<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 原子力施設による健康影響
<小項目> 放射線事故対策
<タイトル>
放射能探知システム (09-03-03-07)

<概要>
 放射能探知システムは、広い意味では放射性物質による人体の汚染検査(ゲート型体表面モニタ)や故意に搬出される核物質を検査する核物質ゲートモニタなどもこれに含まれるが、ここでは、工業・医療分野などで使用された放射線源が廃棄されて金属スクラップとして回収され、再生される過程で、再生前に線源等の混入を未然に探知することを目的とする放射能探知システムのことを言う。この放射能探知システムの個々の名称はスクラップモニタ、トラックゲートモニタや鉄鋼材車両モニタ等である。
<更新年月>
2007年07月   

<本文>
1.線源混入の背景と放射能探知システムの設置
 スチール製の机から異常に高い放射線が検出されたとか、建造物の鉄筋に60Coが混入してアパートの線量率が異常に高いと報道された(文献(4)、(5)参照)。先進国が工業・医療分野などで使用する放射線利用機器を開発途上国に援助又は販売したとき、相手国に放射性物質の取扱を規制する法律が整備されていないと、これらの放射線利用機器は、やがて放射性物質が含まれていることを忘れ、スクラップとして回収される機会が増える。加えて鉄鋼スクラップは国境を越えて流通しているので、自国では線源が放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法令等で管理されていても、金属スクラップに混入して輸入されてくることもある。
 金属スクラップに線源が混入していることを見落とすと、溶解作業に携わる作業員のみならず、リサイクルされた製品を通じて放射線被ばくによる一般市民への健康影響も問題となり、補償や放射性廃棄物の処理費用が極めて高くつく。そこで、スクラップの通関検査時や高炉・電炉を用いる製鉄所では、構内入口にスクラップを搬入するトラックやトレーラを車両ごと測定してスクラップ中に線源混入の有無を調べる放射能探知システム、即ち、高感度の放射線モニタを設置して積荷の放射能検査をしている(図1参照)。
2.放射能探知システム
 金属スクラップを積載したトラック通過道路に大型放射線検出器でトラックをサンドウイッチ状に挟む放射線測定ゲートを設け、トラックをゆっくりとこのゲートを通過させ、放射線の測定を行う。計測指示部は守衛所又は付近の建屋に設置する。これが、トラックゲートモニタと呼ばれる放射能探知システムである(図2参照)。
 検出器には大容積のプラスチックシンチレータや大型NaI(例えば、3インチφ×3インチ)検出器が使用されている。トラックゲートモニタの放射能検出性能は、計測条件を以下としたとき、137Cs線源(11MBq)をコンテナー(61×61×61cm)に収納し、その表面線量率が10μSv/hを有するコンテナーを金属スクラップとバラ積みしたとき、この線源の検出確率は99%である。
     スクラップのかさ密度(786kg/m3)、
     トラックの移動速度(8km/h)、
     トラックの横幅(2m)
 また、上記と同様な測定条件で鉛でシールドされた137Cs線源(3.7GBq)を金属スクラップとバラ積みした時の検出確率は99%である。
 トラックの中央に11MBqの線源がある時、検出器位置での線量率(nSv/h)とスクラップのかさ密度の関係を図3に示す。
 国内の製鉄所でもこのような放射能探知システムを設置して金属スクラップのモニタを行っている。2000年5月には、和歌山市の製鉄所で輸入されたステンレス廃棄物の入ったコンテナに混入した線源が、放射線ゲートモニタのおかげで再利用されずに見つかっている。
3.スクラップ材の再利用による外国での事故例
 1983年1月14日に台湾電力第一原子力発電所の燃料貯蔵槽の建設のため、製鉄業者が鉄筋をトラックに積載して第一原子力発電所のゲートを通過した時、ゲート付近に設置されていた放射線モニターがアラームを発したことにより放射能汚染の鉄筋が発見された。その後の調査の結果、60Coによる鉄筋汚染の原因は、1982年に陸軍化学兵学校で紛失した60Co線源23.8Ci(8.81×1011Bq)が、学校の出入規則の緩さのため、勝手に入り込んだ民衆に拾われ、それを金属スクラップとして古物屋に売り、製鉄会社に転売されて鉄筋として再利用されたことによるものと考えられている。台湾の台北市で1984年に完成した「民生アパート」やその他多くのビルが、60Coで汚染した鉄筋で建設された。そして、これらのビルに入居した多くの住民が外部被ばくした。「民生アパート」に入居した啓元歯科医院のレントゲン室およびその隣に入居した億昌音響会社事務所兼倉庫の線量率測定結果を図4に示す。「中国商銀天母社員寮」および「民生アパート」入居者の健康影響および被害状況を表1に示す。1983年以後に建設された放射線汚染ビルの調査は、放射能汚染鉄筋事件が明るみになった1992年から民間の手掛かり、建築会社の資科、台湾放射線防護協会、原子力委員会等によりサーベイメータ、TLDで市内175のビルについて測定され、放射線汚染の程度が分析された。放射線汚染家屋の居住者は1,600世帯におよんでいる。結局、放射能汚染の鉄筋が市場に出回り、建築材料として使用され、10年以上の間に数千人が被害者となった。
4.金属スクラップの溶解事故例
 これまで国内では誤って溶解されたという報告は見あたらないが、米国では1983年以来表2のような事故例が報告されている。鉄、鉛金属などに137Cs、60Co混入の場合がほとんどで、他に、アルミニウム金属に241Am,226Ra、亜鉛金属に劣化ウランが混入した事例がある。幸いにも作業者や一般公衆に被害はなかったが、それぞれの事故に伴う損害は、800万ドルから1000万ドルで、一例だけ2300万ドルに達した。
 放射能で汚染された金属スクラップが再生され民生品として利用されると、多くの市民が被ばくする。資源を有効に利用するという機会が増しているので、十分な監視体制を整備することが必要である。
(前回更新:2001年3月)
<図/表>
表1 住民の被害状況の比較
表2 米国における放射性物質の溶解事故例
図1 複数の放射能探知システム
図2 放射能探知システム(トラックゲートモニタ)を通過するスクラップ積載車両
図3 トラック中央に11MBqの線源が存在するときの検出器位置での線量率
図4 民生アパートに入居した啓元歯科医院およびその隣に入居した億昌音響会社事務所兼倉庫の線量率測定結果

