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<概要>
 放射線防護は、種々の立場からそれぞれ異なった目標をもって行われているが、国際放射線防護委員会ではその目標を以下のように述べている。即ち、人間の被曝を伴う諸活動に対し、適切に安全な諸条件を作り上げ維持することであり、具体的には非確率的な影響を防止し、また確率的影響の確率を容認できると思われるレベルにまで制限すること、また放射線被曝を伴う行為が確実に正当とされるようにすることである。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
  放射線の影響から人体及び環境を護るという放射線防護は、種々の目標を持って行われている。放射線防護に関し長い歴史と高い権威を持っている国際放射線防護委員会の見解を中心に、最近の放射線防護関係者によって受け入れられていると考えられる放射線防護の目標は以下のとおりである。
  放射線の人体への影響は多様な形で現れ、それらはいろいろに分類できる。即ち、被曝した個人本人に現れる身体的影響と被曝した個人の子孫に現れる遺伝的影響とに分けることが出来るが、もう一つの重要な分類は、その影響の起こる確率がしきい値のない線量の関数と考えられる確率的影響としきい値があり、その影響の重篤度が線量とともに変わる非確率的影響とに分けることである。放射線防護に関係のある線量範囲では、発癌は確率的影響と考えられ、発癌以外の身体的影響は非確率的影響と考えられる。放射線防護の目的は、非確率的な有害な影響の発生を防止(即ち発生しないように)し、また確率的影響の発生確率を社会が一般に容認できるとしているレベルにまで制限することであり、さらに放射線被曝を伴う行為が確実に正当とされるようにすることである。
  非確率的影響の防止は被曝を非確率的影響の発生のしきい値に達しないように制限すればよく、確率的影響の制限は、適切な線量限度を設けた上で、被曝を経済的及び社会的要因を考慮に入れながら合理的に達成できる限り低く保つことによって達成できる。このため、放射線防護のための線量限度を設定して実行することとしているが、確率的影響のあることを認識して、国際放射線防護委員会は、線量限度に留まらずに以下のような線量制限体系を提言している。即ち、

 1 いかなる行為もその導入が正味でプラスの利益を生むものでなければならない(行為の正当化
 2 すべての被曝は、経済的及び社会的な要因を考慮に入れながら、合理的に達成できる限り低く保たなければならない(防護の最適化
 3 個人に対する線量当量は、委員会がそれぞれの状況に応じて勧告する限度を越えてはならない(線量の制限)

  この3点が現在の放射線防護の目標を最も端的に表しているといえる。
  このように、放射線防護の主目標は、人体の被曝を伴う諸活動に対し、適切に安全な諸条件を作り上げ維持することであるが、人間以外の生物に対しては次のように考える。即ち、すべての個々の人間の防護に必要とされる安全のレベルは、人以外の他の種の個々の生物体は必ずしも防護しないとしても、それらの種を防護するのには十分妥当であろうと考えられる。もし人間が適切に防護されていれば、他の生物もまた十分に防護されているという考え方である。
<関連タイトル>
放射線防護の歴史 (09-04-01-01)
放射線被曝によるリスクとその他のリスクとの比較 (09-04-01-03)
ICRPによって提案されている放射線防護の基本的考え方 (09-04-01-05)
ICRPによる放射線被ばくを伴う行為の正当化の考え (09-04-01-06)
ICRPによる放射線防護の最適化の考え (09-04-01-07)
国際放射線防護委員会(ICRP) (13-01-03-12)

<参考文献>
(1)国際放射線防護委員会勧告(1977年1月1日採択)、ICRP Publication 26、日本アイソトープ協会
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