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第1章 21世紀の地球社会と原子力の果たす役割
1.直面する諸問題と21世紀地球社会への期待
我が国は、戦後半世紀を経て経済大国と呼ばれるまでになりました。エネルギー消費も全世界の5.6%を占め、
原子力発電を始めとする原子力開発利用についてもその規模、技術水準等において先進国の列に連なっています。今日、原子力発電は、世界の総発電電力量の約17%を占める重要なエネルギー供給源となっており、我が国としても、自国の将来のみならず地球社会の将来という視点で、原子力開発利用の意義を考える必要があります。
本節では、原子力開発利用の意義を考えるために、まずグローバルな観点から留意すべき点として、人口問題、エネルギー問題、資源問題、地球環境問題等について将来を概観するとともに、21世紀地球社会への期待を述べます。
(1)世界人口の増加
人類が21世紀に直面する最大の問題の一つは人口問題です。
国連の統計によると、1990年の世界人口は約53億人です。17世紀半ばには約5億人であった世界人口は、19世紀初頭には10億人を超え、1950年には約25億人に達しています。その後の40年程度の極短い期間に人口は倍増しており、過去と比べると近年の人口の増加は驚異的なものであることがわかります。
今後、2010年には約71億人、2025年には約85億人、そして21世紀半ばには地球人口100億人の時代が到来すると予測されています。
また、1990年の開発途上国の人口は既に世界人口の4分の3以上を占めていますが、この割合は今後一層高まっていき、2025年には約83%に達すると予測されています。
人口予測は、過去の実績から判断すると未来予測としては精度がかなり高いものであり、開発途上国を中心とした人口の爆発的増加により21世紀には地球人口100億人の時代が到来するということを認識しておく必要があります。
(2)エネルギー消費の増大
現代文明は、エネルギーの大量消費によって支えられていると言っても過言ではありません。
世界のエネルギー消費は、産業革命の起きた頃から増大を続けています。19世紀半ばには、1億トン(石油換算)程度だったものが、1990年には約80億トン(石油換算)となっています。前述のとおり、ここ40年間で世界人口は倍増していますが、この間世界のエネルギー消費は4倍以上になっており、一人当たりのエネルギー消費も倍増していることになります。エネルギー消費は、経済の発展状況、人々の生活の質等と密接な関係があり、第二次世界大戦後の大量生産と大量消費に依存する社会の到来とともに、エネルギー消費は急増しました。二度の
石油危機により一時的にエネルギー消費の伸びは停滞しましたが、石油価格の低下等により再び消費量は増大し、現在もエネルギー消費の増大傾向が続いています。
エネルギー消費には、地域差が大きく、例えば世界人口の約5%を占めるに過ぎない北米のみで全体の4分の1以上のエネルギーを消費しています。また、エネルギー消費の半分以上は、人口で6分の1弱を占めるに過ぎない先進国によって消費されており、一人当たり消費量で比較すると、先進国は、開発途上国の約9倍ものエネルギーを消費していることになります。
国際エネルギー機関(
IEA)によると、世界全体で、2010年には、1991年の約1.5倍のエネルギー消費が見込まれていますが、このうち先進国のエネルギー消費は、約1.3倍となるのに対し、開発途上国のそれは急激な人口増加や生活水準の向上等により約2.2倍となり、世界のエネルギー需要の約4割を占めると予測されています。開発途上国の人口増加は避けられず、また開発途上国の人々にも先進国の人々と同様に豊かで文化的な生活を営む権利があることは言うまでもありませんから、今後とも開発途上国を中心にエネルギー消費が大幅に伸びていくこととなり、省エネルギーやエネルギー利用の効率化への努力を続けるものの、21世紀は世界全体としては更に大量のエネルギーを必要とする時代となることは確実です。
(3)資源の制約
現代社会は、石油文明と言われています。ガソリン、灯油はもちろんのこと、衣料品、日用品と身の回りは石油製品であふれており、石油なくしては日常生活が成り立たない状況です。
IEAの統計によると1991年現在、世界のエネルギー消費の約39%を石油が賄い、石炭は約29%、天然ガスは約22%、水力は約2%をそれぞれ賄っています。原子力は年々増加してはいるものの、まだ7%程度です。つまり、エネルギー消費の約9割は石油を始めとした化石燃料に依存しているわけです。
近年は、石油の生産量が多く、価格も実質価格では石油危機以前の水準になっていることから、石油は無尽蔵にあり、いつでも安価に必要な量が入手できるかのように思われがちですが、化石燃料は再生が不可能な限りある資源であり、いずれは必ず資源制約が顕在化するということを十分認識しておく必要があります。
現在のエネルギー資源の可採年数(
確認可採埋蔵量を年生産量で割ったもの)は、石油、天然ガス、ウラン(
核燃料リサイクルをしない場合)は数十年、石炭は200年程度とされています。これは、単純に言えば現在の水準で消費を続けていくと、21世紀にはエネルギー資源の状況は危機的なものになる可能性があるということを意味し、さらに、前述のようにエネルギー消費が今後とも拡大していけば、利用可能なエネルギー資源の枯渇はさらに早まる恐れがあるということを意味しています。
また、石油などにはエネルギー資源としての用途のほかに、身の回りに不可欠な品々の原料としての用途もあり、エネルギー資源としての消費を減らすことが、貴重な資源を将来に残していくこととなります。
資源制約を考える場合には、我々の時代に資源が豊富にあるかどうかという観点で捉えることは、必ずしも適当ではありません。石油は、地球が何億年という歳月をかけて生んだ貴重な資源であり、このままでは人類はこれをたかだか200年程度の間に使い切ってしまうことになりかねません。たまたまこの恵まれた時代に生きる我々としては、できるだけ後世代にもその恩恵が及ぶよう大切に使うことが必要です。
21世紀には、資源制約が顕在化し、人類の活動基盤を脅かすことが懸念されます。
(4)地球環境問題の深刻化
タイトル:直面する諸問題と21世紀地球社会への期待[その2](平成6年原子力委員会)<03-01-02-02>に掲載。
(5)冷戦後の国際社会が直面する諸問題
タイトル:直面する諸問題と21世紀地球社会への期待[その2](平成6年原子力委員会)<03-01-02-02>に掲載。
(6)21世紀地球社会への期待
タイトル:直面する諸問題と21世紀地球社会への期待[その2](平成6年原子力委員会)<03-01-02-02>に掲載。
<関連タイトル>
直面する諸問題と21世紀地球社会への期待[その2](平成6年原子力委員会) (10-01-02-02)
原子力平和利用の役割(平成6年原子力委員会) (10-01-02-03)
<参考文献>
(1)原子力委員会(編):21世紀の扉を拓く原子力 −原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画− 大蔵省印刷局(平成6年8月30日)
(2)原子力委員会(編):原子力白書 平成6年版 大蔵省印刷局(平成7年2月1日)
(3)日本原子力産業会議:原子力産業新聞 第1750号(1994年7月14日)