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<概要>
 放射性廃棄物安全研究年次計画(以下「本年次計画」という)では、放射性廃棄物に含まれる放射性物質の種類、量、濃度等、多様性を踏まえ、適切な区分に応じて合理的な処分を行い、再利用についての検討では、資源の有効利用のための規制除外・規制免除について、国際的動向を踏まえつつ適切な対処を行う方針を定めている。また、従来別個に安全研究年次計画を策定していた低レベル放射性廃棄物高レベル放射性廃棄物の両研究分野については、移行経路の解析評価、被ばく評価、安全評価における安全裕度の定量的把握等、共通事項があるので、これらを本安全研究年次計画では一本化している。放射性廃棄物の処分方法については、(1)浅地中処分(簡易な方法による浅地中処分を含む)、(2)地層処分(浅地中処分以外の地下埋設処分を含む)、(3)規制除外・規制免除及び再利用に分類し、推進することにしている。
<更新年月>
1997年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 放射性廃棄物においては、将来にわたって人間及びその生活環境に有意な影響のないように安全に処分することを基本的な考え方としている。
 本年次計画は、原子力委員会が平成6年(1994年)6月に策定した「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」を受け策定されたもので、放射性廃棄物について、放射能レベルの高低、含まれる放射性物質の種類等の多様性を十分踏まえた適切な管理と、区分に応じた合理的な処理処分を行うとともに、資源の有効利用の観点から再利用についての検討を進め、これらに必要な研究開発を着実に進めるほか、規制除外・規制免除についても国際動向を踏まえ適切に対処することにしている。
 また、従来別個に安全研究年次計画を策定していた低レベル放射性廃棄物と高レベル放射性廃棄物の両研究分野について、移行経路の解析評価、被ばく評価、安全評価における安全裕度の定量的把握等の共通事項があるので、これらを本安全研究年次計画では一本化した。本年次計画では、今後の原子力開発利用の拡大と多様化に対応し、放射性廃棄物の処分の安全確保に関する技術的知見の一層の充実を図り、各種基準、指針等の策定(安全確保に係る方針、基本的考え方等の原則的事項の策定、具体的な安全確保の手法としての基準、具体的な指針の策定)や安全評価に当たっての安全裕度の定量的把握に用いるデータ蓄積等に役立てる研究の推進を目的にしている。
 本研究は、日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)、動力炉・核燃料開発事業団(現日本原子力研究開発機構)、(財)電力中央研究所、(財)原子力環境整備センター、(財)日本分析センター、資源環境技術総合研究所、地質調査所、防災科学技術研究所等が分担し実行する。以下にその概要を述べる。 
1.浅地中処分
 浅地中処分については、(1)発電所廃棄物のうち放射能レベルの比較的低いもの、(2)TRU核種を含む廃棄物のうちアルファ核種の放射能濃度が区分目安値より低く、かつべ一タ・ガンマ核種の放射能濃度が比較的低いもの(以下、アルファ核種の放射能濃度が区分目安値より低い廃棄物という)、(3)ウラン廃棄物のうちウラン濃度が比較的低いもの、(4)RI廃棄物、研究所等廃棄物のうち比較的半滅期の短いべ一タ・ガンマ核種が主要核種であり放射能レベルが比較的低いもの、(5)半減期が極めて短い核種のみを含むもの等が対象となる( 表1-1 および 表1-2 参照)。
1.1 発電所廃棄物
 発電所廃棄物については、均質又は均一に固型化した廃棄物、雑固体廃棄物、コンクリート廃棄物の浅地中処分に係る基準等が整備されており、合理的な処分を進めるため今後とも最新の知見に基づく安全評価手法等に係る研究が必要である。
 現在処分計画が進められている発電所廃棄物については、合理的処分を勧めるため、廃棄物中に含まれる放射性核種の分析法に関する研究を進めるとともに、安全裕度の把握、最新の知見を基にした安全評価手法の改良等についての研究を進める。
1.2 RI廃棄物及び研究所等廃棄物
 浅地中処分の対象となる廃棄物範囲の拡大に対応するため、発電所廃棄物以外でこの浅地中処分の考え方と同様の処分が可能ど考えられる廃棄物については、既存の基準の適用性等に係る研究を進める必要がある。このような放射性廃棄物として、RI廃棄物及び研究所等廃棄物について、廃棄物の性状把握のための調査を行うとともに、処分システム構築等に係る研究を行う。
1.3 アルファ核種の放射能濃度が区分目安値より低い廃棄物
