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<概要>
 低レベル放射性廃棄物を減容し、安定化する最も現実的な方法は固化処理である。この処理法には様々な方式があり、対象廃棄物の種類、減容率、経済性、処理プロセスの安全性、固化体の特性等の総合的な評価によって処理法が選択されている。ここでは、これまでの研究開発によって実用化、もしくはその可能性が極めて高い段階に達している固化処理技術について概説する。
<更新年月>
2015年03月   

<本文>
 低レベル放射性廃棄物は、気体状、液体状及び固体状で発生し、それぞれの特性に応じて処理される。気体状の廃棄物は集塵機、フィルタなどによる捕集、溶媒による吸収、吸着剤による吸着などの処理を行い、最終的には液体状あるいは固体状の廃棄物となる。液体状及び固体状廃棄物の処理の主たる目的は、減容し、安定化することである。この最も現実的な方法は固化処理である。ここでは、これまでの研究開発によって実用化、もしくはその可能性が極めて高い段階に達している固化処理技術の概要を記述する。
1.液体状廃棄物の固化処理
 我が国で採用されている液体状廃棄物を対象とした各種固化処理方式及びその長所・短所を比較して表1に示す。
(1)セメント固化
 セメントは入手が容易かつ廉価で、十分な強度と長期にわたる安定性があり、放射性廃棄物の固化材として優れた特性を有する。しかし、通常の方法では固化処理により増量するという問題もある。このため、PWRではほう酸塩を含む濃縮廃液の固化などには、表1に示す改良型セメント固化法を採用し、減容率の改善を図っている。固化法に廃液とセメントの混合を収納・固化する容器(ドラム缶)の内側で行うか、外側で行うかなどによってインドラム・ミキシング法、アウトドラム・ミキシング法及び真空注入法がある(ATOMICA「原子力発電所廃棄物のセメント固化 (05-01-02-07)」を参照。)。
 近年では、従来のセメント固化法に代わる改良型のセメント固化法が開発され多くの固化処理に用いられている。この改良型は、固化装置、セメントなどの改良を進めることによって、廃棄物の減容率は従来型に比べ約7倍となり、プラスチック固化の場合の減容率とほぼ同じとなった。BWRでは、プラスチック固化法から改良型セメント固化法に変更した例が報告されている(図1参照)。この理由に、発電所の水処理系で発生する樹脂の焼却処理が可能になったこと、復水ろ過脱塩装置へのプリーツフィルタの導入によりイオン交換樹脂が不要になったことなどから固化処理対象廃液の発生量が減少したこと、固化材の取り扱いが容易で設備を簡素化できる利点などがあげられる。
 また、日本原子力研究開発機構(JAEA)の浸漬型蒸発濃縮装置とアウトドラム方式によるセメント固化装置の例を図2に示す。
(2)アスファルト固化
 この固化法は、原子力発電所、再処理施設等で発生する低レベル放射性廃棄物を加熱・溶融したアスファルトとともに混合し、固化体内に安定に閉じ込める廃棄物処理法である。廃棄物中の残存水分のほとんどが作製過程において除去されるので、従来のセメント固化法に比べ優れた減容効果を持ち、耐浸出性も高い。また、廃棄物を数十%の高濃度まで含有することが可能である。問題点としては、固化体自身が可燃性であることなどがある。1997年3月11日、動燃事業団(現日本原子力研究開発機構)の再処理工場アスファルト固化施設で、火災爆発事故が発生したことは記憶に新しい。
 固化体の作製方法は、大別してバッチ式(不連続式)と連続式の2種類があり、さらに濃縮操作等の有無によって分類される。バッチ式固化法は組成の異なる廃棄物を少量ずつ排出する施設などに導入されている。前もって廃液の蒸発濃縮を行う方法と行わない方法の2つがあり、前者は廃液やスラッジの固化に、後者はある程度乾燥した廃棄物の固化に適しており、工程や操作技術が簡単である。連続式固化法には固化装置としてスクリューエクストルーダ(押出機、図3を参照)と薄膜蒸発装置(図4を参照)を用いる2つの方法がある。前者は廃棄物の形態を問わず、また、大量の廃棄物の処理が可能であるため、多くの原子力施設に導入されている。後者は濃縮廃液、スラッジ、イオン交換樹脂などの固化に使用される。
 アスファルト固化体は、高濃度の廃棄物塩を含むため純粋なアスファルトとは異なる性質を持つ。固化体内での塩の不均質化や塩の吸水による固化体の膨潤は、浸出特性に悪影響を及ぼす。塩の均質化や固化体の膨潤性に影響する因子は、固化体作製時の条件、廃棄物塩の種類と含有量、廃棄物中の残存水分量などである。固化体の長期耐久性については、微生物による分解、放射線照射などによる性能劣化やガス発生が重要な課題と指摘されている。
