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<概要>
 放射性廃棄物の貯蔵(保管)とは、その後再び取り出しをする意図のもとに放射性廃棄物を管理して置いておくことである。放射性廃棄物の貯蔵(保管)は、廃棄物管理のいずれの段階でも、例えば処理前および処分前の段階で適用される一時的な手段であり、放射線管理が必要である。処分前の貯蔵は処理済み廃棄物を最終処分するまでの期間貯蔵しておくことであり、処分場が開設されていない国では廃棄物管理の重要な戦略のひとつである。廃棄物の種類と貯蔵量、貯蔵の考え方、貯蔵容器および貯蔵設備について述べる。
<更新年月>
2008年12月   

<本文>
 1.放射性廃棄物貯蔵(保管)の目的
 放射性廃棄物貯蔵(保管)は廃棄物管理の一連の操作(図1参照)において、以下の目的のために実施される。
・操作の便宜を図るため集荷、輸送あるいは処理を待つ間、廃棄物を保管する。
・廃棄物処理の次の段階にいく前に、放射能の減衰を待つ間廃棄物を安全に保管する(短半減期核種による汚染物を処分あるいは規制値以下として放出するため)。
・中間貯蔵(長半減期の放射性核種で汚染された廃棄物を処分場開設までの期間保管するため)。
 いずれの目的も、作業者および公衆の被ばくを最小にするという考えに基づいた廃棄物管理の総合的な戦略の一つでなければならない。被ばくに関しては、国際放射線防護委員会(ICRP)および国際原子力機関(IAEA)の指針に沿い、長期の影響を考慮する必要がある。
2.放射性廃棄物の種類と貯蔵量
 わが国の低レベル放射性廃棄物を発生元で区分し、その貯蔵量を200リットルドラム缶本数に換算すると2007年3月末現在以下のようである。
(1)発電所廃棄物(原子力発電所の運転および点検から発生する放射性廃棄物):約58万本(うち約19.9万本は、青森県六ヶ所村の埋設施設に埋設済)
(2)TRU核種を含む廃棄物(再処理工場やMOX燃料工場から発生する超ウラン元素を含む放射性廃棄物):原子力機構に、約124,000本、日本原燃の再処理施設内に約8,000本
(3)ウラン廃棄物(ウラン燃料加工工場、ウラン濃縮施設から発生する廃棄物):民間ウラン燃料加工事業者等に約38,000本、日本原燃に約4,200本、原子力機構に約50,000本
(4)RI廃棄物(放射性同位元素を使用している施設から発生する廃棄物、日本アイソトープ協会保管):約117,000本
(5)研究所廃棄物(研究機関から発生する廃棄物、原子力機構保管):約173,000本
 一方、高レベル廃棄物は、固体廃棄物で以下の量が貯蔵されている。
(6)高レベルガラス固化体廃棄物(東海再処理工場:247本、青森県六ヶ所村:1,367本):1,614本(うち返還固化体1,310本)
 その他、使用済み燃料の貯蔵がある。使用済み燃料(2007年12月末まで約21,300本相当ガラス固化体換算)は、原子炉から取り出された後、各原子力発電所の貯蔵プールに貯蔵され、その後、再処理される。使用済み燃料の貯蔵施設については、原子力百科事典ATOMICA、構成番号<04-07-03-15>「使用済燃料の貯蔵施設」を参照されたい。
3.処理前廃棄物の貯蔵(保管)の考え方
 処理前廃棄物の貯蔵(保管)としては、短半減期核種の減衰保管および高レベル廃液ならびに使用済み燃料の貯蔵があり、次に行う処理操作を容易にするため広く行われている。 貯蔵(保管)施設は、一般の作業場所から離れたところに遮へい付きの設備を設置することが望ましい。廃棄物の量が少量の場合はキャビネットに保管されるが、多量の場合は施設の中の部屋に保管される。放射能レベルごとの貯蔵(保管)の考え方を以下に示す。
(1)短半減期核種で汚染された廃棄物は、管理して貯蔵しておくことによって非放射性廃棄物として扱えるようになる。病院、大学、研究所から出てくる99Mo,131I,125I,192Irのような短半減期核種は、濃度が低い場合は半減期の10倍の期間も保管しておけば処分できるようになる。
(2)低レベル放射性廃棄物は、発生量が多く一時貯蔵をすることによって、次の蒸発、焼却、圧縮処理操作等の便宜をはかり効率的に処理することができる。液体廃棄物の場合は、専用の廃液貯槽に貯蔵される(図2参照)。固体廃棄物は別の簡便な廃棄物保管建屋に一時貯蔵される。
(3)中レベルおよび高レベル放射性廃棄物の場合は、ホットセルや遮へい付きの施設の中に貯蔵されるが、貯蔵前で重要なことは廃棄物の量をできるだけ少なくすることと適切な分類である。
4.処理済み廃棄物の貯蔵および貯蔵容器
 処理済み廃棄物は、おそらく先進国のどの国でも処分場開設までの数十年間は中間貯蔵されるはずである。低、中レベルの処理済み固体廃棄物の容器としては、200リットルのドラム缶が用いられることが多い。放射能レベルによっては200リットルドラム缶の内部に種々の遮へい体を持つものが使用されている。また、放射能レベルが比較的高く、サイズの大きな廃棄物に対しては、それぞれの廃棄物に応じた容器が用いられている。廃棄物保管容器の一例を図3に示す。長半減期核種を含む低レベル放射性廃棄物はセメント固化処理されるのが通常であるが、現在ではペレット固化、溶融処理も適用されている。中レベルの核燃料サイクル廃棄物はアスファルト固化されたものが多い。再処理からの高レベル放射性廃棄物はホウケイ酸ガラス固化され、直径43cm,高さ約1.3mのステンレス鋼製キャニスターに封入される。貯蔵施設は放射線遮へい能力のみならず、固化体からの発熱を冷却することができる専用の設備が設けられている。
5.貯蔵施設
 廃棄物の貯蔵施設には廃棄物の放射能レベル、パッケージの形、大きさ、貯蔵量、貯蔵期間、立地条件および自然条件等によっていろいろな概念にもとづいたものがある。廃棄物パッケージを単に地上に置いただけのものから、高線量で重量のある容器が取り扱える施設、さらにガラス固化体貯蔵設備のように冷却機能まで持つ施設もある。以下に代表的な設備を示す。
・遮へいセル:
 高線量の線源、アイソトープ製造過程で発生する放射性廃棄物などの線量の高い廃棄物を保管する。
・竪穴式貯蔵設備:
 ホットセルなどから発生した中レベル廃棄物を容器に封入し、この容器を地中に設けた縦穴に保管する。穴の上部は遮へいプラグで閉じる(図4参照)。
・コンクリートピット:
 原子力発電所で使用した水、フィルター、イオン交換樹脂、紙、布、金属など放射性レベルの比較的低い廃棄物を濃縮し、セメントやプラスチックと混ぜた処理済みの低レベル放射性廃棄物を200リットルサイズのドラム缶に封入し、例えば、青森県六ヶ所村にある低レベル放射性廃棄物埋設センターの地下に設置したコンクリートピットに保管する。ピット上部は遮へいカバーで覆う(図5図6参照)。
・廃棄物保管建屋:
 処理済み廃棄物専用の建屋で床荷重、耐震性、放射線遮へい、廃棄物容器の搬入等が考慮されている。原子力発電所から発生する低レベル放射性廃棄物は各原子力発電所敷地内の貯蔵庫で一時的に貯蔵されている(図7参照)。
・ガラス固化体貯蔵設備:
 使用済燃料を再処理することにより有用なウランとプルトニウムを分離した後、放射性レベルが高い核分裂生成物である高レベル廃棄物ガラス固化体専用の貯蔵設備であり、高レベル廃棄物からの発熱を空気の流れで30年から50年間ほど冷却しながら貯蔵する。その後、地下の深い地層中に処分することを国の基本方針としている。貯蔵段階の施設としての日本原燃高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターのガラス固化体貯蔵設備を図8図9に示す。
6.記録、安全管理
 廃棄物貯蔵に際しては、放射性廃棄物のインベントリーおよび容器の数量等が記録され、適切な貯蔵施設に保管されている。さらに、施設の放射線管理等を行うなど十分な安全管理が行われている。
(前回更新2005年4月)
<図/表>
図1 放射性廃棄物管理の主要な流れ
図1  放射性廃棄物管理の主要な流れ
図2 廃液貯蔵
図2  廃液貯蔵
図3 主な廃棄物保管容器
図3  主な廃棄物保管容器
図4 竪穴式貯蔵施設
図4  竪穴式貯蔵施設
図5 コンクリートピット
図5  コンクリートピット
図6 低レベル放射性廃棄物埋設センター
図6  低レベル放射性廃棄物埋設センター
図7 原子力発電所廃棄物保管建屋
図7  原子力発電所廃棄物保管建屋
図8 ガラス固化体貯蔵施設概要図
図8  ガラス固化体貯蔵施設概要図
図9 ガラス固化体貯蔵施設の鳥瞰図
図9  ガラス固化体貯蔵施設の鳥瞰図

