<本文>
わが国の臨界実験装置を
表1に示す。代表的な装置について以下に説明する。
1.TCA(Tank-type Critical Assembly、軽水臨界実験装置)
JPDR(Japan Power Demonstration Reactor、動力試験炉)の付設装置として、米国アルゴンヌ国立研究所のEBWR臨界実験装置、GE社のバレシトスの臨界実験装置を参考にして、1961年着工、1962年8月23日初臨界を達成し、本体のJPDRの臨界(1963年10月26日)に先立って、炉心部の特性を測定した。最初の炉心はJPDR炉心と等価で、燃料ペレット直径12.5mm、濃縮度2.6%U重量、水対燃料体積比1.83であった。
[装置]
炉心構成の概要を
図1に示す。
反応度制御は炉心の水位調節によって行われる。制御棒を用いないため中性子束の歪みが生じない。連鎖反応の停止は、水減速材の排出または上部からの中性子吸収板の重力落下による。
初臨界後、80℃までの昇温装置、炉心中央部の
燃料棒間隔を変更出来る格子板、中性子インポータンス測定用
252Cf中性子源、パルス中性子源、
252Cf中性子源内蔵型イオンチェンバ、炉雑音分析装置など実験設備の充実が図られた。
[主要実験]
臨界量、格子定数、反応度効果、ギャップピーキング効果など軽水炉心の特性測定に始まり、
原子力船「むつ」の模擬炉心の特性測定(1965年)、国産
燃料集合体の特性測定(1966年)が行われた。
1967年から1970年代にかけてMOX燃料を用いたプルサーマル炉心の実験、1985年頃にAPWR燃料集合体の基本設計データの取得、1989年から1992年にかけて高転換軽水炉の六方格子炉心の実験が行われた。
1974年、原子力船「むつ」で予想外の
放射線の漏洩が生じた際には、現象の究明にこの装置は大きな役割を果たした。
一方、1980年からは軽水炉心に関する実験のほかに、臨界安全性の実験が本格化し、可溶性毒物、固定吸収体の反応度効果の測定、燃料集合体の相互干渉効果の実験が行われた。1994年からは燃料溶液を用いた臨界安全性の実験がSTACYとTRACYで開始された。
[教育訓練]
1995年度から設置目的に教育訓練が加えられた。国内の若手技術者、中央官庁・地方自治体、大学院生、理科教員のほか、発展途上国からの研修生に対して、臨界実験装置による実習を通じて、指数実験、臨界近接、各種反応度効果、出力分布測定など原子炉の基本特性を体得する機会を提供している。
[利用実績]
1995年12月1日には、運転回数1万回を達成し、現在も記録を更新している。利用実績を
表2に示す。
2.FCA(Fast Critical Assembly、高速炉臨界実験装置)
高速中性子炉の設計、運転、
安全評価に必要な炉物理データを得るための臨界実験装置として、1964年着工、1967年4月29日初臨界を達成した。当初の炉心は20%濃縮金属U燃料板と、実炉の冷却材、構造材の模擬物質としてのナトリウム板、SUS鋼板、アルミナ板から構成されていた。
1998年度で高速炉関係の模擬実験を終了し、1999年度より新たにADS(加速器駆動システム)による核変換のための基礎実験を開始した。
[装置]
写真を
図2に示す。水平二分割型であり、停止時に図に示すように引出し状の炉心要素を取出して入換えることで、炉心構成を変更出来る。引出し状の炉心要素の中には、燃料板、ナトリウム板、SUS鋼板、アルミナ板が適切な割合で並べられ、種々の炉心組成が実現される。
1969年まで金属U燃料炉心の基礎実験を実施した後、1970年から1979年にかけてPu燃料と93%濃縮U燃料が追加され、Pu燃料装荷炉心の実験が開始された。1987年には共鳴領域における
遮へい効果測定用の劣化U酸化物ピン、1995年には窒化物燃料模擬物質として窒化アルミニウム板が製作された。
付属実験設備として、建設当初にパルス中性子源、1968年にドップラー係数測定装置、1981年にアクチノイド試料駆動装置が設置された。ドップラー係数測定装置は、1991年にレーザ加熱系を追加し、2000℃までの測定を可能とした。
[利用実績]
初臨界以来、運転回数は6000回に達した(2005年)。なお、FCAは1998年度で高速炉関係の実験を終了し、1999年度より新たにADS(加速器駆動システム)による核変換のための基礎実験が開始された。利用実績を