(3)プラスチック固化
 この固化法は、高い減容効率、優れた固化体物性などの面から注目され、廃棄物の固化に有利な材料、処理プロセスの選択などについて、1970年代初期から研究開発が始められた。その結果、熱硬化性プラスチック及び熱可塑性プラスチックを使用する方法が採用されるようになった。しかし、アスファルト固化体と同様、固化体自身が可燃性であるという欠点を有する。
 熱硬化性プラスチックによる方法は、放射性廃棄物をプラスチック重合体により固定化するもので、固化材として不飽和ポリエステル樹脂をベースとしている。この樹脂は不飽和基を持つ不飽和ポリエステルとスチレンの単量体を一定量加えた液状物質であり、重合開始剤・促進剤の添加によって不飽和結合の架橋により硬化することを利用したものである。重合反応を円滑に進めるためには、水分の存在が大きな制御因子になるため廃棄物を脱水しなければならない。この固化プロセスにはインドラム・ミキシング方式とアウトドラム・ミキシング方式がある。いずれの方式においても、廃棄物は遠心薄膜蒸発缶型乾燥機(回転薄膜式乾燥機)を備えた乾燥処理系で粉体化され、プラスチック固化系で重合固化される。プラスチック固化システムの基本系統図を図5に示す。
 熱可塑性プラスチックによる方法は、加熱すると流動性となり、温度が下がれば流動しなくなる樹脂の性質を利用する。樹脂と廃棄物を加熱(150〜180℃)混合し、所定の容器に満たし放冷することにより固化体ができる。熱可塑性プラスチックはそれ自体が重合体であり、廃棄物と化学反応を起こすことはない。原料樹脂にはポリエチレンが使用されている。安価で、成形性がよく、疎水性に富むことが選定の根拠である。固化方式としてバッチ式とスクリュー押出機を用いた連続式がある。
(4)造粒固化
 この固化法は、廃棄物の高減容化と安定貯蔵を目的として開発され、作製した固化体は将来処分が可能になるまでの間の暫定的な保管体として位置付けられている。造粒固化システムの特徴は
 a)廃棄物の容量を従来のセメント固化法に比較して平均1/7に減少できること、
 b)最終処分方法がどのように決定されても、固化材や固化時期の選択が可能であり、処分方法に柔軟性があること、
 c)ペレット間隙へ固化材を流し込むだけの注入固型化が可能であり、固化材の種類により減容性が影響を受けず、また、廃棄物と固化材の混合が不要であること、
などである。
 造粒固化法は、廃棄物を乾燥・粉体化させた後、少量のバインダーを添加してペレット化させるもので、我が国では造粒機とスクリュー押出機を用いた方法が開発されている(図6参照)。濃縮された廃棄物は回転薄膜式乾燥機により乾燥粉体化させ、造粒機でペレットに成形し中間貯蔵設備に貯蔵される。このペレットはかご入りのドラム缶に充填した後、アスファルトなどの固化材を注入し、固化することも可能である。保管後のペレットの固化技術として、固化材にセメントガラスを用いる無機固化処理技術の開発が進められている。この材料は次の3成分から成る。
 a)母材:主成分はケイ酸ナトリウムで、三次元網目構造を形成し、ガラス質の緻密な構造を造る。
 b)硬化剤:主成分はリン酸ケイ素で、ケイ酸ナトリウムと重合硬化反応をする。
 c)吸水剤:セメント。反応生成水を結晶水として取り込み、固化体中の骨材の役目をする。すなわち、母材と硬化剤が反応して三次元網目構造の固化体を形成し、反応生成物として水を生成する。この水を吸水剤が結晶水として取り込む。
 この固化体は無機物であるので有機物より長期間にわたる安定性に優れている。
2.固体状廃棄物の固化処理
 放射性の固体状廃棄物は、可燃性のもの、難燃性のもの及び金属のように不燃性のものが発生する。一般的には、これらの廃棄物のうち可燃物については焼却処理を行い、難燃物や不燃物については圧縮処理が行われている。しかし、最近ではこれら固体状の廃棄物を高温で溶融処理し、緻密な固化体にする技術の開発が進み、日本原子力研究開発機構や日本原電(株)等で実用化が図られている。ここでは代表的な2つの例を概説する。
(1)高温溶融焼却
