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<概要>
 エックス線(X線)は1895年にW. C. Roentgenによって発見されたので、レントゲン線とも呼ばれている。エックス線は電磁波の一種である。エックス線は電子を高電圧で加速し、ターゲット(陽極、対陰極)に衝突させて発生させる。発生するエックス線のエネルギースペクトルには電子の制動放射による連続スペクトルと、ターゲット金属(元素)に特有の線スペクトル(特性エックス線)がある。これらの特徴を利用してエックス線発生装置は一般研究、医学および産業の各分野で幅広く利用されている。
<更新年月>
2010年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 エックス線を利用する場合、利用目的によって使用するエックス線エネルギーおよびエネルギースペクトルが異なり、それによってエックス線発生装置も異なってくる。研究、医学診断および産業利用などの比較的エネルギーが低いエックス線の場合は、小型で取り扱いが容易なエックス線管(クーリッジ管)が一般に利用され、非破壊検査および医学治療利用などのエネルギーが高いエックス線が必要な場合は、やや大型となるリニアック等の加速器が多く利用されている。エックス線管および加速器を利用するいずれのエックス線発生装置においても、加速した電子をターゲットに衝突させてエックス線を発生させる。なお、ターゲットを使用しない特殊なエックス線発生装置として、シンクロトロン放射光発生装置がある。
 発生したエックス線は、電子の制動放射による連続スペクトルとターゲット金属に特有な線スペクトルとを合成したスペクトルを持つ。物質のエックス線回折分析や蛍光エックス線分析等の研究分野では線スペクトルを利用し、医学分野や産業分野では連続および線スペクトルが混在した状態で利用されている。
1.エックス線発生装置
 上記のとおり、低エネルギーのエックス線はエックス線管で発生させる。エックス線管は、熱電子2極管の構造を持つ高真空の真空管の一種であり、W. D. Coolidgeが実用化したことからクーリッジ管とも呼ばれている。図1にエックス線管の原理を示す。高温に熱したフィラメントから熱電子を発生させ、10〜300keVの高電圧で加速して、金属ターゲット(陽極)に衝突させるとエックス線が発生する。発生したエックス線のエネルギースペクトルは、電子の加速エネルギーを最大エネルギーとする制動放射による連続スペクトルと、ターゲット金属の原子構造によってエネルギーが決まる線スペクトル(特性エックス線とも呼ばれる)の混在したものとなる。ターゲットの材料は、連続スペクトルを利用する場合には主にタングステンを採用し、線スペクトルを利用する場合には銅、モリブデン、コバルト、クロム、鉄、銀等の金属元素の中から使用したいエックス線エネルギーに応じて選定している。ターゲットで消費される電力による発熱量が大きい場合には、ターゲットが溶解するおそれがあるため、水等で冷却して使用する。冷却効率を上げるために水をターゲット裏面からジェット噴射させたり、電子の衝突面を広げるために回転式ターゲットを使用することもある。エックス線を取り出す窓の材料は通常ベリリウムの薄膜を使用している。エックス線のエネルギー発生効率は、加速電圧100kV、ターゲットにタングステンを使用した場合に約0.7%程度である。
 エックス線管では電子の加速エネルギーを大きく上げられないことから、高エネルギーのエックス線を発生させる場合には、リニアック等の加速器を使用する。これは上記のエックス管の構造のなかで電子を加速する部分をリニアックに置き換えたものであり、エックス線を発生させる部分は同じように金属ターゲットを使用する。
 他方、社会におけるエックス線の利用の拡がりを背景として、利便性のきわめて高い新たな電子源としてカーボンナノ構造体電子源が開発されている(図2参照)。この電子源はカーボンナノ構造体の電界電子放出現象を利用するため、装置にヒーターやフィラメントがなく、予熱が不要で、高圧電源などとともにケースに入れて持ち運び、現場で必要な時にすぐX線を発生することができる。また、エックス線発生時にしかエネルギーを消費しないため、乾電池やノートパソコンのUSB電源でも非破壊検査や医療診断に使用可能な100keV以上のエックス線を発生することができる。
2.エックス線の利用原理
 エックス線の利用方法は、基礎特性から見た場合、吸収法、発光法および散乱法があり、利用目的からみると、元素分析、組成分析およびエックス線顕微鏡法等がある。
 エックス線吸収法は、物質に照射したエックス線の透過量を測定し、物質の組成等を分析するもので、例えば元素分析、非破壊検査および診断エックス線写真等がある。材料の非破壊検査や医学利用の場合には、タングステン・ターゲットで発生したエックス線を直接(線および連続スペクトルが混在したまま)利用している。
 発光法は、物質にエックス線を照射した場合、吸収されたエックス線の一部が物質中の元素に固有の特性エックス線に変わり、物質から蛍光エックス線として放射される現象を利用した分析法である。エックス線発光法には蛍光エックス線分析法およびエックス線マイクロアナライザー等がある。
 散乱法は軌道電子によるエックス線の散乱現象を利用した分析法で、散乱エックス線の干渉性を利用したエックス線回折分析法等がある。理学研究の回折分析等に使用されるエックス線は、ターゲットに銅、モリブデン等の金属を使用し、発生したエックス線の線スペクトル部分のみを利用する。エックス線の線スペクトルを利用するためには、線および連続スペクトルの混在したスペクトルから、フィルタや回折格子を使用してターゲット金属に固有な線スペクトル部分のみを取り出す。
