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<概要>
 JENDL汎用ファイルは、汎用であるということから、原子力一般への利用を考え(非エネルギー利用も対象である)、利用目的を特定しないのに対し、特殊目的ファイルは汎用ライブラリを基に、特定の利用分野のために必要なデータ部分の精度を向上させた高付加価値のデータファイルである。したがって、汎用ファイルとは違い、全ての反応、エネルギーについて与える必要はなく、目的に応じてデータは取捨選択されている。これまで、放射化断面積ファイル、ドシメトリーファイル、核融合炉用ファイル、アクチノイドファイル、(α,n)ファイル、ガス生成ファイル、高エネルギーファイル、光核反応データファイル、FP崩壊データファイルの9種類が整備され公開されている。
<更新年月>
2011年11月   

<本文>
1.JENDL Activation File(JENDL放射化断面積ファイル:1996年3月公開)(文献(1)参照)
 JENDL放射化断面積ファイルは1996年に完成し公開されている(JENDL/A-96)。233核種に対する1246反応のデータが収録されている。その基準は、1)生成核の半減期が1日以上107年以下、2)反応のしきいエネルギー18MeV以下、3)生成反応(n,γ),(n,n’),(n,p),(n,d),(n,t),(n,3He),(n,α),(n,2n),(n,np),(n,nd),(n,nt),(n,nα),(n,2p),(n,3n)である。放射化断面積はJENDL-3.2がベースとなっているが、核理論計算SINCROS-IIやCASTHYの計算も多く用いている。評価結果はFNS(日本原子力研究開発機構の核融合中性子源施設)において積分テストされ、他の放射化断面積ライブラリより優れていることが確認された。また、これらの結果の多くはIAEAの国際核融合炉核データライブラリFENDL-2の放射化断面積ファイルにも採用されている。
2.JENDL Dosimetry File(JENDLドシメトリーファイル:1999年7月公開)(文献(2)参照)
 Dosimetryファイルには放射化法による中性子束、フルエンス、中性子スペクトルの測定等放射線線量計測に不可欠な断面積が収納されており、精度に対しても厳しい要求が求められている。JENDL Dosimetryファイル-99では、全67反応が収納され、旧版(-91)と較べ半数以上の断面積と共分散行列が再評価されている。これらの評価は、共分散ファイルの評価手法と共通の点が多く、共分散評価コードGMAやKALMANが用いられた他、B-splineの方法も使用された。このようにして推定された断面積と共分散に対して、核分裂スペクトル、高速炉スペクトル、DTスペクトル及び7Li(d,n)中性子場における積分テストを経て公開されている。
3.JENDL Fusion File(JENDL核融合炉用ファイル:1999年4月公開)(文献(3)参照)
 核融合炉の中性子工学的設計上、14MeV以下の中性子と構造材料の相互作用の結果生成する二重微分断面積(DDX)の精度良いデータが不可欠である。JENDL Fusion Fileは、JENDL-3.1においていろいろな点で精度の不十分であったDDXの改良を目的として作成された。核融合炉で問題となる14MeV領域では、核反応機構として直接過程、前平衡過程、統計過程が重要であるので、この3つのプロセスに対してそれぞれ最新の核模型を使い分け、それぞれの相対的寄与を東北大学、大阪大学の実験を参考にして決める方法により精度良くDDXを決定したことから、評価値の実験データ再現性は極めて良い。JENDL Fusion Fileには水素から209Biに至る約80核種の断面積が収録され、そのうち18核種はIAEAの国際核融合炉用核データライブラリー(FENDL-2)の輸送計算用ライブラリに採用された。これら全データはその後の汎用ファイルJENDL-3.2等に反映されている。
4.JENDL Actinoid File(JENDLアクチノイドファイル:2008年3月公開)(文献(4)参照)
