<本文>
1. 食品輸入量と輸入食品の監視
1.1 食品輸入の背景
日本の食料自給率は、熱量ベースでは1960年(昭35)には79%であったが、それ以降、食生活の変化に伴い、また、社会構造の変化による生産力の低下があって徐々に低下し、2010-13年度(平22-25)には39%となっている(
図1)。コメはほぼ足りているが、果実・野菜、大豆、小麦、油脂類、畜産物等の不足分は諸外国からの輸入に頼る事になる。
図2は2014年度の日本の農産物、水産物等の主な輸入相手国を示す。南北アメリカの国々、東南アジア及び中国から高い割合で原料、半加工食品及び加工済食品を輸入している。そして、それらの国では、照射食品の種類は多い。
1.2 輸入食品の検査と検査項目
輸入食品を監視するため、「輸入食品監視指導計画」に基づいて検査を行う(
図3)。届出内容の審査の後に実施される主な検査項目を以下に示す:[1]抗菌性物質:抗生物質、合成抗菌剤、ホルモン剤等、[2]残留農薬:有機リン系、有機塩素系、カーバメイト系、ピレスロイド系等、[3]食品添加物:保存料、着色料、甘味料、酸化防止剤等、[4]病原微生物:腸管出血性大腸菌、リステリア菌、腸炎ビブリオ等、[5]大腸菌群、[6]カビ毒:アフラトキシン、デオキシニバレノール、パツリンなど、[7]遺伝子組換え食品:使用の有無、[8]照射食品:使用の有無。
2.世界の照射食品の分析法(以下、検知法と云う)
照射食品の検知は、食品処理の信頼性、検査の信頼性、情報開示、食品企業の信頼性、国の食品管理責任、国際的な食品流通等の観点から重要である。
2.1 欧州標準化委員会(CEN:Comite Europeen de Normalisation)の分析法
表1は、欧州標準分析法(EN)と
コーデックスの照射食品の標準分析法を示す。欧州委員会(EC:European Commission)は1980年代に域内の照射食品の統一的規制を検討した。欧州標準化委員会CENは、1993年に分析法ワーキンググループを置き、2004年までには10分析法を選定した。コーデックスは、2003年までに9方法を照射食品の分析法に採用した。
2.2 日本の検知法(分析法)
(1)照射食品と輸入食品
表2は、食品衛生法による照射食品に関する規制を示す。「食品衛生法第11条」では、公衆衛生の見地から、販売の用に供する食品若しくは添加物の製造、加工、使用、調理若しくは保存の方法につき基準を定め、又は販売の用に供する食品若しくは添加物の成分につき規格を定めることができる。それを基に、「食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)」において、項目B及びCにあるように食品の製造、加工及び保存に放射線を用いることを禁じている。しかし項目Dにあるように、馬鈴薯の発芽防止のみが、[1]放射線源はコバルト60のガンマ線、[2]馬鈴薯の吸収線量は150Gy以下、及び[3]再照射の禁止を条件に許可されている。
しかしながら、世界の国々には多品目の照射食品があり、それらが誤ってまたは故意に原料や加工食品に混合され輸入される可能性がある。
(2)日本の照射食品の検知法の開発・試験
日本では、食品衛生法第27条を基に1980年代に馬鈴薯、コショウ、冷凍肉類の
食品照射の検知法が検討された。1997年頃から欧州標準化委員会CENの検知法を追試し、2005年から国内研究者と国立医薬品食品衛生研究所が検知法の確立に協力した。
表3は日本の三検知方法と対象食品を示す。2007年にはアリキルシクロブタノン法、2010年には熱ルミネッセンス(TL)試験法が推薦され、2014年にはさらに電子スピン共鳴(ESR)法が追加された。
(3)照射食品の三検知法の概要
表4は検知法の概要、主な利用機器及び方法の特徴を示す。
[1]アリキルシクロブタノン法:脂肪分の多い食品に適用する。食品中の脂肪分を抽出し、脂肪分中に放射線の電離作用で生成したドデシルシクロブタノン(DCB)及びテトラデシルシクロブタノン(TCB)を抽出する。抽出溶液中のDCBとTCBは、GC-MS(ガスクロマトグラフ・質量分析計)で計測し、標準試料と合わせ照射食品の有無などを判定する。
[2]熱ルミネッセンス試験法(TL試験法):珪酸塩を含む野菜、果実、茶等の農産物、あさり、エビ等の海産物に適用する。放射線照射により珪酸塩に格子欠陥が生じる。この欠陥は加熱によって焼鈍され回復する際に、欠陥中に蓄積されたエネルギーは電磁波として放出される。この電磁波を計測し照射食品の有無を判定する。
[3]電子スピン共鳴法(ESR法):貝殻付き貝類や結晶性糖類を含む乾燥果物などの照射食品に適用できる。食品から貝殻や結晶性糖類を分離し、放射線照射で生じる不対電子(ラジカル)を磁場とマイクロ波を使って検出する。
(4)輸入食品監視の現状
