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<概要>
 多量の放射性物質を取り扱う再処理施設の保守管理は、保守作業に当たって作業員の被曝を低減すること、施設内外への汚染の拡大を防止することに留意する必要がある。保守件数を、システムの簡素化、機器の耐食性向上等で減らし、予防保全を重視して、故障時の事後保全負担を軽減する。保守を念頭においたプラント設計には、直接保守と間接保守の両方式があり、それぞれ利害得失があるのでプラントの性格に応じた選択を行う。保守の手順の合理化も必要で、保守(除染を含む)技術、機材等の進歩も著しい。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.保守管理に係わる再処理施設の特徴
 保守管理に係わる再処理施設の一般産業施設と異なる特徴は、日常の保守、故障時の補修等の場合、取り扱う対象機器装置類が放射性物質を内包していたり、それによって汚染していることである。放射性物質は放出する放射線によって施設の作業員(運転、保守等)に外部被ばくをもたらし、経口又は傷口等から侵入して内部被ばくの原因となる。いずれも許容値を超えることは許されないので対策が必要である。そのため再処理施設では次のような設計上の配慮がなされている。
(a)遮蔽:β、γ放射線は金属、コンクリート等比重の大きいものにより良く吸収され減衰するし、中性子線は水素原子を含むコンクリート等で減速され減衰する。したがって、放射性物質を内包する機器、貯槽等の系統は、その放射性物質の質と量に応じて適切な厚みのコンクリート等で構築されたセル構造の中に収納するのが一般的である。
(b)隔離:放射性物質を取り扱う機器系統をセル構造に収納するのも隔離の一方法であるが、適切な距離を確保することにより、作業員等から離しておく方法も有用である。
(c)密封:作業員の内部被ばくと環境汚染を防止するため放射性物質(特にプルトニウム等のα線放射体)は、密封状態で取り扱う。せん断、溶解以降の再処理工程では、機器装置系統自体の中に閉じ込めるということを重視して系統の設計を行う。即ち、機器、貯槽、配管等は密閉構造で漏洩の無いように、系統への外部からの流通経路には逆止弁、水封等を設けて逆流を防止し、系統の換排気系には放射性物質の除去効率の良い粒子フィルターを設置する等の設計を行う。
 このように設計された施設では、自ずから保守対象となる機器、配管等への作業員の接近が難しいことになる。そこで次のような諸点が保守を容易にするため工夫されている。
2.再処理施設の保守管理の合理化
(1)保守の必要性の低減
(a)簡素化:保守管理の合理化には保守対象を減らすことが最も効果的であるが、それには機器装置の点数を減らすこと(ユニット化することも含む)、個々の機器は保守の必要性の少ない簡素、頑健なものとすること(フェイルプルーフ)が重要である。一例を挙げれば、放射性溶液を直接取り扱う送液機器には保守の必要性の高い機械式ポンプの代わりにスチームジェット、エアリフトを用いるなどがある。再処理のプロセス上の要求を実現するために機器装置系統を選択するとして、性能ばかり良くても保守性が悪いものは良い選択とはいえない。性能面で選択範囲内の装置系統のいずれもが保守性に大きな難点があれば、そのプロセスは実現不可として他のプロセスを考えることもあり得る。
(b)耐腐食性:現在の代表的な再処理工場では、使用済燃料を硝酸で溶解し溶媒抽出法で分離精製するプロセスを採用しているので、沸点近傍の硝酸、重金属硝酸塩等の溶液に対する耐腐食性(耐食性)のある材料が必要になる。常温で使用される機器配管はステンレス鋼等の使用で通常プラント寿命に耐えるが、高温で使用される機器はより耐食性の高いチタン、ジルコニウム合金を用いるとか、補修、交換等が容易にできるように配慮する必要がある。
(c)多重化:再処理施設では安全性を高めるため装置に支障が生じたとき直ちに切替を行い機能を維持できるように系統の多重化を図ることがある。保守の面でも、一般のプラントより時間のかかる場合が多いので、工程の長い停止を避けるため保守の頻度の高い系統を多重化することがある。
