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<概要>
 事故は、2001年(平成13年)11月7日17時02分、中部電力(株)浜岡原子力発電所1号機で、定格運転中に行なった高圧炉心注入系の定期作動試験時に発生した。この試験開始直後、余熱除去系蒸気凝縮系配管の一部が破断し、蒸気が原子炉建家に漏洩した。検出器が蒸気漏れを検出したことにより約30秒後に元弁が閉まって漏洩は停止した。日本原子力研究所(現、日本原子力研究開発機構)の協力を得て行なわれた事故原因究明調査の結果、原子炉水の放射線分解によって生じた水素と酸素が当該配管頂部に蓄積し着火して急速に燃焼し、その結果急激な圧力上昇が起きて配管破断に至ったと推定された。
 なお、放射性物質による周辺環境への影響は無かった。非常用炉心冷却系(ECCS)の作動は無かった。事故はINESのレベル1と評価された。また、2006年1月改正の技術基準(省令第62号)に水素の蓄積防止策として事例が反映され、具体的な仕様規格として火原協の混合ガス蓄積防止ガイドラインが技術評価の上、技術基準解釈として引用されている。
<更新年月>
2006年12月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.事故事象発生の経過
 事故発生時の事象経過を表1に、余熱除去系(B)蒸気凝縮系概略図を図1に示す。中部電力(株)浜岡原子力発電所1号機(沸騰水型、定格出力540MW)で定格出力運転中のとき、定期的に行なっている高圧炉心注入系ポンプの手動起動試験を2001年(平成13年)11月7日17時02分に開始した。直後中央制御室運転員と現場運転員が衝撃音を聞いた。高圧炉心注入系が自動停止、自動隔離するとともに、蒸気漏洩検出器温度高、原子炉建家換気系モニタ放射能高などの警報が、複数の火災報知機が作動した。また原子炉建家空調系が自動停止した。現場運転員が避難途中で蒸気もやを確認した。また保修員と放射線管理員が原子炉建家に入り現場調査して二階の余熱除去系熱交換器(B)室の扉が外れ通路に水溜まりを確認した。
 原子炉建家内での蒸気漏れの可能性があることから、原子炉を停止して原因を調査することとし、18時15分プラント停止を決定し、18時20分から原子炉出力降下を開始した。保修員が原子炉建家内に入り、二階の余熱除去系熱交換器(B)室における余熱除去系配管の破断を確認した。20時30分に発電機を解列し、22時12分未臨界達成、翌11月8日0時00分に全制御棒を挿入し、0時1分に原子炉を高温停止した。
 なお、「高圧注入系蒸気管差圧高」により蒸気漏れが検出され、約30秒後に元弁が自動的に閉まって蒸気漏れを停止している。外部への放射性物質による周辺環境による影響は無かった。非常用炉心冷却系(ECCS)の作動は無かった。事故はINES(国際原子力事象評価尺度)レベル1と評価された。
2.事故の原因
2.1 事故にかかわる調査・試験
(1)タスクフォースの設置と調査の方針
 経済産業省原子力安全・保安院は、浜岡原子力発電所1号機余熱除去系蒸気系配管の破断事故について、11月9日院内に外部専門家を含めたタスクフォースを設置し、配管破断部破面観察、類似プラントの調査、原因究明、および再発防止対策の確立をすることとした。また詳細調査に当たっての留意事項として、亀裂開始点の特定と亀裂進展状況を把握するため、試験片を採取すること、十分な破面観察を行なうこと、破面部位内面についても観察すること等を中部電力(株)に指示した。とくに配管破断部を切断しての詳細調査のため、原子力施設における事故原因調査等に実績のある日本原子力研究所(現、日本原子力研究開発機構)に協力依頼することになった。(注:原子力安全・保安院は2012年9月18日に廃止され、原子力規制委員会の事務局として2012年9月19日に発足した原子力規制庁がその役割を継承している。)
(2)中部電力(株)による詳細調査