 ADS等放射性廃棄物処理法にはいくつかのオプションがあるが、いかなるオプションをとろうとも精度の良いアクチノイド核データが不可欠である。アクチノイドファイルは、JENDL-4.0に格納してある核種のみならず、核変換処理に必要と予想される周辺核種を数多く網羅しており、特にマイナーアクチノイドデータの充実度にはかなりのものがある。評価は、UやPu等の主要アクチノイド以外の多くの核種の場合、測定データが殆どないことから、独自に開発した評価用理論計算コードを用いている。格納予定核種は、AcからFmの79核種である。JENDL-4.0より先行公開され、その使用経験もJENDL-4.0に反映されている。
5.JENDL(α,n)Reaction Data File(JENDL(α,n)ファイル:2005年6月公開)(文献(5)参照)
 非中性子核反応データであり、従来のJENDLに無い新規カテゴリーのデータである。使用済み燃料の貯蔵、輸送及び高レベル廃棄物ガラス固化処分評価への適用(遮へい安全性及び臨界安全性評価)を主目的としている。また、加速器遮へい、地質学的応用等も目的のひとつにあがっている。α粒子入射反応の測定値が少ないことが問題点であり、軽核、構造材核種及びウランについてのデータ評価を行った。評価は、断面積データ、中性子スペクトル及び収率についての整合性を求めて、核計算コードELIESE-3やGNASHを用いて行った。2005年6月、17核種からなる最新版が公開された。
6.JENDL Gas-production Data File(JENDLガス生成ファイル:1991年7月公開)(文献(6)参照)
 H、D、T、3He、4Heを生成する断面積(ガス生成断面積)をまとめたファイルであり、JENDL-3をベースに1991年に完成している。23核種についてのデータが収容されている。
7.JENDL High-energy Data File(JENDL高エネルギーファイル:2007年12月公開)(文献(7)参照)
 原子力分野における高エネルギー加速器利用施設計画の本格化、宇宙工学、医療照射を始めとする高エネルギー粒子線利用等多くの分野からの要求に応えるため、JENDL高エネルギーファイルの整備が進められている。JENDL高エネルギーファイルは、中性子及び陽子入射反応に対する核データを格納し、3GeVまでの高エネルギー加速器用データまでが対象となっている。20MeV以下のエネルギー領域に関してはJENDL-3.3を採用している。高エネルギーの評価に関しては、前平衡過程コード(GNASH、ALICE-F)、核内カスケードもしくは量子分子動力学法を用いたコードの組み合わせで行っている。現在106核種を収容した2007年版が公開されている。
8.JENDL Photo-nuclear Data File(JENDL光核反応データファイル:2004年3月公開)(文献(8)参照)
 JENDL光核反応データファイルは、医療用電子線加速器などのための140MeVまでの68核種に対する光子入射反応データを格納している。光吸収断面積は、巨大共鳴及び擬似重陽子光分解モデルによって評価された。複合核からの粒子壊変過程は前平衡過程の補正を行った統計モデルを基にした計算コードMCPHOTO及びALICE-Fを用いて評価した。
9.JENDL FP Decay Data File(JENDL FP崩壊データファイル:2000年公開)(文献(9)参照)
 1229のFP核種からなる、壊変様式(α、β、γ壊変エネルギー、放射線スペクトルデータ、半減期等)をまとめたデータファイルであり、短寿命で実験データが不十分な核種に対しては、理論計算による壊変エネルギー値を採用している。原子炉の安全性評価の上で極めて重要な崩壊熱計算や放射能インヴェントリー評価に不可欠なデータである。特に崩壊熱評価に関しては、主要燃料核種についての核分裂後の崩壊熱の測定値とも良く一致しており、前バージョンのデータは、日本原子力学会の原子炉崩壊熱の推奨値として、また国の原子力安全委員会の原子炉安全基準部会での、軽水型動力炉の非常用炉心冷却系の性能評価に用いる崩壊熱データのひとつとして推奨されている。現在のデータはさらにそれを改良したものである。
(注:原子力安全委員会は原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)
【文献】
(1)JENDL Activation Cross Section File 96 : Y.Nakajima,JNDC WG on Activation Cross Section Data: ”JENDL Activation Cross Section File,” Proc. the 1990 Symposium on Nuclear Data,JAERI-M 91-032,p.43(1991).
