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<概要>
 重水冷却圧力容器型炉は、天然ウランを燃料とし、重水減速材を使用するので、炉心、原子炉圧力容器は大型となるが、炉心冷却系は簡単化し、機器、設備の多くは加圧水炉と同様なものが使用できる。最初西独で開発され、小型の実験炉の運転成果により、この型の技術的可能性が確認され、最初の商用炉(電気出力35.7万kW)はアルゼンチンにおいて建設、運転されており、さらに現在2号機(電気出力74.5万kW)が建設中である。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 重水冷却圧力容器型炉は重水冷却圧力管型炉(CANDU-PHW)と異なり、減速材(重水)も原子炉圧力容器の中で加圧されるので単に加圧重水炉(PHWR)とも呼ばれる。この型の炉は天然ウランを燃料とし、原子炉圧力容器は大型となるが、炉心内の構造は単純化され材料は少なくて済むので、中性子経済上有利となり、また実証された加圧水炉(PWR)の機器およびシステムの多くを利用できる利点がある。
 最初旧西ドイツにおいて開発に着手され、小規模の多目的研究炉(MZFR)が建設され、1962年から1984年まで運転が行われた。 直ちに実用炉の開発に移行し、アルゼンチンからの受注により、 1974年 Atucha-1プラントを完成、良好な運転実績が得られた。さらに同国からより大容量プラントの発注があり、現在 Atucha-2プラントを建設中である。
1.開発の経緯
 旧西ドイツでは原子力開発計画の初期から、重水炉を主要開発路線の一つと位置づけていた。1962年 Siemens(現AREVA NP社)は多目的研究炉(MZFR、電気出力 5.7万kW)を Karlsruhe原子力研究センターに設置し、運転を開始した。同炉は18年間順調に運転され、1984年閉鎖された。同炉から発展させた実証炉は、アルゼンチンから受注された電気出力35.7万KWのAtucha-1プラントであり、1968年建設開始、1974年完成後高い稼働率で運転されていたが、1987年重水流出事故、翌年炉心内の冷却材チャンネル損傷事故に見舞われ、1990年運転が再開された。
 アルゼンチンでは同炉に続くものとして、基本的にはAtucha-1プラントの設計に準拠するが、内外の最新の規準・規格に適合する電気出力75万kWのAtucha-2プラントが計画され、1980年発注された。同プラントは1981年に着工されたが、資金調達の問題から運転開始が遅れ、1996年運転開始の予定である。
2.プラントの概要
この型の原子炉は減速材/燃料体積比がPWRのそれの4〜5倍となるので、原子炉圧力容器がPWRにくらべかなり大型となる。重水は炉心冷却系と減速材系に分けられるが、プラントの機器、設備などの多くは、PWRと同一か又は類似のものが使用できる。原子炉圧力容器および内部構造物を 図1 に、原子炉圧力容器横断面図を 図2 に、およびプラント冷却系統概略図を 図3 に示す。
 原子炉圧力容器の内部には円筒形の減速材タンクおよびタンクの上下管板を貫通する多数の冷却材チャンネルがあり、容器蓋の周辺部から斜め下方に炉心部に向かって制御棒配管が設けられている。炉心冷却材および減速材の出入口ノズルは圧力容器の上方部分に設けられ、PWR同様炉心および炉心下部相当部に貫通部は存在しない。各冷却材チャンネル内に長尺燃料集合体が1体装荷される。冷却材は冷却材チャンネル下端から流入し、減速材タンク覆いの上部で冷却材チャンネルより出て圧力容器出口より蒸気発生器に向かう。蒸気発生器より戻った冷却材は減速材タンクの外側を流れ下り、再び冷却材チャンネルに戻る。
 冷却材と減速材の圧力は、減速材タンク覆いの一部開口により、ほぼ等しく維持されるので、冷却材チャンネルは薄肉管の使用が可能となる。このことは炉心内の中性子吸収を抑え、天然ウラン燃料で高い燃焼度が得られることになり、この型の炉の大きな特徴になっている。さらに冷却材と減速材の水質維持のため共通の補助系を利用することが可能となる。
 燃料交換は原子炉の通常運転中燃料交換装置により、冷却材チャンネル上部延長管端部を介して行われる。これは最初のMZFR炉以来の確立された技術である。