 配管破断状況図を図2に示す。配管破断状況写真を図3に、架台の損傷状況写真を図4に、配管破断状況詳細図を図5に示す。配管破断部の切断に先立ち、破断面の観察、配管の変形寸法測定、飛散物の確認と位置確認、配管支持構造物の固定サポート変形・破損Uバンドの測定、架台の損傷状況の確認、などの現場調査が行われた。
 現場状況調査によれば、配管破断箇所は、余熱除去系蒸気凝縮配管であった。すなわち破断は余熱除去系(B)熱交換器室上部に設置された弁の上流側配管立ち上がりエルボ部であり、また引き千切られた多くの破片が確認された。破断部より上流側配管では、2か所の支持構造物のUプレートが引き千切られ、熱交換器弁支持架構に当たり、破断部は本来の位置から水平距離で約2m移動していた。破断部上流側配管には異常な膨れが観察された。エルボ部近傍で通常より約107%の周長であった。保温材の一部が脱落、散乱していた。当該熱交換器室の天井、壁の大部分が赤茶色になっていた。破断部近傍の電線管中継箱、電線管貫通部鉄板、弁開度計、空調ダクトが損傷していた。破断部直下のグレーチングは部材の一部が損傷し、また上流側破断部直上のグレーチングは大きく変形し、熱交換器上部付近まで飛ばされていた。当該熱交換器室二階の扉は支持部等が損傷して外れ、扉前方の計装ラック前まで飛ばされていた。一階の扉も鍵部が損傷し開放していた。
 破断部上流側配管の調査では、異常な膨れ部が硬化しており、肉厚も薄くなっていた。配管の内面調査では、周方向に浅い筋模様が確認されたが、著しい腐食、異物等の痕跡は無かった。内面付着物について放射化分析した結果、コバルト60 、マンガン54等が確認された。また金属分析では、鉄、ニッケル、クロム、亜鉛等が確認された。下流側破断配管内にあった残留水のイオン分析によってアンモニウムイオン、硝酸イオン等が検出された。
 1号機余熱除去系(A)蒸気凝縮系配管と2号機同配管の類似箇所の配管立ち上がり部付近の滞留ガス組成分析を行なった結果、1号機配管(A)では空気中より高濃度の水素(0.6vol%)と酸素(19vol%)が検出され、2号機では高濃度の水素(46vol%)と酸素(23vol%)が検出された。
 破断箇所および散乱していた破断片から詳細調査用の試験片を切断した(図5および 図6参照)。また施工記録・強度計算書・点検記録等の記録類の確認、系統(A)の配管調査等を実施した。原子炉建家内に漏洩した蒸気量は約2トンと評価され、漏洩した全放射能は約80ベクレルと推定された。放射性物質による周辺環境への影響はなかった。従業員については、事故発生時における有意な放射線被ばくはなかったが、現場確認、除染等によって、総線量3.67mSv、個人の最大は0.18mSvの被ばくがあった。
(3)日本原子力研究所(原研(現、日本原子力研究開発機構))による試験・観察・調査
 原研では調査グループを設置して、現場調査を行なうとともに、配管破断部から採取した調査用の試料片について、燃料試験施設等の研究施設、各種分析機器を活用して試験・観察した。調査結果は原子力安全・保安院へ報告されるとともに、調査報告書にまとめられ公刊されている。原研における試料調査の流れ図を図7に示す。
 調査試料としては、配管破断部から切断した17試料片のうち14個の提供を受け、その後新たに発見された破断片1つも追加された。配管材料は炭素量0.19%の炭素鋼であった。走査型電子顕微鏡、試料分析などによって、外観観察、肉厚測定、破面観察、金相観察、硬さ試験、元素分析等を行なった。
 破断面の写真の一例を図8に、破面ディンプル状の伸長方向の観察結果を図9に示す。破面が伸長方向をもったディンプル状であり、塑性変形をともなう延性破断であった。また亀裂が配管内部側から配管外部側へ進展していた。さらに破断部で肉厚減少が著しいこと、破断部は伸ばされた金属組織をしていること、疲労に起因する破面ではないことなどが確認された。これらの試験・観察の結果から、破断部配管になんらかの原因により過大な応力がかかったことが推定された。