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<関連タイトル>
ブラジル国ゴイアニア放射線治療研究所からのセシウム137盗難による放射線被ばく事故 (09-03-02-04)
メキシコ/米国におけるコバルト60で汚染された製品による市民の被ばく (09-03-02-10)
千葉市におけるイリジウムによる放射線被ばく事故 (09-03-02-11)
放射線利用における放射線被ばく事故 (09-03-02-15)

<参考文献>
(1)松原昌平:高感度放射線検知システム、ISOTOPE NEWS、No.558(2000年11月)、p.12-13
(2)中村吉秀:フィリピンからの輸入金属スクラップ中の放射性線源とその回収処理、ISOTOPE NEWS、No.559(2000年12月)、p.12-15
(3)Exploranium-Vehicle Monitoring System:
(4)王玉麟(著)、近藤敦子(訳):台湾の放射能汚染問題、長崎・ヒバクシャ医療国際協力会発行(1998年)
(5)稲垣昌代:保物セミナー2000「金属スクラップ中の放射性物質」に参加して:特別講演、「台湾における鉄筋中の60Co汚染の経緯とその後」、(財)原子能科技基金会(台湾)、蔡昭明、保健物理、35(4)、518-520(2000)
(6)Greta Joy Dicus:USA PERSPECTIVES,IAEA BULLETIN,Vol.41,No.3(1999)
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