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<概要>
 環境・線量研究及び被ばく低減化研究を7つの分野、(1)放射線の分布と特性に関する研究、(2)ラドントロン及びその壊変生成物の分布と挙動に関する研究、(3)放射性物質の分布と移行に関する研究、(4)放射性物質の人体内における挙動に関する研究、(5)国民の被ばく線量及び線量算定モデルに関する研究、(6)環境放射線測定、放射性物質分析測定等のモニタリング技術開発に関する研究に分けて研究を進める。
<更新年月>
1997年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 環境・線量研究及び被ばく低減化研究は、自然及び人工放射線(能)の特性や環境中における分布と挙動を明らかにして、これらに起因する人間の被ばく線量の実態把握、予測等を行うとともに、合理的な被ばくの低減化を目指した調査研究である。
 本年次計画では、環境・線量研究に関する学術的長期継続研究とともに、民間の核燃料再処理施設、低レベル放射性廃棄物埋設施設等の核燃料サイクル施設の本格的操業、核融合炉建設の具体化等環境放射線源の多様化を考慮し、これらの施設に特有の環境放射(能)線・線量研究に重点をおいて研究を進め、被ばく低減化研究では、農畜産物、海産物及び居住環境に放射性汚染が発生した場合を想定し、一般公衆に対する線量低減方策等の研究を進める。
 本研究計画は、海上保安庁、気象庁、公衆衛生院、水産庁、電子技術総合研究所、地質調査所、農業環境技術研究所、放射線医学総合研究所等の国立試験研究機関、動力炉・核燃料開発事業団(現日本原子力研究開発機構)、日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)、(財)放射線影響協会、(財)日本分析センター、大学等が分担・実施する。以下にその概要を述べる( 表1-1表1-2表1-3表1-4表1-5 および 表1-6 参照)。
1.放射線の分布と特性に関する研究
 公衆が受けている被ばく線量を把握する基礎として、宇宙線や地殻放射線の地域的分布と時間的変動を明らかにし、国民線量算定の精度向上を図る。生活形態の多様化に伴う調査の拡大のため、平野から山岳にわたる宇宙線を測定し、さらに、宇宙線の変動要因を調査する等により、宇宙線の変動機構の究明を継続する。また、地殻放射線の地域分布を測定し、地質との相関について解析を進めるとともに、公衆の被ばく評価の見地から、人口の密集する都市部の各種生活環境での環境放射線レベルを明らかにする。
 具体的には、(1)「生活環境における宇宙放射線の空間分布と時間変動に関する研究」、(2)「環境中の地殻ガンマ線の分布と変動に関する研究」、(3)「地質と環境放射線の関連性に関する研究」を当面の課題として実施する(表1-1参照)。
2.ラドン・トロン及びその壊変生成物の分布と挙動に関する研究
 自然放射線による一般公衆の被ばく線量の中でラドン・トロン及びその壊変生成物による寄写は極めて大きい。そのため、これらの日本における分布と変動要因については、前年次計画の中でも多くの成果が得られ、UNSCEAR(国連科学委員会)等へも報告されてきた。今後も積極的に研究を進める必要がある。このため、大気や水中の自然環境におけるラドン・トロン及びその壌変生成物の分布を明らかにし、濃度と地質、気象条件等との関連を検討する。生活環境においても、これらの屋内と屋外における分布の実態を把握する。さらに、地下空間の利用に当たっての被ばくや、日本家屋の特性に基づく被ばくの検討も大切である.研究の実施に当たっては、被ばく線量の寄与の大きい壊変生成物の測定に努めるとともに、壊変生成物の時間、空間分布及び粒径に関する研究を進め、被ばく評価手法の精度の向上を図ることとする。
 具体的には、(1)「環境中ラドン及びその壊変生成物濃度の測定及び性状挙動評価手法に関する研究」、(2)「環境中のラドン濃度の計測法及び分布と挙動に関する研究」、(3)「地質環境における放射性核種の発生と挙動に関する研究」、(4)「屋内・屋外空気中ラドン・トロン濃度の測定調査と高濃度家屋の特性に関する研究」を当面の課題として実施する(表1-1参照)。
3.放射性物質の分布と移行に関する研究
 環境中に放出された放射性核種による被ばく線量評価では、人体の重要な組織・器官の放射線被ばくに至る放射性核種の挙動解明を進め、被ばく線量算定の精度向上を図る。
 大気中放射性核種移行では、気象条件等、環境特性、局地拡散研究、地球規模放射性核種移動把握研究、放射性核種の大気から土壌への沈着、地表移行経路究明、動植物生態系移行機構解明研究を進める。さらに、放射性廃棄物最終処分に係る影響評価として、長半減期放射性核種の地表面生態系中移行研究を実施する(放射性廃棄物安全研究年次計画中の放射性核種地層中地下水系移行と併行的に実施)。海洋の放射能研究は、地球規模の放射線影響評価のために、放射性核種の海洋中拡散、海水中粒子状物質による収着と沈降、海底堆積物への移行と再溶離、海洋生物放射性核種移行機構に関しても、これまで成果があげられ役立っているが、今後も引き続き研究を進める。民間核燃料再処理施設の操業に伴う公衆被ばく線量評価信頼性の一層の向上を図るため、再処理施設から沿岸海域に放出される核種の海洋生物への移行蓄積に関する研究を実施し、新たに超ウラン元素に関しての海洋放射生態学的研究を推進する。なお、民間再処理施設の周辺環境状況を考慮し、海水圏に加えて河川湖沼に係わる淡水・汽水圏の研究を積極的に推進する。
