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<概要>
高速炉炉心の局所異常としては、燃料集合体内の燃料ピンの接触による損傷や、冷却材流路閉塞などが考えられている。燃料ピンが接触しても損傷しないこと、また万一破損して核分裂生成物ガスの放出があっても、燃料体や集合体の健全性が保たれることを明らかにした。また、燃料集合体の流路閉塞試験では、閉塞位置や閉塞率と冷却材の沸騰状況との関係を明らかにした。フランスのスカラベ炉(SCARABEE)での国際共同研究に参加し、流路閉塞した燃料集合体が崩壊していく挙動や隣接燃料集合体に及ぼす影響などの知見を得るとともに、流路閉塞による局所損傷事象を解析するコード群、MOPOS 、FUMES 、SCION 、およびASFRE の開発を進めている。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.炉心局所事故に関する研究
 高速炉炉心の局所的な異常としては、燃料集合体内の燃料ピンの接触による損傷や冷却材の流路閉塞などが考えられている。
  燃料集合体内の局所異常が燃料集合体の健全性を損ねる可能性は僅少であり、かつ異常検出系による早期対応は可能であるが、事象の理解と把握を目的として、動燃事業団(現日本原子力研究開発機構)において炉心局所異常の研究が実施されている。
 燃料ピンの間隔を保つワイヤスペーサの損傷によるピン接触と核分裂生成物(FP)ガスの放出について、電気ヒータで加熱した7本のピンの束を用いて実験を行った。2本、3本および7本の燃料ピンが53mmにわたって線接触した場合の試験の結果、燃料ピンの損傷が生ずるような温度上昇は発生しないことが判明した。またFPガスの放出を想定して、放出ガスに曝される隣接ピンの冷却状況を把握する実験を行った。その結果、FPガスの放出が隣接ピンの健全性に影響を与えることの無いことが明らかになった。
 安全評価上では、燃料集合体の流路が異物により局所的に閉塞されると閉塞物の後流に冷却材が再循環する領域が生じ、そこが高温となって燃料の健全性が損なわれる可能性がある。そこで最大91本の燃料ピン( 電気ヒータ )の束で閉塞流路の数、閉塞位置などを変えた多様の試験体を用い、水中およびナトリウム中の局所閉塞試験を行った。
この結果、
(1) 中心部閉塞では流路の80% 以上が閉塞しないと局所沸騰は起こらない。
(2) 20〜30% の片側閉塞では沸騰が生ずる可能性があるが、安定した除熱が確保できる沸騰挙動を示す領域がある。
(3) 片側閉塞の閉塞率が増加すると、一部の燃料ピンの局所的な高温個所(ホットスポット)でピンが噴霧状の冷却材で冷却(ドライアウト)される、状況となるが、全体沸騰にはならない。
ことなどが明らかになった。これらの成果により、原型炉もんじゅ」の運転条件での局所異常に対する安全性が確認された。
  集合体内の損傷拡大挙動の解明については、集合体内での燃料ピンの損傷領域の規模と損傷拡大時間スケールの関係に注目して、過去に実施された炉内試験から得られている知見を 図1 に示す形で整理している。図に示されるように損傷規模の拡大とともに損傷の拡大が速くなる傾向を持っており、異常の検知の観点から、燃料ピン数本程度の損傷規模での損傷拡大速度が充分遅いことを示すことが最も重要であるとの結論を得た。

2.スカラベ炉における炉内試験
 最も苛酷な条件下における局所異常の事象進展に関する定量的知見を得るとともに、事故の終息を支配するメカニズムを同定することを目的として、フランスのスカラベ炉(SCARABEE)を用いて燃料集合体入口近傍で大規模な閉塞が生じた場合を想定した研究を、フランス、イギリス、アメリカ、ドイツ、ECと国際共同研究を実施し評価を進めた。
 このスカラベPV-A試験では隣接集合体内への熔融物質の侵入挙動を扱っている。試験結果によれば、熔融物質と冷却材との熱的相互作用による冷却材のボイド化と、ボイド化したピン束部への熔融物質の侵入挙動とが事象進展を考える上で重要であることが示された。すなわち、損傷領域の拡大の速さを評価するためには、ピン束に侵入した熔融物質の径方向および軸方向への2次元流動挙動に関する知見を得ることが必要である。そこで、ピン束形状下での高温物質の流動挙動を把握する目的で、空気雰囲気中で高温模擬物質を用い、流動を可視化した炉外試験を計画し実施している。この炉外試験から、ボイド化したピン束へ熔融物質が侵入した時、軸方向への拡大が比較的早く、径方向への侵入は制限される傾向があるとの予備的知見を得た。
 これらの試験結果をもとに、燃料集合体のピン束の崩壊から隣接の燃料集合体を侵食していく事象推移を解析するコードMOPOS とFUMES の開発をしている。MOPOS コードは、被覆管材料であるステンレス鋼と燃料とが溶けて混ざった溶融物から(燃料ピンを収納している)ラッパ管が受ける熱負荷を評価するものである。またFUMES コードは溶融物から熱負荷を受けたラッパ管が熱的に破損していく過程を解析する。FUMES コードで扱う事象に引き続く事象を解析するコードとして、始めに閉塞が生じた燃料集合体のラッパ管に開いた破損孔から放出された溶融物が隣接する燃料集合体を侵食する過程での溶融物の移動と固化を扱うSCION コードも開発している。
  また、事象評価手法の整備として、サブチャンネル解析コードASFRE-3 にポーラス状閉塞モデルを組み込むとともに、EDF(仏)の流路閉塞試験(Scarlet-2) をもとに検証解析を実施し、ASFRE-3 は閉塞物内冷却材のピーク温度に対して十分な予測精度を有することを確認した。( 図2 参照)
<図/表>
図1 燃料集合体内による損傷拡大過程と各試験の役割
図1  燃料集合体内による損傷拡大過程と各試験の役割
図2 流路閉塞試験における軸方向冷却材温度分布に関する実験値とASFRE解析値との比較
図2  流路閉塞試験における軸方向冷却材温度分布に関する実験値とASFRE解析値との比較

<関連タイトル>
高速増殖炉の炉心設計 (03-01-02-04)
高速増殖炉の燃料設計 (03-01-02-06)
高速増殖炉の燃料集合体 (03-01-02-13)

<参考文献>
(1)動力炉・核燃料開発事業団:動力炉の実用化をめざして、平成2年3月
(2)動力炉・核燃料開発事業団:高速増殖炉研究開発の現状、平成2年、平成3年2月
(3)動力炉・核燃料開発事業団:動燃20年史、1988年10月
(4)動力炉・核燃料開発事業団:高速増殖炉研究開発の現状−1993、PNC TN141094-004
(5)動力炉・核燃料開発事業団:高速増殖炉研究開発の現状−1994、PNC TN141094-006
(6)動力炉・核燃料開発事業団:高速増殖炉研究開発の現状−1995、PNC TN141095-001
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