(2)JENDL Dosimetry File 99 : K.Kobayashi,T.Iguchi,S.Iwasaki,T.Aoyama,S.Shimakawa,Y.Ikeda,N.Odano,K.Sakurai,K.Shibata,T.Nakagawa and A.Zukeran: ”JENDL Dosimetry File 99 (JENDL/D-99),”JAERI 1344(2002).
(3)JENDL Fusion File 99 : S.Chiba,T.Fukahori,K.Shibata,B.Yu,K.Kosako and N.Yamamuro: ”JENDL Fusion File 99,”J. Nucl. Sci. Technol.,39,187(2002).
(4)JENDL Actinoid File 2008:O. Iwamoto, T. Nakagawa, N. Otuka, S. Chiba, K. Okumura, G. Chiba, T. Ohsawa and K. Furutaka: ”JENDL Actinoid File 2008,”J. Nucl. Sci. Technol.,46, 510 (2009)
(5)JENDL(alpha,n)Reaction Data File 2005(same references as version 2003): For Li - O,T.Murata and K.Shibata; ”Evaluation of The(a,n)Reaction Nuclear Data for Light Nuclides,”J.Nucl.Sci.Technol.,Suppl.2,Vol.1,76(2002).For F and Na,H.Matsunobu and N.Yamamuro;”Evaluation of the Nuclear Data on (a,n)Reaction for F,Na,Al,Cr,Fe,Ni,and Cu,”J.Nucl.Sci.Technol.,Suppl.2,Vol.1,188(2002).
(6)JENDL Gas Production Cross Section File 91 :(ed.)T.Nakagawa and T.Narita: ”JENDL Gas-Production Cross Section File,”JAERI-M 92-076 (1992).
(7)JENDL High Energy File 2004 : Y.Watanabe,T.Fukahori,K.Kosako,N.Shigyo,T.Murata,N.Yamano,T.Hino,K.Maki,H.Nakashima,N.Odano,S.Chiba:”Nuclear Data Evaluation for JENDL High-Energy File,”Proceedings of International Conference on Nuclear Data for Science and Technology, Santa Fe,New Mexico,USA,Sep.26-Oct.1,2004,Vol.1,p.326(2004).
(8)JENDL Photonuclear Data File 2004 : N.Kishida,T.Murata,T.Asami,K.Kosako,K.Maki,H.Harada,Y-O.Lee,J.Cheng,S.Chiba,T.Fukahori.:”JENDL Photonuclear Data File,”Proceedings of International Conference on Nuclear Data for Science and Technology,Santa Fe,New Mexico,USA,Sep.26-Oct.1,2004,Vol.1,p.199(2004).
(9)JENDL FP Decay Data File 2000 : J.Katakura,T.Yoshida,K.Oyamatsu and T.Tachibana: ”JENDL FP Decay Data File 2000,”JAERI 1343(2001).
<関連タイトル>
日本の評価済核データベースJENDLの開発 (02-08-01-07)
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JENDL汎用ファイルの変遷 (02-08-01-08)
JENDL汎用ファイルの変遷 (02-08-01-08)
JENDL汎用ファイルの変遷 (02-08-01-08)
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<参考文献>
(1)日本原子力研究所エネルギーシステム研究部核データセンター:原研核データセンターパンフレット、核データ 明日の原子力利用のために(2000年3月)
(2)日本原子力研究開発機構核データ評価研究グループホームーページ、

(3)長谷川明、中川庸雄、片倉純一、千葉敏、深堀智生、川合将義:「原子力研究における最近10年の歩み その概要と展望 1.核データの評価」、日本原子力学会誌,vol.41,p.287(1999)
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