図1に示すように歴史的に産業界との繋がりが強く、技術革新における基礎研究と実用・応用を繋ぐ基盤技術開発の機関としての役割が求められている。目的と業務は以下のとおり。
 目的:産総研の業務の目的は、経済及び産業の発展のため鉱物資源及びエネルギーの安定的・効率的な供給の確保を図り、鉱工業の科学技術に関する研究及び開発を総合的に進め、産業技術の向上及びその成果の普及を図ることである(産総研法第3条)。
 ここで、鉱工業は、鉱業を含め図1に示すように、工業全般を示している。
 業務:産総研の主な研究開発等は以下のように分類できる(産総研法第11条)。
 1)鉱工業の科学技術に関する研究・開発、並びにこれらの関連業務
 2)地質の調査
 3)技術指導及び成果の普及、技術経営力の強化に寄与する人材の養成、資質の向上、成果の活用促進(産業技術力強化法 第二条、第2項)
 4)計量の標準設定、計量器の検定、検査、関連の研究・開発、並びにこれらの関連業務
 5)計量法の規定による立入検査
2.研究所の構成と研究開発分野
(1)組織と人員など
 産総研は経済産業省の所管であり、経済産業大臣が主務大臣である。
 2005年度(平成17年度)には非公務員型の独立行政法人となり、職員は国家公務員法の規定から外れ、柔軟で機動的な運営、研究者交流の拡大とともに大学、企業等との人材交流の活性化等が進み、研究・開発の発展が期待されている。平成25年度の職員は約5,000名、そのほか企業、大学、他の機関等から受け入れた研究員は平成24年度に述べ約4,700名である(表1参照)。
 産総研の業務組織は、本部組織、事業組織及び研究推進組織(分野)に分けられる。研究推進分野は現代科学技術を網羅する多様な6分野、a)環境・エネルギー、b)ライフサイエンス、c)情報通信・エレクトロニクス、d)ナノテクノロジー・材料・製造、e)計測・計量標準及びf)地質に整理されている(図2参照)。その拠点は事業組織に示すセンターであり、夫々のセンターが研究開発を分担する(図3参照)。
(2)研究開発分野と部門
 研究開発分野は、さらに研究開発部門に細分化されている。表2-1、2-2、2-3に6分野各々の研究開発部門を示す。
3.第3期研究戦略
 「独立行政法人通則法」の第29-35条により、2001年(平成13年)の創設から「中期目標」が設定され、多岐にわたる研究開発が総合的かつ融合的に進められた。中期目標に対して具体的な「中期計画」が定められ、年度ごとに「年度計画」が定められて公表される。ここでは、平成25年度を含む第3期中期目標(平成22〜26年度)について述べる。
 第3期中期目標の概要を表3に示す。第3期は平成21年に閣議決定された「新成長戦略(基本方針)」のうち世界最高水準にある環境・エネルギー技術をさらに発展させる「グリーン・イノベーションの推進」、質の高い医療サービスへのニーズに応え、介護などの課題に対応する「ライフ・イノベーションの推進」、科学・技術力による国の成長力を強化する「先端的技術開発の推進」及び「知的基盤の整備・推進」が反映されている。以下に4推進戦略(計画)の概要を示す(表4参照)。
(1)グリーン・イノベーション推進戦略
 当計画の目的は、二酸化炭素等の温室効果ガスの排出低減と共に、資源・エネルギーの確保と安定供給である。このためエネルギー利用について、再生エネルギーの導入拡大、エネルギー供給システムの高度化、運輸、産業、民生部門等における省エネルギー技術等の開発を進める。エネルギー資源については、その確保と有効利用、グリーン・イノベーションを支える材料やデバイスの開発、産業活動による環境負荷の低減、環境の安全評価、環境の管理技術、廃棄物の発生抑制とその適正な処理技術を開発する。
(2)ライフ・イノベーション推進戦略
 この計画は、人が安心して暮らせる社会の実現が目的である。このため、創薬技術や医療診断技術の開発、健康状態の計測・評価技術、情報通信(IT、センサ)やロボット技術による身体の負担軽減技術や介護支援技術を開発する。
(3)先端的技術開発の推進戦略
 この計画の目的は、産業競争力の維持・発展である。このため、情報通信産業や製造業の創出につながる材料、デバイス、システム技術等を開発する。また、情報通信サービスの生産性向上と新サービスの創出を図る情報技術や機械技術を開発する。
(4)知的基盤の整備・推進戦略
 広範囲の産業活動の効率的支援と産業基盤の強化が目的である。ここでは、新しい計測技術の開発、知見のデータベース化、計量標準、試験評価方法の標準化を進める。合わせて、地質調査に関する国際活動に参加し、その責務を果たす。
4.原子力利用に関する研究開発
 原子力に関して、放射線計測、放射性廃棄物及び地震予測等に関する研究開発について述べる。
(1)放射線計測
 「研究推進組織」のうち「計測・計量標準分野」の「計測標準研究部門」では、計測の基準(計量標準)を作り出すための研究・技術開発を行い、計量標準を社会・産業界に供給し、また日本の計量標準を諸外国の標準とつなげる技術業務を実施している。
 「計測標準研究部門」の「量子放射科」には、放射線標準研究室と放射能中性子標準研究室が設けられており、電離放射線や中性子の線量標準、放射線防護、マンモグラフィ、医療利用等の研究開発を進めている。
(2)高レベル放射性廃棄物の処分
 「研究推進組織」のうち「地質部門」の「地質情報研究部門」では、高レベル放射性廃棄物の地層処分の安全規制行政への技術的支援のため、隆起侵食活動、地震・断層活動、火山・火山活動等の長期的な地質現象の調査とその評価、長期的な予測手法の開発、地層処分の深さにおける深層地下水の性質、その起源及び流動過程の把握手法の開発を行っている。
(3)活断層・地震研究
 「研究推進組織」のうち「地質分野」の「活断層・地震研究センター」では、地形・地質から地球物理・地震工学までの多様な専門分野の研究を進めており、さらに分野を融合した内陸地震、海溝型地震及び地震災害の予測を目指した研究・開発を行っている。
(前回更新:2004年7月)
<図/表>
表1 産総研の人員(2013年10月)
表1  産総研の人員(2013年10月)
表2 研究開発分野と部門
表2  研究開発分野と部門
表3 産総研の第3期中期目標(平成22年4月〜平成27年3月)
表3  産総研の第3期中期目標(平成22年4月〜平成27年3月)
表4 研究推進戦略と研究開発の課題
表4  研究推進戦略と研究開発の課題
図1 産総研の沿革
図1  産総研の沿革
図2 産総研の業務組織(概要)
図2  産総研の業務組織(概要)
図3 事業組織の拠点
図3  事業組織の拠点

<関連タイトル>
新エネルギーと省エネルギーの技術開発 (01-09-07-02)
文部科学省と原子力行政 (10-04-05-01)
経済産業省と原子力行政 (10-04-06-01)
日本原子力研究開発機構 (13-02-01-35)
日本の主な原子力関連機関一覧 (13-02-02-01)

<参考文献>
(1)(独)産業技術総合研究所ホームページ:産総研について、沿革、
http://www.aist.go.jp/
(2)電子政府の総合窓口:産業技術総合研究所法、

(3)産総研:第三期中期目標、

(4)産総研:第三期研究戦略、平成25年度ダイジェスト版、
http://www.aist.go.jp/digbook/strategy/h25_digest/#page=1
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