 この方法はベルギー原子力センターで開発されたもので、可燃物と不燃物を細かく破砕し、適正な比率で混合し、溶融炉内温度、約1500℃で焼却・溶融し、溶融物を水中に滴下して安定なガラス状グラニュール(ポーラスな粒状物)として取り出す。図7に高温溶融焼却システムの系統図を示す。生成したグラニュールのかさ比重は、従来の焼却炉からの灰よりも大きく、灰の容積の1/3〜1/5程度となる。この処理システムは対象廃棄物として可燃物が主体で、一定比率以上の不燃物(砂、ガラス、コンクリート等)を処理できる。この方法の特徴は、原子力発電所から発生するほとんどの固体状廃棄物を処理できることである。このため、廃棄物の選別、仕分け作業が大幅に簡素化され、結果として省力化及び作業被ばくの低減化が可能となる。
(2)溶融固化
 この方法は金属、焼却灰などの不燃性固体廃棄物を直接または間接に加熱溶融し、減容する処理技術である。廃棄物を真密度に近い状態まで緻密化できるため最大の減容効果が達成でき、また、廃棄物表面に付着している放射性核種が固化体内部に閉じ込められ、容易に離脱しないという安定化も期待できる。発生する固体状廃棄物のすべてを溶融するためには、1500〜1700℃程度の高温条件が必要である。表2に加熱方式でまとめた各種の溶融固化処理法を示す。
(前回更新:2004年6月)
<図/表>
表1 液体状廃棄物を対象とした各種固化処理方式
表1  液体状廃棄物を対象とした各種固化処理方式
表2 固体状廃棄物等の溶融固化処理法
表2  固体状廃棄物等の溶融固化処理法
図1 プラスチック固化装置からセメント固化装置への変更例
図1  プラスチック固化装置からセメント固化装置への変更例
図2 浸漬型の蒸発濃縮装置とアウトドラム方式のセメント固化装置の例
図2  浸漬型の蒸発濃縮装置とアウトドラム方式のセメント固化装置の例
図3 アスファルト固化に用いるスクリューエクストルーダの外観図
図3  アスファルト固化に用いるスクリューエクストルーダの外観図
図4 アスファルト固化に用いる薄膜蒸発装置の概要図
図4  アスファルト固化に用いる薄膜蒸発装置の概要図
図5 プラスチック固化システムの基本系統図
図5  プラスチック固化システムの基本系統図
図6 造粒固化の基本フロー
図6  造粒固化の基本フロー
図7 高温溶融焼却システムの系統図
図7  高温溶融焼却システムの系統図

<関連タイトル>
原子力発電所からの放射性廃棄物の処理 (05-01-02-02)
再処理施設からの放射性廃棄物の処理 (05-01-02-03)
原子力発電所廃棄物のセメント固化 (05-01-02-07)
低レベル放射性固体廃棄物の減容技術に関する現状 (05-01-02-09)

<参考文献>
(1)日本原子力産業会議:放射性廃棄物管理ガイドブック 1994年版、(1994年)、p.35-43.
(2)日本原子力産業会議:放射性廃棄物管理ガイドブック 1988年版、(1988年)、p.34-41.
(3)日本原子力研究所:原子炉研修所講義テキスト 放射性廃棄物管理講座、ラジオアイソトープ・原子炉研修所(1990)、p.69-p.117.
(4)松田ほか:原子力発電所廃棄物の一括セメント固化技術、火力原子力発電、47(9)、976-981 (1996).
(5)IAEA: Bituminization Processes to Condition Radioactive Wastes, Technical Reports Series No.352, IAEA (1993).
(6)通商産業省資源エネルギー庁:原子力発電便覧1995年版、電力新報社(1995.2)、p.229.
(7)三原ほか:シリカフュームを混合したセメントペーストの浸出試験とモデル化、放射性廃棄物研究、3(2)、71-79 (1997).
(8)平林孝圀、門馬利行:低レベル放射性廃棄物の減容化技術、機械の研究、48 (5),p.538-544(1996).
(9)原子力安全・保安院:中部電力株式会社浜岡原子力発電所の原子炉の設置変更(1号、2号、3号、4号及び5号原子炉施設の変更)に係る安全性について、添付-1 固化設備変更前後概略系統図、平成22年8月、

(10)松澤 俊春、吉田 武史、青木 裕、・発電所から発生する運転中廃棄物の処理処分の現状について、 デコミッショニング技報41 (2010年3月).
(11)第6回 廃止措置技術−処理処分の技術動向、原子力学会誌、Vol.52. No.2 (2010)、
(12)日本原子力研究開発機構 原子力科学研究所:放射性廃棄物の管理 液体廃棄物処理の流れ、
http://www.jaea.go.jp/04/ntokai/backend/backend_01_02_07.html
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