2.2 事故原因の推定
 原子力安全・保安院の調査、および中部電力(株)と日本原子力研究所(現、日本原子力研究開発機構)の調査結果から、浜岡原子力発電所1号機余熱除去系(B)蒸気凝縮系配管破断の原因が、以下のように、配管頂部に蓄積した水素の燃焼による破断と推定した(図10参照)。
(1)原子炉内における原子炉水の放射線分解によって水素と酸素が発生し、主蒸気と混合して当該配管にもたらされ、運転経過とともに配管からの放熱によって蒸気が徐々に凝縮する一方、非凝縮性である水素と酸素は配管頂部に蓄積していった。
(2)高圧注入系ポンプの起動試験を行なった際に圧力変動が生じ、その圧力変動と、配管内に付着していた貴金属類の触媒作用の助けもあって、蓄積していた高濃度の水素と酸素に着火した。
(3)配管内では音速を超える急速な燃焼(爆轟)が起こり、急激に圧力が上昇して配管破断に至った。
2.3 当面の対応
(1)水素燃焼メカニズムの調査
 事故の要因として推定された、水素の急速な燃焼メカニズムについて解析・試験等で確認するとともに、他の要因についても引き続き調査・検討する。
(2)浜岡原子力発電所の1号機については、非圧縮性ガス(水素)を貯留させないよう余熱除去系蒸気凝縮系配管を撤去し、非圧縮性ガスを排出するための配管を設置する。4号機については、水素が滞留しそうな上り勾配の箇所(8箇所)を無くすため配管の経路を変更する。2号機と3号機には該当する箇所は無かった。
(3)類似箇所の調査と当面の対策
 原子力安全・保安院は、軽水型原子力発電所において、原子炉冷却系統およびこれ接続する系統で、原子炉水の放射線分解によって水素が滞留しそうな配管の箇所(上り勾配で行き止まりになっている配管部など)についての検討を各電気事業者に指示した。その結果、BWRの14基の余熱除去系蒸気凝縮配管が浜岡1号機との類似配管であった。原子力安全・保安院は余熱除去系蒸気凝縮配管に対する当面の対策として、配管内の滞留物の除去を関係電気事業者に指示した(2001年11月20日)。
3.今後の取り組み
 今後の取り組みとして、電気事業者、原子炉メーカーおよび関連学会・協会に対して、原子力安全・保安院(2002年5月13日)から以下の要求がなされた。
(1)再発防止対策
 BWRを運転する電気事業者に対し、当該する余熱除去系蒸気凝縮配管を撤去する、または当該配管の分岐部に弁を設置する、のいずれかの措置をとること等を求める。なお、当該する余熱除去系蒸気凝縮配管を撤去する場合は「原子炉等規制法」にもとづく許可を受けなければならない。また、高濃度の水素が蓄積する可能性があるタービン系の箇所については、所要の設備変更か温度計設置による監視をすること。
(2)技術の品質管理の充実強化
 電気事業者と原子炉メーカーは、設計または設計変更に当たり本来の目的のみならず、広くそれが原子炉プラントに与える影響についても検討するなど、技術的検討の品質管理を充実すること。
(3)水素関連の技術指針の整備
 関連学会・協会が中心となって、電気事業者やメーカーが機器・設備の設計や設計変更を行なう際参照とするべき水素関連の技術指針を整備すること。
4.改正技術基準への反映と規格化
 2006年1月改正の性能規格化された技術基準(省令第62号)の第4条の二(火災による損傷の防止)に水素の蓄積防止策として放射線分解による水素の急速な燃焼事例が反映された。また、具体的な仕様規格として「BWR配管における混合ガス(水素・酸素)蓄積防止に関するガイドライン」(火原協ガイドラインとして2005年10月に規格化)が技術評価の上技術基準解釈として引用された。ガイドラインは、混合ガス蓄積防止の設計・評価および対応措置の方法を定めており、評価は図11および図12に示すような枝管を対象としている。
5.用語解説
(1)余熱除去系