(d)予防保全:保守・補修の原因になる機器の損耗、故障等を減らすことが重要である。機器系統の性格を事前に把握して故障に到らないうちに予防的に対策することを予防保全といい、近年、高度技術の集大成であり、故障等が大事故に発展する可能性のある航空機等の大量輸送機関で特に重要視されてきた。部品点数が数万に及ぶ大規模システムでは、要素の特性の統計的処理をコンピュータで行ったりして、予防保全の実施をシステマチックに行うようになった。原子力施設でも予防保全は、重要視されている。公的な定期検査の実施もその一環である。
(2)保守の手順の合理化
 再処理施設では、前節のようにできるだけ保守の必要性を減らすようにしているが、定常保守と異常時保守対策は欠かすことができない。予めこれらの対応策をプラント設計に盛り込んでおく他、保守作業要領書、放射線作業要領書等を準備する。設計時点やコールド試験時に作業手順をモックアップ試験装置(現寸大)或いは現場でチェックすると共に作業員の訓練を行い、無用の放射線被ばく等を回避する他、保守時間の低減を図る。頻度及び難度の高い保守の必要性が考えられる施設については、モックアップ試験装置を常設しておき、作業員の訓練、作業手順の最適化等に使用すると良い。
(a)汚染除去(除染):通常保守であれ故障の事後対応であれ、保守部分から放射能を除去することが保守の第一のステップである。溶液等が溜まっていればそれを保守対象系統から保守の妨げにならない所へ移送するための貯槽、配管、送液機器が、定常的な場合のほか故障、事故等を推定して、予め整備されていなければならない。これらをリワーク・システムということがある。続いて硝酸、水等で浸漬、濯ぎを行う。必要があれば加熱するか、加温液を用いる。普通の溶液系ではこの程度で充分だが、アルカリ、特殊な除染試薬(しゅう酸、過マンガン酸カリ、EDTA等)を用いることもある。通常のプロセス試薬以外は後の廃液処理に支障の無いように選ぶ必要がある「第1段階の除染」。
 次の段階の除染として、ステンレス鋼の表面に付着している放射性物質をより完全に除去するため、機械的研磨、電解研磨等を行うこともある「第2段階の除染」。
(b)保守を要する部分の隔離:定常的な保守が必要な部分、調整や部品交換の必要な機械装置、計装機器等は、保守のための接近が容易にできるよう、セル内には配置しないのが原則である。稼働中は遮蔽が必要なポンプ等は、大型セルからは隔離した専用の遮蔽室(バルジ、遮蔽扉付)に収めておき、保守の必要な時はその中だけを除染して行う。
(c)遠隔方式の適用:隔離の難しい機器、保守前の汚染除去(第1段階の除染)の効果が充分期待できない機器等の保守(第2段階の除染を含む)は、要員が接近して行う(直接保守)代わりに、ロボット装置等により設置位置で或いは保守用セルで行う(遠隔保守)ことが考えられる。後者では遠隔方式で保守対象物を取り外し、保守用セルまで運搬する必要がある。このため予め遠隔保守を見込んだ設計の施設が必要である。
(d)マニピュレータ:遮蔽壁等を隔てて保守対象機器に触れる為に工夫された特殊機器としてマニピュレータ(テレマニピュレータ)がある。操作員が手で操作する部分をマスター、動作部分をスレイヴという。マスターとスレイヴが機械的に繋がったもののほか、電気的に繋がったものがある。後者をパワーマニピュレータといい、操作端と動作端の隔離、作動力の増倍には極めて自由度が高い。最近のものでは、操作の感覚(反力)が操作端で感知できる機構を組み込んだものがある。
(e)MERC(機器取替用遮蔽容器):放射性溶液を直接扱うポンプ、弁類、フィルター、計装機器等は保守、交換の頻度が高いと予想される。保守の対象になる可動部分を遠隔的に取り外せるように設計しておき、簡単な第1段階の除染後、遮蔽付容器の中に取り出し、反対の手順で新しい交換部品を取り付ける方式がフランスで開発され、同種のものが各国で用いられている。古い部品は、修理するか廃棄物として遮蔽梱包し廃棄される。図1にMERC(Mobile Equipment Replacement Cask)の一例を示す。
(f)セル内監視装置:遮蔽体の中を視るために、遮蔽壁の一部を遮蔽能力を持った高比重ガラス、高比重透明液槽の窓構造とするか、ペリスコープ(潜望鏡)、工業テレビ等を用いる。工業テレビは耐放射線性の強化、小型化、立体視、カラー化等の改良と搬送ロボットの改良で、セル内に止まらず水中、機器・配管内を視察できるものまで開発されている。検査機器として予防保全に役立つ。
