<大項目> 開発中の原子炉および研究炉等
<中項目> 原子炉の基礎
<小項目> 原子力に関する基礎事項
<タイトル>
燃料棒破損の変遷 (03-06-01-08)

<概要>
 軽水炉燃料の破損率は、本格的な実用化が始まった1970年代前半に見られた幾つかの破損機構に対して対策が施された以降は年とともに低下する傾向がある。しかし、経済性向上のための高燃焼度化と運転方法の変更や、原子炉の経年変化が進むにつれて増加する補修工事等によって新たな破損機構が明らかになっている。最近の燃料破損は、PWRではグリッドまたはデブリと燃料棒が擦れあって被覆管が磨耗する機構が大半であり、BWRではデブリによる磨耗と水垢による腐食(CILC)が主要なものである。
<更新年月>
2005年09月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 軽水炉燃料の破損の傾向は2つの時期に分けられる。即ち、1970年代の原子力発電の実用化初期に発見された幾つかの機構による破損、次いで高燃焼度化や経済性向上を意図した使用条件の変化、更に一部の原子炉の老朽化に伴って発生した新たな機構による破損である。前者の破損機構としては、水素化、擦れ(フレッティング)水垢による腐食の促進、扁平化、PCI(ペレットと被覆管の相互作用)がある。この内、PCIは現在でも時折発生する破損機構である。80年代以降の破損機構は、水垢による腐食、擦れ、PCIであるが、それらの具体的な内容は70年代のそれらと異なっている。即ち、擦れは、70年代は異物と被覆管の擦れの他に隣接被覆管との擦れで破損したが、現在はグリッドとの擦れやデブリと呼ばれる金属小粒との擦れが大半である。また、近年の水垢による腐食はCILC(crud induced localized corrosion)と呼ばれ、ガドリニウム(Gd)入りの燃料に多く発生している。
 軽水炉の実用化が本格化した70年代の燃料破損率を図1および図2に示す。原典では、このデータは旧西側諸国のものか米国のものかを記していないが、炉型や運転条件は米国とその他の西側諸国とよく似ているので、何れの場合も破損率は殆ど変わらないと思われる。これらの図の縦軸は対数表示なので、各破損原因の数値を合計する時には対数目盛であることに注意をしなければならない。各種破損機構の合計は、PWRでは最大でも2%以下、BWRでは1%程度であり、70年代初頭をピークにして、年毎に減少している。減少の原因は破損対策を施した燃料に順次交換したためである。BWR燃料の水素化破損の減少傾向が緩やかなのは、燃料取換えが一挙に行われなかったためである。
 図3は80年以降の米国軽水炉での燃料破損率を、図4および図5は破損原因別の破損燃料集合体数(破損割合ではない)を示したものである。但し、2004年は集計途中の値である。図3の縦軸の単位は集合体本数/電気出力なので、破損率に換算する場合には、単位出力当たりの使用燃料集合体数、集合体中の破損燃料棒本数、燃料の炉内滞在年数が必要になる。左記の正確なデータは不明であるが、以下の仮定のもとに破損率を計算すると下記のようになる。
〔仮定〕
(1)原子炉の容量を110万kWeで代表させる。
(2)燃料の炉内滞在年数を3年とする。
(3)破損燃料集合体中の破損燃料棒を1本とする。
1)BWR
 110万kWe(1.1GWe)の原子炉には764体の燃料集合体が装荷され、この集合体は8×8型ならば60〜63本の燃料棒、9×9型ならば72または74本の燃料棒で構成される。したがって、図3のBWRの数値に1.1×3/764を掛ければ燃料集合体の破損割合が算出され、2003年のBWR燃料集合体の破損割合は約1.6/GWeなので、この値から2003年の破損割合は、
  1.6 x 1.1 x 3/764 =0.0069体/1GWe
集合体中の燃料棒本数は8×8で代表させれば、上記の値を60〜63で割れば燃料棒の破損割合が求められ、0.012〜0.011%、9×9で代表させれば72または74で割ることによって、0.0096〜0.0093%になる。但し、2003年はその前の数年間と比較するとかなり高い破損割合になっていることに留意する必要があり、年によっては上記の値より1桁程度低くなる。
2)PWR
 110万kWeの原子炉には193体の燃料集合体が装荷され、1集合体あたり264本の燃料棒で構成されている(17×17)。図3のPWRの数値に1.1×3/193を掛ければ燃料集合体の破損割合が算出され、2003年の燃料集合の体破損割合は約0.68/GWeなので、この値から2003年の破損割合は、
  0.68 x 1.1 x 3/193 = 0.012体/GWe
集合体中の燃料棒本数は264本なので、0.0044%が燃料棒の破損率になる。但し、仮定や計算の過程から解るように、上記の破損率は桁数の見当をつける程度の作業であることに留意する必要がある。
 わが国においては長期にわたる燃料破損率の公表データは見あたらないが、実用化初期に起こった破損に対する対策が終わった1970年代半ば以降のPWR燃料破損例を図6に示す。この報文中には、「近年のPWR燃料棒の破損割合は0.0002%以下である」との記述がある。
 BWR燃料の破損については1990年以降の事例を表1に示す。またこの報文中には「過去20年にわたっての破損率は約0.0001%である」と記されている。
<図/表>
表1 日本のBWR燃料破損(1990年以降)
図1 PWR燃料の破損率の破損原因別推移
図2 BWR燃料の破損率の破損原因別推移
図3 米国軽水炉燃料破損率の推移
図4 米国PWR燃料破損の破損原因別推移
図5 米国BWR燃料破損の破損原因別推移
図6 日本におけるPWR燃料棒破損の推移

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<関連タイトル>
原子燃料の基礎 (03-06-01-01)
軽水炉燃料の炉内挙動(通常時) (03-06-01-06)
軽水炉燃料の破損原因 (03-06-01-07)
BWR用ウラン燃料 (04-06-03-01)
PWR用ウラン燃料 (04-06-03-02)

<参考文献>
(1)Garzarolli,F.,von Jan,R.,Stehle,H.:The Main Cause of Fuel Element Failure in Water-Cooled Power Reactors,Atomic Energy Rev.,17(1979)p.1
(2)Yang,R.,et al.:An Integrated Approach to Maximizing Fuel Reliability,Proc. ENS/ANS Topical Meet. on LWR Fuel Perform.,Olando,Florida,USA,Sept.19-22(2004)
(3)Otsuka,Y.,Kitamura,H.:Current Fuel Performance and Future Trends at Japanese Boiling Water Reactors,Proc. ENS/ANS Topical Meet. on LWR Fuel Perform.,Olando,Florida,USA,Sept.19-22(2004)
(4)Ishiguma,K.:The Japanease PWR Fuel Performance Past,Present and Future,Proc. ENS/ANS Topical Meet. on LWR Fuel Perform.,Olando,Florida,USA,Sept.19-22(2004)
(5)越後谷寛法他:最近の米国軽水炉燃料の信頼性、日本原子力学会誌、vol.35、No.8、718(1993)
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