 具体的には、(1)「大気圏における放射性物質の分布と移行に関する研究」、(2)「陸圏における放射性物質の分布と移行に関する研究」、(3)「陸上の植物及び動物における放射性物質の分布と移行に関する研究」、(4)「淡水・汽水圏における放射性物質の分布と移行に関する研究」、(5)「海水圏における放射性物質の分布と移行に関する研究」、(6)「環境放射線(能)レベルに関する研究」について実施する(表1-1表1-2表1-3および表1-4参照)。
4.放射性物質の人体内における挙動に関する研究 
 環境に放出された放射性核種による内部被ばく線量評価のために、欧米成人データに基づくICRP標準人ICRP標準人に替わる標準日本人のデータ整備を推進することとし、食品から人体への移行、代謝パラメータについての調査研究を進める。微量元素の食品から人体への移行(吸収)と体内動態に関するパラメータの検討整備を進める。他方、年齢層別の線量評価パラメータの設定を目指してデータの収集整理を行う。また、環境における放射性核種の濃度と人体器官・組織分布との相関を究明するため、ストロンチウム90、セシウム137、プルトニウム239、トリチウム等に関する実測データについての検討を進める。
 具体的には、(1)「人体内における放射性物質の代謝とそれによる被ばく評価に関する研究」、(2)「体外計測法による元素の体内動態と被ばく線量に関する研究」、(3)「放射性及び安定元素の食品中濃度と経口摂取量に関する研究」、(4)「被ばく線量算定のための人体パラメータの整備に関する研究」を当面の課題として実施する(表1-4参照)。
5.国民の被ばく線量及び線量算定モデルに関する研究
 人間の生活環境を取巻く各種放射線及び放射性物質の人間への影響評価では、さらに高精度かつ現実的な線量評価手法を確立するため、線量算定モデルの改良又は高度化と、使用するパラメータの適正化を図る。チェルノブイル原子力発電所周辺における環境放射線(能)の挙動、特性、分布等を明らかにし、これらのデータを解析して既存の環境中核種移行モデルとパラメータを検証する。環境放射能の広域海洋及び大気の拡散評価手法に係わる研究を進め、地球規模の集団線量を評価する算定モデルを開発する。また、東アジア地域に想定し得る原子炉事故の影響を迅速に把握するため、日本海の気象・海象条件等を加味した算定モデルを構築する。核医学診断・治療、集団検診などに係わる医療被ばくと、それらに従事する医療関係者の被ばくの実態を調査し、集団実効線量を算出し、放射線利用に伴う被ばく線量の実態を検討する。航空機利用等に関連した宇宙線による被ばくの影響評価の精度向上を目指して、測定機器の選定を合め適正な情報の把握に努める。
 具体的には、(1)「環境における放射性物質の動態と被ばく線量算定に関する調査研究」、(2)「地球規模の広域拡散評価手法に関する研究」、(3)「放射性物質の環境影響評価手法に関する研究」、(4)「放射性物質の生態系移行モデルの検証・改良に関する研究」、(5)「テクネチウム等長半減期核種の環境挙動に影響を及ぼす諸要因に関する研究」、(6)「自然及び汚染環境中における公衆の外部被ばく線量評価に関する研究」、(7)「宇宙線による被ばく線量評価の精度向上に関する研究」、(8)「計算シミュレーションによる高精度外部被ばく線量評価に関する研究」、(9)「内部被ばく線量換算係数の精密評価モデルの開発に関する研究」、(10)「一般人への緊急被ばく評価法に関する研究」、(11)「医療被ばくと職業被ばくによる集団線量及びリスクの推定に関する研究」、を当面の課題として実施する(表1-4参照)。
6.環境放射線測定、放射性物質分析測定等のモニタリング技術開発に関する研究
 環境放射線モニタリングの精度向上と迅速・簡易化を目指して技術開発を継続実施する。さらに、原子力施設の多様化に伴い、モニタリング対象核種の増加に対応するための研究、環境試料の適正な採取法や、有効な指標物の選定に関する研究を進める。ラドン・トロン及びその壊変生成物の濃度測定機器の開発を進め、環境放射線モニタリングデータの品質保証のためにべータ線や中性子線等の標準校正システムに関して検討する。長半減期核種の定量につき、精度向上と迅速化を進めるとともに、超ウラン元素の分析測定法を開発する。海洋モニタリング技術の開発では、海洋に放出された放射性物質の迅速な測定のため、原子力施設周辺海域における係留式モニタリングポストの開発を行う。緊急時モニタリングに関しては、大気力学モデルを適用する等により、予測技術の高度化・総合化を図る。作業者がプルトニウム等のアルファ線放出核種を吸入摂取した際の体外計測法の迅速・高性能化を目指して、半導体検出器等を用いた肺モニタの開発等を進める。
