<本文>
1.換気の必要性
建屋等の換気は、給気設備、屋内の流れを整える設備及び排気設備によって行われる。
図1に示すように、ここで説明される換気の対象になるセル内の雰囲気やセルを取り囲む建内の雰囲気は、放射性物質を含むプロセスの廃ガスや直接放射性物質と接している容器内の雰囲気(塔槽類廃ガス等)よりは格段に清浄である。しかし、平常時のほか異常時(内側の「閉じ込め機能」に欠陥が生じた場合等)を考えて換気は放射性汚染があるものとして(即ち放射性気体廃棄物として)取り扱うので、換気を無条件で外部に放出することはない。従って我が国の法規制では、再処理施設の換気設備は、放射性廃棄物の廃棄施設の一つである気体廃棄物の廃棄施設と位置づけている。
2.閉じ込め機能としての換気
図1に示すように放射性物質を保持している容器(貯槽等)の器壁を第一の閉じ込め障壁(バリアー)とし、次にこの容器の収めてあるセル等の壁を第二の障壁とし、更にこのセル等を直接取り囲む部屋(の壁)を第三の障壁とする場合、その順で各障壁内の区域の空気中の放射性物質の濃度が高い可能性がある。そのために第一の障壁内(第一区域)、第二区域、第三区域の順序で内部の負圧が深いように廃ガス処理系統及び換気系統を設計して、障壁に開口を生じた場合でも、空気の流れが常に第三区域→第二区域→第一区域の方向を取るようにする。その上で第一区域からの排気は、必ず放射性物質を必要な程度に
除染できる排気浄化設備を通して外部に排出されるようにする。再処理施設の換気設備は「動く閉じ込め機能(Dynamic Containment)」と言える。
3.区域設定(ゾーンニング)
施設の管理を容易にするため目的に応じて適当な基準を定めて区域に分ける。
我が国の再処理施設では放射性物質等を扱うため「核原料物質、核燃料物質及び
原子炉の規制に関する法律」により、放射線業務従事者を放射線被曝から防護するための対策の一環として「
管理区域」を設定することが義務づけられている。管理区域の定義は「
使用済燃料の再処理の事業に関する規則」の第1条にあり、その場所における1)外部放射線に係わる線量当量、2)空気中の放射性物質の濃度、又は3)放射性物質によって汚染された物の表面の放射性物質の密度が、科学技術庁長官(現経済産業大臣)の定める値を超えるおそれのある区域を管理区域とするとなっている。
1)は、1週間につき300マイクロシーベルト、2)は1週間についての平均濃度が第7条(放射線業務従事者に係わる
濃度限度)の値(3月間についての平均濃度の値が別表第1、第2に放射性物質の種類(核種別、化学形別)に応じて与えてある)の10分の3、3)は第5条(
表面密度限度)の値(アルファ線を放出する放射性物質については4ベクレル/平方センチ、アルファ線を放出しない放射性物質については40ベクレル/平方センチである)の10分の1である。
再処理施設では、殆んどの施設内部は管理区域として管理するが、管理の便宜上さらに管理区域を空間線量に係わる線量当量率の高低、空気中の放射性物質の濃度、又は床等の表面の放射性物質の密度に起因する汚染の高低等を考慮にいれて、グリーン区域、イエロー区域(アンバー)、レッド区域等に区分することがある。この区分は、施設の出入り管理等にも関係が深いが、換気の流れを規定する上で重要である。
4.管理区域の換気設備
図2に動燃東海再処理工場(現日本原子力研究開発機構核燃料サイクル研究所)おける、管理区域の換気設備系統の概略を示す。
(a)換気の方法
換気は原則として一度区域内に給気した空気は再使用しない方式(ワンスルー方式)が取られている。汚染の蓄積や逆流を避けるためである。だだし、大型施設などで換気量が膨大になり実際的でない場合に、換気の一部を再循環することがある。この場合は循環空気の浄化、
モニタリング、異常時のワンスルー方式への切替え等が考慮される。
(b)換気量
区域内で発生する熱量の除去、及び放射性物質や有害物質の発生が予想される時はその希釈の必要程度から換気量の最低量が計算できる筈であるが、特に放射性物質、有害物質の場合は予測が難しい。1時間当たり換気量を区域の容積で割った値を換気回数と呼び、経験的にグリーン、イエロー区域で5〜8回、レッド区域で10回以上等としているが、いろいろ局所的な条件が異なるので目安程度のものである。
(c)負圧管理
管理区域内の気圧は、放射性物質の漏出を防止するため、常に外より低い圧力(負圧)にしておく必要がある。管理区域内でも、
空気汚染、表面汚染の可能性の低い区域から高い区域に向かって常に空気の流れ(グリーン−>イエロー(アンバー)−>レッド区域)が作られており、汚染の拡大を防止するようにしている。各区域の境界の出入口には、必要があれば