図4は2004-2014年度(平16-26)の輸入食品の年度別検査件数の推移を示す。輸入食品の監視指導計画監視を基に、畜産食品(肉類)、水産食品(魚介類)、水産加工食品(魚類加工品)、農産食品(野菜、果実等)、農産加工食品(冷凍食品、野菜・果実加工品、香辛料、即席麺等)に対する放射線照射検査を行っている。最近では平成21年度に6件、平成22年度に3件、平成26年度中間報告(平25年4-9月)には3件の違反食品が検出され、それらは積み戻しまたは廃棄処分されている。
<図/表>
表1 照射食品の欧州標準分析法(EN)とコーデックス(Codex)標準分析法
表2 食品照射に関連する食品衛生法による規制
表3 日本の照射食品の検知方法と対象食品
表4 日本の照射食品の検知方法の概要
図1 日本の供給熱量ベースと生産額ベースの総合食料自給率(平成25年度)
図2 農林水産物の主な輸入相手国・地域と輸入金額(2014年)
図3 輸入食品の監視体制
図4 輸入食品の年度別検査件数の推移
<関連タイトル>
放射線利用の新たな展開について (10-02-02-04)
食品に対する放射線照射(食品照射) (08-03-02-01)
動物用飼料の放射線処理 (08-03-02-03)
海外における食品照射の現状 (08-03-02-05)
米国における食品照射の動向 (08-03-02-06)
照射食品の安全性と利用の動向 (08-03-02-07)
わが国における食品照射技術の開発(その1)初期の研究とナショナルプロジェクト (08-03-02-09)
わが国における食品照射技術の開発(その2)1980年以降の研究開発 (08-03-02-10)
<参考文献>
(1)日本食品照射研究協議会:「食品照射研究の歴史と現状」、食品照射、49(1)、47-119(2014)
(2)関口正之:「照射食品検知法の現状と新たな展開」、食品照射、49(1)、17-32(2014)
(3)厚生労働省:医薬食品局、食品安全部、「放射線照射された食品の検知法について」、平成24年9月10日 食安発0910第2号、
http://www.mhlw.go.jp/topics/yunyu/other/2012/dl/120910-02.pdf
(4)厚生労働省:平成26年度「輸入食品監視指導計画に基づく監視指導結果」及び「輸入食品監視統計」の公表、
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11135000-Shokuhinanzenbu-Kanshianzenka/h26_kannshishidoukextuka_puresu.pdf
(5)内閣府:食品安全委員会、放射線照射食品(平成24年)、
https://www.fsc.go.jp/sonota/factsheets/f06_food_irradiation.pdf
(6)食品衛生法:
(7)食品添加物等の規格基準:
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/kigu/dl/4.pdf
(8)照射食品の検知法:
http://www.mhlw.go.jp/topics/yunyu/other/2012/dl/120910-02.pdf
(9)農林水産省:平成26年度 食料・農業・農村白書、第1章、第2節、
http://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h26/pdf/z_1_1_2.pdf
(10)農林水産省、農林水産物輸出入概況 2014年(平26)確定値、
http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/kokusai/pdf/yusyutu_gaikyo_14.pdf
(11)厚生労働省: 輸入食品監視業務、
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000072466.html(12)厚生労働省:平成26年度「輸入食品監視指導計画に基づく監視指導結果」及び「輸入食品監視統計」の公表、
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11135000-Shokuhinanzenbu-Kanshianzenka/h26_kannshishidoukextuka_puresu.pdf
(13)厚生労働省:医薬食品局、食品安全部、「放射線照射された食品の検知法について」、平成24年9月10日食安発0910第2号、
http://www.mhlw.go.jp/topics/yunyu/other/2012/dl/120910-02.pdf
(14)厚生労働省:医薬食品局、食品安全部、「放射線照射された食品の検知法について」、平成24年9月10日食安発0910第2号、
http://www.mhlw.go.jp/topics/yunyu/other/2012/dl/120910-02.pdf