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<概要>
 ドーンレイ・サイト(Dounreay Site)には、高速炉2基、材料試験炉1基の原子炉のほか、関連する燃料サイクル施設が多数ある。英国原子力公社(UKAEA)は、2000年10月にドーンレイ・サイトの環境復旧計画を発表した。これまで100年かけてこれらの施設の廃止措置を行う計画であったが、約半分の60年で実施しようという意欲的な計画(60年計画)である。最初に主要な放射性物質を25年以内に除去し、その後、燃料および廃棄物の処理プラントの運転停止、3基の原子炉、処理プラントの廃止措置を行う。廃止措置が完了した後、サイトを無制限使用に解放するため、サイトはさらに300年の監視期間に入る。総額40億ポンド(約8,000億円)と非常に大規模な計画で、国が大々的に取り組むのは初めてである。
 その後、英国の原子力施設の廃止措置に責任を持つ原子力廃止措置機関(NDA)が設立されることにより、従来の計画が大幅に見直され、2004年9月に廃止措置の実施期間が60年から36年間への大幅な短縮、予算が40億ポンドから27億ポンドへ削減されるという新しい計画(36年計画)が発表された。
 これらの計画にしたがって、これまでに実施された主要な廃止措置活動の現状を示す。
<更新年月>
2005年10月   

