<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 燃料サイクル安全工学研究施設(NUCEF)は、定常臨界実験装置STACY)、過渡臨界実験装置(TRACY)などを備えた実験棟A、コンクリートセル、鉄セルなどを備えた実験棟B(BECKY)などからなる。当施設では、STACYとTRACYを利用する臨界安全性に関する研究、BECKYを利用する再処理、廃棄物の非破壊測定、廃棄物処分、TRU高温化学などに関する研究を進めるとともに、産業界、関連研究機関、大学、IAEAなどと協力して、国内外の情報の共有・普及と人材の育成をはかっている。
<更新年月>
2007年12月   

<本文>
1.NUCEFの概要
 施設の目的、概要および運営と協力体制について述べる。
1.1 目的
 NUCEFは、燃料サイクル安全工学研究施設(Nuclear Fuel Cycle Safety Engineering Research Facility)の略称である。この施設では、核燃料サイクルや放射性廃棄物に関する安全性向上の研究やそれに関連する基礎研究、基礎と利用をつなぐ基盤技術の開発を進めている。研究開発推進のため、産業界、関連研究機関、大学、さらに海外の研究機関とも連携しており、成果は原子力の安全規制や技術向上に利用される。
1.2 施設
 NUCEFの全景を図1に示す。施設の全床面積は約21,300平方メートルで、実験棟A、実験棟Bおよび管理棟からなる。施設と設備の概要を表1に示す。
 実験棟Aは、約9,500平方メートル、二基の臨界実験装置(STACY、TRACY)および実験用の溶液燃料を調製する核燃料調製設備などを備えている。
 実験棟Bはバックエンド研究施設BECKY(Back−End Cycle Key Elements Research Facility)とも称され、広さは約8,000平方メートル、再処理プロセス試験設備、超ウラン元素(TRU)廃棄物試験設備、TRU廃棄物計測試験設備、TRU高温化学試験設備などを備える。
1.3 運営と協力体制
 NUCEFは、核燃料サイクルに関する基礎研究と基盤技術開発のための大型研究施設であり、国の原子力安全規制行政を支援し、原子力の安全確保に貢献する。
 図2は、NUCEFの運営、研究協力体制などを示す。平成19年度から一部設備は外部利用に開放されている。研究開発は、産業界、関連研究機関、大学などの国内協力、さらにIAEAなどの国際協力を得て進めており、国内外と情報の共有・普及と人材の育成を図っている。
2.主な研究開発
 NUCEFでは次の研究開発を進めている。(1)臨界安全性に関する研究、(2)分離プロセスに関する研究、(3)廃棄物処分に関する研究、(4)廃棄物の非破壊測定に関する研究、および(5)超ウラン元素(TRU)の高温化学に関する研究。以下に詳しく述べる。
2.1 臨界安全性に関する研究
 再処理などの核燃料施設臨界事故に関する実験データを蓄積し、高精度の臨界安全評価手法の整備に貢献する。また、高燃焼度化、MOX燃料の利用、使用済燃料の輸送、中間貯蔵施設の安全基準整備のため、燃焼度クレジット、臨界管理手法、臨界安全データベースの整備に貢献する。
(1)STACYによる臨界実験
 STACYは定常臨界実験装置(Static Experiment Critical Facility)の略称である。表1(1)−aにその特性を示す。臨界実験は1995年以来2007年10月までに590回以上あり、設備設計のコンピュータ・シミュレーション技術の高度化、燃焼度クレジットを勘案した運転管理技術の高度化などを進め、「臨界安全ハンドブック」の充実を図っている。
 図3はSTACYの全体写真と実験法の概要を示す。所定濃度に調整された溶液燃料はダンプ槽から炉心タンクに供給される。炉心タンクの配置と溶液燃料の組成を変へて、相互干渉炉心、燃料の溶解状態を模擬する非均質炉心、反射体付き炉心などを構成し臨界データを得る。実験終了後に、溶液燃料をダンプ槽に戻す。
(2)TRACYによる過渡臨界実験
 TRACYは過渡臨界実験装置(Transient Experiment Critical Facility)の略称で、臨界事故を模擬できる。表1(1)−bにその特性を示す。1995年以来2007年10月までに370回以上の臨界実験により、臨界事故時の出力挙動の解明と出力計測技術の向上、安全評価の精度向上、作業者の被ばく線量の評価技術の開発などを進めている。本装置はJCO臨界事故の解明にも利用された。
 図4はTRACYの全体写真と実験法の概要を示す。所定濃度に調整した溶液燃料を炉心タンク注入する。この燃料溶液中に中性子を吸収するトランジェント棒を出入して、過渡臨界による燃料状態の変化、環境への影響などを調べる。実験後に、溶液燃料をダンプ槽に戻す。
2.2 分離プロセスに関する研究
 現用の湿式再処理技術の技術的基盤を強化するため、核分裂生成物の分離条件の最適化、マイナー・アクチノイド(MA)の再処理プロセスにおける挙動、さらに、長半減期の核分裂生成物やMAをより効率的に分離できる新湿式再処理プロセスの開発を進めている。
 使用済燃料やMAの実験には、高い放射線量に適する施設が必要であり、本研究には主に表1(2)−aの設備を利用する。図5は、実験棟Bにある再処理プロセス試験セル(αγコンクリートセルおよびβγコンクリートセル)を示す。再処理プロセス試験設備などはセルの中に組み込まれており、マニピュレータなどにより遠隔操作する。
2.3 廃棄物処分に関する研究
 高レベル放射性廃棄物や超ウラン元素(TRU)廃棄物を地層処分した際の安全性に関し、長期安全評価手法の確立を進めている。このため、低酸素圧の地層中を模擬したアルゴン循環型グローブボックスを整備・利用し、地下水中における放射性核種の化学的挙動、鉱物との相互作用、人工バリア材の長期的変質などの基礎的データを測定・評価している。
 本研究には主に表1(2)−bの設備を利用する。図6はアルゴンガス循環型グローブボックスである。ボックス内雰囲気は深地層と同様に酸素濃度1ppm以下に保つことが出来る。
2.4 廃棄物の非破壊測定に関する研究
 低レベル放射性廃棄物のうち燃料加工施設で発生するウラン廃棄物は、ウラン濃度に応じた安全規制が望ましい。また、処分方法に応じて廃棄物中のウラン濃度上限値を定め、区分するのが合理的である。このため、廃棄物中のウラン濃度を非破壊で迅速かつ高精度で測定する技術が必要である。
本研究では主に表1(2)−cの設備を利用し、これまでに開発された「アクティブ中性子法」を改良し、廃棄物の中心部まで検出感度を高めた「14MeV中性子直接問いかけ法」を開発した。14MeV中性子は廃棄物中への透過力が大きく、廃棄物中のウラン濃度の感度は200倍も高い。さらに、この方法をTRU廃棄物の区分に利用する技術開発を進めている。
2.5 TRU高温化学に関する研究
 高レベル放射性廃棄物の処分コストを合理的に低減する一方法は、半減期の長い超ウラン元素(TRU)を高レベル放射性廃棄物から選択的に分離し、短半減期の核種に変える加速器駆動核変換システム(ADS)の開発である。
本研究では、主に表1(2)−dの設備を利用して、TRU化合物やTRU含有窒化物燃料の物理的および熱化学的性質、窒化物系ADS燃料の乾式処理プロセスの研究開発を進めている。図7は、TRUの実験に利用する「TRU高温化学モジュール(TRU−HITEC)」である。モジュールは厳重に放射線を遮蔽し放射性物質封じ込め、内部は不活性ガスで満たされ酸素圧や水分を制御できる。種々のTRU化合物の合成やその物理的および熱化学的性質の測定は、主にマニピュレータなどによる遠隔操作による。
(前回更新:2004年3月)
<図/表>
表1 NUCEFの主な設備
表1  NUCEFの主な設備
図1 燃料サイクル安全工学研究施設(NUCEF)
図1  燃料サイクル安全工学研究施設(NUCEF)
図2 NUCEFの運営と協力体制
図2  NUCEFの運営と協力体制
図3 定常臨界実験装置(STACY)
図3  定常臨界実験装置(STACY)
図4 過渡臨界実験装置(TRACY)
図4  過渡臨界実験装置(TRACY)
図5 コンクリートセルと試験設備
図5  コンクリートセルと試験設備
図6 アルゴン循環型グローブボックス
図6  アルゴン循環型グローブボックス
図7 TRU高温化学モジュール(TRU−HITEC)
図7  TRU高温化学モジュール(TRU−HITEC)

