<大項目> 原子力の行政・制度・政策
<中項目> 原子力開発利用長期計画
<小項目> 21世紀の地球社会と原子力の果たす役割(第1章)
<タイトル>
直面する諸問題と21世紀地球社会への期待[その2](平成6年原子力委員会) (10-01-02-02)

<概要>
新長期計画での時代の認識は、次のとおりである。
(4)地球環境問題の深刻化:とりわけ、地球温暖化は、人類の生存基盤に深刻な影響を与えかねないため、その解決が強く望まれている。(5)冷戦後の国際社会が直面する諸問題:転換期における国際社会では、基本的価値を共有する諸国が協力し、平和と繁栄を築いていくことがまず重要と考えられる。日本、北米諸国、西欧諸国は、このような国際環境の中で、重要な責任と役割を持つようになってきている。(6)21世紀地球社会への期待:国際協調による平和の達成、環境調和型経済社会の形成、資源・エネルギー・環境の問題等の課題の解決が期待される。原子力開発利用についても、21世紀への期待に応えるという視点を見失うことなく、展開していくことが重要である。
 本稿は原文を掲載する。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
第1章 21世紀の地球社会と原子力の果たす役割
1.直面する諸問題と21世紀地球社会への期待
(2)世界人口の増加
タイトル:直面する諸問題と21世紀地球社会への期待[その1](平成6年原子力委員会)<03-01-02-01>に掲載。
(3)エネルギー消費の増大
タイトル:直面する諸問題と21世紀地球社会への期待[その1](平成6年原子力委員会)<03-01-02-01>に掲載。
(4)資源の制約
タイトル:直面する諸問題と21世紀地球社会への期待[その1](平成6年原子力委員会)<03-01-02-01>に掲載。
(4)地球環境問題の深刻化
近年、地球温暖化、酸性雨等の地球環境問題が内外の大きな関心を呼んでいます。
 このような議論の嚆矢となったのは、1972年にローマクラブにより発表された「成長の限界」ですが、以来、人類の活動がこのまま拡大していくと地球そのものの包容力が限界に達し、人類と地球の将来に深刻な危機をもたらすという可能性が認識されるようになりました。大気中の二酸化炭素等の温室効果ガス濃度の上昇による地球温暖化、酸性雨、オゾン層の破壊による紫外線の増加、砂漠化、森林破壊、海洋汚染、野生生物種の減少等地球環境問題は多岐にわたっていますが、とりわけ、地球温暖化問題は、その主要原因物質とされる二酸化炭素が人類の活動から不可避的に発生し、人類の生存基盤に深刻な影響を与えかねないため、その解決が強く望まれています。
 森林の伐採等も二酸化炭素濃度の増加を促進していますが、前述のように人口やエネルギー消費の増大に伴い、化石燃料の消費量が拡大してきたことが、二酸化炭素の排出量の増加の大きな要因となっています。二酸化炭素濃度は、産業革命前には約280ppmでしたが、1990年には約353ppmになっており、近年は、毎年1.8ppmずつ増え続けています。また、現在の二酸化炭素の排出量は年間約60億トン(炭素換算)に達しています。将来の地球温暖化の予測は、不確実性が大きく困難な状況ですが、一つの試算として、国連環境計画と世界気象機関が共同で設置した「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)が行ったものがあります。それによると、二酸化炭素等の排出などについて特段の方策を採らなければ、21世紀末までには約3℃平均気温が上昇するという予測が示されています。氷河時代においても、平均気温は現在より約5℃低かったに過ぎないとされていることを考慮すると、わずか100年間で3℃も気温が上昇するということは、脅威的な事態であり、人類の生存自体が脅かされることになりかねません。21世紀は、地球環境の変化により人類が生存基盤を脅かされかねない時代です。