(g)安全管理器材:保守作業時の内部被ばくを防止するため防護具を着用する。汚染の程度と質に応じて、フィルター付マスクから給気式全身防護服までを使用する。汚染する外面と接触せずに着脱できるように工夫した防護服システムもある。個人が着用する放射線測定器、通信器具はソリッドステイト化等で小型化、信頼性向上が進んでいる。
(3)遠隔保守
 大規模な保守が必要になった時、プラントの広範囲に亘って高度の第2段階の除染を行った後、作業員による直接保守作業(被ばく限度を守るため工数、従事者数、保守期間は増える)を行うより、初期投資が増加するとしても特定の機器系統を予め遠隔的に保守できるように設計施工する方が利点が多い場合がある。初期の米国の施設にもこの思想が窺われる例があるが、近年、ドイツでFEMO方式(遠隔取出可能モジュール化機器配置方式)が提唱された。バッカースドルフに建設予定の再処理工場に適用するために関連技術の開発が進んでいたが、この工場建設は中止された。ほぼ同じ設計思想が、動燃東海(現日本原子力研究開発機構核燃料サイクル工学研究所)高レベル廃液ガラス固化技術開発施設(TVF)で採用されている。図2にTVFの主要工程説明図を、図3にTVFの固化セル概念図を、図4にTVFで採用された全遠隔保守方式(ラックシステム)概念図を示す。セル内クレーン、パワーマニピュレータ等を完備した比較的大型のセルに、形状、寸法を統一したラック(架台)を配置し、それぞれにプロセスユニットを組み込む。ユニット間の配管繋ぎ等は遠隔式で着脱できる。小保守は据え付け位置で、大保守はラック毎保守セルに移送して行う。
3.動燃東海再処理工場の保守
 我が国唯一の稼働再処理施設である動燃東海再処理工場のある期間における機器別の通常補修の実績例を図5に示す。東海工場は、前処理工程の一部を除けば直接保守を主体とする思想で設計されている。蒸発缶等の補修、取替えは除染後、作業員がセル内に入って実施した。一方、せん断機等は既設の遠隔保守機器を用いて、溶解槽の腐食部の補修は溶接・検査ロボットを開発、製作して実施した。図6に後者の概要を示す。
<図/表>
図1 MERC(Mobile Equipment Replacement Cask)の概要説明図
図1  MERC(Mobile Equipment Replacement Cask)の概要説明図
図2 動燃東海高レベル廃液ガラス固化技術開発施設(TVF)の主要工程説明図
図2  動燃東海高レベル廃液ガラス固化技術開発施設(TVF)の主要工程説明図
図3 動燃東海高レベル廃液ガラス固化技術開発施設(TVF)の固化セル概念図
図3  動燃東海高レベル廃液ガラス固化技術開発施設(TVF)の固化セル概念図
図4 動燃東海高レベル廃液ガラス固化技術開発施設(TVF)の遠隔保守ラック
図4  動燃東海高レベル廃液ガラス固化技術開発施設(TVF)の遠隔保守ラック
図5 動燃東海再処理工場における通常の補修実績の例
図5  動燃東海再処理工場における通常の補修実績の例
図6 動燃東海再処理工場の溶解槽遠隔補修システム説明図
図6  動燃東海再処理工場の溶解槽遠隔補修システム説明図

<関連タイトル>
再処理施設の安全設計 (04-07-03-01)
再処理施設の工程設計 (04-07-03-02)

<参考文献>
(1)動燃東海再処理工場:再処理工程の運転、10. 保守・補修、動燃技報 No.55,p51-59(1985.9)
(2)佐々木 憲明 ほか:高レベル放射性廃液ガラス固化プラントの現状、動燃技報 No.56,p51-65(1985.12)
(3)J.J.IZQUIERDO:The MERC maintenance system”,PROCEEDINGS OF INTERNATIONAL CONFERENCE ON NUCLEAR FUEL REPROCESSING & WASTE MANAGEMENT,RECOD’91,SENDAI,1991,Vol.2 p.1111-1116
(4)杉山 俊英 ほか:軽水炉使用済燃料の再処理、動燃技法 No.100,p183-197(1996.12)
(5)大内 仁 ほか:放射性廃棄物の処理技術開発、動燃技法 No.100,p215-233(1996.12)
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