3.エックス線発生装置の放射線防護
 放射線防護は、放射線や原子力エネルギーの適正な利用に際しての人体の安全と環境の保全を目指すものであり、国際放射線防護委員会(ICRP)は放射線防護の目標を次のように掲げている。
a)利益をもたらすことが明らかな放射線被ばくを伴う行為を不当に制限することなく人の安全を確保すること。
b)個人の確定的影響の発生を防止すること。
c)確率的影響の発生を減少させること。
 エックス線の広いビームに対する半価層値(吸収によりエックス線の量を半分に減らすに必要な物質の厚さ)を表1に示す。
(1)研究用装置の放射線防護
 研究用のエックス線発生装置は、加速電圧約60kV、電流50〜300mA程度でありエックス線管電流が多いのが特徴である。これは、線および連続スペクトルの混在した部分から回折格子等を用いて線スペクトル部分だけを取り出すのでエックス線の利用効率が悪く、必然的に初期エックス線発生量を多くしているためである。
 実際に利用するエックス線のエネルギーは、例えば、ターゲットに銅を使用した場合約8keV程度である。この程度のエネルギーのエックス線は放射線防護上はほとんど問題とならない。したがって、放射線防護としては、回折格子の周辺で散乱するエックス線を防護すれば充分である。加速電圧が約60kVのエックス線は0.8mmの鉄で透過量を半分にすることができ(半価層)、同じく8mmの鉄で透過量を約1000分の1にすることができる。
(2)医療用装置の放射線防護
 医療分野で利用されるエックス線発生装置は、診断用と治療用に分けることができる。診断用は加速電圧30〜150kV、エックス線管電流5〜500mA程度である。診断用は研究用と同様に流れる電流は多いが、エックス線発生時間が短いため通常は空気冷却で使用される。
 研究用と医療用の放射線防護上の相違点は、前者が回折格子周辺を主として遮へいするのに対して、後者は被検者に照射されたエックス線が散乱するためエックス線室(撮影室)全体を遮へいすることである。遮へい材料には鉄、鉛等を使用する。遮へい材料に鉛を使用した場合、加速電圧150kVで発生したエックス線の半価層は約0.3mmである。通常の診察用撮影室であれば鉛の厚さ約1mmで法令等に定める基準値を充分満足する。
 治療用のエックス線発生装置は現在ほとんどリニアック(線形加速器)が使用されている。加速電圧約10MVで発生したエックス線の半価層は鉛で約17mm、普通コンクリートで120mmである。通常、治療室には普通コンクリートで約500mm程度の遮へいが必要である。
(3)産業用装置の放射線防護
 産業分野で使用されるエックス線発生装置は、ほとんどが材料の非破壊検査に使用されている。加速電圧300kV程度までは移動に便利なエックス線管が、それ以上の加速電圧を必要とする場合はリニアックが使用される。
 非破壊検査は作業現場で実施されることから、放射線防護のための遮へい体を使用することが困難な場合が多い。このような現場での非破壊検査は、充分な広さの立入禁止区域を確保することにより放射線防護を行う。加速器を使用する非破壊検査は、専用の撮影室を設置し散乱エックス線の遮へいに充分な配慮をする。加速電圧300kVで発生したエックス線の半価層は、鉄および鉛でそれぞれ約8.0mm、1.7mmである。
(前回更新:1998年3月)
<図/表>
表1 エックス線の広いビームに対する半価層値
表1  エックス線の広いビームに対する半価層値
図1 エックス線管の構造
図1  エックス線管の構造
図2 カーボンナノ構造体を利用した過搬型X線源
図2  カーボンナノ構造体を利用した過搬型X線源

<関連タイトル>
放射線の遮へい (08-01-02-06)
加速器(高エネルギー放射線発生装置) (08-01-03-02)
シンクロトロン放射光 (08-01-03-08)
エックス線作業主任者 (09-04-09-05)
X線と放射能の発見 (16-02-01-01)

<参考文献>
(1)近藤健次郎:高エネルギー加速器周辺の放射線管理、保健物理、19、33-44(1984)
(2)日本物理学会(編):シンクロトロン放射、培風館(1986)
(3)加速器の開発とその利用:西川哲治他、日本原子力学会、Vol.31、No.9、967-1020(1989)
(4)日本保健物理学会:加速器放射線防護の現状、「加速器放射線防護研究専門委員会」、1990.4
(5)加藤和明ほか:放射線の防護、日本原子力学会、Vol.32、No.1、2-43(1990)
(6)江藤秀雄:放射線医学、医学書院(第7版)
(7)社団法人「日本非破壊検査協会」:放射線透過試験II、1989
(8)高良和武:X線回折、実験物理学講座20、共立出版株式会社(1988)
(9)有水昇、高島力(編):標準放射線医学第4版、医学書院(1992年4月)
(10)(独)産業技術総合研究所プレスリリース「カーボンナノ構造体を利用した可搬型X線源を開発 −X線非破壊検査やレントゲン検査が乾電池で可能に−」(2009年03月19日)、http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2009/pr20090319/pr20090319.html
(11)ICRP Publ.33 医学において使用される体外線源からの電離放射線に対する防護、日本アイソトープ協会編(1983年)
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