 この放射性廃棄物では、アルファ核種のような長半減期核種が主要核種であり、その濃度が区分目安値より低く、かつべ一タ・ガンマ核種の放射能濃度が比較的低いので、長期間の安全確保の観点から、安全確保の基本的考え方についての研究を進めるとともに、基準類の策定、具体的な安全評価の実施のための研究を行う必要がある。
 アルファ核種のような長半滅期核種が主要核種である放射性廃棄物については、長半滅期核種に着目した浅地中処分の安全確保の基本的考え方策定のため、処分概念の策定、評価シナリオ等に関する研究を行う。また、基準類の策定、具体的な安全評価の実施のため、廃棄物中に含まれるTRU核種等の分析法に関する研究を進めるとともに、天然バリア中の核種移行データの取得、安全評価手法等に関する研究を行う。
1.4 研究項目
 具体的な研究・調査では、(1)「放射性廃棄物処理処分に係る放射性核種の分析法」、(2)「雑固体の放射能濃度等の測定手法に関する研究」、(3)アルファ廃棄物浅地中処分の安全評価の基本的考え方に関する研究」、(4)「TRU核種を含む放射性廃棄物(アルファ放射能濃度が比較的低いもの)の浅地中処分の安全性に関する研究」、(5)「RI廃棄物及び研究所等廃棄物の処分に関する研究」、(6)「浅地中処分における安全性試験に関する研究」、(7)「放射性廃棄物処分施設におけるガス発生影響に関する調査研究」、(8)「物質移行解析コードの改良整備に関する研究」、(9)「安全評価モデル整備」が対象となっている。また、研究項目に含まれるものではないが、その成果が安全研究の推進に参考となる実証試験として、(1)「放射性核種分析手法信頼性実証試験」、(2)「低レベル放射性廃棄物固化体長期浸出試験」、(3)「低レベル放射性廃棄物陸地処分安全性実証試験」、(4)「極低レベル固体廃棄物合理的処分安全性実証試験」がある。
2.地層処分
 地層処分については、高レベル放射性廃棄物、TRU核種を含む廃棄物のうちアルファ核種濃度が区分目安値より高いものが対象となる。
 特に、高レベル放射性廃棄物については、安定な形態に固化した後、30年から50年程度冷却のための貯蔵を行い、その後、地下の深い地層中に処分するという基本方針に則り、2000年を目安に処分事業の実施主体の設立を図り、さらに処分場の建設・操業の計画は、2030年から遅くとも2040年代半ばまでの操業開始を目途とするという処分スケジュールを念頭に置きつつ、その成果により所要の基準、指針の策定等が行えるように研究を進める。地層処分は、極めて長期にわたる安全性を評価するという課題を有することから、地層処分に係る安全確保の方針、基本的考え方について、研究を進める。さらに、地層処分に係る指針・基準類の策定、具体的な安全評価の実施の基盤となる安全性の定量的把握のための研究を行う。
 地層処分に係る安全確保の方針、基本的考え方の策定に資するため、安全目標、安全要件及び安全指標等の策定に係る調査研究のなかで、論理的考え方並びに制度的管理、安全評価シナリオ、評価尺度及び評価期間等のあり方について研究を行う。予定地選定に当たって必要な技術的要件の策定に資するため、地質環境特性に関するデータを整備するとともに、地質環境の長期安定性に係る調査研究を行い、地質環境の適性を評価する解析手法の確立等を図るための研究を行う。安全審査基準・指針の策定並びに安全評価における安全裕度の定量的把握のため、人工バリア・処分施設、天然バリア及び地質環境条件に係る調査研究、並びに地層処分システムの安全評価手法及びデータベースに関する研究を着実に行う。人工バリア・処分施設に関しては、放射性核種の移行に係わる性能をはじめとして、長期的健全性、安定性等の研究を、一方天然バリアについては、国内外のウラン鉱床等における研究を含む放射性核種の移行評価に関する研究を行う。また、地質環境条件については、深層地下水の流動、地球化学特性等に関する研究を行う( 表2-1表2-2表2-3 および 表2-4 参照)。
 具体的な研究・調査では、(1)「安全に関する基本的考え方と安全評価の考え方等に関する研究」、(2)「安全評価シナリオに関する研究」、(3)「地質環境の長期安定性に関する研究」、(4)「人エバリア要素の安全性に関する研究」、(5)「人工バリア中核種移行評価に係るデータベースの整備」、(6)「人工バリアのナチュラルアナログ研究」、(7)「人工バリア要素(綬衝材等)に関する研究」、(8)「人工バリア等の構造安定性に関する研究」、(9)「人工バリアの長期物理的安定性に関する研究」、(10)「深層地下水の流動特性に及ぼす基本要因に関する研究」、(11)「地下水流動モデルの確立に関する研究」、(12)「地下水の地球化学特性に関する研究」、(13)「天然バリアにおける放射性核種の移行に関する研究」、(14)「天然バリアのナチュラルアナログ研究」、(15)「地質環境の適性評価手法に関する研究」、(16)「地震動が地質環境特性に与える影響に関する研究」、(17)「処分場の立地条件策定に与える低確率事象影響に関する研究」、(18)「人工バリアとその周辺岩盤との相互作用に関する研究」、(19)「地質環境条件変化に伴う核種移行遅延機構変化の研究」、(20)「放射性廃棄物処分における微生物影響調査」、(21)「地層処分システムの総合安全評価手法に関する研究」、(22)「地層処分システムの確率論的評価手法に関する研究」、(23)「安全評価に用いる解析手法・モデル・データの品質保証に関する研究」、(24)「安全評価に用いる解析モデルの検証に関する研究」、(25)「TRU廃棄物の安全評価に係わる要因の定量的研究」、(26)「TRU核種の移行挙動に関する研究」、(27)「TRU廃棄物処分に関する核種移行評価モデル及びデータベースの整備」が対象となっている。
3.規制除外・規制免除及び再利用
 規制除外・規制免除及び再利用については、基本的には、放射能レベルの極めて低いものが対象となる。なお、廃棄物の再利用では、一般産業等への再利用(以下「非限定再利用」という。)と原子力施設への再利用(以下「限定再利用」という。)が考えられる。 国際的には国際原子力機関(IAEA)等において規制除外・規制免除及び再利用に係る基準策定が進んでおり、我が国においても安全確保を大前提とした上で、資源の有効利用、廃棄物の合理的処分の観点から、国際的な基準との整合性を図りつつ、国内の利用計画を踏まえた規制除外・規制免除及び再利用に係る基準策定のため、安全解析モヂルの構築等に関する研究を行う( 表3 参照)。
 具体的には、「規制免除・再利用の安全評価システムの整備」を目標にした研究を行う。
<図/表>
表1-1 放射性廃棄物安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)1.浅地中処分
表1-1  放射性廃棄物安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)1.浅地中処分
表1-2 放射性廃棄物安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)2.浅地中処分
表1-2  放射性廃棄物安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)2.浅地中処分
表2-1 放射性廃棄物安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)2.地層処分
表2-1  放射性廃棄物安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)2.地層処分
表2-2 放射性廃棄物安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)2.地層処分
表2-2  放射性廃棄物安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)2.地層処分
表2-3 放射性廃棄物安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)2.地層処分
表2-3  放射性廃棄物安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)2.地層処分
表2-4 放射性廃棄物安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)2.地層処分
表2-4  放射性廃棄物安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)2.地層処分
表3 放射性廃棄物安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)3.規制除外・規制免除及び再利用
表3  放射性廃棄物安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)3.規制除外・規制免除及び再利用

<関連タイトル>
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<参考文献>
(1) 科学技術庁原子力安全局(編):原子力安全委員会月報 通巻第207号、p.72-84、大蔵省印刷局(1995)
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