<関連タイトル>
臨界安全性に関する研究 (06-01-05-02)
加速器によるTRU核変換処理 (07-02-01-03)
日本原子力研究開発機構 (13-02-01-35)

<参考文献>
(1)(独)日本原子力研究開発機構:「独立行政法人日本原子力研究開発機構の中期目標を達成するための計画(中期計画)」、分離・変換技術の研究開発、p.7−8、核燃料サイクル施設の臨界安全性に関する研究、p.15、高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する研究、p.16、低レベル放射性廃棄物の処分に関する研究、p.16、核燃料・核化学工学研究、p.20(平成19年変更認可)、http://www.jaea.go.jp/01/pdf/keikaku18.pdf
(2)(独)日本原子力研究開発機構:パンフレット「(独)日本原子力研究開発機構」、p.8−9、p.14、p.20
(3)(独)日本原子力研究開発機構:安全試験施設管理部の概要
(4)日本原子力研究所:「臨界安全ハンドブック」JAERI−1340(1999)、日本原子力研究開発機構、http://jolissrch-inter.tokai-sc.jaea.go.jp/pdfdata/JAERI-1340.pdf
(5)(独)日本原子力研究開発機構:NUCEF REVIEW、第11号(2006/March)、第12号(2007)
(6)(独)日本原子力研究開発機構:パンフレット「燃料サイクル安全工学研究施設NUCEF」、原子力科学研究所 安全試験施設管理部(2006)
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