 具体的には、(1)「環境放射線(能)測定器・測定法の開発に関する研究」、(2)「環境放射線(能)測定の品質保証に関する研究」、(3)「ラドン標準場及び測定機器校正システムに関する研究」、(4)「ラドン・トロン及びその壊変生成物曝露装置の開発に関する研究」、(5)「環境中におけるラドン・トロンの高精度モニタリング技術の開発に関する研究」、(6)「環境中に放出された重要放射性核種の分析測定法の開発に関する研究」、(7)「長半減期核種の分析測定技術の高度化に関する研究」、(8)「環境放射能モニタリングの指標物への放射性核種の濃縮に関する研究」、(9)「内部被ばく線量測定評価法の高度化に関する研究」、(10)「緊急時における計算予測とモニタリングの総合化に関する研究」、(11)「緊急時におけるアルファ線放出核種の測定法の確立」を当面の課題として実施する(表1-5および表1-6参照)。
7.環境放射線(能)被ばく低減化に関する研究
 原子力施設の事故に関連して、被ばく低減化のために、各種の放射能汚染を想定し、農畜産物、水産物、輸入食品、あるいは居住環境における放射性核種の挙動と被ばく線量評価、被ばく低減措置費用と便益を比較検討し、介入措置の適用に関連する研究を行う。
 具体的には、(1)「環境から食品への放射性核種の移行動態と食品の安全確保に関する研究」、(2)「環境の放射能汚染除去と環境容量に関する研究」を当面の課題として実施する(表1-6参照)。
<図/表>
表1-1 環境放射能安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)1.環境・線量研究及び被ばく低減化研究
表1-1  環境放射能安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)1.環境・線量研究及び被ばく低減化研究
表1-2 環境放射能安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)1.環境・線量研究及び被ばく低減化研究
表1-2  環境放射能安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)1.環境・線量研究及び被ばく低減化研究
表1-3 環境放射能安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)1.環境・線量研究及び被ばく低減化研究
表1-3  環境放射能安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)1.環境・線量研究及び被ばく低減化研究
表1-4 環境放射能安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)1.環境・線量研究及び被ばく低減化研究
表1-4  環境放射能安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)1.環境・線量研究及び被ばく低減化研究
表1-5 環境放射能安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)1.環境・線量研究及び被ばく低減化研究
表1-5  環境放射能安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)1.環境・線量研究及び被ばく低減化研究
表1-6 環境放射能安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)1.環境・線量研究及び被ばく低減化研究
表1-6  環境放射能安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)1.環境・線量研究及び被ばく低減化研究

<関連タイトル>
環境放射能安全研究年次計画(平成3年度〜平成7年度) (10-03-01-04)
環境放射能安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)生物影響研究 (10-03-01-12)
環境放射能安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)特定核種の内部被ばく研究 (10-03-01-13)
環境放射能安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)緊急時被ばく医療対策の研究 (10-03-01-14)
環境放射能安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)安全評価研究 (10-03-01-15)
環境放射能安全研究年次計画(平成13年度〜平成17年度) (10-03-01-19)

<参考文献>
(1) 科学技術庁原子力安全局(編):原子力安全委員会月報 通巻第207号、p.19-35、大蔵省印刷局(1995)
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