表3に示す。
3.VHTRC(Very High Temperature Reactor Critical Assembly、高温ガス炉臨界実験装置)
VHTRCの前身はSHE(半均質臨界実験装置)で、1961年1月25日初臨界を達成した。当初は半均質増殖炉開発プロジェクトの一環として、増殖炉心データの取得を目的としたが、1963年プロジェクトが中止された後は、黒鉛減速炉に関する基礎実験に用いられた。高温ガス実験炉の設計が進むに従い、核的安全性などの検証を目的として、高温ガス炉のより詳細な模擬炉心を構成するため、1983年改造工事に
着手、1985年5月13日、新装置としてVHTRCが初臨界を達成した。なお、VHTRCは1999年1月に運転を停止し、その後廃止措置に移行して現在は解体中の原子炉として位置づけられている。
[装置]
装置概観を
図3に示す。FCAと同じ水平二分割型であり、燃料コンパクトを黒鉛鞘に装填した燃料棒が水平に挿入される。燃料コンパクトは、UO
2燃料核を熱分解炭素と炭化ケイ素で2重または4重に被覆した燃料球(直径約1mm)を黒鉛中に分散させたものである。U濃縮度は、2%、4%、6%の三種類である。炉心全体は断熱材で遮へいされており、電気ヒーターで200℃まで昇温できる。
[利用実績]
新装置となってからの利用実績を
表4に示す。
4.STACY(Static Experiment Critical Facility、
定常臨界実験装置)
TRACYと並んでNUCEF(Nuclear Fuel Cycle Safety Engineering Research Facility、燃料サイクル安全工学研究施設)に設置されている。TRACYが燃料溶液体系の臨界事故時の過渡現象を調べることを目的とするのに対して、STACYは再処理施設で用いられるUおよびPu硝酸水溶液の臨界データ取得を目的とする。1995年2月23日初臨界に達した。
[装置]
装置の炉心部を
図4、諸元を
表5に示す。
5.TRACY(Transient Experiment Critical Facility、
過渡臨界実験装置)
STACYと並んでNUCEF(Nuclear Fuel Cycle Safety Engineering Research Facility、燃料サイクル安全工学研究施設)に設置されている。STACYが再処理施設で用いられるUおよびPu硝酸水溶液の臨界データ取得を目的とするのに対して、TRACYは、燃料溶液体系の臨界事故時の出力上昇、溶液の温度上昇、沸騰による蒸気ボイドおよび放射線分解によるガスボイドの生成、それに伴う圧力の上昇、燃料溶液、エアゾルの挙動などの過渡現象を調べるための装置である。1995年12月20日初臨界に達した。
[装置]
主要系統図を
図5、諸元を
表5に示す。燃料溶液は下部のダンプ槽から給液ポンプを通して炉心タンクに供給される。槽ベント系は、発生ガスを希釈し、再結合と吸着によって水素と
ヨウ素を除去する。反応度は次の三通りの方法によって印加される。
イ)燃料溶液を一定速度で炉心タンクに供給する。
ロ)調整トランジェント棒を電動駆動により一定速度で炉心から引抜く。
ハ)調整トランジェント棒を圧縮空気駆動により瞬時(約0.2秒)に炉心から引抜く。
これら三通りの印加方法による過渡出力特性の比較を
図6に示す。
<図/表>
<関連タイトル>
NUCEF (03-04-02-06)
臨界安全性に関する研究 (06-01-05-02)
研究炉と臨界実験装置を対象とする保障措置 (13-05-02-11)
<参考文献>
(1)日本原子力研究所:原研史(2003)
(2)日本原子力研究所:原研40年史(1996)p271-276、p284-290
(3)日本原子力研究所:原研30年史(1986)p265-270
(4)日本原子力研究所:原研20年史(1976)p191-196
(5)日本原子力研究所:原研10年史(1966)p85-89
(6)科学技術庁原子力局(監):原子力ポケットブック1997年版、日本原子力産業会議(1997)p391
(7)中島 健:第29回炉物理夏季セミナーテキスト、TRACYとはどんな装置、日本原子力学会(1997)、p68−87