 BWRでは通常残留熱除去系と呼ばれている。残留熱除去系は通常の原子炉停止時および原子炉隔離時の炉心崩壊熱、機器類の残留熱の除去、原子炉冷却材喪失事故時の炉心冷却等を行なうため、弁の切り替え操作による4つのモード(蒸気凝縮モード、原子炉停止時冷却モード、ほか2モード)、と一つの補助機能(燃料プール冷却)を有する。原子炉隔離時には原子炉隔離時冷却系と連携して原子炉の蒸気を凝縮させる。今回の事故は蒸気凝縮モード用の配管で起きた事故である。
(前回更新:2002年10月)
<図/表>
表1 浜岡原子力発電所1号機余熱除去系配管破断事故の事象経過
表1  浜岡原子力発電所1号機余熱除去系配管破断事故の事象経過
図1 浜岡原子力発電所1号機余熱除去系(B)蒸気凝縮系概略図
図1  浜岡原子力発電所1号機余熱除去系(B)蒸気凝縮系概略図
図2 余熱除去系配管破断状況図
図2  余熱除去系配管破断状況図
図3 余熱除去系配管の破断状況写真
図3  余熱除去系配管の破断状況写真
図4 余熱除去系配管架台の損傷状況写真
図4  余熱除去系配管架台の損傷状況写真
図5 余熱除去系配管破断状況詳細図
図5  余熱除去系配管破断状況詳細図
図6 試料採取箇所と各試料外観
図6  試料採取箇所と各試料外観
図7 原研における試料調査の流れ図
図7  原研における試料調査の流れ図
図8 破断面の写真の一例(試料5)
図8  破断面の写真の一例(試料5)
図9 ディンプルの伸長方向の観察結果
図9  ディンプルの伸長方向の観察結果
図10 推定された事故原因説明図:水素の貯留と燃焼
図10  推定された事故原因説明図:水素の貯留と燃焼
図11 対象とする枝管例(格納容器内の主蒸気を内包する配管)
図11  対象とする枝管例(格納容器内の主蒸気を内包する配管)
図12 対象とする枝管例(高圧タービン配管)
図12  対象とする枝管例(高圧タービン配管)

<関連タイトル>
BWRの工学的安全施設 (02-03-04-01)
原子炉機器(BWR)の原理と構造 (02-03-01-02)

<参考文献>
(1)中部電力(株):浜岡原子力発電所1号機配管破断および原子炉下部からの水漏れについて、中部電力(株)(2002年4月)
(2)日本原子力研究所東海研究所浜岡1号機配管破断部調査グループ:浜岡原子力発電所1号機余熱除去系配管破断部調査報告書、JAERI-Tech 2001-094(2001年12月)
(3)日本原子力研究所東海研究所浜岡1号機配管破断部調査実施グループ:浜岡原子力発電所1号機余熱除去系配管破断部調査報告データ集、JAERI-Tech 2002-045(2002年3月)
(4)日本原子力研究所東海研究所ホット試験室:浜岡原子力発電所1号機余熱除去系配管破断部サンプル調査適用試験、JAERI-Tech 2002-050(2002年6月)
(5)原子力安全・保安院:中部電力(株)浜岡原子力発電所1号機の手動停止についての中部電力(株)からの報告について
(6)原子力安全・保安院:中部電力(株)浜岡原子力発電所1号機における配管破断事故について(調査の中間とりまとめ)
(7)原子力安全・保安院:中部電力(株)浜岡原子力発電所1号機における配管破断事故について(今後の調査検討について)
(8)原子力安全・保安院:中部電力(株)浜岡原子力発電所1号機における配管破断事故について(解析・試験計画)
(9)原子力安全・保安院:中部電力(株)浜岡原子力発電所1号機における配管破断事故について
(10)原子力安全・保安院 独立行政法人原子力安全基盤機構:社団法人火力原子力発電技術協会「BWR配管における混合ガス(水素・酸素)蓄積防止に関するガイドライン(平成17年10月)」に関する技術評価書(平成17年12月)
(11)総合資源エネルギー調査会:原子力安全・保安部会 原子炉安全小委員会 性能規定化検討会(第6回)配付資料6−4「性能規定化を受けた原子力安全規制の制度整備」(平成2005年12月15日)
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