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<概要>
 シンロック(SYNROC)とは、放射性廃棄物固化技術の1つで、地質年代を経て安定に存在する天然鉱物をモデルにしたチタン酸塩の安定な鉱物相からなる合成岩石により廃棄物を固化する方法である。1978年オーストラリア国立大学のリングウッド教授により提唱され、その後、オーストラリアを中心に精力的な研究開発が進められている。1985年から1998年までは、日本原子力研究所(現 日本原子力研究開発機構)オーストラリア原子力科学技術機構(ANSTO)で協力研究が行われた。シンロックを構成する主な鉱物相は、ホランダイト、ペロブスカイト、ジルコノライトである。
<更新年月>
2006年09月   

<本文>
 シンロック固化は、再処理に伴い発生する高レベル放射性廃液(HLLW)中に含まれる放射性核種を、特定の結晶構造の中に主成分または副成分として分配させて、熱力学的にも化学的にもガラスより安定な状態で固化しようとするセラミック固化の一つとして分類される。本来、結晶体による固化の着想は、天然で放射性元素を含有し安定に存在している鉱物に着目して、これを人工的に作ろうとしたところにある。このセラミック固化の研究は米国を中心に発展し、鉱物の組成により4種類に分類され、さらに固化方式が以下のように細分化される。
 セラミック固化
  (1) ケイ酸塩鉱物固化
    (a) ゼオライト方式
    (b) スーパーカルサイン方式
  (2) チタン酸塩鉱物固化
    (a) チタン酸ナトリウム方式
    (b) シンロック方式
    (c) チタン酸方式
  (3) アルミン酸塩鉱物固化
  (4) リン酸塩鉱物固化
 シンロック(SYNROC)とは、オーストラリア国立大学のリングウッド教授(Ringwood)らが名付けたもので Synthetic Rockの略で合成岩石のことである。天然鉱物の中には放射性元素を成分として、1,000年以上の地質年代を経て安定に存在しているものがあることに着目した。初期には数種類のシンロックが報告されていた。その後、シンロックとは、ホランダイト(BaAl2Ti6O16)、ジルコノライト(CaZrTi2O7)およびペロブスカイト(CaTiO3)の3種類のチタン酸塩鉱物の集合体であり、シンロック方式とはこの3種類の鉱物中に高レベル廃液中の全ての核種を選択的に分配し、固溶成分として固化するものであると考えられるようになった。この固化方式は一括固化処理に属する。
 表1では代表的なシンロックの組成と鉱物相を示し、表2では各鉱物相に対する基本的な高レベル放射性廃棄物(HLW)を構成する元素の分配を示す。
 セシウムは、「ホランダイト」相の酸化チタン八面体が連鎖してつくる2×2個分の大きな一次元のトンネル構造の中に閉込められる。
 図1にANSTOのシンロック固化実証プラントの概念を示す。シンロック製造処理工程において、シンロック前駆物質(プリカーサ)のうちルチル(TiO2)とジルコン(ZrO2)は、チタンアルコキシドとジルコニウムアルコキシドを処理して作製する。残り成分は総て硝酸塩溶液の混合液として、それをアルカリ性溶液で処理し共沈させて作製する。これらのプリカーサは高レベル廃液と混合してスラリーにする。スラリーは乾燥工程を経て800℃における還元雰囲気下でか焼し、このか焼物とチタン粉末と共にステンレス鋼製缶に充填する。シンロック粉体の入った缶をシールした後、予熱キルンで加熱処理する。最後はこの缶を30MPa、1,150℃において一軸ホットプレスで加圧焼結を行いシンロックを合成する。ホットプレスして得たシンロックのデスク(円盤状固化体)を処分用容器に収納する。
  わが国では日本原子力研究所(現 日本原子力研究開発機構)が、ガラス固化法の代替固化技術の開発として1985年から1998年までANSTOとの協力研究によってシンロックの研究を進めてきた。その内容はシンロック合成素材の調製法の開発、小規模固化装置の開発、固化体の浸出機構に関する研究、固化体の放射線耐久性に関する研究などである。これらの研究からは、浸出に悪影響を及ぼす副生成化合物の解明と副生成を防ぐ合成法、固化体の浸出性、処分時の熱水条件下での耐久性、長期健全性への放射線損傷の影響評価等の成果を得ている。しかしながら、シンロック固化法の研究はガラスなど他の固化法に比べ歴史が浅く、未確定の部分も多く残されている。
 現在までの国内外の研究開発成果から、シンロック固化方式の特徴は次のようにまとめることができる。
 イ 熱力学的に安定で長期的に安定した物性を示す。
 ロ 耐熱性に優れているので廃棄物の含有量を増やすことが可能である。
 ハ モリブデン、テクネチウムは金属状態であり、ルテニウムの揮発もほとんどない。
 ニ 耐浸出性に優れている。
 ホ 設計通り結晶化させるために、製造工程の厳密なコントロールが必要である。
 ヘ 取り込まれた放射性核種の核変換による結晶体への影響が予想される。
 最後に、最近のオーストラリアにおけるシンロックの研究開発状況を紹介する。
1)シンロックによる軍事廃棄物の固化
 シンロックはHLWの固化法として提案され、研究開発が進められてきているが、TRU(超ウラン元素)核種を取り込む鉱物相であるジルコノライトの割合を増やすことでプルトニウムなどTRUを多く含む様々な軍事廃棄物の固化法に適用できる。ANSTOではシンロックの他の放射性廃棄物への適用性検討の一つとしてこの研究を進めており、鉱物相の形成状況、固化体の化学的安定性、放射線耐久性などを総合的に評価した結果として、PuO2を20wt%まで含有可能なジルコノライトの多いシンロックを作製することに成功した。その後、ジルコノライトと類似のパイロクロール((Ca,Gd,U,Pu,Hf)2 Ti2O7)の多いシンロックの開発により、さらに廃棄物含有率を上げることが可能になり、この種の軍事廃棄物への適用に自信を深めた。2007年には米国サバンナリバーにこの方法でのPu固化施設が稼動される予定である。
2)シンロックーガラス複合固化体の開発
 廃棄物中にナトリウムや珪素が多く含まれるような特殊なHLWを固化するためには、これらの元素をガラスマトリックスに取り込むことで、シンロックの優れた特徴を維持できると考えられる。このようにシンロックとガラスが共存する複合固化体を作製する方法によって廃棄物含有率を50〜70%に上げることが可能になった。この方法を米国ハンフォードのパシフィックノースウエスト国立研究所(PNNL)やアイダホ国立研究所(INL)の高ナトリウム含有廃棄物に適用することを目的とした研究開発が進展中である。この固化プロセスについては、フランスCEAや英国(Nexia Solutions)との協力も始まっている。
3)その他
 上記の研究開発に加えて、シンロックの適用性を以下の放射性廃棄物についても検討している。
・ロシアの高レベル放射性廃棄物の処理法
・高レベル放射性廃液の群分離によって生ずる長半減期核種を多量に含む廃棄物
<図/表>
表1 代表的なシンロックの組成と鉱物相
表1  代表的なシンロックの組成と鉱物相
表2 シンロックの鉱物相に対する基本的な高レベル廃棄物構成元素の分配
表2  シンロックの鉱物相に対する基本的な高レベル廃棄物構成元素の分配
図1 オーストラリア原子力科学技術機構(ANSTO)のシンロック固化実証プラントの概念
図1  オーストラリア原子力科学技術機構(ANSTO)のシンロック固化実証プラントの概念