原子炉制御系として通常の運転、停止に使用される制御系のほか、緊急停止用として独立した2系統(停止棒および減速材中へのボロン急速注入系)が設けられている。
燃料集合体は36本の長尺燃料棒を中央の燃料棒の周りに3層の同心円状に配列したクラスター構造になっている。天然ウラン使用、燃料棒直径が多少大きいこと以外は、酸化ウランペレット、ジルカロイ被覆管材の使用などPWRと同様である。
3.プラントの仕様と特徴
 Atucha-1とAtucha-1の両プラントの主要データを 表1 に示す。Atucha-2プラントは基本的にはAtucha-1プラント設計を踏襲するが、炉心の冷却材チャンネルの間隔を狭くし、より一層の出力増大および燃料燃焼度の向上が図られている。以下Atucha-2プラントの仕様および特徴について述べる。
 原子炉圧力容器の内径は 7,368mmであり、100万kW級PWRのものよりかなり大きい。炉心の 251本の冷却材チャンネルには有効長 5,300mmの長尺燃料集合体が装荷される。燃料チャンネルの総熱出力は 205.2万kW、減速材の発熱は10.8万kWである。後者は蒸気発生器給水の予熱用として有効利用されるので、原子炉の熱出力は 216万KWとなる。
 反応度制御は、(a) 鋼製(グレー吸収体)およびハフニウム(ブラック吸収体)の制御棒、(b)180〜220℃範囲の減速材温度変化 (c)減速材および冷却材中のボロン濃度変化、および (d)燃料交換により行われる。急速ボロン注入系は第2の独立した緊急停止系となる。
 原子炉圧力容器上方の燃料交換装置は、天然ウラン燃料の燃焼度を高め、プラント稼働率を低下させないため、運転中燃料集合体の交換およびシャフリングを行う。通常全出力時には、1.8 本/日の割合で交換される。燃料交換操作は全自動で行われ、制御室からモニターされる。燃料の最大燃焼度は、プラントが100-80-100%の負荷追従運転を行う場合は、7,500MWd/tであるが、基底負荷運転では 8,000MWd/tとなる。
 減速材系は通常運転時は減速材温度を炉心冷却材のそれよりも低い温度に維持するが、余熱除去運転時は、運転モードを切換え、減速材タンクの重水は減速材ポンプにより炉心冷却系配管に入り、減速材冷却器を通って、炉心圧力容器の冷却材入口アニュラスに入る。減速材系は高圧の熱吸収系として、最終の冷却系との中間冷却系としても働いている。緊急炉心冷却時は炉心への高圧注水系としても働く。
 なお原子炉安全保護系についての旧西ドイツ原子炉の特徴は、事故検出後30分間は人間による誤操作を避けるため、完全に自動的にすべての対策をとることである。
<図/表>
表1 重水冷却圧力容器型発電炉の主要目値
表1  重水冷却圧力容器型発電炉の主要目値
図1 重水冷却圧力容器型発電炉(Atucha-1)の原子炉圧力容器構造図
図1  重水冷却圧力容器型発電炉(Atucha-1)の原子炉圧力容器構造図
図2 重水冷却圧力容器型発電炉(Atucha-1)の原子炉圧力容器断面図
図2  重水冷却圧力容器型発電炉(Atucha-1)の原子炉圧力容器断面図
図3 重水冷却圧力容器型発電炉(Atucha-1)の原子炉冷却系統図
図3  重水冷却圧力容器型発電炉(Atucha-1)の原子炉冷却系統図

<関連タイトル>
カナダ型重水炉(CANDU炉) (02-01-01-05)
重水冷却圧力管型炉(CANDU)の開発 (03-02-05-03)

<参考文献>
(1)Karlsruhe Nuclear Research Center,1971
(2)INFCE WG-8(DRAFT),1978
(3)Nuclear Enginieering International,Sept.1982
(4)Proc. 9th JUICE Meeting on HWR, Mar. 1982
(5)IAEA-TECDOC-510,IAEA(1989)
(6)Nucleonics Weeks,Jan.28,1988?May 31,1990
(7)IAEA(編):Directory of Nuclear Reactors Vol.11 Power Reactors,1971
(8)藤井晴雄、森島淳好(編):詳細原子力発電プラントデータブック1994、日本原子力情報センター(1994年8月)
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