エアロック扉(同時に開かない直列に配置された2枚の扉)を設けて多量の空気の流動を防ぐ等の配慮を行う。
各区域の負圧の設定については特に定量的な規制値はないが、経験により安全性、作業性、設計合理性等を考慮して施設毎に定める。一例を挙げれば、グリーン区域:大気圧に対して−約5mm水柱、イエロー区域:同−約10mm水柱、レッド区域:同−約20mm水柱程度であり、区域中に設置される放射性物質を内蔵する機器類は区域の圧に対して更に適宜の負圧を持たせる。
換気系統としては、空気の流れを建屋の一部を通す場合と密閉したダクトを通す場合がある。異常が生じた時でも、換気の流れや負圧の逆転が起こらないように逆止ダンパを設けたり高性能粒子フィルタ(HEPAフィルタ)を挿入したりする。
セル換気系では、火災、爆発等の可能性等セルの性格に応じて給気閉止ダンパ(炭酸ガス消火設備等に対応)、給気側へのHEPAフィルタ設置等の設計対応を行う。
5.主要な換気設備
(a)給気設備
一般に
原子力施設では施設内の放射性物質の施設外への漏出を厳重に抑えるため高度な排気浄化設備を備える。これらの設備の性能維持と負担の軽減のため施設への給気はできるだけ清浄なことが必要である。空気中の塵埃や塩分等を除去し、湿分や温度を調整するため前置フィルタ(プレフィルタ)、
高性能フィルタ、水洗浄装置、ヒータ、クーラ、送風機等から構成される空気調和・清浄装置が用いられる。
(b)排気設備
(1) 換気の維持:換気を中断無く実施するため、換気系統の排気用送風機(以下、排風機)には十分な余裕のある容量を持たせ、予備機を含む複数個を並列に配置する。排風機の電源は、外部電源の喪失時には非常用所内電源系統に接続する設計とする。
非常用電源切替え時に過渡的な現象として区域間の負圧の乱れを抑えるように排風機の起動順序や給気送風機の運転等について慎重な考慮を払っている。溶媒火災を
安全評価の前提にした建屋等では建屋給気閉止ダンパを設けることがある。
(2) 排気の処理:排気の浄化は、排気の出所に応じて高性能粒子フィルタを直列に1ないし2個を配置して行う。必要に応じてセル等の出口に前置フィルタを置く。フィルタ装置の構造は、鉄枠(ステンレス製)にガラス繊維の濾布を畳み込んだフィルタユニットを鋼製のフィルタケーシングに収めてあり、このフィルタユニットはバギング(BAGGING,BAG-OUT,BAG-IN;予め装着してあるプラスチックの袋に汚染を拡げないで包み込む技法)という方法で交換できるようになっている。交換等の保守時も換気の中断は許されないので、建屋換気設備のフィルタは予備を含めた複数系列を設置する。現在、HEPAフィルタは、単体によるDOP試験で99.99 %の性能を持っているものが市販されている。DOPはフタル酸ジオクチル[C
6H
4(COOC
8H
17)2]のことで、本剤を乾燥空気に飽和させイオン化した清浄乾燥空気と混合すると、非常に均一な 0.3μm の粒子のヒューム(煙霧)ができる。ヒュームの光に対する散乱、
回折現象を利用してフィルタの上、下流の粒子数を測定し、フィルタの効率を定める(日本工業規格)。
(3) 排気モニタリング設備:通例、排気モニタリング設備は、次のような排気筒モニタ、サンプリング設備等で構成される。排気筒から排出される排気中の
放射性希ガスは、排気筒ガスモニタにより連続的に監視され、中央制御室で指示、記録が行われるとともに、放射能レベルがあらかじめ設定した値を越えると警報を発する。サンプリング設備は、ヨウ素用フィルタ、粒子用フィルタ、炭素14 捕集装置及びトリチウム捕集装置等を備え、それぞれのサンプルを連続的に捕集し、定期的に回収・測定するようになっている。
(4) 排気筒:再処理工場では、プロセス廃ガス、塔槽類廃ガス、セル建屋換気は、それぞれ適切な処理を施され、もし放射性物質を含んでいても所定濃度以下に清浄化されているが、更に環境への放出に当たって大気中での拡散を積極的に確保するため、充分な高さの排気筒から排出する。放出管理を容易にするため排気は纏めて少数の排気筒から排出するのが普通である。
<図/表>
<関連タイトル>
気体廃棄物の処理 (04-07-02-06)
再処理施設の安全設計 (04-07-03-01)
<参考文献>
(1)総理府令第10号:使用済燃料の再処理の事業に関する規則(昭和46年3月27日)
(2)科学技術庁告示第20号:試験研究の用に供する原子炉の設置、運転等に関する規則等の規定に基づき、線量等量限度等を定める件(昭和63年7月26日)
(3)火力原子力発電技術協会(編):やさしい原子力発電、火力原子力発電技術協会(平成2年6月)
(4)火力原子力発電技術協会(編):原子燃料サイクルと廃棄物処理、火力原子力発電技術協会(昭和61年)