<関連タイトル>
高レベル廃液の代替固化処理 (05-01-02-05)
低レベル放射性廃棄物の固化技術 (05-01-02-08)

<参考文献>
(1) (財)原子力環境整備センター(編):「放射性廃棄物関連用語解説集」(1986年)
(2) 藤木良規:「岩石固化」、天沼・阪田監修、放射性廃棄物処理処分に関する研究開発、(株)産業技術出版/(株)テクノ・プロジェクト(1983年)、p.323
(3) 日本原子力研究所:原研三十年史(1986年)、p.167
(4) 日本原子力研究所:原子力安全性研究の現状(1984年?1994年)
(5) 原子力委員会(編):21世紀の扉を拓く原子力−原子力の研究、開発および利用に関する長期計画−、大蔵省印刷局(1994年8月)
(6) 塚本、井上:高レベル放射性廃棄物のシンロック固化法に関する調査、電力中央研究所報告、調査報告、283069(1984年)、p.3
(7) K.D. Reeve, et al. : Focal Point ”Special−Purpose Material” SYNROC, Metal Forum, 6(2), 112 (1983), p.120.
(8) B.D. Begg, et al. : Low−Risk Waste Forms to Lock Up High−Level Nuclear Waste, WM’05 Conference, February 27 − March 3, 2005 , Tucson , AZ.
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