<本文>
 英国スコットランド北部の北海に面したドーンレイ・サイトには、UKAEA所有の高速実験炉(DFR)、高速原型炉(PFR)、材料試験炉(DMTR)のほか、関連する燃料サイクル施設が多数ある。ドーンレイ・サイトの概要を図1に示す。UKAEAは核施設の廃止措置とサイトの環境復旧に対して一義的な責任を持っており、これまで、このサイトの復旧計画を検討し、実施してきた。
1.旧計画(60年計画)
 2000年10月に出されたドーンレイ・サイトの環境復旧計画は、廃止措置、燃料処理、廃棄物管理、土地の整備など多くの個別の活動から構成され、発展的・効率的に、かつ意欲的で達成可能な計画である。計画書は、概要、復旧戦略、廃止措置計画、放射性廃棄物管理文書、財産とユーティリティ計画、核燃料インベントリー管理計画、汚染土壌の回復計画、サイト復旧計画の8巻に分かれている。
 この環境復旧計画は、次のような仮定のもとに立案されている。
(1)サイト解放条件:サイト解放の最終段階は、原子力施設認可終了と同様な基準により定義される。
(2)計画の同意:環境復旧計画は、新規プラント建設計画の場合と同様に、地域住民等との同意に長時間が必要である。
(3)中レベル廃棄物(ILW)/高レベル廃棄物(HLW):ILWは英国の原子力産業放射性廃棄物管理会社(NIREX)の標準廃棄容器に詰められ、国の処分場が使えるまでドーンレイに貯蔵され、この貯蔵施設は100年間の寿命で設計される。
(4)低レベル廃棄物(LLW):ドーンレイ・サイトに既に存在するが、今後発生するLLWを管理するために、新規LLW施設をドーンレイ付近に建設するものと仮定する。
(5)極低レベル放射性物質(VLRM):サイトの廃止措置と復旧のために発生する大量の廃棄物は、極低レベル放射性物質のコンクリートと土砂の形になる。
(6)PFR燃料管理:PFR燃料の管理戦略は、国民の判断に係るテーマである。この計画では、(a)燃料はドーンレイで再処理、(b)照射燃料はセラフィールドの軽水炉酸化物燃料再処理プラント(THORP)で再処理し、未照射燃料はドーンレイまたは国外で処理、(c)すべてのPFR燃料をドーンレイで中間貯蔵用または最終直接処分用に処理する、これら3通りの選択肢が考えられている。
(7)DFR炉心用燃料の移動:DFRの増殖用燃料を原子炉から取出して再処理するため、マグノックス再処理施設が運転中の間にセラフィールドに輸送する。
(8)国のインフラの有効活用:この計画では核物質と放射性廃棄物の連続した安全輸送が許可されるものと仮定する。
(9)有効な資源:計画に必要な財政的および人的資源を十分満たせるものと仮定する。
(10)立坑とサイロ:立坑とサイロからの廃棄物の再取出しおよびこの施設の廃止措置のために、この施設内で同時に実施する難工事が許可されものと仮定する。
 この復旧計画では、60年の全期間を10年から15年の5期にわけ、初期は廃止措置に必要な廃棄物の処理処分、核物質管理のための施設が追加、新設される。同時に、解体が長期にわたるDFR、PFR等の施設について解体準備が行われる。続いて、燃料や高レベル廃棄物の処理が行われ、主要な放射性物質が除去される。その後、廃棄物および燃料処理プラントの停止とこれらの施設の解体が行われる。この時期に原子炉3基全ての廃止措置が終了する。最終期には解体に伴い発生する廃棄物は目的に合った施設に収納され、汚染された土壌の回復が行われた後、サイトを無制限使用に解放するため、サイトはさらに300年の監視期間に入る計画である。
2.新計画(36年計画)
 2004年9月に、英国の原子力施設の廃止措置に責任を持つ原子力廃止措置機関(NDA)設立の議論に関連して、これまで2063年までの60年間、40億ポンドかけて環境を復旧させるとしていた従来の計画が見直され、2036年までの30年間、費用も約27億ポンドで復旧させる新たな計画が発表された。従来の計画は廃棄物処分場が2040年以降でないと操業しないと考えられてきたが、サイト内に中レベル廃棄物の中間貯蔵施設を設けることにより解体作業を早め、大幅な期間短縮とコスト削減が出来ることになった。
 新計画では、基本的な作業の流れは旧計画と同じであり、中レベルの液体残渣の処理、旧廃棄物施設の廃止措置、DFRおよびPFRの廃止措置、低レベル固体廃棄物の管理、中レベルの固体廃棄物処理、燃料管理等の主要事項からなる。計画の戦略は、受動的な安全性確保を基本条件として、廃棄物の処理、主要な原子力施設の解体等を進め、サイトのクリーン領域を増して行く方法をとる。
 新計画による費用は、エスカレーションや不確実性が考慮されない現段階で約27億ポンド(約5400億円)と算定されており、この費用の内訳は、施設の解体が25%、廃止措置のために新規に建設される設備が17%、廃棄物管理に17%と考えられている(図2)。
 UKAEAの職員は、熟練した技術員を含め、2005年当初は1200名が関与するが、10年後に800名、20年後に600名と必要職員を減らしている。廃止措置終了後は、旧計画ではサーベイランスモニターのために200名の職員が必要とされていたが、新計画では大幅な削減が予定されている。(図3
3.廃止措置活動の現状
 2004年までに実施された主な廃止措置活動は以下の通り。
(1)PFR:1994年3月に炉を停止したPFRは、これまで、タービン建屋や蒸気発生器建屋から機器類の撤去を行った。また、タービン建屋内には、原子炉冷却材である1500tのナトリウムを処理するため、17百万ポンド(約34億円)のナトリウム処理プラント(SDP)を設けた。また、原子炉系統内に残留するナトリウムを除去するため、水蒸気・窒素プロセスによる処理試験が進められている。
(2)DFR:既に、原子炉と熱交換器を繋ぐ配管架台、不要機器の解体と撤去が行われており、2007年から開始される57tの冷却材NaKの処理試験が進められている。なお、2032年までに、DFRの原子炉は完全に解体されるが、ドームと周辺の建物はスコットランドの産業遺産のシンボルとして、また、原子力開発のパイオニアおよびドーンレイで実施された開発モニュメントとして残される予定である。
(3)DMTR:1969年に閉鎖後、2年間で燃料および重水が取り除かれ、不要施設も撤去された状態で、遮へい隔離されている。
(4)廃棄物立坑:サイトの廃液を海へ放出する排出管を設けるために横坑を掘削したときの立坑に水をはり、中レベル固体廃棄物の処分のために1977年まで使われてきた。ほとんど素堀状態のまま使われてきたので、立坑のまわりの地層面に沿う地下水による放射能汚染がある。UKAEAは、この立坑から廃棄物を取り出し、除染する計画である。立坑と周囲の地下水とを隔離し周囲への汚染の拡散を防止するため、立坑周辺にグラウトを注入する作業を2004年後半から開始した。
(5)固体廃棄物の検査・高圧縮施設(WRACS):この施設は、低レベル固体廃棄物を中間貯蔵または処分用の廃棄体にするもので、600万ポンド(約12億円)かけて新設したプラントであり、1週間に170個のドラム缶を処理することができる。
(6)セメント固化施設:この施設は、中レベルの液体廃棄物をステンレス鋼のドラム缶に入れ、セメント固化する機能を有している。また、未処理の中レベル固体廃棄物の処理も行えるようになっており、ドーンレイ・サイト環境復旧計画の実施の重要な役割を持っている。この施設は1996年にDMTRの廃液をセメント固化するために稼動を開始した。しかし、原子力施設検査局(NII)がサイト全体の見直しのため中断していたが、2003年8月に再開した。サイトの中レベル液体廃棄物全てをセメント固化するのに10年から15年かかる。なお、この施設に隣接してセメント固化したドラム缶を搬入/搬出する施設を2004年後半から着工し、2007年に稼動させる計画である。搬入/搬出施設が完成すると中レベル廃棄物の貯蔵作業とセメント固化作業を同時に行うことができ、廃棄物の処理作業の効率が高まる。
(7)低レベル廃液処理プラント:低レベル廃液処理プラントは、ドーンレイ・サイトから発生する低レベル液体廃棄物の回収、処理、処分に使用される。この施設は1950年代に作られた廃液プラントの代わりに1998年から2001年にかけて750万ポンド(15億円)のコストで建設された。2003年夏、スコットランド環境保護局(SEPA)がこのプラント運転開始の許可を与えた。
<図/表>
図1 ドーンレイ・サイトの概要
図1  ドーンレイ・サイトの概要
図2 ドーンレイ・サイトの復旧計画費用(27億ポンド)の支出割合
図2  ドーンレイ・サイトの復旧計画費用(27億ポンド)の支出割合
図3 ドーンレイ・サイト復旧計画に必要なUKAEA職員数
図3  ドーンレイ・サイト復旧計画に必要なUKAEA職員数

<関連タイトル>
廃止方法 (05-02-01-03)
海外主要国における廃止措置の考え方 (05-02-01-10)

<参考文献>
(1)“Dounreay Site Restoration Plan,”:
(2)“Dounreay Site Restoration Plan,”,Nuclear Engineering International,22,(February.2001)
(3)“(英)UKAEA、ドーンレイ施設廃止措置60年計画を公表”、ニュークレオニクス・ウィーク日本語版(2000.10.12)
(4)“英国ドーンレイ・サイトの環境復旧新計画”、デコミニュース、第16号、1(2001年6月)
(5)UKAEA:“Lifecycle Baseline,Annex 3: Dounreay Site Executive Summary,”,,(September.2004)
(6)“(英)UKAEA、ドーンレイ廃止措置短縮でコスト削減へ”、ニュークレオニクス・ウィーク日本語版(2004.10.14)
(7)UKAEA:“Dounreay Decommissioning Progress,”
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