(5)冷戦後の国際社会が直面する諸問題
 これまで概観してきた諸問題は、21世紀の地球社会を念頭に置いて、原子力開発利用を考えるという観点から取り上げたものですが、今日、原子力開発利用を適切に展開していくためには、狭い意味で原子力に関連する情勢を把握していくだけではなく、広く政治、経済なども含めた国際情勢にも十分配慮して対応していくことがとりわけ重要になってきています。
 このような国際情勢は、人口、エネルギー等のように統計的に長期予測を示すことは困難ですから、ここでは冷戦後の国際社会が直面する諸問題について、現状認識を中心に示すこととします。1991年のソ連の解体により、戦後の国際社会の枠組みを形成してきた米ソ両大国の対立を中心とした冷戦構造が崩壊し、国際社会は、大きな変革期を迎えています。米露協調の進展という国際環境の中で世界各地における地域紛争は解決に向けて動き出し、先進民主主義諸国では、一時、世界の将来に対する期待感が広がりました。しかし、これは長くは続きませんでした。今日では、ロシアの不安定な状況、兵器拡散問題、旧ユーゴスラビアにおける紛争の激化などに加え、先進国経済の低迷、依然として深刻な開発途上国問題など悲観的材料が目に付くようになっており、むしろ将来に対する不安感、不透明感は増大しています。
 米ソの二極構造が崩壊した結果、冷戦構造の下では表面化しなかった民族・部族対立や宗教的対立に根ざす新たな紛争が顕在化する危険性が高まっています。開発途上国問題は、イデオロギーを離れて対応することが可能となり、世界全体の平和と繁栄を確保していく上で不可欠の問題として本格的に取り組むことが必要になっていますが、先進国の財政困難を背景として、援助疲れや旧ソ連、中・東欧諸国への関心の傾斜も見られます。また、世界の政治経済は、相互依存の深化やグローバル化が進展し、多数国間の協調と協力がますます重要になっていく一方で、欧州、北米、アジア太平洋地域で見られるように地域協力の動きも活発化しており、特にアジア太平洋地域は急速な経済成長を続けている地域としても注目されています。地域協力は地理的、歴史的背景の下、それぞれの地域に適合する協力を進めていくものであり、その活動が世界全体に貢献することが期待されますが、そのためにもこのような地域協力は世界的なシステムと整合性を確保しつつ進められることが極めて重要です。
 冷戦の終結は、国際政治におけるイデオロギーの役割を低減させ、経済力、科学技術力の重要性を高めました。世界各地において民主化、市場経済化に向けた努力が進められていますが、必ずしもその成果は一様ではありません。このように国際社会は試行錯誤の中にありますが、これまでの努力の中でおぼろげながらも、21世紀の地球社会の行方が徐々に浮かび上がりつつあります。
 このような転換期においては、国際社会において、自由、民主主義、人権、市場経済といった基本的価値を共有する諸国が協力し、これら共通の価値に基づく平和と繁栄を築いていくことがまず重要と考えられます。また、世界経済の活力を維持・強化していくこと、特に、世界の平和と繁栄に主要な責任を持つ先進民主主義諸国の経済の持続的成長を確保することも重要です。
 米国も含めいかなる国も国際社会の抱えるこうした課題を一国で解決することはできません。日本、北米諸国、西欧諸国は、このような国際環境の中で、重要な責任と役割を持つようになってきています。これら諸国が、今日の国際社会の指導理念となっている基本的価値に基づき密接に協力することなくしては、転換期の世界が直面する諸問題に有効に対処することは困難になっています。

(6)21世紀地球社会への期待
 21世紀に向けて紛争のない安定した新たな国際社会が実現されることは、人々の願いです。今日多くの開発途上国にあっては人々が依然貧困に苦しんでおり、これらの開発途上国が困難を克服し、経済社会の開発に取り組むことは、世界の平和と繁栄に不可欠です。
 真の平和は、単に紛争がないというだけにとどまらず、自由、民主主義、人権といった価値を保障するものでなければなりません。これらの基本的価値が、地球上のより多くの人々によって共有されることが望まれますが、現実に人々が生きている世界は歴史、民族、宗教、自然、文化など背景が異なり自ずと多様な価値観が存在しています。21世紀社会においては、このような多様な価値観を包含しつつ、国際社会が協調して基本的価値に基づく世界の平和と繁栄を確固たるものにしていくことが期待されます。
 人口問題、貧困問題、エネルギー問題、環境問題等はそれぞれ密接に関連しており、人類は地球の限界を超えないよう配慮しつつ、これらを調和させながら持続可能な発展を遂げていかなければなりません。地球を慈しみ自然と共生して初めて人類は末永く生きながらえることが可能になります。そのためには、大量生産、大量消費、大量廃棄を前提とした20世紀型技術文明を克服し、人類の母なる地球を甘えの対象ではなく、いたわりの対象として認識することから出発する新たな価値観に立脚した、いわゆるリサイクル文明を創造していくという気持ちが大切です。
 これは、人々に価値観の変更やライフスタイルの変更を迫るということでもあります。自分のことのみならず隣人、他国の人々、さらには子孫のことにも思いを致すことが大切です。省エネルギーに努めることはもちろんのこと、資源の有限性を理解して各種エネルギーをその特質を活かしながら最大限有効に使うとともに、できるだけ地球に優しいエネルギー源を求めて研究開発を進めることが必要です。また、経済社会活動や日常生活の規範として環境負荷の低減に常に留意することが重要であり、廃棄物を減らすという考え方が大切です。21世紀は、思いやりのある環境調和型経済社会の形成に向かっていくことが期待されます。
 科学技術は、これまでも人類の歴史とともに発展してきましたが、資源問題、エネルギー問題、環境問題等が眼前に大きく立ちはだかるような状況において、これらの課題の解決に科学技術が果たすべき役割は従来にも増して大きくなってきており、この期待に沿うべくこれを発展させていくことが望まれます。
 原子力開発利用についても、こうした21世紀への期待に応えるという視点を見失うことなく、これを展開していくことが重要です。
<関連タイトル>
直面する諸問題と21世紀地球社会への期待[その1](平成6年原子力委員会) (10-01-02-01)
原子力平和利用の役割(平成6年原子力委員会) (10-01-02-03)

<参考文献>
(1)原子力委員会(編):21世紀の扉を拓く原子力 −原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画− 大蔵省印刷局(平成6年8月30日)
(2)原子力委員会(編):原子力白書 平成6年版 大蔵省印刷局(平成7年2月1日)
(3)日本原子力産業会議:原子力産業新聞 第1750号(1994年7月14日)
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