<関連タイトル>
使用済燃料の貯蔵施設 (04-07-03-15)
わが国の放射性廃棄物の種類と区分 (05-01-01-04)
日本における放射性廃棄物の発生の現状と将来の見通し (05-01-01-05)

<参考文献>
(1)INTERNATIONAL ATOMIC ENERGY AGENCY:Basic Safety Standards for Radiation Protection - 1982 Edition,Safety Series No.9,IAEA,Vienna(1982).
(2)INTERNATIONAL ATOMIC ENERGY AGENCY:Radiation Protection Procedures,Safety Series No.38,IAEA,Vienna(1973).
(3)INTERNATIONAL ATOMIC ENERGY AGENCY:Principles for Establishing Limits for the Release of Radioactive Materials into the Environment,Safety Series No.45,IAEA,Vienna(1978).
(4)原子力委員会(編):原子力白書 平成19年版、2-3放射線廃棄物の処理処分(平成20年3月)、http://www.aec.go.jp/jicst/NC/about/hakusho/hakusho2007/2.pdf
(5)日本アイソトープ協会:主任者のための放射線管理の実際(1994年12月)、p.168
(6)日本原子力研究所東海研究所バックエンド技術部:「放射性廃棄物処理施設と汚染除去施設」、(1998年7月)
(7)日本原燃(株):「廃棄物管理施設」、(1995年6月)、p.7
(8)日本原燃(株):日本原燃ホームページ、http://www.jnfl.co.jp/
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